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フェイレイ×カナタ 07:星位(セイイ)
07:星位





運命。
天の采配。
そんな言葉、生まれる前から決められてた人生のようで好きじゃないけれど。
でも・・・。






「どれ位寝てたんだろ・・・」
軽く頭がぼんやりする。頭を使うことが嫌いなオレだから、いきなりあんな情報量を与えられても混乱するしかない。
嫌な汗にべったりと張り付いた胴着に顔を顰めて、柔らかいベッドの上から降り立った。
窓から差し込む光は、夜のもの。
ふと、思い出してみて、ここはレイの部屋だ。つまりはグレッグミンスター。
「・・・やっちゃった」
・・・あぁ、またシュウに怒られるな。いや、シュウだって分かってるだろうけど・・・出来るならば今日は帰りたい。
月の位置から見て、まだそんなに遅い時間ではないことは分かった。
帰れないこともないけれど、無断で出て行くのも気が引ける。
「・・・でも今レイの顔・・・見れるかな」
大切にしてきたものを、守りたいと思ったものを、レイは全てなくしてきた。
グレミオさんがいるから、それだけが唯一の救いなのだろうけど、もし自分が同じ立場に立ったとしたら・・・考えるのも嫌だ。
「・・・やめよ。せめてグレミオさんが居ればいいんだけど・・っ!」
扉を開いた瞬間、驚いた。
目の前に、レイが居たから。
「・・・起きたの」
「えっと、うん。ベッド占領しちゃってごめん」
レイがオレの顔を見たのは、扉を開いた一瞬だけ。
その後はまた無視するかのように、オレの横を通り過ぎ、机の上に何かを置いた。
今は、沈黙が痛い。
オレが話してなければ、レイといる空間はほぼ無音に近いから。
こっちを振り向いてもくれない背中に、軽く笑いながら声をかけた。
「・・・あのさ、オレ、今日は帰る」
「・・・そう」
・・・引き止めて欲しかったんだろうか。
帰りたかったはずなのに、無償に寂しい気持ちになった。
でも、相変わらずレイはオレを見ようともしない。
部屋を出て行きかけて、ふと思い出す。
「あ、そうだ・・・。レイ、熱は?もう平気?」
「・・・」
オレのこの言葉に、ようやくレイが振り返る。
真正面から見つめられたのは、これが初めてだ。
暗い部屋のせいで表情は分からないけれど、かち合った視線に、顔が赤くなる。
やっぱり・・・レイは綺麗だった。
「僕より・・・君こそ」
「え?」
「・・・別に」
レイがオレの言葉に答えを返してくれる事だけでも珍しいのに、その言葉の本心は心配だ。
どこか落ち着かない風のレイの視線に、思わず身体が動いた。
「・・・レイ、オレを心配してくれてる・・・?」
「・・・」
俯きかけた顔を覗き込んで、瞳を隠す髪に触れても、文句も言わないし逃げもしない。
そのかわり、オレの言葉に返事はくれなかったけれど。
「ありがとう」
もの凄く嬉しかったから、逃げないのを良い事に、思いっきり抱き締めた。
「・・?!」
触れ合いに慣れてないレイは流石に驚いたみたいだけど、それでも、逃げないから。
失った分だけの体温を与えるように、感じて欲しくて、抱き締めた腕に力を込めた。
・・・だって、泣きそうになってる顔は見られたくなかったから。






「カナタくん、まさかこんな時間から帰るつもりですか?!」
レイの家を出て行きかけた所で、ちょうど戻ってきたらしいグレミオさんに呼び止められた。
そういえば、起きた瞬間はそう遅い時間でもなかったんだけど・・・あれから暫く動かなかったからな。
「そんなに汗掻いて・・・!坊ちゃんの風邪もらっているかも知れませんし、引いたらどうするんですか」
レイは結局風邪じゃなかったみたいなんだけど。
それにオレそこまでひ弱じゃないし・・・って、言う間もなく、さぁ入ってと中に引き戻されて、そのまま腕を引かれて連れて行かれたのは、風呂場。
「・・・あの、グレミオさんオレ別に・・・」
「いいですから、どうぞ。着替えも用意しておきましたし、お城の方にも連絡してありますから」
本当に、人の面倒を見るのが好きな人なんだと思う。
こんな人が傍にいるから、レイはそこまで落ちずに済んだのだということも。
「・・・グレミオさん。レイの紋章・・・わかりますよね」
「・・・え、えぇ。それが、何か?」
笑っていた笑顔を少し苦笑に変えて、グレミオさんは答えてくれる。
尋ねていいものか、迷った。
自分の右手を左手で握り締めていたのも、無意識での行動だ。
でも。
「オレ、あの中に引き摺り込まれたんです。そこで、3人の人と会いました。・・・多分、レイの父さんと若い女の人と、テッドと」
「・・・え?」
「オレのこの右手にあるのも、不完全らしいけど、真の紋章だから。何かが共鳴したんだと思う。だから引き摺られたんです」
レイが訴えた熱は中途半端な紋章の共鳴。
触れた途端、嬉々として引きずり込まれた魂が戻ってこれたのは、オレの右手にある紋章のお陰だろうけども。
「もしかしたら、オレと居ると、レイはもっと苦しむことになるかもしれない。オレがレイを苦しめるかもしれない」
でも、それでも。
レイの過去を垣間見た後でさえ、離れたくない気持ちの方が強かった。例えそれでレイを苦しめるかもしれないと分かっていても。
「ごめんなさいグレミオさん。でも、オレは・・・」
もう、レイを知らない時に戻れと言われても、無理だった。
出会ってしまったんだから。
・・・同じ星位に生まれた者同士が、偶然にも知り合ってしまった。
「カナタくん・・・」
俯いたオレの頭を軽く撫でるようにして、グレミオさんが笑う。
「そんなこと、ありませんよ。カナタくんが坊ちゃんを苦しめるなんて、ありえません」
ゆっくりと顔を上げてみれば、優しく笑っているグレミオさんと目が合って。
「・・・あの紋章の中で、なんと言われましたか?テオ様もテッド君も、カナタくんに酷いことを言いましたか?」
言われていない。寧ろ、傍に居てくれとまで言われてしまった。
「・・・私も、カナタくん。貴方だからお願いできると思っていました。だからこそ旅を続けたがった坊ちゃんを引き止めて、この家に戻ったのです」
「え?」
「カナタくん。坊ちゃんを外へ・・・明るい世界へ連れて行ってあげて下さいませんか。この3年、坊ちゃんは十分に苦しみました。・・・もういいでしょう」
許されても、いいでしょう?
グレミオさんは、自分では役不足だと言って寂しそうに笑った。
そんなことはないと思う。だって、グレミオさんが居たから、レイはまだここで留まれた。
・・・それでも、先へは進めない。
「私では、坊ちゃんの手を引いて歩く事は出来ません。ただ、帰る場所で待つことしか出来ない。・・・カナタくん」
レイの手を引いて、明るい世界へ連れ出して欲しいと。
「・・・いいんですか?」
そういえば、本人に許可とってないけど。
「私は、歓迎しますよ」
ちょっとだけ、いたずらっぽい顔をして、グレミオさんが笑う。
こういう表情をすると、大人の人なんだけども、とてもそうは見えないからおもしろい。
オレもつられて、本心から零れる気持ちのままに、笑顔を返した。



運命。
天の采配。
そんな言葉、生まれる前から決められてた人生のようで好きじゃないけれど。

それでも、オレとレイが出会うことを決められていたのなら、
同じ星位に生れ落ちたことに感謝しよう。

どんな苦しみの渦に巻き込まれても、レイと出会うため、オレはここに生まれた。




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⊂謝⊃
 レイより先にグレミオと仲良くなってどうするのカナタ君(笑)
 さてさてお久し振りのフェイカナです。覚えていて下さいましたか彼らのこと・・・!!(笑)
 ようやく、少しだけですが中が進展したような気がします。
 触る事許しましたしね。グレミオにも許可貰えましたしね・・・うん、次からが正念場。(笑)
 どうやって坊主になるのかドキドキですが、それはお楽しみに!!だって俺だってドキドキだから!!(オイ) 

 ではでは、こんな所でまでお付き合いありがとうございましたv

斎藤千夏 2005/02/22 up!