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フェイレイ×カナタ 08:生方(イキカタ)
08:生方





「・・・カナタ殿」
青筋を立ててオレの前に仁王立ちしてるのは、すっごい顔のキレイで頭もいい軍師のシュウ。
オレは呼び捨てでいいって言ってるのに、絶対敬称を止めてくれない、ちょっと困った人だ。
・・・っていうか、オレこの人には怒られてばっかりで。
「・・・・・・ごめんなさい・・・」
レイを迎えに行ってから、中々戻ってこないオレを見かねて、遂にはルックが迎えにきた。物凄い不機嫌な顔で。
それは悪いとは思ってるよ!連絡したのは初日の一日だけで、そのままずるずると・・・3日もトランに居たんだから。
「・・・反省、していますか本当に。全く、貴方はまだ軍主と言うものの意味を良く理解していらっしゃらない!!いいですか、まずは・・・」
・・・また始まった。毎回そう。というか、いい加減耳にタコが出来そう。いや、本気で。
でもどうしてお説教するにもこんな日差しのイイ窓際でするんだろう。
・・・あぁ・・・駄目だ・・・眠い。





「・・・ナ・・・カナタ!」
「・・・ぁ?」
あれ?さっきまでオニの形相をしたシュウがここにいたはずなんだけど。
いつの間にナナミと交代したんだろう?っていうか、もしかして寝ちゃってたのオレ?
「あ、やっと起きた〜・・・。もう、シュウさん怒って部屋に戻っちゃったよ。もうお昼だし、帰ってきてからカナタ何も食べてないでしょ?」
まだ意識のぼんやりとしたオレの顔を覗き込んで、ナナミが可愛い笑顔で笑う。
あぁ、やっぱりそう言うことか。ぐっすり寝ちゃったオレに呆れて、シュウは部屋へ戻ってしまったらしい。
「ほら、起きてカナタ。お昼は混むんだから!早く行かないと食べられなくなっちゃう!!」
「・・・じゃあ、起こして?いつものしてくれなきゃ起きれない」
「・・・もう・・っ」
机に頬を載せたまま、笑うオレに溜息を付いて・・・でも、仕方ないなって感じの柔らかい笑顔で。
寝ぼけたままのオレの右目の上に、小さく唇を降ろす。くすぐったくて、笑いながら起き上がった。
「はい、これで起きれるよね?ご飯、食べに行こうよ」
「ん、そうだね」
くすくすと笑い合って、オレもようやく身体を起こす。
キスは言葉に出来ない愛情を伝えるものだと思うから、オレとナナミはいつもこうやって触れ合ってきた。
別に珍しいことじゃない。周りから見て、仲の良すぎる姉弟かも知れないけど、良すぎて悪いことなんてないし。
オレが甘えたら、ナナミは困った顔で文句を言いながらも、最後は絶対に叶えてくれる。
だから、甘えるのは好きだ。弟の特権?血の繋がりは無くても、深い愛情があればいいよね。
それに、今まで誰にだって甘えて生きてきたオレだから、結構自信あったんだけど。
・・・そんなオネダリも効かない相手がいたことは、まぁちょっと予想してなかった。
場所は変わって、草の上。城から少し離れた草原のど真ん中。
「カナ、ねぇどうしたのぼんやりして」
「・・・いや、別に。ぼんやりしてた?・・・でも、確かに眠いかもしれない」
昼飯食って腹いっぱいになったから、また眠気に襲われてたのかも。
だって天気いいし。ちょっとあの人のことで落ち込んでたオレとしては・・・絶好のサボり日和。
シュウはまた怒ってると思うけど、もう駄目。起き上がりたくないし。
さわさわと気持ち良い風と緑の音を聞きながら昼寝もいいなぁ。
目を閉じたオレの隣で、また仕方ないって感じでナナミが笑う。
でも、起き上がったその身体が離れていくのが寂しくて、手を伸ばして捕まえた。
「一緒に寝ようよ。気持ち良いよ?」
「・・・甘えんぼだなぁカナは」
髪を撫でてくれる手のひらは柔らかくて、離れて欲しくなくてしっかりとナナミを抱き寄せる。
大事なものを尽く失ったレイ。どんな思いだっただろうか。
「・・・ねぇカナ。マクドールさん、迎えに行ったんじゃなかったの?」
「・・・うん、でも・・・まだ無理かな」
グレミオさんにも言われたけど、レイはまだ許していない。
誰をじゃなくて、守れなかった自分をだ。
そんな人をこんな戦争のど真ん中に引っ張り出して来るのもどうかと思うし、それにオレも・・・。
まだ少し気持ちの整理がついてないから、シュウに強引に引き戻されたのは良かったのかもしれない。
「『らしく』ないよカナ。それでいいの?」
「ナナミ?」
オレの髪を撫でていた手が突然離れる。目を開ければ、困った顔をした姉がそこにいた。
「マクドールさんには悪いけど、大人しいカナなんてカナじゃないよ。諦めるなんて、カナらしくない」
起き上がって、正面からナナミを見返す。いつもにも増して、オレを見つめるナナミの目は真剣だった。
確かに、言われてみれば・・・諦めるなんてオレらしくない。
欲しいものは、たとえどんな手に入りにくいものでも、絶対に自分から諦めることはしたくないんだ。
「・・・うん」
そうだね。俺らしくない。強く生きてくって、じいちゃんと約束したんだ。
「諦めないよ」
強い光が右目を焼いた。風が、胴着を撫でていく。
人に助けてもらわなきゃ何にも出来ないオレだけど、自分の人生は好きに生きたい。
後悔だけはしたくないから。
「ありがとナナミ。もう一度迎えに行ってくる」
屈んで、まだ座ったままのナナミの額に唇をかるく落とす。
離れるか離れないかのその瞬間に、怒声が辺りに響き渡った。
「何をしているんですかカナタ殿!!それでは戻ってきた意味がないでしょう!!」
長い髪を振り乱して走ってくるのは、まぁ何時もの如くシュウ。あの黒髪の中に光る毛が混じってたとしたら、きっとオレの所為。
ストレスばっかり与えちゃって申し訳ない。でも。
「ごめんねシュウ!すぐ戻るからー!」
「すぐ戻る・・って、待て!待ちなさい!!」
追いかけてくるシュウには悪いけど、スタリオンと追いかけっこできるこの足についてこれる訳がないだろう。
城門を越えて、軽く茂った森の中。
「・・・あ、忘れてきた・・・けどまぁ、何とかなるかな」
武器を持ってくるのを忘れてしまった。けども、別に大した問題じゃない。
城から南下した先に居る魔物程度じゃ体術でも十分だ。
「手鏡は持ってるから何とかなるかなー。万が一の場合は逃げればいい・・・し」
ざぁ、と緑の木々が揺れた。
マントを靡かせて、一直線に歩いてくるその姿に、見とれると同時に驚く。
「・・・レイ?」
「・・・・・・」
返事はない。でも、オレから目を逸らす事もしない。
「なんで・・・?」
だって、あんなに嫌がってたじゃないか。いや、それでも連れてく気だったんだけど。
自分から、来てくれるなんて思っても見なかった。
「・・・何処へ行く?」
オレの質問には返さないまま、軽装のままのオレを見てレイが問う。
「迎えに、レイを。グレッグミンスターまで。行くつもりだったんだけど」
歩み寄って、笑いかけた。だって、こんなに嬉しいことなんてないよ。
「その必要もなくなったね。ありがとう、きてくれて」
ぎゅっと、手を握る。触られるの、あんなに嫌がっていたのに、抵抗しないでそれを受け入れてくれた。
「少し・・・見てみたくなった」
「え?わ、ちょっと」
小さく、レイが言った言葉は、ちょっと風に邪魔されて聞こえなかったんだけど。
オレより先に城へ向かって足を速めるレイを慌てて追いかけたら、振り返りざまに微笑まれた。
・・・・・・うわ。
「置いていくよカナタ」
見とれて立ちすくんでる場合じゃない!
「い、今!レイ・・・!」
名前、呼んでくれたよね?
聞き間違いじゃないよね?
レイはもう振り返ってもくれず、足を速めて歩いていってしまう。
でも、それでも!!


これからまたシュウの怒鳴り声を聞くことになっても、全然構わない。
レイが応えてくれただけで、もう十分に嬉しいことだから。




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⊂謝⊃
 さて、ようやく本拠地にきてくれましたフェイレイさんですが、予定と大幅に狂ってしまったことが幾つか。
 まさか自分から来てくれるとは。カナタ君じゃなくてもビックリでス(笑)
 もうちょっと頑なにカナタを拒もうかと思ったんですけど、やりたいことがいつまで経っても出来ないので、
 とっとと本拠地に来てもらっちゃいました。うーん、これからどう持っていこう。(悩)
 いやでも漸くお互いを認識する所までもって行けたので良しとします。(笑)

 ではでは、こんな所でまでお付き合いありがとうございましたv

斎藤千夏 2005/03/06 up!