「・・・何してるの」
いつもの、その場所に。
見慣れた赤い胴着が見えた。
「用が無いと・・・来ちゃ駄目だったかな・・・?」
何も知らない癖に、何処が気に入られたのか、彼はよくここを訪れる。
ただ、通り道だからってだけじゃない。
石板が目当てって訳でもない。
「何となくね。顔、覗きに来たんだけど・・・邪魔なら帰るよ?」
少しだけ肩を竦めて見せて、それでも笑いかけるその瞳に。
「・・・・・そう言う訳じゃない」
引き止めるような言葉を言ってしまったのは、どうしてだろう。
*人の恋路を邪魔する奴は*
「あ、でもね。本当に大した用事なんて無いんだ」
石板に凭れて座り込んで、オミは口を開く。
執務の間の休憩中らしいが、それもどうしてここへ来る?
「ふーん」
「・・・ねぇ、疲れてる?」
「何で」
「そんな顔してるから」
「・・・それを言うならよっぽど」
君の方が疲れてるだろう。
そう言いかけて、それでも言葉には出来なかった。
さっきから一度も立ち上がらないのは、立ち上がれないからだと分かるから。
肩を竦めて見せるだけで、僕は一つ溜息を付いた。
「・・・ルックは優しいよね」
「・・・・」
何を。
突然の言葉に、僕はオミを見つめたまま動きを止めた。
不安定な盾の紋章が気を求める時の熱で、オミの頬は微かに赤い。
けれど、気付かれないように振舞う仕草の中で、表情だけは・・・いつもと同じく柔らかかった。
「・・・あ、っと、もうこんな時間。戻らないと」
いつもより時間をかけて、ゆっくりと立ち上がる。
その場から動けずにいた僕の肩を軽く叩いて、それじゃあと告げた、次の瞬間。
「・・・っオミ?」
突然崩れ落ちた身体に、自分でも驚く程自然に腕が伸びた。
支えて触れて、初めて気付いたその体温の高さに、内心で舌打ちをする。
「また、無茶してる訳・・・?」
「・・・・・」
声を出して答える余裕も無い癖に、表情は穏やかに小さく笑うオミが痛々しくて。
「・・・・仕方ない、ね」
精々面倒くさそうに聞こえるように溜息と共に吐き出して、口の中だけで小さく言葉を紡ぐ。
瞬間巻き起こった風は僕らを包み、石板の前はまた無人に戻った。
「・・・・ミ、オミー!あ、あれ?さっきまでココにいたハズなのに・・・」
遠目から見かけた時には、確かにここにルックとオミの姿があったはずだが、今やその姿はない。
「せっかくお姉ちゃんがイイコト教えてあげようと思ったのにー」
珍しく、誰も居ない回廊で、ナナミは一人愚痴る。
さっき部屋から外を見ていた時に見つけた大ニュースに、弟を喜ばせてあげようと思っていた的が外れて、面白くないのだ。
つまらないので、ナナミはその冷たい石板に触れて、そっと刻まれた文字をなぞる。
自分の名前も弟の名前も刻まれているのに、ナナミにはどうしても納得がいかないことが一つあった。
ジョウイの名前が無いのは仕方ないとしても、あの人が無いのはなんとなく信じられない。
「絶対あると思うんだけどなー。やっぱり前の・・・」
「・・・ナナミ?」
誰も居ないはずの回廊から静かな足音と小さな声が聞こえた。
「・・・あっ!」
振り向いて、そこに立つ姿を確認したナナミは慌てて立ち上がり、声の主の下へと駆け寄った。
***
「・・・あんまり手間かけさせないでよ」
身体をベッドに降ろされて、オミは閉じていた目を薄く開く。
回廊にいたはずなのに、今見える景色は明らかに自分の部屋のベッドの上で。
そこに珍しい人が居るのに気付いて、声をかけようと小さく口を開いた。
「・・・・・・」
ありがとう、とそれだけでも伝えたかったけれど、意思に反して声は届かない。
カラカラの喉は掠れて嫌な音を立てるし、乾いた唇は割れて、痛かった。
「・・・無理しなくていいから」
額に触れた手の冷たさが心地良くて、オミは開いていた瞼をゆっくりと降ろした。
ルックの右手の紋章が、静かな気をゆっくりと与えてくれるのを、半ば眠っているような意識の中で感じ取る。
「・・・ぁ・・」
乾いていた身体は、確かにその気を貪欲に受け止める。
けれど、中々馴染んでくれない不安定なそれに、いつもは感じない焦燥感に駆られた。
足りない。
欲しいのは、こんな穏やかなものではないのに。
「・・・オミ?」
「・・・」
腕を伸ばして、引き寄せる。
ほら、いつもの様に・・・・・。
「・・・・もっと。こんなのじゃ・・・・足りない、から」
***
「セフィリオさん!さっきまであんな遠い森にいたのに、もう着いちゃったんですか?!」
「ん?・・・あぁ、見られてるなって感じてたけど、まさかナナミだったとはね」
風除けに巻いてきたマントを肩から下ろして、セフィリオは走り寄ってきたオミの姉ににっこりと笑いかける。
「あ、え、えっと!アダリーさんが、こんなの!作ってくれたんです!!」
少し頬を赤く染めたナナミが差し出したものは、長い筒の両側にレンズが嵌め込まれた道具だ。
「望遠鏡?へぇ・・・それに、出来もいい。良い品だね」
軽く覗いて見て、その離れた場所まで鮮明に見える良品に、セフィリオは小さく笑う。
「これで歩いて来るの、見てたんです」
「・・・あぁ、もしかして。それ、オミに言った?」
「いいえ?わたしも教えようと思って探してて、ここで見つけたと思ったら急に消えちゃって・・・」
石板に軽く触れながら言うナナミの言葉に、セフィリオの肩眉が微かに上がる。
「・・・ここで?」
「確かにルックと話してるオミを見つけたのに、わたしが辿り着いた時にはもう」
オミの驚く顔が見たかったのに、と残念そうに笑ってセフィリオを見上げれば、その表情にナナミは首を傾げる。
「・・・セフィリオさん?」
「何?」
「・・・怖い顔、してますよ?」
セフィリオはナナミに向かってにっこりと微笑み、軽く手を伸ばしてナナミの頭を撫でた。
「何でもない。じゃあ僕、ちょっと用事が出来たから」
「わ、えっと・・・!」
慌てて顔を伏せたナナミもやはり女の子なんだと感じつつ、作り笑いを浮べたままで振り返って手を振った。
「またね」
歩き出したセフィリオの行き先は決まってる。
オミの部屋だ。
***
「オミ!」
バタン!!と大きく扉を開いて、大股で入り込んできたのは、勿論セフィリオだ。
ベッドに腰掛けたまま、気だるそうに見つめ返してくる榛の瞳に、いつもの光はない。
「下で訊いた。ルックと消えたそうだけど何処へ?」
「・・・この部屋に」
面倒臭そうに答えるその声も、いつものオミの声音じゃない。
少し低いような、掠れたようなその声に、セフィリオは更に近付いて触れようと手を伸ばす。
「・・・触らないでくれる?」
「・・・・は?」
頬に触れるか触れないかのその一瞬で、わずかに身体を後ろに引いて避けられてしまった。
久し振りに会ったのに、喜んでくれる以前のこの態度。
触れさせてももらえないオミの仕草に、セフィリオはオミの肩を思い切り後ろに突き飛ばした。
「・・ッ!」
「洗いざらい、吐いて貰おうか。オミ・・・俺と会わない間何をしてた?」
鮮蒼の瞳に真上から覗き込まれて、オミは目を見開いて驚く。
唇はほんの数ミリの近さで離れており、セフィリオが話す度に暖かい呼気が唇に触れてくすぐったい。
「・・・・・説明する。だから、今は離れて欲しいんだけど」
「『だから』?今も後も関係な・・・・」
キシリ・・・。
言いかけて、ふと視界の端に映ったそれにセフィリオは言葉を失った。
ベッドが軋んだ正体は、オミの隣に眠っている身体が寝返りを打ったからで。
「・・・何、が」
こうやって問い詰めていても、実際にオミが誰かと寝たなんて、言っておくがこれっぽっちも考えていないセフィリオだ。
なのに、この現状はどう見ても・・・・。
「オミ」
押し倒したオミの細い首を軽く撫でて、両手で静かに包む。
「・・・何を、する気・・・?」
見上げてくるオミの瞳は、こんな間近で見つめても、セフィリオの知っているオミの瞳ではなくて。
誰かのものになってしまったオミを見たくはなかった。
だから。
「俺も後から追うから、せめて俺の手で終らせてくれ」
「待・・・っ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ん・・・、あ、れ?」
ぼんやりと、力の抜けたような声が耳に届いた。
「・・・あれ?セフィリオ・・・・来てたんだ」
少し照れたような、内心嬉しいのを隠すような表情に、セフィリオはオミの首に触れていた手から力を抜く。
「・・・・ルック、何を言って・・・」
「だから、『待て』って言ったのに・・・」
溜息を零すように文句を呟くのは、セフィリオが押し倒したままのオミ。
「・・・え?え、えぇえ?!な、なんで僕がそこに・・・いるの?!!」
先程までオミの横で寝息を立てていて、今は慌てた声で驚いているのは・・・・・・・・・・ルック。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
閑古鳥が鳴きそうな沈黙が、ふわりと部屋の中を通り過ぎた。
***
「結局。恐らく原因はこの紋章だろうけど、巻き込まれたのは僕の方なんだからね」
右手をヒラヒラさせて、ルックは溜息混じりに言葉を零す。
「・・・ごめんね?巻き込んじゃって・・・本当に・・・・・」
「・・・僕の顔で落ち込まないでくれる・・・?」
「あぁ!うん、ごめん!!」
オミの部屋で、前に出されたお茶を啜りつつ、セフィリオは正面に座る二人を眺めていた。
オミだと思っていたのは、どうやらルックであったらしい。
そしてルックの姿で謝り続けるのは、オミ。
身体はそのままお互いのもので、どうやら中身だけ入れ替わってしまったらしかった。
「・・・で。それ元に戻るの?」
って戻ってもらわないと困るのだが。
オミの姿のルックは一瞬考えるような素振りを見せて・・・首を傾げた。
「さぁ?」
「『さぁっ』て、・・・もしかして、ずっとこのまま・・・?」
不安気な表情を浮かべて、それも無意識なのだろうが、やはりオミの視線が向う先はセフィリオで。
そんな仕草や、気付かれまいと瞳に力を入れていても、どこか不安の残る眼差しに映るのは、姿が違えどもそれはオミにしか見えない。
それがルックの姿であっても、意外に嫌悪感が湧かないのが不思議で、セフィリオは小さく笑った。
オミがどんな姿であろうとも、オミでさえあればそれでいい自分が信じられず、同時に面白い。
小さく微笑み返してみれば、正面から目が合ったオミは一瞬驚いた顔をして、少し頬を赤らめた。
「・・・人の身体で照れた顔するの、止めてくれる?よりにもよってアイツを見て照れないで」
「え・・・?あ、違・・ッ!!これは・・・!」
わたわたと慌てて誤魔化そうとするオミは、未だにルックが自分たちの関係に気付いてないと思っているのか。
面白くて、可愛くて・・・ますますオミを手放したくなくなる。いや、元々手放す気などこれっぽっちも無いが。
この戦争さえ終われば、それこそ命尽きるまで傍に置くつもりだ。逃がすつもりは毛頭無い。
「・・・まぁ、そのためには早い所その身体、何とかしないとね」
「え?」
立ち上がったセフィリオの突然の言葉に、オミのルックは顔を合わせて首を傾げる。
「俺は別にそのままでも中身がオミなら構わないけど」
永年連れ添うなら、やはり元のオミが良いに決まっている。
さらりと問題発言を溢しながら、椅子に座ったままのオミの身体に腕を回して抱き締めた。
「ちょ・・!セフィリオ、止めてってば・・・!」
それは勿論、ルックの身体だけれど。
抵抗の仕方もいつものオミと変わらない。それが、嬉しくて更に腕の力を込める。
「・・・・・・・・それが僕の身体だって、分かってやってる?」
「誰の身体でも関係ないね。オミがオミならそれでいい」
微かに腕を摩っているのは、ルック。
普段に拍車をかけて、その表情は厳しい。明らかに不機嫌絶好調だ。
「もう!セフィリオ、そうやっていつもいつもどうしてルックに喧嘩売るの?!」
ようやっとセフィリオの腕を振り払って、オミは椅子から立ち上がった。
「売ってない。買ってるだけv」
つねられた手の甲をパタパタと振りながら、セフィリオはにっこりと笑い返した。
当たり前だが、それで納得できるオミではない。
「買って・・っ!言い訳ばっかり言うのもいい加減に・・・っ!」
「・・・まぁ、確かに売ってるのは僕かもね」
「・・・ルック?」
激昂しかけたオミを止めたのは、意外にもルックのその一言。
オミの身体のまま立ち上がって、ルックの頬に手が伸びる。
呆然とその仕草を眺めていたオミは、ふと自分の顔が驚くほど近くにあることに気付くのが・・・少し遅れた。
「!?」
「ッな・・・?!」
オミは反射的に身体を引いたのでほんの一瞬だったけれど、確実に唇は触れ合った。
もつれた脚はバランスを崩し、後ろに立つセフィリオに支えられてどうにか転ばずには済んだが。
微かに残る柔らかな感触がゆっくりと広がっていく。
「・・・・ルック、何のつもりだ?」
少々トーンの下がった声で、セフィリオはルックを睨みつける。
「・・・元に戻りたいんじゃないの?」
微かにセフィリオを睨み返しながら、ルックは言葉を続けた。
「こうなった原因を突き止めたら、これしか理由が無いと思ってね・・・」
軽く掲げて見せるのは、右手の真の盾の紋章。
「オミより僕の方が魔力が高いのは、紋章だって気付いてた。不安定な紋章だから、それを安定させようとして僕を呼んだ。…それが理由」
「『呼ぶ』?紋章が?」
「正確には君の身体が耐え切れなくて、だろうけれど」
セフィリオの腕に支えられて立っていたオミを椅子に戻して座らせて、ルックは額に手を当てる。
「・・・それでも、この身体と紋章の持ち主は君だ。このままだとまた反発が起こる」
結局は元に戻らないといけないと言う訳だ。
オミはルックの言葉に頷いて、見慣れない顔つきをした自分を見上げていた。
その見上げてくる顔が自分の顔でも、瞳で中身はオミだとわかる。
オミに惹かれるのは、顔でも外見でもなく、この意思の強い瞳の成せる技なのだと、改めて気付いて苦笑した。
誤魔化すように、ルックはセフィリオに向かって短く声をかけた。
「ねぇ」
「何?」
明らかに怒気を含んだ声だったが、ルックは平気な顔をして言葉を続ける。
「お互いの身体に魂魄を戻す訳だけれど、魂に一番近しい紋章を持ってるのは君だ」
「・・・あぁ。手伝えって?」
「戻らなくていいなら、頼まないけど」
続けてルックが話したのは元に戻る方法だったけれど、ややこしいので短く説明するとこうだ。
ルックは身体が魂を覚えているから、オミの身体から離れたら自力で戻れるだろうと。
けれど、オミの身体は今不安定な上、オミ自身の魂に魔力が足りていないから、迷うかもしれない。
そこで、ルックの身体から離れたオミの魂を誘導して戻すのが、セフィリオに任された・・・ということらしい。
「・・・それって、僕に出来る事って・・・」
「何も無いね。・・・あぁ、でも」
ルックは一度オミの耳元に屈み、初めて聞くような優しい声音で、小さく囁いた。
「この今の一瞬だけは、アイツを忘れる事だね」
「・・・え?」
「魂に直接触れられる。あの紋章で、だ。・・・わからない?」
「・・・あ」
ソウルイーターはその名の通り魂を喰らう紋章だ。
「無意識でも想ってたら・・・喰われてしまうって?」
「わかったのなら、それでいい。・・・・始めようか」
額に当てられたルックの手の平。
すぅ・・・と透明な魔力に誘導されるように、オミの意識が軽くなる。
身体の距離は近付いていないのに、やけに近くにルックの意識を感じて、少し戸惑う。
「・・・意識を乱さないで。僕に集中して」
「う、うん・・・・」
目を閉じて、言われるままにルックの意識に身を委ねた。
セフィリオの気配を背中に感じながらそれでもルックに意識を集中させていると、突然身体を包んだふわりとした浮遊感に、オミは薄く目を開く。
開いた先に、セフィリオが居た。
ルックは目を閉じて詠唱を続けている。
セフィリオは・・・・・・・真っ直ぐに浮いているオミを見つめていた。
蒼い瞳が、少しやわらかくなる。
『・・・・おいで』
声を出さずに、唇がそう模った。
ス・・・と出された右手に、自然に手が伸びて、触れる。
今の状態では形あるものに触れられないと分かっていた筈なのに、セフィリオの手をなんのためらいも迷いも無く、握り返してしまう。
同時に本来のオミの身体が頽折れて、伸ばされたセフィリオの左腕の中に力なく収まった。
「・・・早く戻してあげなよ」
椅子に座ったままのルックがつまらなそうに瞳を上げて、セフィリオに呟くのが聞こえた。
どうやらルックはあっさりと元に戻れたらしい。
けれど今のオミはルックには見えないようで、その視線は心配そうな色を含みつつ、オミの身体へと向かっている。
「わかってる。・・・すぐに」
「オミー!!」
バタン!!!
と、いつもにも増して盛大な音を立てながら、オミの部屋へと飛び込んできたのは勿論ナナミ。
それはいつもより荒っぽく突然だった事を除いては、いつも通りの光景だ。
だが・・・・今は非常にタイミングが悪かった。
「「あ」」
セフィリオとルックの声が重なる。
同時に、黒と薄碧の光が部屋中を満たして輝いた。
弾けるようなその光は一瞬で収まり、ナナミは光に驚いた目を痛めないよう、少しずつゆっくりと瞼を開いた。
「・・・・・・え?え??今の光・・・?オミは・・・っ?!」
駆け寄った先では、膝を突いて座り込んでいるセフィリオと、少し驚いた顔で床に座り込んだオミが居た。
ルックは・・・・そんな二人を見て小さく溜息を零す。
「・・・・今度はそこが入れ替わった訳・・・?」
そんな呆れたようなルックの言葉に、オミはむっとした顔で言い返した。
「・・・・これは不可抗力だろう。ナナミ、次から部屋に入る時には必ずノックしてから扉を開けて。わかった?」
「・・・え?う、うん。オミ、どこか痛いの?」
「・・・?どうして?」
「だってなんだかいつもと・・・」
と、軽く後ろから肩を叩かれた。
「・・・ナナミ。それはセフィリオだから。僕はこっち」
困ったような表情で立ち上がったセフィリオが、ナナミに向かって言う。
そのセフィリオの雰囲気もいつもと変わっていて、ナナミは小さく首を傾げた。
「・・・セフィリオさん?」
「違う。身体はセフィリオのでも僕・・・オミだから」
「え?・・・・えー???」
「つまりね、中身だけ入れ替わったって事だよ。僕のこの身体はオミの身体だけど、中身は違うんだ」
立ち上がったオミの表情が妙にカッコ良くて、ナナミは少しだけ頬を赤らめる。
弟の見慣れた顔なのに、そんな小さな表情の変化でこんなに変わるとは、姉のナナミですら思っても見なかった。
「じゃ、じゃあ、こっちのセフィリオさんの身体にオミがいるの?」
溜息を付きながら、オミは小さく頷く。セフィリオの身体に違和感を感じながらも、小さく苦笑して。
普段は見せないセフィリオのその表情は、いつものオミの表情と綺麗に重なる。
でもそれは違和感ではなくて、それでもやはりセフィリオは格好良いのだ。
「・・・うん。だから、今は部屋から出られないかな。用事あったんだろうけど、ごめんね?」
「そんなのはいいのよ!元に・・・戻るよね?」
小さく問い掛けたナナミの声に、ルックは小さな溜息を零して、目を伏せた。
「・・・その二人なら暫くほっとけばすぐ元に戻るんじゃない?」
半分ほど風の音に掻き消されて、その場の3人には殆ど聞こえなかったが、その場から消え去ったルックの様子にセフィリオは小さく北叟笑んだ。
「ナナミ。僕たちはまた元に戻るために色々やらなきゃいけないんだ。・・・暫く席を外してくれるかな?」
「は、はい!あ、そうですよねわたし邪魔してばっかりで!ごめんなさい!」
走り去るように扉へ向かって、ナナミは部屋から飛び出していく。
それをセフィリオはゆっくりとした足取りで追い、閉まった扉の前でゆっくりと鍵を回す。
カチン、と鍵が廻った。
「・・・どうして鍵閉めるんですか」
「もう邪魔されたくないからね。・・・盾の紋章・・・何気に便利だな」
ス・・と軽く右手を翳せば、小さく紋章が輝いた。
セフィリオの身体だからこそ感じられるのか、今このオミの部屋だけが、他の場所から隔離された空間になったのだと分かる。
「・・これが、結界?」
「そう。・・・何処ぞ覗き屋に見られないようにね」
自然な足取りでベッドへ近付き、腰を降ろす。
キシリと揺れたベッドは、それでもオミの身体ではそこまで沈まない。
「・・・元に戻りたかったら、こっちへおいで?」
少し嫌な予感を感じつつ、セフィリオの身体のままオミはゆっくりとベッドの傍へと近付いた。
「・・・何する気・・ですか」
問い掛けているのだけれども、オミももう何となく分かってる。
分かってはいるが、信じたくない。
というか、『まさかそんなことはないだろう』と必死に考えをめぐらせていた。
「・・・・それを聞くほど物知らずでもないだろう?」
案の定明確な答えは返って来なかった。いや・・・・。
「・・・すぐにわかるよ」
腕を引かれて倒れた身体はシーツに沈み、二人分の重さを受け止めたベッドがギシ・・・と音を立てて煽った。
「セフィリオ!待っ・・・」
「待った無し。戻りたかったら、大人しく言う事聞こうね?・・・自分の身体だって思うとやりにくいな」
「楽しそうに言わないで下さい!!わっ!ほ、本気で・・・?」
「本気だよ。・・・だから言っただろう?」
すぐにわかる。・・・その言葉通り、言葉以上の実践でそれを教えられたオミだが・・・・。
今はここで暗転しておこう。
・・・・・何があったのかはまた別のお話。
END
⊂謝⊃
久し振りすぎる更新ですが、壊れてますねみんな!!(笑)
そしてお待たせし過ぎてすみません!更にこんなのですみません!!<(_ _)>
携帯でカチカチと頑張って打ちました(笑)・・・・すんごい時間かかっちゃったい(苦笑)
っと、このお話は101000HITを踏まれた泉臣晶様よりのリクエスト、
「ルック絡みの最終的に坊主甘々vギャグ小説(セフィオミ)」
でございましたv
どこが坊主の甘々なんだろうか。・・・・最後何が起きたんだろうか・・・・_| ̄|●(笑)
いつもの如く、お気に召されなかったら、新たなリク投げつけてやって下さいませv(笑)
それでは、またv
斎藤千夏 2004/12/24 up!
追記
「・・・まさか一晩で戻るとは思わなかったけどね」
「へぇ?俺も舐められたもんだな。迷うと思った?」
「・・・プライド、無いの?」
「オミの前でそんなもの意味なんてない」
「・・・そ。で、なんでここに来る訳?」
「事後報告は必要かと思って」
「・・・・・。で?あの子は・・・?」
「部屋で寝てるけど?・・・まぁ、ここしばらくは動けないかもね」
「・・・・ふぅん」
「あ、一つだけ忠告しておくけど」
「・・・・何」
「オミは俺のだから手を出すな」
「・・・・覚えておくよ」
ある昼下がりのジェイド城回廊・石板前にて。
こんな所まで読んでくれて有難うございます!(笑)
お粗末様でしたv<(_ _)>