A*H

一度はやってみたいシリーズ

ユエ×リア 2005/02/08 up

【26:夜】





「そういえば、オミって怖いものないの?」


家族が待つ家のあるトランにも帰らずにただうだうだしているだけならばと、山ほど仕事(雑用とも言う)を与えても、生来器用な性質なのか短時間で終わらせてまたうだうだし始めるセフィリオが、オミのベッドの上でふと思いついたように顔を上げた。
「は?いえ、あの何の話ですか?」
いい加減夜も遅い時間だが、まだ残っていた数枚の書類を前にオミは仕事を続けていた。
のだが。
突然の問いかけに一瞬理解が遅れ、問いかけられた質問の答えよりもその理由について問い返してしまった。
「別に深い意味はないんだけどさ」
一人用としては無駄に広いそしてでかいベッドの上で、溢れるように重なった枕を背にセフィリオは反動もつけずに上半身だけ起こして座る。
「ヒマそうですねー」
「うん暇だね。だから、怖いものないの?」
「言葉が繋がってませんってば・・・」
ほんの少しで終わるだろう書類だったが、こうなってしまっては相手をするまでセフィリオは諦めてくれないだろう。
邪魔された挙句に無駄に時間が過ぎる位ならば、もうこちらとしても諦めて、明日やった方が早い。これは経験談だ。
「・・・で?僕の怖いもの、ですか?」
「そうそう。俺の知ってる限りじゃ、これといって思い当たらなくてな」
机から、諦めたようにベッドへと近づいてきたオミを笑顔で迎えつつ、その腕を取ってベッドの上に引き上げた。
ほぼ照明の落とされた部屋の中で、窓から時折差し込む鋭い光が、一瞬部屋を青白く染め上げる。
「・・・にしても外、すごい雨ですね」
「今のは落ちたな。どこかで雷雨に怯えて眠れない子供もいるだろうって、そう考えてたらオミは平気なのかなと」
「あぁ、そういう・・・」
脈略の無い会話は今に始まったことでもない。
されるがままになっていると、引き寄せられた腕をそのまま抱き込まれて、座るセフィリオの胸に背中を預けている体勢になっていた。
「・・・暑くないですか?」
「うん全然」
何だか最近、どこかのネジが飛んだか、いよいよ頭の一部が壊れたかのように笑う顔しか見てないなぁと、オミは首を逸らして下から後ろを見上げつつ、ぼんやりと考えていたのだが。
「・・・っん・・・ぅ!」
そのまま顎を固定され、少々・・・いやかなり苦しい体勢のまま唇を塞がれた。
いつもと違い、上下逆から受けるそれは何時も以上に苦しいのに、腕を引いても手を重ねても中々解けてくれない。
そのまま押されるように尻が下がり、胡坐をかいたセフィリオの脚辺りへ頭が落ちて、漸く少しだが呼吸が楽になる。
「・・・ん・・・」
何だかんだで、こんな触れ合いや接触が当たり前になっているけれども、ちょっと前のオミならきっと耐えられなかった。
反発しないで受け入れれば、まぁ大抵時間が過ぎれは離してくれるものだし。
・・・拘束が緩まないことの方が多いのだけれども。
「抵抗、しないね?したいの?」
「・・・どっちがですか」
降り止まない雨は、二人の囁く声すらも掻き消すほどに強く。爆音を轟かせつつ光を瞬く雷鳴も目を焼くほどに激しいのに。
「・・・強いて言えば、一つだけありますよ」
着ていた夜着を緩められつつ、こちらも緩めつつ、珍しく手を差し出しながら、仰ぎ見たセフィリオの瞳に笑いかける。
「でも、秘密です」
くすくすと笑うオミの肌に手を滑らせながら、それでもセフィリオは少し拗ねたようにオミを見つめた。
「何だそれは。聞いた意味がないじゃないか」
「そもそも、聞いてどうしようって言うんですか?」
「いや別に・・・そう聞かれてもただ、疑問に思っただけだから」
「・・・じゃあヒントあげます」
雷は違う、幽霊系も平気、虫とか動物とかは寧ろ好きそうだし・・・。
と呟くセフィリオの首を惹き寄せるように抱き寄せて、そっと。
「セフィリオがここに居るなら、僕に怖いものなんてないんですよ」
「・・・うーん?」
答えのような、答えになってないような。
けれども少しは納得したのか、小さくそうとだけ呟いて、口元が緩く微笑んだ。



外は相変わらず激しい雨。
世界は戦争の真っ只中で、しかもオミはその片軍を纏める軍主だ。
全てのものはいつ崩れ去ってもおかしくない今のこの立場で。
鳴り響く雷鳴にも、引き裂けないものがここにはある。


二人の時間は、壊れない。崩せない。

何よりも失うことを恐れてしまう。
当たり前になった、今この時が。この瞬間を。

どうかどうか、壊れないように。







END






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