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フェイレイ×カナタ 04:月夜(ツキヨ)
04:月夜





『・・・レーイ。この世の終わりみたいな顔して、どうした?』

眩し過ぎて、遮らないと目を開けられないほどの光の中で。

彼が笑った。




***




グレミオさんが出て行ってから、もう結構な時間が経った。
城に居るはずのリュウカン先生に会いに行くだけなら、そんなに時間はかからない筈だけど・・・この調子じゃ、今日に限って家へと戻ってる可能性も高い。
出て行く間際に、グレミオさんが言っていたのだ。
「・・・もし、リュウカン先生のお家にまで行かなくてはならなくなった時は、今日中に帰って来れないかもしれないので・・・」
戻ってくるまで見ていて欲しいと申し訳無さそうに言うグレミオさんに、オレは軽く頷いた。
本当はオレも今日中に城へ戻らなくちゃいけないんだけど、緊急事態だってことでシュウには目を瞑ってもらおう。
にこやかに、出て行くグレミオさんを見送ってから、レイの部屋へ戻る。
枕に頭を沈めてるその姿だけ見ると、ただ寝てるようにも見えるけど、近付いて見ればその吐き出す息が熱いことにも気付く。
「あーあ、また落として・・・」
鬱陶しいのか邪魔なのか、濡らした布を幾ら額の上に置いたとしても、次に見たときには払い落としてしまう。
枕を湿らせる布を取って、隣に置いたままの桶の冷水で濡らして、固く絞る。
言っとくけど、オレって実は看病に慣れてるんだよね。
小さい頃、良くジョウイが熱を出して、ナナミと二人で看病してた。
風邪を引くと何故か家に戻りたがらないジョウイだったけど・・・今なら、その理由がわかる気がする。
ジョウイの家は、このレイの家みたいに暖かく感じたことは無かった。
大きくても、金持ちであっても・・・どうせそこに住むのは人間なんだ。
温かみの全く無い家で、弱った体を休めるなんて・・・そうそう出来ることじゃない。
「・・・家族って、なんだろうねぇ」
片親だけでも血の繋がってるジョウイの家族と。
オレやナナミとじいちゃんとか、レイとグレミオさんとか。
血の繋がりなんて関係ない。ただ、お互いが大切かどうか思うだけだ。
絞った布で軽く汗を拭って、額の上に乗せる。
「・・・起きない、かな」
月の光に照らされたレイは、本当に綺麗に見えて。
今は瞼の下に隠れてしまっている漆黒の瞳を見たいと・・・思ってしまうほどに。
「あれ・・・?」
肩から下がってしまった毛布をかけ直そうと手にかけた時、初めて気付いた。
「・・・手袋したままだったんだ。邪魔じゃないのかな」
親切心から外してあげようとその手を取った瞬間、突然身体を浮遊感が襲った。
「?!」
回転した視界の先に見えるのは、肩で息をしながらもオレを睨みつけるレイの瞳。
「・・・な・・?」
今の・・・風邪で苦しんでた人間の動きか?!
ちょっと信じられないけど、シーツの上に仰向けで転がされてるのはオレ。
ついでに、躊躇ってくれて助かったけど、レイがオレだと気付かなかったらそのままオレはあの世の扉を開いていたかもしれない。
レイの手は何時の間にか棍を掴んでいて、オレの喉の上ギリギリで止められていた。
「・・・何を」
する気だったんだ?って、多分そう聞きたいんだろう。けど、オレは何をしようとしてたか忘れた。
ただ、レイの動きに驚いて。
レイは呆然と見上げたままのオレの喉から棍を引いて、そのままくらりと倒れ込む。
「わ・・?!あー・・・無茶するから」
身体の上に倒れこんできた体温は、さっき触れた時より上がってる気がする。
オレの言葉に睨むように目を向けるが、本当にさっきのが最後の力だったみたいで、身体を逃がそうともしない。
肌に触れると問答無用で投げ飛ばす相手が自分の上に寝転がってる訳だから・・・オレとしては非常に嬉しいんだけどさ!!
「・・・苦しそうだね」
苦しそう、なんじゃなくて、実際苦しいんだろうけど。
その時、窓から差し込む月の光が弱まった。窓の外に目を向ければ、大きな雲が月の姿を隠してしまったらしい。
「・・・・ん?」
何かの気配に気付いてそっちへ目を向ければ、ふわりと光を帯びた手に気がついた。
オレの紋章の光じゃない。これは・・・
「レイ・・紋章が」
手袋と、その下に巻かれた包帯すらもその光を遮ることは出来ずに。
動けないレイの右手に、そっと触れる。

キィン・・!

「は?!」

前兆も何も無い。突然光を増したレイの右手に、オレは成す術も持たずただ呆然としていた。
「・・・・」
だから言ったのに。
そんな声が聞こえたような気がしたけど、その時オレの意識はもう・・・そこにはなかった。




***




『月の光には気を付けろよ?・・・特にこんな月夜には、オレに近付かない方が身のためだ』

『独り』は嫌だと、その濃い琥珀色の瞳が訴えているのに。

その口から吐き出された拒絶の言葉と、口元に浮かんだ笑みが僕を酷く迷わせた。



月は、闇を照らす唯一の光であると同じくして。

闇の力を最大限まで引き上げてしまう、危険な光でもあるのだと。



「・・・カナタ」
深い眠りに落ちた少年の右手には、淡く輝く紋章の光。





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⊂謝⊃
 不思議展開へ突入!(ぇ)
 もちろん次回へと続きますのでお楽しみにv(笑)
 今回、最初と最後に台詞漏らしてるのは、もちろんの事あの人です。
 あの人ってどの人?・・・えへへそれは秘密デスv(いや分かるだろ/笑)
 前と比べてごっつー短いですが・・・すみません・・・気力が(オイ)
 
 タイトルクイズ、答えて下さった方、その通りでゴザイマス(笑)
 別に深い意味はないんですけど、気が付いたらあぁなってたというか!(笑)
 答えは・・・言わずとも分かると思いますので(笑)別の機会にでもv
 
 ではでは、こんな所でまでお付き合いありがとうございましたv

斎藤千夏 2004/06/26 up!