A*H

一度はやってみたいシリーズ

酔っ払いが書きたかったの。(笑)  2005/04/26 up

【18:酒】





「・・・っと、突然だけど。訊いていいか?」
夜もふけて、普通ならば誰もが眠っている時間。
けれども酒場は普通じゃない大人が集まる場所なので、毎夜の様に大繁盛だ。
「・・・なに?」
シーナの酒の相手は、珍しくもセフィリオ一人。
ついさっきまでビクトールとフリックも居たのだが、上手いこと用事を見つけて部屋へ戻っていた。
彼らがそそくさと逃げ去った理由は、シーナにはわからない。
だが、ひとりで飲む酒ほどマズイものはないのも、確かで。
普段ならこんな時間はオミの部屋から出ても来ないセフィリオだったが、付き合ってくれるならばと、ちょっと酒に酔っている勢いもあって、シーナはどうしても訊きたかった言葉を並べてみることにした。
「おまえさぁ、どうしてオミなんだよ」
家柄、名声、権力・・・それに加え、外見も並外れて良ければ、頭も悪くないと来た。
明らかに、『神様って不公平』な要素を抱えまくっているこの、セフィリオ・マクドールと言う男。
同じ男として、コンプレックスを感じまくる相手だが、どうにも趣味がおかしい気がする。
「・・・オミが、どうしたの」
「いやさ、お前なら、どんな女のコでもコロっと手に入れられそうじゃん。なのに、何でわざわざ男に手出すかなと思って」
絶世の美女であろうが金持ちのお姫サマだろうが、このセフィリオを前にして、彼からの誘いを断るとも思えない。
「二つ返事で、ハーレム作れるぜ?お前なら。・・・もったいねぇとは思わねぇの?」
「別に。思わないけど」
「ま、確かに追いかけるのは楽しいとは思うけどな・・・でもさ」
黙っていても充分モテる癖に、どうしてわざわざ追いかけるような相手を選んだのかも見当がつかない。
しかも、相手は男。オミは、確かにそこいらの女の子より綺麗だとはいえ、『男』なのだ。
「どう足掻いても子供作れねぇんだぜ?どうして男なんだよ」
「・・・好みじゃなければ意味がない。・・・俺は、欲しいと思った相手しか欲しくない」
「うわ、嫌味なセリフだなお前」
けれど、セフィリオの言うことも正論だ。
好みでもない相手からのアプローチは、迷惑こそすれ、嬉しくも何ともない。
「じゃあこの際だからついでに訊くけどな。オミの何処がいいわけ?」
シーナから見て、まぁ可愛いなとは思うが、抱きたいとまでは思わない。
同じ男として見てしまうからだろうが、『軍主』の時のオミしか知らない以上、判断できる材料は外見だけになる。
髪はサラサラと流れる細い赤毛。目は、偶に金じゃないかと思うような、深い光を集めた榛。
身体のつくりは全体的に細い。華奢とも言えるような身体の何処に、あんな力があるのか不思議に思うほど。
「・・・それに、肌の色も珍しいよな。白くてさ。あれくらいの歳なら、もっと焼けててもいい????S?だろうに」
基本的にあまり焼けない体質なのだろう。そして、そもそも肌色が違う。
一度だけ抱き締めたことがあった。挨拶代わりの抱擁だが。
注がれた酒をもう一度呷りながら、シーナはテーブルの木目を見つめたまま、話し続ける。
「んー、抱き心地も、女の子より良いなって訳でもなかったぞ?確かに、こう腕の中に収まって、柔らかかったけどさ」
「・・・」
「って・・・さ。お前等、してんの?まぁ、やってねぇ訳ねぇよな?オミってどう・・・」
「シーナ」
「んあ?何だよ?」
顔上げたシーナが見たものは、目だけが笑ってないセフィリオの笑顔。
セフィリオが立ち上がったと同時に、ガタンと大きな音を立てて椅子が倒れた。
「・・・って、ま、待て!話せば・・・話せば分かる・・・!!」
というか、完全に切れる手前だ。話など聞いてもらえる余裕も無いかもしれない。
セフィリオに握られたままの杯は、嫌な音を立てて、ビシリとヒビを走らせている。
もしかしなくても、このままだとあの杯と同じ道を辿ることになりそうだ・・・。
どうやら、気付かないうちに地雷を踏んでいたらしい。レオナなど、カウンターの向こう側から溜息を零していた。
「・・・アンタも馬鹿だね。機嫌の悪い相手を酒に誘うなんて」
「レオナさん?!機嫌悪いって、セフィリオが?!」
「店を壊したら承知しないよ」
と言いながらそのまま裏へと入ってしまう。後姿に、助けてくれる気配は感じない。
「って!!気付いてたなら教えてくれたって・・・!って、あいつら・・・っ!」
フリック達が逃げたのはそう言う理由だったのだろう。何が原因かは知らないが、セフィリオの機嫌は最高に悪かった。
「シーナ。別に、君に、そんな風に言われなくとも、自分でよく分かってるよ」
耐え切れずに、割れる杯。
「女が嫌いなわけじゃない。でも、オミ以上の相手が居ないだけ。・・・それにね」
ざわついていた酒場の中心、セフィリオとシーナの座るテーブルから、一斉に離れる客。
律儀に椅子とテーブルも除けてくれるのは、レオナの機嫌を損ねるのが嫌だから。
「オミのこと、訊いてどうするつもり?・・・場合によっては容赦しないけど」
「しない!するかよ!!何もしないから!なっ!!」
両手を上げてのホールドアップ。それでも、セフィリオの殺気は緩まない。
「じゃあ一発殴らせろ。それで綺麗に忘れてやる」
「・・・お前の一発でオレ絶対死ぬ・・・!!!」
「ほら、歯ァ食いしばれー。さーん、にー・・・」
胸倉を掴まれて、もう逃げられないままにカウントダウン開始。
「わぁあああ――――!!!」

「セフィリオ!」

「―――――・・・ぁ?」
中々来ない衝撃にギュっと閉じた目を開けて見れば、酒場の入り口に呆れた顔をしたオミが立っていた。
先ほどのセフィリオを呼ぶ声は、オミの声だったのだろう。その声に、セフィリオはピタリと動きを止めていた。
オミの隣には、レオナ。どうやら呼びに行ったらしい。・・・助けてくれる気はあったようだ。
「部屋から追い出されたからって、なにを子供みたいに拗ねてるんですか」
溜息を付きながら、いまだシーナの胸倉を離さないセフィリオへ、ゆっくりと歩いてくる。
もう休む前だったのだろう。胴着は脱ぎ、夜着に身を包んだ姿は、確かに『綺麗』といえるもので。
けれど、そんなオミを前にしても、セフィリオの顔は硬いまま。
つんと拗ねたように顔を逸らして、オミから顔を背ける。
「・・・・・・」
「酔っ払うのも拗ねるのも、人に迷惑かけないようにして下さいよ。後始末大変なんですからもう」
不機嫌なセフィリオの態度などまったく気にもせず、オミはセフィリオの手を掴んだ。
力の入ったままの指から、シーナの服を解放して、苦笑気味に謝る。
「ごめんね。この人、酔うと人に絡んで、何するかわからないから」
「・・・あ、ぁ・・?」
元々、オミの部屋でも飲んでいたらしい。悪い酒は酔うのが早いものだ。
機嫌が悪かったのは、『忙しいオミに相手にして貰えなかったので、仕方なく夜部屋を訪ねてみれば、ちょっかいを出したついでに部屋を追い出されたから』らしい。
実に子供らしい拗ね方だ。
「今すぐ連れて帰るから・・・あぁ、レオナさん。お騒がせしました」????S?
「気にしてないよ」
レオナも何時もの事だと言う様に、オミに軽く笑ってさらりと流す。
「ほら、行きますよ。・・・あぁもうこんなに飲んで。明日二日酔いで辛くても知りませんからね」
「そんなに飲んでない」
「僕の部屋でもここでも、一体何本の瓶をカラにしたと思ってるんですか。もー暫く禁酒ですからね」
全く酔っ払っている様には見えないセフィリオだが、あれで立派に酔っ払いらしい。
オミに手を引かれるままに大人しくついていく様子を見れば、少しは廻ってるのかとは思えたけれど。
いつもと違う所と言えば、全ての感情を覆っているようなあの微笑みが見えないだけだ。
その他、思考回路がいかにも直結的で危険になるくらいで、外見的に変化はない。
「・・・なんつー怖ぇ酔っ払い方だよ・・・」
それでも、律儀にオミの言うことを聞く辺り、ちょっと苦笑が零れた。
「・・・冷やかしデバガメは、ダメってことだな」
人の恋路を邪魔する奴は、なんとやら、だ。関わらないに越したことはない。
「・・・あたしは、オミの方が心配だよ」
「へ?何で??」
大人しく部屋へ戻った二人の何を心配することがあるのか。
レオナの言葉を理解できずに、シーナは首を傾げる。



***



翌朝。
城の回廊で、オミから声をかけてきた。
「・・・おはよう、ございます」
「どうしたんだよ、その声。風邪ひいた?」
「い、いえ・・・!何でもないですから!」
じゃあと別れて、少しよれよれと歩くオミを見送りながら、・・・ようやく合点がいった。
「あ。」
レオナはコレを心配していたんだ。
昨夜はさぞ酔っ払いに『絡まれた』んだろう。
「・・・ふーん・・・?気になる・・・けど、まぁ」
これ以上詮索すると、また命の危険にさらされることになるのでやめておく。

「そうそう。オミは僕だけのものなの。・・・オミの何処が良いなんて、僕だけが知っていればいいんだよ」
「ひ・・・っ・・・!」

どこから現れたのか、すっきりとした顔でセフィリオが笑いかける。
すれ違い様に囁かれた台詞だけで、もう一度死線を見た気がした。









・・・オチ無し_| ̄|●(笑)




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