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フェイレイ×カナタ 02:交差(コウサ)
02:交差





これはもう、天命だと思った。



「あの、ちょっと」
オレの声に、本を捲っていた手が止まった。
でも、オレの方に顔を向けてはくれない。
ここは、トランのマクドール邸だ。
面倒だから細かいことは省くけれど、バナーでちょっと色々あって、子供が一人生死の境を彷徨った。
紋章を使おうかと思ったけれど、その前にグレミオと言う人が『名医リュウカン』の名前を出した。
その時一緒にいた仲間にビクトールとフリックがいたから、二人とも慌ててその言葉に従ったんだ。
あの時は、ふたりとも絶対オレの紋章のこと忘れてたね。
グレミオっていう人の後ろに、ひっそりと立っているその人の家に行けるっていうから、オレはわざと紋章のことは言わなかった。
紫の透けるような髪を風に遊ばれてたあの人の目は、苦しそうに自分の右手だけを見つめていて・・・。
「・・・何だ」
「あ」
苛ついたような声だけど耳に心地いいその音に、オレははっと目を見開く。
回想なんてしてる場合じゃなかった!
今まで何度呼びかけても何も言ってくれなかった相手が、じっとその黒曜石の目でオレを睨んでいた。
「えっと、マクドール・・・名前、なんて言うんだっけ?」
オレの言葉に、睨んでいた相手の目が少し細くなる。
3年前の隣国の英雄なんだから、名前ぐらいは知ってると思っていたのだろうけど・・・。
残念・・・。オレ、文字読むの苦手でね。
シュウに勉強しろって渡された本も、その半分も意味がわからなくて止めてしまった。
『マクドール』という名前だけは何とか耳伝えで覚えていたけど・・・肝心の名前が思い出せなくて。
「・・・呼ぶに不自由はしないだろう」
「でもほら。『マクドール』じゃ親しみがないっていうか」
「そんなもの必要ない」
「なんでそうカリカリしてるかなァ・・・」
オレは、ほら。
折角また会えたんだから、交友を深めようとしてるのに。
「・・・煩い」
本を読むのに邪魔だと、冷たい目でオレを睨む。
「・・・ゴメン」
邪魔するつもりは、なかったんだけどさ。
暇なんだよ実際。
他の皆はあのでっかい毒虫に刺された子供を、そのリュウカンって医者の所に連れて行ってるし。
何も、ナナミまでついていくことないのに。しかもオレとこの人二人だけを置いて。
「・・・いや、嬉しいんだけどね。オレは」
ぼんやりと、本を読んでいる彼をテーブル越しに見つめて、小さい声で笑う。
だって、偶然とは思えないだろ?
街角でぶつかって出会った者同士が、こうやってまた出会うなんて。
偶然じゃない。そんな気がする。
・・・じゃなくて、そうであって欲しい。
何が気に入らないのかわからないけど、あの人はオレを嫌ってるみたいなんだよね。
なんで?・・・ていうか、友達が居るようにも見えないしオレだけじゃなくて、昔の仲間だったビクトール達にも、最低限の言葉しか言わない。
そうそう。確か、ビクトールが元気だったか?って声をかけて・・・。あ、そうだ!
「レイ!」
「!?」
突然上げたオレの大声に、びっくりしたような顔でこっちを振り向いた。
そうだ。ビクトールは彼を『なんとかレイ』って呼んでた。えと、『なんとか』の部分は思い出せないけど。
「レイ、・・・レイ。えっとぉ・・・?」
「その名を言うな」
「・・・?え?でも名前じゃないの?」
「・・・その名で呼ぶな」
「なんだよそれ。じゃあ、何て呼べばいい?」
オレの声に、ガタンと音を立てて彼は立ち上がる。
もうオレの顔を見たくない。と言う風に。
ていうか、オレ、そんなに・・・怒るようなこと言った?
「ねぇ。何がそんなにダメな訳?」
「・・・離せ」
疑問に思ったから、逃げるように部屋を出ようとした彼の服を掴む。
さっき気付いたけれど、大きく見えるこの人・・・オレと殆ど背が変わらない。
めちゃくちゃ強かったのに!・・・やっぱり、オレが修行不足なんだよね・・・。
「答えるまで、離さない。ねぇ、なんで?オレ、そんなに不愉快なこと言った?」
服を掴んでいた手を滑らせて、彼の手首を握る。
その瞬間、思い切り振り払われた。完全な拒絶だ。
「・・・なんだよ、それ」
流石に、温厚なオレでも怒るよ?理由もないのに睨まれて、振り払われて。だけど・・・
「・・・近付くな。触れるんじゃ、ない・・・」
オレを映す瞳には、嫌悪と怒りと・・・恐怖が滲んでは消えていく。
「・・僕に・・・その姿で近付くな」
「・・・は?」
意味の分からない事を言われて、オレの怒りはすぅっと消えてなくなる。
ほら、オレって頭悪いから。
怒る時は怒る。でも、考えることをしなきゃいけなくなると、その怒りを忘れる。
同時に色んなことを考えれる奴って凄いよね、ホント。
目の前の相手は、その見本品みたいな顔をして、渦巻く感情を押し殺そうとしている様だった。
「・・・もう、僕の前に立たないでくれ」
感情の波を崩したのはほんの少しの間だけで、彼はまた無表情に戻ってしまう。
そして、囁かれる短い言葉。
「あ」
オレが何かを言う前に、彼は流れるような動作で部屋を出て行ってしまった。
「どう言う、意味・・・?」
もう。今日は考えてばっかり。頭を使って考え事するのって苦手なんだけど。
オレの頭じゃ、幾ら考えても答えが出るはずもなくて。
「・・・ナ・・・カナ?」
「わっ?!ナ、ナナミ・・・?」
「『わ』って何よー?もーどうしちゃったの?立ったままで固まったりして。また、凍った?」
くすくすと笑われて、オレは頷く。
頭の容量以上のことを考えすぎると、凍っちゃうのはオレの悪いクセ。
「コウくん、なんとか大丈夫だって!あとはグレミオさんに任せて来ちゃった」
「俺達も早く城へ戻らなきゃならないからな」
フリックの言葉に、大きく頷いた。
「じゃあ、俺たちは戻るか。カナタ、行くぞ」
「うん」
今から彼の部屋に押しかけて意味を聞きたいけど。
後ろ髪を引っ張られる思いで、オレたちはマクドール邸を後にした。

数日後、オレはシュウからある一言を頼まれる。


ほら、やっぱり。
オレ達の運命は、交差する。


これはもう、天命以外の何物でもないだろ?






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⊂謝⊃
 前回から随分と時間を空けての第2話ですvどうでしたでしょうか?(笑)
 そういや、前回もフェイレイの名前が一度も出てきてませんね(汗)
 という事で今回は名前ネタで。(笑)もうカナタくん新鮮すぎ(笑)
 坊にタメ口のU主ってどうですか。たまにはイイと思うのは俺だけですか、そうですか(苦)
 にしても、フェイレイ病んでますねー(汗)・・・・これは坊主?(俺的には坊主のつもり/無理)
 
 ではでは、こんな所でまでお付き合いありがとうございましたv

斎藤千夏 2004/06/6 up!