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一度はやってみたいシリーズ

>>フェイレイ×カナタ 2006/01/12
『夜の12時になってもオレが戻って来なかったら、酒場まで迎えに来てくれないかなー・・・?』

可愛くないのに首を傾げて、両手を合わせて、頭を下げる。
その仕草が、遠い昔の親友によく似ていて、彼とは違う他人と解っていても・・・嫌とは言えなかった。


【12:記憶喪失】








フリックやビクトール達から誘われたのだと、言い訳がましく言うその顔は、明らかに嫌がってはいない。
酒にはあまり強くないそうだが、きっと飲むのは嫌いではないのだろう。
「・・・・・」
今から酔っ払いを迎えにいくと思うと気は重いが、断らなかった以上このまま無視することも出来ない。
『迎えに来て欲しい』というのはきっと、盛り上がった酒場から部屋に戻る為の口実が欲しい。・・・そんな理由だろうとあたりをつけて、フェイレイは薄暗いカナタの部屋から1階の酒場へと向けて歩き出した。
「・・・おや?アンタも来たのかい?」
珍しそうに話し掛けてきたのは、レオナだ。
あまりの騒がしさに入り口で固まっているフェイレイを面白そうに眺めて、一番騒ぎの大きい中央を指差した。
「捜し人は、あの子かい?」
まぁ、『一緒に一杯やりにきた』なんて事はないだろうとレオナも解っていたのか、彼女の指は真っ直ぐカナタを差している。
静まり返った夜の闇の中で、一体今日は何の祭りだと思うほど、酒場だけがひどくうるさい。
それもそのハズ。
盛り上がる酒場の中央で騒ぐのは軍主カナタその人で。
その軍主様を中心として人が集まり、騒ぎの輪がここまで大きくなってしまったのだろう。
滅多に酔わないビクトールまでも赤い顔をしていると言う事は、足元に転がる瓶の数からして相当な量が出回っているようだった。
「・・・・・・」
「放っておいていいのかい?」
カナタを呼ぼうにも、この騒がしさではフェイレイの声が届くはずもない。
近くに寄って話せばいいのだろうが、この出来上がった男たちの間を割って潜り込もうと思うほど、切羽詰った場面でもないし。
入り口でくるりと回れ右をしたフェイレイは、とにかく早くこの騒がしい酒場から出て行きたかったのだが。
「あー!!!レイ・・・ッ!!!」
この人込みの中でどうやって気が付いたのか、カナタは大の男達の上を軽く飛ぶようにして近付いてきた。
踏まれたり台にされた者達は口々に文句を吐いていたが、それもこれも笑みの零れる怒鳴り方だ。酔いの為か痛みはあまり感じていないらしい。
人が溢れる酒場の中であっという間に近寄ってきたカナタは目の前にスタンと綺麗に着地し、何故かその勢いのまま突然抱きつかれた。
「・・・!?」
「えへへーv来てくれるって思ってたんだよ!あーよかったうれしー・・・!!」
ぎゅっとしがみ付いてくるカナタの腕に、何故かフェイレイは硬直したままだ。
少し前までならばこんな風に触れることさえ許さなかったのだが、カナタは言っても言っても聞いた例がない。
これは諭すだけ無駄だろうと、二人きりの時はあまり気にしていなかったのだが、改めて抱き締められて自分の勘違いに気が付いた。
触れられる事を嫌々許していたのではない。
もう、恐らく、何の拘りもなく触れてくるカナタの体温に、何時の間にか安心している自分がいることを。
払い除けようとする事もなく大人しく抱き締められているフェイレイに、カナタはなおさら気を良くしたのか、とんでもないことを口走り始めた。
「オレはねーこんなにもこんなにもレイが好きなんだよー!って、いっつも言ってるんだけどなー」
「好きってカナタよぉ!フェイは幾ら綺麗でも男だぞー?」
「解ってるよー知ってるーでも好きなもんは好きなんだってばー!」
見かけも行動もあまり何時もと変わらないので軽く見ていたが、どうやらこの軍主様は実の所思いっきり酔っ払っているらしい。
「ちょっと、カナタ・・・離れて」
「嫌だ。離れたらレイ、帰っちゃうでしょ」
「・・・」
当たり前だ、と言わんばかりの目付きでカナタを睨むが、酔っ払いには通用しない。
「オレはね、もっとレイと一緒に居たいし、話したいし、他にも色んな事したいんだよー」
「色んな事!そーかそうか色んな事かカナタ!じゃあいっちょキスしちまえよ!」
何処から出たかそんな発言に、酒場は一気にキスコールだ。
「・・・・・・は?」
付いて行けないのは、フェイレイ一人きり。
「あ?キス?・・・オーケィではひとーぉつ!!」
「カナタ、放してって言って・・・っん、ぅ・・・!!」
元々、純粋な力ではカナタの方が上なのだ。本気で抗ったとしても、酔っ払いのバカ力に勝てる訳がなかった。
あっさり唇を奪われてしまったと思いきや、何を思ったのかカナタの手の平がフェイレイの後頭部を固定した。
まずいと思った時にはもう全て手遅れ。
文句を吐こうとした唇の隙間から舌が差し込まれ、熱い粘膜が擦れあう。
「・・・っ、」
突然の濃厚なキスは、フェイレイの抵抗を奪うには充分すぎた。
別に唇を重ねるのは初めてではないが、それはカナタだけにとってであり、フェイレイから見れば突然訳も解らず唇を奪われたようなものだ。
それも、不意打ち。本人の了解などお構いなし。
更に、幾ら酔っ払い軍団とはいえ、大勢の人前で。
そろそろ本気で我慢の限界を超えそうになっていたフェイレイだが、昇りかけた血は突然すーっと下へ下がる。
「カナタの・・・バカー!!」
どこからの叫び声か、漸く離れたカナタの肩越しに捜してみてすぐに見つかった。
「あたしというものがありながら、男に手を出すなんてこの、ばか!ヘンタイ!節操ナシー!!」
タライを持って叫んでいるのはアイリだ。彼女も少々どころではない酒に溺れているようだが、手に持っているものが問題だ。
「・・・・・・冷たい」
「そりゃあ頭からたっぷり水かけられりゃあなぁ!なんだお前、アイリにも手を出してたのか?」
「え?アイリオレのこと好きだったっけ?」
「散々言ったよ!!アンタがこの人と会う前から何度も!この、ニブチン!!ドンカン!!!」
「わーオレモテモテ〜・・・って、あれれれ・・・?」
突然服の首元を後ろに引かれて、カナタはそのまま後ろへと引き摺られる。
カナタがずぶ濡れになるのはまぁ自業自得と言えないこともないが、ひたすらに迷惑なのは同じく水を被ったフェイレイだ。
ここままこの場に居たら次に何が起こるか解ったものじゃない。
「え?え?レイ?なーに?何処行くの?ってまさかお誘い?って、出来れば後ろから引っ張るんじゃなくて前から・・・っく、首が!苦し・・・!」
悶えるカナタに構いもせず、一応念の為に酒場に残る面々を冷たい視線で睨んでおいてから、フェイレイはカナタを引き摺ったまま酒場を後にした。
「・・怖ぇ・・・」
元が綺麗なだけに、フェイレイは怒ると異様に迫力がある。
まだまだ正気に戻っていないカナタがこれ以上フェイレイの機嫌を損ねないように・・・どころか、生きて戻ってくるように、微かでも理性が残ってる面々は心の中でそっと祈った。


***


濡れた服のままで放り込まれたのは風呂場だ。
普通、酔っ払うまで飲んだ後の入浴は危険なのだが、今はもう構っていられない。
ずぶ濡れのままベッドに潜り込まれても困る。抱きつくように懐かれるのも困る。というかフェイレイ自身が湯を使いたかったのが、本来の目的。
カナタにも、少しは酔いを覚ますようにもっと水でもかけてやろうと連れて来たのだが、浴場にいるのは二人きり。流石に深夜に近いこの時間利用者は居なかった。
それでも広い風呂場の中、水を掛けようにも逃げ回るカナタを追い掛け回す気力もない。
まだまだ絶好調のカナタは何か一人後ろで騒いでいるが、フェイレイはきっぱり無視して湯を使うことにする。
「ねーレイーねーねーレイー!」
意味のない呼びかけだけが延々と続く中、無視して髪を流しているうちに、ふと、後ろからの呼び声が途切れた。
漸く大人しくなったとそのまま気にもしていなかったのだが、暫くして浴槽を使おうと振り返った所で、何故かカナタの姿が何処にも見えなくなっていた。
「・・・カナタ?」
呼んでみても返事はない。けれど、気配はある。隠れている気配ではない、まるで眠っているかのようなとても静かな気配だが。
フェイレイが居た場所から死角になっていたのは、後ろの巨大な浴槽だけだ。
まさかと思って湯船を覗いたら・・・・・・・案の定、湯に顔を突っ伏して沈んでいるカナタを見つけた。
「・・・!」
慌てて引き上げるが、やはり泥酔したまま湯船に浸かったことが原因なのだろうか。
真っ赤に顔を上せさせて、勿論のこと、呼吸はしていない。
「カナタ、カナタ・・!・・・全く手間を掛けさせる・・・!」
いくら自業自得とはいえ、流石にこのまま放っておく訳にはいかないだろう。
一度強く胸を叩いてから、空気が漏れない様に手で覆って呼気を吹き込む。
飲み込んだ湯はそう多くなかったようで、一度の呼気でカナタは飛び上がるように噎せて湯を吐き出した。
「げほ、ごほ・・・っ!!」
吐き出した湯をまた飲み込まれても困るので、仰向けていた体を起すように手を差し伸べる。
伸ばした手が熱い肌に触れて気持ちが良かったのか、閉じられていたカナタの瞳が突然開いてフェイレイを映し込んだ。
噎せた所為で潤んだ瞳、当たり前だが風呂場なので何も身に付けていない均等の取れた体。
太陽の下でふざけたように走り回っているカナタしか見たことのなかったフェイレイは、改めてカナタの顔を正面から覗き込んでしまった。
まだまだ子供だと思っていたカナタは、意外にも成熟した身体つきをしている・・・だけではなく、飛んだり跳ねたり騒いだりさえしていなければ、もっともっと色んな相手から声が掛かるようになるだろう事は予測できた。
整った顔つきをしているのは知っていたが、こんな表情を浮べられると困る。・・・目が離せなくなるから。
「・・・レイ」
「・・・・・・」
何がそんなに嬉しいのか、まだ酔いが覚めていないのか。
濃琥珀の瞳に映し込んで嬉しそうに、見たこともないような笑顔で微笑むカナタに、流石のフェイレイも言葉を失う。
「・・・もっと」
縋りつくように伸ばされた手はフェイレイの首に周り、気付いた時には再び唇が重なっていた。
抵抗しようと、そう考える事さえ忘れていた。
のぼせて目を回していたカナタのキスは酷く熱い。
それも、温度だけではなく、その感触まで。
「・・・ん・・ぅ・・」
何処で覚えたのか、カナタのキスはかなり巧い部類だろう。
軽く啄ばむように柔らかく唇へと触れながら、何処か焦点の合わないカナタの動きは、まるで半分眠っているようだ。
彼に言い寄る相手を見たことがないとは言わないが、フェイレイの前でカナタは『フェイレイ』しか見ていない。
ほぼ無意識下でも、これだけのキスを繰り返すカナタに何処か小さく苛立ちながら、フェイレイはようやくその口付けから逃れるように顔を背けた。
「・・・!?」
途端、乗り上げていたカナタの身体の重みをぐっと受けて、床へと倒れかけた身体を支えるよう、後ろへと手を付いてしまう。
「・・・カナタ?」
「レ、イ・・・好き・・・」
そのままずるりと力の抜けたカナタの身体は、フェイレイの裸の胸に乗りかかるような体勢のままで・・・爆睡していた。
「・・・・・・」
キスの甘さに、流されそうになっていた自分に気が付いて、フェイレイは小さく溜息を零す。
気になってはいるが、そういう意味での感情を抱いている訳ではない相手に、それでもいいかと思ってしまった自分が恨めしい。
まだ少し上せ気味のカナタを風呂場の床に転がして、本日の反省をさせるため、フェイレイは無言でそのまま風呂場から出て行った。


***


「全くもう。朝、風呂を使おうとした者が見つけていなければ、何時までもあのままだったんですよ!ハメを外すことも、軍主となられた今こそ少しは気を付けて自重なさって下さいと重々聞かせましたでしょうに!」
「あいててて・・・!お願い怒鳴らないで頭割れる・・・!!」
次の日。
目が覚めてみれば激痛と寒気と吐き気に襲われていたオレは、どうして自分がこんな目に合っているのかまったく理解できずにいた。
この症状については『二日酔い&湯冷めからくる風邪』と名軍医に診断された。だが、覚えていないのだから気を付けてって言われても困る。
勿論、切々と聞かされている『風呂場で大の字』事件も全く持って記憶にない。
ついでに、発見者らしい兵士に担がれて部屋まで連れて来られたらしいが、それも覚えている訳がなかった。
「・・・う゛〜・・・?」
唯一オボロゲながらに記憶にあるのは、凄まじくいい夢を見た、と言う事ぐらいだ。
そんな前後不覚になるまで飲んだかなぁと考えつつ、飲んだかもなぁと遠い記憶の底で納得する。
「聞いているのですか!あなたはもうただの子供ではなくれっきとしたこの軍の主なのですよ・・・!いつもいつもいつも皆に示しがつかない行動ばかりを・・・」
かち割れるように痛い頭を抱え、お説教に来たシュウのお小言を右から左へ流しつつ、それでも視線が追うのは窓際に静かに座るレイの姿だ。
こちらの話を聞いてないようで、でも少し何時もより楽しげなのはどうしてだろうと考えているうちに、今度は大きく扉を開けて入ってきたビクトールと目が合った。
「おうカナタ!あれくらいで伸びるなんてまだまだ弱ぇなぁ!で、どうよ?あいつとはちったぁ先に進んだか?」
「ビクトール!そもそも貴方がそんなだからカナタ殿まで・・・!」
「はぁ?・・・先にって・・・まさか、オレ、・・・何かした?」
後半はお小言満載のシュウから隠れるように耳打ちで、だ。
「お前、覚えてないのか?」
「全く」
「・・・しゃあねぇな」
・・・と、シュウを素無視のナイショ話によると、どうやらオレってば酔っ払った挙句、皆の前で大告白。
更にべろちゅーブチかました挙句、泣き上戸らしかったアイリに水をぶっ掛けられて、キレたレイと二人で消えてった・・・らしい。
「おおよそ、その後風呂場に行ったんだろうな。だが、中で何があったかは俺も知らねぇぞ」
そりゃそうだろう。ってことは・・・。
「・・・あれは、半分夢じゃない?・・・ってことなのか?・・・・・・レイ!!!」
「カナタ殿!いい加減話を聞いて聞いて下さいと・・・!!」
「まーまーまー。一応、カナタも熱あるみてぇだし。馬鹿は何とやらって言うんだがなぁあっはっは」
ビクトールに引き摺られていくシュウを尻目に、オレは慌てて窓際のレイに駆け寄った。
眩暈に脚がぐらりとしたけど、何とか倒れずにレイの傍まで近寄る。
「あの、昨日!ゴメン!!オレぜんっぜん覚えてないんだけど・・・!!」
「・・・」
「何か、色々やらかしたみたいで・・・面倒かけて、ゴメンな?」
傍に近寄っても、謝るように頭を下げても、レイは一向に振り返ろうともせず、ただ何も聞こえていないように、少し楽しげに外を眺めているだけだ。
不機嫌な様子は見て取れない。なんだか、暗に『ざまぁみろ』といわれてる気がしないでもないが、確かに自分が悪いのでここは素直に謝っておくに限る。
「本当に、ゴメン!しかも覚えてないって最低だけど、・・・いや、本当に何したのオレ・・・?」
反応を返してくれない事も不安だが、それ以上にすっかり記憶の抜けた昨夜の行動の方が不安になる。
あの夢が本当なら、結構な無茶をかましていた気がするのだ。
正面切って好きだと言ったこともなければ、キスだって当たり前だがこっそり奪った程度の仲なのに。
酒の力で、そういう思いつめた気持ちを全部ぶちまけてしまった。ある意味、最悪の告白シーン。
「・・・・」
不安でたまらないようなカナタの声を聞いて、漸くフェイレイの視界にカナタが映る。
熱で頬を赤く染めておきながら、顔色は不安に真っ青だ。
流石に、これ以上反省させても倒れるだけなので、俯いたままのカナタを呼ぶようにそっと唇を開いた。
「・・・カナタ」
「な、何・・・っん・・・!」
コレには、驚くしかない。
顔を上げた途端、視界を塞いだフェイレイの冷たい手。と同時に、熱い唇に、柔らかく重なってくる甘い唇。
驚いて閉じる事も忘れた隙間から、忍び込んできた舌にあろう事か翻弄されて、今度こそ思考が真っ白になる。
キスには結構自信あったのに。主導権を取られただけで、もの凄く気持ち良かった。
「・・・は・・・」
フェイレイの唇が離れた途端、熱に力の入らないカナタはその場にへたりと座り込んでしまった。
吐き出した吐息が酷く熱い。・・・これは絶対に、熱の所為だけではない。
そんなカナタの様子にくすりと笑って、フェイレイはそのままへたり込んだカナタの耳元で小さく囁いた。
「・・・お大事に」
「・・・ぁ、・・・ぅ・・・!」
意味をなさない言葉しか告げられないままに、フェイレイは静かに部屋を出て行ってしまった。
・・・が、カナタはそれどころじゃない。
「い、ま、今、今・・・今・・・!!!」
思わず、自分の唇に触れてしまう。まだ、じんわりとした感触が残っていて、それがフェイレイの唇の感触だと、身体がリアルに感じ取る。
これはもう夢じゃない。二日酔いと湯冷めの気持ち悪さはあっという間に消え、代わりにフェイレイのキスが、身体中全てを支配していく。
「・・・あ゛〜・・・もう、駄目だ・・・」
腰の力が抜けて立ち上がることも出来ないまま、顔を真っ赤に染めたカナタは一人きりの部屋で呟いた。
「・・・オレ、どうしよう。何時の間にか、本気でレイのこと・・・好き過ぎてるみたいだ」
恋愛は惚れた方が負けだと言うけれど。
溢れる笑顔が止まらない。確かに熱は辛いけど、こんな熱なら喜んで受け入れる。
「・・・でもまぁ・・・暫くは禁酒かな」
折角の思い出も忘れてしまっては意味がない。
堅く誓ったは良いが、この日のうちにナナミ特製玉子酒で余計に容態が悪化した・・・のはもう言うまでもない。

***


しかし、やはり子供は風の子馬鹿は何とやらで3日も経たないうちにカナタはすっかり全快した。
元々身体の作りは丈夫な方なのだ。今回は二日酔いとのW効果で死に目を見たが、普段は滅多に風邪など引かない。
「よぅし!それじゃ、いっちょ行って来るか!」
「あぁこらカナタ殿!!治った途端また逃げるおつもりですかー!!!」
後ろから怒声を張り上げるシュウに小さく舌を出して、カナタは城から飛び出した。
行く先はただ一つ。グレッグミンスターだ。
カナタとしては、あの日の最後のキスの意味を知りたいところ。
嬉しさのあまり考えていなかったけれど、フェイレイの方からキスをくれたのは当たり前だが初めてで。
「からかうだけの為・・・とかだったら、へこむなー」
けれど、その理由を聞く以外にも、ほんの数日会わなかっただけのフェイレイに会える事がかなり嬉しいカナタだ。
「うーん久し振りだしなーなんて言うかなー始め。『おはよう?』『久し振り?』『元気してた?オレは元気になった!』」
と、色々シュミレーションしてみたが、それが実行される事はなかった。
「・・・申し訳ありませんカナタ君。坊ちゃん、熱を出してしまって起き上がれないのですよ。全く、一体どこから貰って来たんでしょうねえ」
性質の悪い風邪なのだと、対応してくれたグレミオが苦笑混じりに言う。
「・・・え?!」
「せっかく来て下さったのにすみません。カナタ君も、風邪には気を付けて下さいね」
「は、・・・はい」 内心冷や汗ものだ。本気で体調の悪いらしいフェイレイの様子に、まさか移したのオレですーなんて言える雰囲気でもない。
「あ、あの!遠征付いて来いとかじゃなくて!・・・見舞いだけでも駄目ですか」
「・・・それなんですけど」
と、グレミオはそっとカナタに紙片を渡す。手紙の様だが、二つ折りしてあるだけのそれはただのメモのようにも見える。
が、開いてみれば、そこには綺麗な文字で一言。
「・・・『近寄るな』・・・?」
「えぇ、という訳なので、すみません・・!!」
バタン!!と、勢いよく目の前で閉まった扉は、明らかにカナタを拒絶したもの。
「え、え?まさか・・・オレ、締め出し喰らってんのねぇコレ!!?」
これから数日間の間、いい加減の煩さに臥せった家主が諦めるまで、英雄宅の玄関先で謝り倒す都市同盟の軍主が目撃されたとかそうでないとか。




END




突然のフェイカナ。裏からの進出お許しください。<(_ _)>
毎回こんなノリで書けたら楽だよなー。(笑)
一人称二方面と三人称が混ざりまくった読みにくい文ですが!
ぱちぱちして下さったうえに読んで下さって、有難う御座いましたv

拍手に載せようとしたら文字数オーバー告げられちゃったのでこんなupの仕方になりました・・・(笑)




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