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フェイレイ×カナタ 06:乱世(ランセ)
06:乱世





近しい者を失う哀しみ。
それは、オレ自身も良く知っているものだったけれど・・・。


「父・・さん―――ッ!!」


たった今、自分で打ち倒した相手に、涙を浮べて駆け寄るレイの姿には、掛けられる言葉ひとつ思いつかなかった。
どうせ、思いついたとしても話し掛けることなんて出来ないんだけれど。
それでも、今のオレより幼く感じるレイが泣き崩れる姿を見て・・・居ても立ってもいられなかった。
「・・・なんて顔してるんだカナタ」
「・・・平気な顔なんて出来る訳無いだろ・・・」
すぐ傍に立っていても、気付かれることもないオレとテッドの姿。
宥めようと背を撫でても、すり抜けてしまう身体。
「知らなかった訳じゃないだろ?・・・この程度の話は伝記として残っている筈だ」
「・・・・・」
知らなかった。
言葉につまったオレを不思議そうに見つめ返して、テッドは笑う。
「・・・その顔は知らなかったのか?」
「・・・本・・読むの嫌いで」
「なるほどね・・・あはは」
でも、テッドは呆れるどころか、嬉しそうに笑い出した。
何で笑うかな・・・。呆れるとか怒るとか、それなら分かるけど、笑われるのは予想もしてなかった。
「あのな。オレは人が書いて残した伝記って好きじゃないんだ」
「え?あ、そうなの」
「・・・あれは人に先入観を植え付ける。レイが英雄だってな。それこそ、生まれた時から英雄だったみたいに思えるように」
それは、そうかもしれない。
物語でもよくある話だ。
正義は必ず勝つ。それは、本当に正義なのか。
戦う者は、必ず何かのために戦っている。
奪うため、守るため、取り返すため。
誰が正義で悪かなんて、勝利を収めた側からしか見ていない伝記で、誰がわかると言うのか。
バタン!!
「え?!」
考えに耽っていたオレの身体をすり抜けるようにして、突然レイが倒れた。
黒く輝く光は、レイの右手甲から零れている。
「・・・紋章?レイの・・・何が」
「魂を、喰ったんだ」
ソウルイーター。
「その名の通り、魂を喰らう紋章なんだよ」
少し苦しそうに言うテッド。
テッドだって、この辛さをその身体で体感して来たに違いない。
誰だって、身近にいる者を失う痛みは、世界が凍ってしまったかのように感じるんだろう。
「・・・カナタは優しいね。それに、利害を考えてレイに近付いたわけじゃ無さそうだ」
「・・・・」
テッドのその言葉に、オレは何も言い返せなかった。
本当に、利害を考えていないのか・・・自分でもよく分からない。
レイのこと、隣国の英雄だと知らないまま憧れた。
近付いて、一度も振り向いてくれないけれども・・・その気持ちは止まらない。
「・・・戦って下さいって、オレの頼みは、レイにとって辛いものだったのか」
知らなかった。
知ろうともしなかった。
彼に過去何があったのか。戦いの中で何を失い、何を犠牲にしてきたのかも。
この乱世、レイには辛い時代に違いない。
いたるところで戦いが起こり、その度に彷徨う魂に満ちているといってもいい。
紋章は、魂を欲しがる。
それも、特にレイに近しい者の魂を。
知らないまま・・・またレイを戦場へと誘い出していた自分が恥かしい。そして憎らしい。
「オレ・・・傷付けた・・・。知らなかったなんて、それだけで」
「カナタ」
「嫌いになるはずだよ!レイからしてみたら、オレは他の誰とも変わらない!レイを『英雄』としてみてる奴等と、何も変わらない!」
膝が、折れた。
もう立っていられない。
「それは、違う」
「違わない!」
もうそこは戦場でも何処でもなかった。
レイの記憶からも離れた、本当の紋章の中なんだろう。
「・・・頑固だな。そんなところも、似てるねぇ」
くすくすと笑うテッドに、オレはキツイ視線を飛ばすけれど、その時初めて気付いた。
「改めて頼む・・・息子の友達になってくれないか?」
「・・・・」
「テオ様。友達なんて、頼まれてなるものじゃないわ」
「む・・・そうか。それもそうだな。ではなんと頼むのが良いだろうか」
「頼まなくても、カナタはやってくれますよ」
・・・目の前に居るのは、テッドだけじゃなかった。
テッドと、さっきレイに討たれて亡くなった・・・レイの父さん?
そしてもう一人の女の人は・・・
「・・・フリック、元気にしてる?まだ、成人の儀、終えられてないのかしら?」
・・・・ええと誰だっけ。
「・・・あ、自己紹介しないとね。私は、オデッサ。オデッサ・シルバーバーグよ」
「・・・どうも」
「あはは、この子、もう立ち直っちゃった。そんな所は、あなたとそっくりね?」
「あーそうかも。あのなカナタ。俺と似てるって、自分で思ってないか?」
「・・・思ってる。だからレイは、オレを真っ直ぐ見てくれない」
「まーまー。あのな。でも俺から見たら、カナタはレイに似てるぜ?頑固な所とかそっくりだ」
「・・・・」
「だから、分かるだろう?意地張ってるだけなんだ。カナタ」
がしっと肩をつかまれて、引っ張り上げられる。
その力の強さに、思わずつられて立ち上がってしまった。
「お前になら、レイの親友の座、譲ってもいい」
「・・・テッド?」
「俺もな、出来るならレイの傍にいたいさ。でも・・もう叶わないんだ。だから・・・」
「いらない」
カンチガイしないで欲しい。
レイの友達に?親友の座?
そりゃ仲良くなりたいけど、オレが欲しいのは、そんなのじゃない。
それも、頼まれて、与えられてなんて・・・真っ平だ。
「オレが欲しいのは、誰よりもレイの傍に近寄れる権利だから、そんなの、いらない」
「・・・・ぷっ」
あ、笑いやがった!
「何が可笑しいんだよ?!」
「あぁうんゴメン!そうだったっけ。あはは、うん、それでもいいよ」
くしゃ、とオレの髪を掻き混ぜて、少し上から見つめてくるテッドの瞳は、なんだか凄く優しかった。
「アイツの心を溶かせるのは・・・カナタしか居ないかもしれないな」
「え?どういう意味・・・わ?!」
キン!
眩しい光が、視界を焼いた。
慌てて目を瞑ってかわしたけれど、もう誰も何も見えない。
「レイを宜しくな」

「待ってってばテッド!」

手を伸ばして起き上がった先には、薄暗い、部屋の中。
手袋が外された自分の右手甲に刻まれた紋章が、仄かに光っていた。
「・・・戻って、来た?」
紛れも無く、そこはレイの部屋。
あのオデッサって女の人も、レイの父さんも、テッドも居ない場所。
「・・・よろしくって言われたって」
浅はかだった自分の考えに気付いてしまった今では、レイと顔を会わせることが出来るのかも、不安だった。




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⊂謝⊃
 不思議ワールドからお帰りなさいカナタ君。(笑)そしてお久し振りです。(ほんとにな/笑)
 びっくりするほど期間を空けてしまって申し訳ありません!!<(_ _)>
 まだ色々と忙しいのですけれども、自由な時間がある今、何か一つずつでも書いて行きたいので頑張ります!!
 
 フェイレイは一体何処へ行ったんでしょうね。
 楽天馬鹿のカナタが悩んでいますが、これからどういう展開になるのか・・・・。
 俺にも分かりませんデスはい。(待て/笑)
 次回をのんびりとお待ちくださいませ・・・って待ってくれてる方居るのか?!(笑)
 
 ではでは、こんな所でまでお付き合いありがとうございましたv

斎藤千夏 2005/01/03 up!