*それぞれの優しさ*
「っ・・・く!」
いつもならこの程度の斬撃など、軽く弾き返してみせるオミだが、この日は違った。
上から振り下ろされた剣の重みを、足で踏ん張り切れなかったのだ。
「たぁあ・・ッ!!」
オミの危機を察知してか、横から飛び出してきたナナミのお陰で大した傷を負わずに済んだが、一度力の抜けてしまった足では中々立ち上がれない。
「オミ殿!・・・ホウアン殿をここへ!!」
戦いが終わって地面に座り込んでいたオミの元へ駆け寄った軍師は、原因がある程度予測出来る為か眉間の皺を数本増やした。
「傷の程度は?」
「大丈夫です。この程度なら2、3日で完治するでしょう」
厳しい表情の軍師に訊かれて、それでもホウアンはいつもの穏やかな表情で答える。
オミの身体を支えながら隣に座っていたナナミも、手当ての様子を伺いながら不安そうに尋ねた。
「で、でもこんなに血が出てるのに?大丈夫なの?」
「太い血管を少し傷付けてしまったようですが、大丈夫ですよ」
処置が早かった為大事には至らなかったが、ナナミが一歩出遅れていれば危険だったことは変わりない。
立ち上がろうともしないオミの周りには、軍主の無事な様子を一目見ようと次第に人垣が出来ていく。
ナナミも不安でたまらないという顔で、手当てを受けるオミの様子を眺めていた。
今にも泣きそうなナナミの顔に、オミは笑って言う。
出来る限りの精一杯の笑顔で、心配などかけないように。
「・・・僕は大丈夫だから、ね?」
「でも・・・」
ナナミを筆頭に例えそれが軽傷であれ、オミが傷を負った事で心を痛める者は多かった。
そんな彼等の顔を見て、オミもその心遣いに心を痛める。
彼等の気持ちは嬉しいのだが、それで彼等を苦しめてしまう事がオミには辛かった。
「大丈夫・・だから・・・っわ?!」
「無理はなさらないで下さい。今回は楽な戦いでしたけれど、もっと厳しい状況であったかもしれないのですよ?」
ふらつきながら立ち上がろうとしたオミの身体を、横から攫うものがあった。
衣服に包まれた腕で、いとも簡単に抱え上げてしまったのはシュウだった。
その彼の行動に誰もが驚いたが、一番驚いたのはオミ自身だったであろう。
常に机に向うばかりが仕事の彼だったが、オミを抱えてもふらりともしない。
ラダトで交易商をしていた時代は、重い荷物を運ぶ事もあったのだろう。
オミを抱えた腕はしっかりと、守るべき軍主の身体を支えていた。
-----***-----
「・・・ん」
柔らかい感触を唇に感じて、オミはうっすらと目を開く。
右手は温かい手に包まれていて、見上げた視界の先には、心配そうなセフィリオの顔があった。
思考の定まらないまま、ただぼぅ・・と見上げていると、目を覚ましたオミに気付いて嬉しそうな声で話し掛けてくる。
「・・・キスで目覚めるなんて、どこかの御伽噺に出てくるお姫様みたいだね?」
「・・・セ、フィリ・・・オ?」
ぼやける視界で、相手を確かめようと目を凝らしていたら、小さく額にキスが降りてきた。
「大丈夫?進軍から帰ってきたと思ったら、怪我をして部屋に運び込まれたって聞いてね」
腕に負った傷に、白い包帯がぐるぐると巻きつけられている。
その包帯を見て、オミは思わず赤くなった。
「・・・どうかした?」
「・・・いいえ」
大した怪我にならなかったから良かったけれど、こう言うことがあるのなら少し自重しなければならないかもしれない。
照れたまま、けれど少し複雑そうな顔をして、オミは微笑む。
こういう時のオミは、いくら問い詰めても絶対言わない。
それはもう、長い付き合いの上で知っている事なので、小さく肩を竦めてセフィリオは立ち上がった。
「食事、摂ってないよね?オミの分は特別に用意しとくってナナミから伝言預かってるけど、食べられる?」
戦いで汚れていた身体は綺麗に拭い清められていたので、オミは頷いて立ち上がる。
と、少しだけよろめいた。
「『気』は少し分けてあげたけど・・・まだ足りない?」
「へ、平気です・・・ッ!!」
からかうような口調で言われて、オミは慌てて部屋の扉に向かう。
確かに昨日沢山分けて貰った気も、今日の戦闘で何度も使ってしまったのだ。
身の内に残るのは、もう僅かだ。それはよく分かっているが。
・・・・・色んな意味で、自分から『欲しい』と言うのは躊躇われた。
『気』を分けてもらうと言う事は、つまりはそういうことで。
自分からして欲しいと言うのは憚られる上、今の今自重しようと決めたことなのに。
考えは纏まらないまま、オミは部屋の奥に居るセフィリオを見つめた。
「・・・・そんな顔されたら、俺の方があげたくなるよ・・・?」
「・・・・ぇ・・・っん・・!?」
数歩で歩み寄ってきたセフィリオに、気付かない内に唇を奪われる。
下顎を手で固定され、扉に背中を押さえつけられて。
逃げる事も振り払う事も出来ぬまま繰り返されるキスに、いつしか抵抗も忘れて求めてしまった。
「・・・ぅっ・・ん・・・」
こくんと、オミの喉が嚥下したのを見計らってか、セフィリオの唇が離れていく。
乱れてしまった息を整えるオミの耳元で、セフィリオは小さく囁いた。
「続きは、ご飯の後でね・・・・?」
-----***-----
「あれじゃない?ほら、料理長直筆の手紙つき」
薄暗い食堂の中で、唯一ロウソクの灯が灯っていたテーブルの上には、冷めないように手を掛けられた料理が並べられていた。
ナナミがハイ・ヨーに伝えていてくれたお陰か、遅い時間にも関わらず暖かい料理が食べられるのだ。
たった一人分だけのためにここまでしてくれる心遣いに、オミは深い感謝を感じる。
「感動してるところ悪いけどさ。・・・早く食べないと冷めるよ?」
くすくすと笑われて、オミはふと疑問に思う。明らかに一人分しかない料理に首を傾げた。
「・・・セフィリオは?」
「もう食べた。随分長く眠ってたからね」
オミをテーブルへ勧めながら、自分もその向かいに座る。
もうセフィリオは食べ終わっているのだから、わざわざついて来なくても良かったのだろうが、一人で取る食事の寂しさほど辛い物はない。
それがわかっているからか、オミが食べている間も、色々な話を聞かせてくれながらずっと傍に居てくれた。
常に近くに居るから、あまり意識しないけれど、これがセフィリオの優しさだ。
普段無理強いはするわ我が侭は言うわでやりたい放題の彼でも、見えないところで気遣ってくれる。
その心遣いを嬉しく思いながら、ハイ・ヨーの手の込んだ料理を口に運ぶ。
「・・らしいよ。また行こうね。・・・・・?」
他愛ない話をしていた所で、ふとセフィリオが後を振り返った。
料理が置かれている机以外、ロウソクの明りも灯されていないので、その視線の先は暗闇でしかない。
「・・・セフィリオ?」
じっと闇を見つめる彼には、何かが見えているのだろう。その視線の先は食堂の入り口だ。
「オミは食べてて。すぐ戻って来るから」
去り際に軽く髪を撫でられて、くすぐったくて目を細めた。
誰か居るのだろうか?
確かめたい気もしたが、セフィリオは棍をここへ置いて行った。敵ではない。
オミにはそれよりもやるべき事があったのだ。
せっかく暖かいものを用意してくれていた気遣いを無駄にしない為に、仄かな湯気を上げているスープを口に運んだ。
結局、セフィリオは宣言通り直ぐ戻ってきたが、少し様子がおかしかった。
普段通りに話したり、仕草も変わりは無い。けれど。
「・・・どうかしました?」
「いや?何が?」
聞いても、こうやって全く相手にしてくれない。
結局、不思議な感覚を感じながら、オミは食事を終えた。
食事の横には、食べ終わった食器は水につけて置くだけで良いとメモが添えられていたが、それぐらいはと丁寧に洗う。
たまに手伝いをしているオミだからこそ、何処に何があって、どう仕舞うのかも把握していた。
「・・・セフィリオ?」
いつもなら、後姿を見せようものならくっ付いてきてイタズラしてくる彼が、さっきのテーブルから動いてもいなかった。
ただ、何かを考え込んでいるような。
カウンター越しにそんな様子をみて、また首を傾げる。
どことなくおかしい。
その理由が判明したのは、二人してオミの部屋に戻ってからだった。
-----***-----
「やっぱり、昨日の今日だし・・・ね」
「何がですか?」
水差しからタライに水を流し入れて、歯磨きと洗顔を済ませ、オミは首を傾げる。
髪が少し伸びてしまってからは、顔を洗った時どうしても髪が濡れてしまう。
乾いた布で拭き取りながら、椅子に座ったまま動こうとしないセフィリオの方へ振り向いた。
「・・・昨日、無理させたから」
「・・・あ」
セフィリオが何を言いたがっていたのか、ようやく理解できた。と共に頬が赤く染まる。
久し振りに会うと、お互いに歯止めというものが効かなくなってしまうのだ。
まるで、ぎりぎりの距離に置かれた極の違う磁石の様に、直ぐ傍に居れば引き寄せられて・・・離れたくなくなる。
「だから、今日はゆっくり休んで。戦況は厳しくなってきたんだろ?」
優しい言葉で言われるけど、オミは何処となく落ち着かない。
食事の前にされたキスで・・・少しだけ身体に熱が生まれていたのは、セフィリオだって気付いているはずなのに。
オミから『欲しい』という言葉を言わせたいだけ?
違う。それだけの事なら、セフィリオは違う方法を取るだろう。
様子が変わってしまったのは、食堂でどこかに行ってしまってからだ。
あの時、誰と話していた?何があった?
柔らかい『気』で誤魔化してはいるけれど、セフィリオを包む雰囲気は少し落ち込んでもいた。
何に傷付いて、こんなに辛そうな顔をしてるのか・・・オミには分からない。
だけど。
「・・・・!」
「聞こえますか?」
椅子に座ったままのセフィリオの頭を引き寄せるようにして、自分の胸に抱き寄せた。
そこは、期待と不安と感情で、いつもより少し早い間隔で鼓動を刻んでいる。
「・・・セフィリオも、早い」
「それは、ね・・・。近くにオミが居るから・・・」
平然を装ってはいるけれど、やはりいつものセフィリオじゃない。
抱いてくれないのは、オミの身体への気遣い?それとも。
そんなことはありえないと心が否定するが、そのありえない事実など・・・どこで立証すればいいと言うのか。
「・・・僕を抱くのは、嫌・・・?」
「オ・・・・ミっ?」
拒否の言葉を吐こうとするセフィリオの唇を、背を屈めて奪う。
何度も角度を変えながら、啄ばむように何回も。
珠に唇で挟むように噛んで、抵抗する気を奪った。
噛んだ痛みに唇が薄く開けば、その傷を舐めるように、舌で濡らす。
「・・・不安に、させないで・・・お願いだから、セフィリオ」
唇から滑らせるように、首筋へと移動する。
「・・ッ・・・!」
チリッとした微かな痛みは、背筋を流れる電流と化す。
オミは、セフィリオが思っていた以上にセフィリオ自身の弱点を知っているらしい。
甘く噛んだと思えば、時折キツク痕を残す。痛みに疼くそこを、熱い舌で丁寧に舐めた。
「オミ、もういいから・・・」
「よく・・・ないよ」
突き放すように身体を離せば、酷く傷付いた表情で、真っ直ぐ見つめてくる。
こんな時でさえ、オミの榛色の瞳は、その強い光を濁らせたりしない。
訴えかけられる。瞳に。その、輝きに。・・・・射抜かれる。
「・・・オミ」
「セフィリオは・・・もう、僕としたくない・・んですか・・・?」
「違う。違うけど、今は・・・」
「今は『戦争』が僕の本分だから?・・・だから、抱かないんですか?」
「!」
セフィリオの表情を見て、オミは失敗した・・と顔をしかめた。
今のは完全に八つ当たりだ。
彼は自分のことを考えてそう、言ってくれているのだろうに・・・。
「・・・・・・」
黙り込んだままのセフィリオに、オミはもう一度身を屈めて、椅子から動こうとしないセフィリオにキスを送った。
「・・・ごめんなさい。もう、寝るね」
触れるだけの軽いキス。
けれど、離れてしまった後も酷く熱い。
「待っ・・・」
気が付いた時はもう遅かった。
駄目だと自分に何度も言い聞かせて、堪えたのに。
『想い』を乗せたキスは、後味が酷く悪い。それに答えてやれない自分が歯痒いから・・・。
「・・・セフィリオ・・・?」
気が付けば、ベッドへ入ろうとしていたオミを背後から抱きしめていた。
微かに、オミの声が震えている。・・・泣かせてしまったかもしれない。
「違うんだ。ごめん、抱きたくない訳じゃない。欲しいよ、いつでも足りないくらい・・・抱きたい」
ぎゅっと回した腕に力を込めれば、オミの肩が大きく揺れる。
「誘わせるような真似させて、ごめんね?・・・絶対傷付けないから・・・」
抱かせて。
ただ、じっと立ち尽くす二人の姿を照らすのは、大窓から差し込む三日月の仄かな明りだけ。
けれども、もう随分とこの暗闇になれてしまった二人にとっては、それは十分な明りで。
・・・・どれだけ時間が経っただろう。
いつもなら、抵抗するオミをも簡単に丸め込んで抱くのに。
最初に拒否してしまったのは、セフィリオだ。例えそれが不本意ながらであったとしても、『拒否』した事実は確かで。
今、いつもの様にオミの身体をベッドへ押え付けて無理に始めてしまっても、恐らくオミは抵抗しないだろう。
けれどそれじゃ話にならない。
だから、ひたすら待つつもりでいたのだが・・・・返事は意外に早く訪れた。
「・・・・」
言葉では無かったけれど、身体に回していた手に、オミの手が触れる。
ぎゅっと強く握られて、キツク抱きしめていた腕をゆっくりと解いた。
伏せられたままのオミの表情はまだわからない、が・・・・頬に軽い痛みを感じる。
「・・・・・・・え?」
「らしくない」
パチンという音と共に、恐らく頬を張られたのだろう。
大した痛みではないけれど、このオミの急な行動に流石のセフィリオも絶句する。
「セフィリオらしくない!僕の事を気遣ってくれるのは嬉しいけど、それはセフィリオ自身が出した結果じゃないでしょう!?」
「・・・・オミ」
「確かに、今日は怪我もした。でも、それは僕の油断が招いたことだ。これだけが原因じゃない!なのに・・・セフィリオは勝手に自分で完結させて、それも、誰かに言われてだなんて・・・らしくないよ・・・!」
そこまで言うと、顔を見られたくないとでも言うようにオミはセフィリオの胸に顔を埋めた。
皺になるのも構わず、きつく、握り締める。
「・・・・・」
想いを寄せている相手にそこまで言われて、泣かせて、何もしないなど男じゃない。
片手で腰を引き寄せて、もう片方の手で下顎を上に向ける。
「!・・・ッ」
オミが何か文句を言う前に、その唇を塞いでしまった。
重なった瞬間、微かに開いた隙間から、舌を捻じ込む。
薄く目を開けば、オミは少し苦しそうな表情をしていたけれど・・・今更もう止まらない。
吐く息さえも惜しくて呼吸も全て奪いながら、ゆっくりとその身体をベッドへと下ろした。
キスは止めない。
口腔を蹂躙しながら、身につけた服をゆっくりと乱していく。
「ひぅ・・・っ!ん、んん・・・ッ!」
布の上から触れたそこは、すでに熱を持ち始めていて。でも、それはセフィリオ自身も同じ事。
苦しさに耐えかねたオミが首を振って離れるまで続けられたキスで、唇が痺れる。
「ぁ・・・っ!」
先程、オミが付けた場所と同じ場所に、小さく痕を残した。
見える場所に付けるそれは「威嚇」だと言うが、まさにその通りだろう。
『止めろ』と言われた相手に向けての、威嚇なのだから。
「・・・今更、言われても遅いよ・・・ね?」
誰に尋ねるでもなくただ確認の様に呟いて、セフィリオはオミの身体を包む布を全て取り払った。
「・・・な、んで・・・?」
いつもならセフィリオ自身も脱ぎながらなのだが、今はまだ乱れてもいない。
普段通りきちんと着衣したままのセフィリオに・・・何故だか鼓動が早くなる。
「オミの気持ちは分かってるんだけどね。・・・確認させて?」
ベッドに転がっていたオミを少し抱き起こして、自分の髪を止めていた布を解く。
「っちょ・・?!」
「動かないで。・・・ほら、できた」
どういう縛り方をしたのか、後手に縛られた手は痛くはないが、解ける気配もない。
不自由な体勢のまま、ふと引き寄せられた。
「セフィ・・・?」
「・・・脱がせて?ココでね」
ゆっくりと指でなぞられたのは、まだ微かに痺れの残る唇だ。
たったそれだけのことなのに、身体の中心でぞくんと何かが疼いた。
恐らく、不安になっていたオミに対して、セフィリオはいつもの自分でいようとしてくれているのだろう。
・・・ただ単に無用な気遣いを止めただけかもしれないが。
ぐい・・と抱き寄せられて、素肌に硬い布が擦れて少し痛い。
促されるように口元に寄せられた釦に、オミはゆっくりと舌を絡めた。
「・・・っ」
舌と歯と唇で何とか外そうとするが、やはり難しかった。中々外れてくれない。
「ん・・・っふ」
時間をかけながら、ひとつひとつ外していると、珠にセフィリオの素肌に唇が当たる。
意外に木目細かで暖かな肌に滑らせる感触は気持ち良かった。
「オミ?服は・・・?」
胸を大きく開いただけで、ついセフィリオの肌に意識を奪われてしまったオミは慌てて離れる。
くすくすと笑われるけど、気持ちがいいのだから仕方ない。
それでも笑われるのは悔しいので、セフィリオのを縛る紐を噛んで解いた。
寛がせた前を開いて、熱い肌へ唇を寄せる。
「ッ!・・・・オミ?」
やれ、とは言われてないけれど、これはオミがしたい事だ。
自分が気持ちよくなる以上に相手にも感じて欲しい。
今更、もう恥かしいなどとは思わない。
ただ、愛してあげたかった。
「・・・ッ」
小さくも水音を立てながら舌を這わせるオミに、セフィリオは少し眉を寄せる。
嫌悪であるはずがない。強烈な快感に反応しただけだ。
まだ、少し肌寒い季節なのに、じわりと汗が噴出してくる。
身体に流れる血の一つ一つが、オミの愛撫に歓喜しているのだろう。
「・・・・っふ・・・」
視覚的にも聴覚的にも、珠に吐く熱い息すらも、セフィリオの身体を煽ってやまない。
「もう、いいからオミ・・・」
柔らかな髪に指を埋めて、頬を撫でるようにしながら顔を上に向かせる。
唇から溢れた雫を指で拭って、そのままその指を口腔へ差し込んだ。
オミは嫌がりもせず、丁寧にその指に舌を這わせ、濡らしていく。
「・・・・っぁ・・・!」
やはりそこに触れられるのは感じるようで、オミは小さく声を上げて身体を震わせた。
「・・・痛い?」
微かに眉を寄せたオミを抱き寄せて、肌に唇を落とす。
「違・・、解い・・・て」
くすぐったさに身を捩りながら、後手に縛られている手に視線を向けた。
セフィリオは引き寄せた手で、器用にバンダナを解く。
やっと解放された腕を、セフィリオの首に回してしがみ付いた。
「・・・っん、ぅ・・・あ!」
その時を待っていたように、ズルリと、指が抜ける。
セフィリオの腰に座るような体勢のまま、オミの腰に手が添えられた。
「・・・いい?」
耳元で確認の様に囁かれて、態々訊かなくてもいいのに・・・と思いながらも、オミは笑い返す。
「ん・・・・・・はッ――ぁ!!」
短い悲鳴が闇を裂いた。何度抱かれても、最初の痛みだけはどうしようもない。
けれど、どうすれば痛くないかは分かるので、息を止めずに深く吐く。
オミの身体が痛みに強張るのはいつもの事だ。
セフィリオも出来るだけ痛みを紛らわせようと、オミの中心に指を絡ませる。
「ん・・・っ、く!・・・はぁ・・は・・」
入ってくる時の衝撃は大きいが、それ以上に与えられる快感が比ではない。
焼け付くような熱が、早鐘を打ち鳴らしながらはっきりとその存在を主張している。
「ぁ・・ぅっ、ぁ、あ・・ッ!」
腰を支えていたセフィリオの手がなくなると、自分の重みで更に奥まで迎え入れてしまった。
「・・オミの中・・熱い」
衝撃を受け流そうと首にしがみ付くオミに、耳元で笑いかける。
熱い吐息と一緒に吹き込まれた言葉は、耳朶を震わせてオミに伝わりそれすらも刺激と化す。
微かに動くだけで、隙間なく埋まったそれが内壁を擦り、熱を生み出すのだ。
「だ、駄目・・!早く・・お願・・・っ!!」
「もう、ダメ・・?」
セフィリオが小さく笑いつつ緩くグラインドさせながら腰を引くと、出て行こうとするそれを思わず締め付けてしまった。
「ぁ・・・」
「それじゃ、動けないよ・・・?」
しがみ付いていた腕をゆっくりと緩めて離れると、嬉しそうに笑うセフィリオの目をかち合った。
平気そうな顔をしているが彼の肌を流れる汗に、オミは嬉しくて笑う。
「・・・何?」
耳元から頬へキスを滑らせて、オミの唇に軽く触れる。
「っセフィリオも・・、気持ちいい、ね・・・?」
そう言われて、セフィリオは驚きに見開いた目をゆっくりと笑みの形に変えた。
抱き合うことが全てではないけれど、これ以上にオミを傍に感じられる行為を知らない。
ずっと傍にいたい相手だから、常に抱いていたいし離れたくない。
・・・今更他人に言われて止められる程度の行為なら、初めから抱いてなどいなかっただろう。
「・・・勿論。動いていい?」
「・・・ん」
深く、深く繋がって、そこから生まれる熱と共に身体が快感に融けていく。
奪う行為じゃない。与える為に身体を重ねる。
「あ・・っ・・・!!」
「く・・!」
上り詰めた後の開放感と倦怠感が心地良い。
身体を支えていられないのか、オミはくたりとセフィリオの胸に寄りかかる。
「はぁ・・は、あ、・・・は・・・」
汗で張り付いた髪を指で払う。
頬にそっと手を添えると、伏せてられていた榛の光がセフィリオを捕らえた。
少し潤んだ瞳の上に静かにキスを落として。
涙の後を舌で拭えば、自然と唇が重なった。
-----***-----
「・・・元気ですね」
「鍛え方が違うからね」
くたりとベッドに倒れたままのオミの身体を、濡らした布で丁寧に拭いてやる。
何の鍛え方だと笑いながら、オミは手を伸ばした。セフィリオは動かしていた手を止めて、その手をとる。
「なに?」
「誰に、何を言われたんですか・・・?」
オミにはセフィリオが誰かの言う事を聞くなんて、失礼だがイマイチ想像がつかないのだ。
フリックやビクトールの言葉など右から左だし、その他セフィリオに意見できる相手など思いつかない。
けれど、言われた言葉にオミ自身の命が左右されるとしたら?
「・・・オミを殺したいのか、と聞かれたよ」
少し困ったように笑って、セフィリオは言葉を切る。
「勿論そんなつもりはないと答えたけどね。現実問題、オミ怪我したよね・・・?」
「・・・やっぱり、これが原因ですか」
止める事も弾き返す事も出来なかった剣の切っ先を、とっさに庇った腕で受けてしまったのだ。
焼け付くような痛みがあったが、それより先に思ったのは申し訳なさだった。
「セフィリオが叱責を受ける事はない・・よ。ごめんなさい」
「謝るのは反則。オミだって悪くない。勿論、俺もね」
ちゅっと音を立ててキスを落として、セフィリオは笑う。
「・・・でも、そんな事を言うのは・・・シュウ・・さん?」
「・・・告げ口したみたいだな、何だか」
「やっぱり、ですか」
シュウはシュウでオミの事を本気で心配してくれたのだろう。
立ち上がれなかったオミの身体を抱えたのも、シュウだった。
「・・・言わせないようにすればいいんですよね?」
「オミ?」
セフィリオの『気』が身体に馴染んできたのか、倦怠感が薄れていく。
少し身体を起こして、腕の傷を指でなぞった。
「今日みたいな失敗をしなければ何も言われない。シュウさんがそう言ったのも優しさからだと思うんだけど・・・悪い事をしてる訳じゃないのに怒られるのは心外ですから」
「・・オミ、自分が何言ってるかわかってる・・・?」
「え?・・・わ!」
くすくすと笑って、セフィリオはもう一度オミの身体をベッドに沈めた。
「セフィリオ・・!」
「何?誘ったんじゃないの?『これからも抱いて』って、今のそう言う意味だよね・・・?」
「ち・・違・・・っ!」
拒否の言葉は受け入れて貰えずに、あっさりと唇を塞がれる。
抵抗する気は、直ぐに消えた。
「・・・違わない。だよね?」
「・・・・はい」
額を触れ合わせたまま囁かれるセフィリオの言葉に、オミは小さく笑って頷いた。
優しさ故に傷付けてしまうこともあるだろう。
けれど、一日を生きる中で沢山の優しさに包まれていることに、実はあまり気付かないもので。
「オミもたまには優しくしてね?」
「・・・十分優しいじゃないですか」
「どこが・・?!」
「・・・・我が侭、訊いてあげてるところとか?」
「・・・それ、優しいの?」
「さぁ?感じ方次第だと思うんですけどね何が優しいか、なんて」
小さく笑って、オミはセフィリオに腕を伸ばして抱きしめる。
暖かさが、隣りに。
『優しさ』ひとつ、見つけた。
END
⊂謝⊃
すみません展開が転々と転がり過ぎました・・・_| ̄|●場面転換早過ぎ!!(笑)
80200HITの特番をげっちゅ★(古)されましたミズキ様のリクエスト、
「セフィオミで、オミの誘い受けv(裏)」
でございました〜v・・・どうでしたか?やっぱエロがヌルかったですか?(聞くな)
つか、何処が誘い受なんだ?って聞かれそうな出来になってしまいました・・(滝汗)
・・・あぁ、やっぱりダメかもスランプ気味です俺現実逃避させて下さい・・・・(コラ)
こんなのでよければ、どうぞお持ち帰りしてやって下さいませ〜!!<(_ _)>
長々と書いても墓穴を掘り進めるだけなので、この辺でv(笑)
ではでは、80200HITの申告、ありがとうございましたv
斎藤千夏 2004/03/20 up!