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フェイレイ×カナタ 03:歳月(サイゲツ)
03:歳月





時の流れは時に、酷く残酷だ。



「お願い!もう、ホントに!!お願いシマス!!」
「・・・・・」
どれだけ頼んでも、どれだけ拝み倒しても、目の前の相手はちらりともこっちを見ようとしない。
ただ、彼の眼鏡に隠れた目は文字を追う事に夢中で、長い指は黙々と本のページを捲るだけ。
本当に読んでるのかと疑いたくなるスピードで、ぱらぱらとページを捲っていく。
もーこんな時に!
シーナのお父さんだか大統領だか知らないけど、余計なお世話をしてくれたもんだよ。
・・・いい人なんだけどね、確かに。
庶民出のオレを見下す風でもなく、ひとりの人間として、きちんと扱ってくれたし。
「・・・でもさ。よりにもよって・・・こんなに?」
高く高ーく積まれた本の山。
これ、全部レパント大統領からの差し入れらしい。
いや、この場合『ミツギモノ』って言った方がいいの?
3年もの間音沙汰ナシだった英雄が戻ってきて嬉しいのは分かるけど、今彼にモノを与えないで欲しかった。
だって、時間潰しの道具がなければ、もう少しオレに構ってくれたかも・・・とか思うんだけど・・・無駄?
「坊ちゃん、カナタくん。失礼しますよ」
コンコンと扉がノックされて、顔を覗かせたのはグレミオさんだった。
何度も何度も通ってるうちに、オレ、グレミオさんとは仲良くなれたんだよね。
特に、この人料理がめちゃくちゃ上手いから!!ナナミを修行に来させようかなとか思うくらいに!!
「グレミオさん!」
オレは走り寄って、扉をこっちから開いてやる。
「ありがとうございます。カナタくん」
にこりと笑って、手に持った茶器と小皿を掲げてみせる。
そうそう!こういう気配りにも、抜かりが無いんだよねホント!!
「やったvグレミオさん大好きー!」
「わっ!こ、こぼれますからカナタくん・・・っ!」
お盆を危うくひっくり返してしまいそうになって、オレも慌てる。
・・・危ない危ない。楽しみにしてたおやつを自分でオシャカにしてどうするんだって。
「さぁどうぞ、召し上がれ」
「戴きまーす!」
何とかテーブルに置いた、グレミオ先生お手製の焼き菓子に、遠慮なく手を伸ばす。
「きちんと椅子に座って食べて下さいね?」
「・・・あ、ハイ」
渋々と言われた通りに、椅子に座る。
と、そこで初めて、正面に座ってたあの人が、こっちを見てることに気が付いた。
読みかけの本は開いたまま。
「・・あ」
声をかけようとしたオレに気付いた途端、オレの視線には気づかなかったフリをして、そっぽを向く。
でも。さっき、こっちを見ていた時・・・。
少し、口元に笑みを浮かべていたのは、気のせい?
そして、そっぽを向いた顔が、少し赤い・・・って感じるのは流石に自意識過剰かな。
「坊ちゃん、どうぞ」
「ん」
オレとは対照的に、彼が勧められて手を伸ばしたのは、紅茶の方だ。
グレミオさんのお茶は、それはそれは美味しいんだけど。
やっぱりお菓子の方へ手が伸びるオレって、お子様だよなぁ・・・。
「?どうか・・・しましたか?失敗でしょうか、このお菓子・・・」
「いえ!そうじゃなくて!おいしいです!もう凄く!!」
項垂れてたオレの姿に、グレミオさんが首を傾げる。
ただ単に、自分というモノを再確認してただけなんだけど。
「・・・」
こうやってグレミオさんは、オレをキチンと気に掛けてくれる。なのに・・・
「ねーレイってば。なんでオレの声に反応返してくれないの?」
「!?」
「・・・・・」
「え?」
驚いた表情を見せたのは、レイではなくて、何故かグレミオさん。
「オレ、何か変なこと言いました?」
「あ、いえ・・・。何でもありませんよ」
小さく、すみませんと声を出して謝られても。
オレには、何に対して謝られたのかさえ、見当もつかない。
レイ本人はもう、オレに呼び方を改めさせる事を諦めたようだし。
そう言えばレイの本名は『フェイレイ』らしいんだよね。シュウに聞いてやっと思い出せた。
ていうか、フリックが『フェイ』を連発するから、誰の事か聞いたら『フェイレイ・マクドールの事だ』って突っ込み返されたんだけど。
・・・それで、やっと名前を知ったなんて間抜けな話・・・。
でも何となく『フェイレイ』って呼ぶ気にはなれなくて、何となく『レイ』って呼んでる。
最初はめちゃくちゃ嫌がってたけど、オレが呼び方を改める気はないと気付いたのか、もう文句一つ言って来なくなった。
・・・そのかわり。何に対しても反応を返してくれなくなった・・・・。
無視されまくりで悲しいんだけど・・・オレは諦める気はないからね!
という事で、また遠征へのお誘いにアプローチを連発してるんだけど、全く効果なし。
「・・・それで、坊ちゃんはまだ意地を張っていらっしゃるのですか?」
「そうなんですー。もう、コレだけお願いしてもこっちを見てもくれないし!」
「・・・そうですか」
グレミオさんは小さく笑って相槌を打ってくれるけど、この顔、訳知り顔とみた。
もしかしたら、オレが嫌われてる理由とかも、知ってる・・・?
「では、私はこれで。お邪魔しました」
「あ、グレミオさん待・・・」

ガタン!

突然後ろから響いた音にびっくりして、オレとグレミオさんは飛び上がる。
でも、後ろに居るのは、レイだけなんだから。
「・・・坊ちゃん?!」
「・・・ぅ」
「え?・・・な、何??」
グレミオさんが慌てて駆け寄って、机にしがみ付いてるレイを支える。
少し、顔が赤い?さっきのは見間違いでも何でもなくて・・・。
「風邪・・・とか?」
「え?わ、すごい熱ですよ!!坊ちゃん大丈夫ですか?!」
ココはレイの部屋だった事が幸いして、二人掛りでそのままベッドへ連れて行く。
軽い。・・・ていうか、体重もやっぱりオレと殆ど変わらないんじゃないかな。
二人掛りでなくても、オレひとりで運べたと思う。
・・・でも、その場合は絶対に抵抗されたと思うけど。
「・・・自分で言ってて悲しくなってきた・・・」
「カナタくん!」
「はい!?」
哀しみに沈んでるオレを、グレミオさんが呼ぶ。
突然過ぎて、声が高く裏返っちゃったけど、幸い誰も気にしてない。
「私は下へ行っていろいろ揃えてきますから!その間、坊ちゃんのこと頼んでも良いですか?」
「え?ハイ・・」
「では、お願いしますね!」
バタバタと出て行くグレミオさんの背中を見送って、小さく苦笑い。
「・・・って、オレに何ができるって言うの・・・」
苦しそうだから、衣服を軽く緩めるくらいか?
まずは邪魔な眼鏡とバンダナを外してー・・・って。やっぱり、この人凄く綺麗だ。
見とれてたオレを、突然その綺麗な黒い目が捉えて、唇が微かに動く。
「・・・」
「え?何?」
「・・・ッ」
何かをオレに伝えようとしてるけど、声になる前に酷く咳き込んだ。
もしかして、喋らないんじゃなくて、喋れなかったって言うのか?!
「・・・って、何で我慢してたのさ?苦しいならそう言えばよかったのに。・・って喋れないのか」
平然と本を読んでた姿は、何だったって言うの?
強がり?・・・なんで?
「・・・オレが来たから?」
レイにはもう殆ど聴こえてないみたいで、瞳は閉ざされ、唇から洩れる微かな息は熱かった。
「何だよ。見た目はめちゃくちゃ良いくせに、中身冷血漢のくせして・・・」
でも。無意識に伸ばした右手は、汗の滲んだ熱い額の上。
「・・・ひとりで、何もかも背負えると思うなよ」
熱で乾いて、血の滲んだ唇が痛々しくて。

気が付いたら・・・・。

「・・・あ」
舌先に残る、微かな鉄の味。
・・・そんなつもりはなかったんだけどな。
ただ、触れるだけだけど、確かにそれはキスと言うもので。
なんだか、寝込みを襲ったみたいで、ちょっと悪い事をしてしまった気分・・・。
「レイ・・・?」
睨まれる覚悟で、そっと呼びかけてみる。 けれども、レイは眠ってしまってるみたいで、オレの愚行には気付いてない。
もし気付いてたら、今以上に嫌われる事確実だし。
「でも・・・」
意識は、して欲しかったかもしれない。
さら・・と流れる髪を指で寄せて、もう一度キスを落とした。
「・・・・・ド・・」
「レイ?」
何かを掴もうと、ゆっくり手を伸ばすから。
思わず握り返してしまったけれど、いつものように振り払われたりはしなかった。
その逆で、強く・・・握られた手は熱くて。
「・・・誰の夢、見てるんだ・・・?」
返事なんて期待してないけど。
恐らく、そうだろうとは思ってた。
名前は知らないけど、顔は知ってる・・・レイの親友だった人。
ちらりと見た写真で、分かった。レイが、オレを嫌う理由。初めて逢った時に、驚いた理由も。
髪と瞳の色が、その人と同じ。恐らく、背格好も似てるんだと思う。
性格なんて知らないし、わからないけど。
似てたら・・・それは辛いよね。
「でも、それって・・・・オレ、勝ち目ないってことだよね」


ほら、よく言うよね。
死んだ人には、勝てないって。

流れた歳月は戻らないから。
記憶だけが鮮明で。
でも、その流れた先の時代で突然出会ったレイと、『彼』に似ているオレ。


ほら。
時間の流れは、何て残酷なんだろう。





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⊂謝⊃
 3回目で唇奪っちゃったv(ぇ)
 あ、セフィオミは一回目で奪ってましたねあわわ最強があっちに居た(笑)
 
 今回、微妙に暗いです・・・ね。(汗)最初の勢いはどうしたカナタ(笑)
 最近は1人称が楽で〜vえー、フェイカナではいつまでカナタの1人称なんでしょうかねぇ(笑)
 突然3人称になったりしちゃうかもですが、ソコらへんは目を瞑ってやって下さい・・・(苦笑)
 あ、この話のネタはバッチリ続きます。風邪が治る経緯とか、やっぱりね★(何)
 
 そうそうvまだ三つしかないですけど、ちょっとタイトルで遊んでます(笑)
 気付いた方いらっしゃいますか??(笑)
 
 ではでは、こんな所でまでお付き合いありがとうございましたv

斎藤千夏 2004/06/12 up!