A*H

97000HIT★キリ番リクエスト 砂成様よりv

*合法DRUG*










苦くて、苦しい。

でも

振り返らずにはいられない、その香り・・・。



「・・どうか?」
「あ、いえ・・・!」
目の前の女性に、少し首を傾げて問い掛けられて、僕は慌てて首を振った。
話の腰を折ってしまった僕に、それでも小さく笑ってくれる。
「・・もしかして。あの香りが気になって?」
そう・・・なのだろうか。
喉の奥が苦く感じて、目が痛くなるような匂い。
一つ・・・昔のことを妙に思い出してしまうから、僕にはあまり好きではない香りなんだけど。
僕が曖昧な仕草で返すと、彼女は困ったような笑顔で笑いながら言った。
「えぇ。私もあの香りが好きになれなくて。止めてと何度言ってもやめてくれないのです」
「・・・コレは一種の薬なんだよ。すみません、オミ様も苦手な匂いだとは・・・」
恐縮そうに肩を竦めて見せる彼に、彼女は少し拗ねたような声で呟いた。
「あら!私がやめてと言った時には耳も貸さなかったくせに。どう言う風の吹き回しかしら?」
「あ、おい!オミ様の前で・・・っ!」
思わず、僕は笑ってしまう。
どうしてこう、女性と言うものは強いのだろう。
「あ、お待たせしてすみません。これ、お約束のものです」
「ありがとう」
僕が笑顔で受け取ると、彼女は少し頬を赤らめて、笑ってくれた。
この店は、ジェイド城の城下で薬や、希少な薬草を扱っている。
いや、店というより、一軒の民家だけれど。
夫婦揃って薬草に詳しいらしくて、ホウアン先生が忙しくて採取に行けない時などに、こうやって譲って貰ったりすることもある。
どうして僕が、こうやって薬を貰いに来てるか・・・っていうのは・・・まぁ。

「お帰り」
「・・・ただいま」
ホウアン先生の部屋のベッドの上で、ひらひらと手を振ってるのは、セフィリオ。
「すみませんオミ殿。お使いなどに使ってしまって・・・」
「いえ。・・・あれ、僕のせいなので」
預かってきた薬と薬草の入った籠を渡し、僕はその脚でセフィリオのベッドに近寄る。
すかさず、伸びてきたセフィリオの手にさせたいようにさせてから、僕は一つ溜息を付いた。
「元気じゃないですか」
「でも、痛いことは痛い。・・・ってことだから抵抗しないでね?ほら俺って怪我人だし」
「・・・何の抵抗ですか、何の」
あぁもう溜息しか出ない。
ベッドの傍に立った僕の腰に腕を巻きつけて、小さい子供みたいに頬を摺り寄せてくる。
自分の年齢分かってるのかって聞いてやりたいけど、残念ながら怪我をしているのは本当だ。
まぁ軽い捻挫らしいけど・・・でも、酷く腫れていたし。
「・・・僕が悪いんです。幾ら、慣れてるからって・・・」
「そう。どうして余所見なんかしたんだ?」
セフィリオが怒るのも無理はない。乗馬しながら、余所見をして転げ落ちた僕を庇ってくれたのだから。
「まぁ、庇わなくてもオミのことだから怪我なんてしなかったと思うけど・・・」
ぽつりとセフィリオはそう言って、苦笑する。
沈み込んだ僕の頬に手を伸ばして、そっと、撫でてくれた。
「どうしてか、身体の方が先に動いた」
「セフィリオ・・・」
頬に触れた手に僕も手を重ねて名前を呼んだ時、後ろで咳払いが聴こえて、僕は慌てて飛び退る。
「随分、痛みは引いたようですね」
「まぁね。そもそも、そんなに酷いものでもなかったし」
ホウアン先生は見なかったことにしてくれるのか、小さく微笑みながらセフィリオの足を診ていた。
薬を新しいものと変えてもらって、包帯をきちんと巻きなおす。
「・・・はい、これでいいでしょう。くれぐれも、安静にしておいて下さいね」
にっこりと頷きながら、けれど言葉の後半は何故か僕の方を向いて言った。
「ホウアン先生・・・何を・・・」
「ではオミ殿。あとは頼みましたよ」
「あぁ!ちょっと!先生?!」
僕の声も聞かず、あー忙しいと言いながら他の患者を診て廻る先生。
「・・・っ!!」
そうだった・・・。ここに居るのは、先生だけじゃないんだった。
ベッドに沈んでいた幾多の顔が、驚いた表情で僕達を見てる。
「なんだか顔、赤いよ?」
「そんなこと無いです!もう部屋に戻りますからね!!」
「あ、ちょっと手!貸してくれたってイイだろうオミ!」
慌てて出て行きかけた僕の肩を、腕でぎゅっと掴んで、セフィリオが笑う。
「今更、隠すのも変じゃない?」
「で、でも・・・!噂でしか知らない人もいるのに・・・」
「真実だって、堂々としてれば良いと思うけど?」
逆らえば、この場で何を言われるか分かったものじゃない。・・・それ以上に何をされるか分からない。
仕方なく、僕はセフィリオの背中に腕を回して、その身体を支えて歩く。
「・・・あ」
「・・・ん?」
「いえ・・・」
ふわりと、鼻を付いた苦い香り。
初めはあんなに嫌いだったのに、どうして。
こんなに、ドキドキするんだろう。







-----***-----







「・・・っと」
外へ出た途端、心地いい風が髪を撫でていく。
良かった。今夜は、フェザーも森へ行ってるみたい。
セフィリオが僕の部屋に泊まる時は、衛兵のみんなには夜も休んでもらってる。
・・・一緒にいるのがセフィリオなら、何の危険もないだろうと言うのは・・・事実であると同時に、勿論建前だ。
実際は、部屋の近くに居られると・・・僕が困るから。
幾ら、僕とセフィリオの関係が知れ渡ってるとはいえ、軍主が男に抱かれてるなんて、現場でも見ようものなら卒倒すると思う。
当然の様に受け入れてくれる皆の気持ちは嬉しいけど、同じ位恥かしいと感じているのは僕だけなのかな?
「・・・ここなら、平気かな」
部屋から持ち出してきたのは、セフィリオの煙草。
僕の部屋ではもう滅多に吸わないけれど・・・。
いや、僕の部屋と言うより、僕の前では吸わないんだ。
・・・その香りが、抵抗できない僕を組み敷いて来た大人達が纏っていた香りと同じだから。
僕の過去を呼び覚ます匂いだと、セフィリオは気付いているから。
けれど、体に染み付いた匂いまでは中々消えないものだ。
吸っている本人はわからないかもしれないけれど・・・苦手な僕には、微かに漂っても分かってしまう。
・・・それでも、僕の前では吸わないようにしてくれている気遣いは、痛い程に分かっているから・・・。
「・・・僕も、この匂いに慣れたらいいんだ」
煙草に興味があるわけじゃない。寧ろ、あるのは嫌悪感だ。
でもどうしてか、試してみたくなったんだ。
セフィリオは痛み止めの薬の効果か、ぐっすりと眠っていた。僕がベッドを抜け出したことも、恐らく気付いていない。
「・・・・」
シュ・・と音を立てて、マッチを擦る。強い風に消えそうになる火を慌てて手で守って、口に咥えた煙草に火を灯した。
ゆっくりと立ち上っていく煙を目で追って、吸い込もうとしたその時。
「・・・初めてなら、吸い込まない方が良いよ」
「ッ?!・・ゲホ・・ゴホ・・・ッ!」
突然後ろから声を掛けられて、僕は思い切り吸い込んでしまった。
「・・・あぁ、だから言ったのに」
「・・って、ケホ・・・眠ってたんじゃ・・・」
喉が苦い。そして、肺の中が煙たくて苦しい。
涙目と掠れた声になってしまうのは仕方ない事で、僕は後ろを振り返る。
「・・・んー?でも、起きたら隣にオミが居ないし。下の階は兵士が見張ってるからね・・・ここかなと思って」
やっぱり、ここにいたね。
満足そうに微笑まれて、何か、見透かされたようで気に入らないけど・・・・、セフィリオは僕がそれを持ち出した事については何も言わなかった。
「ずっと噎せてるけど・・・そんなに深く吸い込んだの?」
「・・・ッコホ・・・、だっ・・てこんなに、苦しい・・・なんて、知らないし・・・」
セフィリオは微かに右足を庇いながらも、僕の隣に腰を降ろす。
「オミ、煙草嫌いだったんじゃなかったっけ?」
火をつけられてから、一度吸われただけの煙草は、早くも短くなってしまっている。
けれどセフィリオは僕の手をそのまま掴んで、煙草を咥えた。
「・・・・っ」
その流れるような動作があまりにも自然で、僕が文句を言う隙も与えてはくれなかった。
「・・・・ん?」
ふわりと、微笑むような顔。
・・・・初めて会った頃は、こんな表情するなんて思わなかったのに・・・・。
「・・・・セフィリオ、離して・・・?」
見慣れない表情に戸惑ってる自分を気付かれたくなくて、僕はセフィリオから逃げようと腕を捩った。
「っわ・・・ん・・・む・・ッ?!」
いきなり、視界がぐるりと半回転した・・・と思ったら、そのまま唇を塞がれる。
屋上の床に押し付けられるように転がされたのに、痛くないと思ったら・・・僕の頭の後ろにはちゃんとセフィリオの手があって。
「・・・っ・・・ん・・」
ここまで苦い煙草の味がするキスは、久し振りだ。
でも、今は自分の喉の奥からも、同じ香りがするから・・・。
「っは、ぁ・・」
「オミは、これだけ味わっていれば良い」
「・・・?」
セフィリオが何を言いたいのか、今の言葉じゃよく分からなかった。
消えかけた煙草の灰は、強い風に吹かれて飛んでいく。
僕は引き倒された格好のまま、じっとセフィリオを見上げていた。
「吸いたくなったら、また味わわせてあげるから・・・・・オミは無理に吸わなくても良いって事」
「・・?あ、えっと・・・別に、吸いたかった訳じゃ・・・」
「でも、現に吸ってみたんだろう?それは何で?」
「・・・・」
僕には、答えられない。
黙り込んだ僕に、セフィリオは小さく笑って、少し体重をかけて抱き締めてきた。
勿論、僕が押し倒される形で。
「・・・俺の匂いは、煙草の匂いだけ?」
「・・・?!」
イタズラっぽい目に、僕の頬は一気に温度を上げる。
度台、セフィリオに隠し事をする事自体が間違いなんだ。楽しそうに笑っている正面の男は、僕の頭をぎゅっと胸の中へ押し付ける。
「どうかな?」
抱き寄せられた胸の中で、吸い込む空気は嗅ぎ慣れた・・・。
「・・・セフィリオの、匂いがする」
「だろうね」
煙草の匂いに混じって、嗅ぎ慣れた彼自身の匂いが、ふわりと鼻をくすぐった。
何となくだけど・・・目を閉じたくなる香り。
嫌いなはずの煙草の匂いさえ、今では彼の放つ香りの一部としか・・・考えられない。
「・・・オミ?」
セフィリオの胸の中に顔を埋めたまま、僕はその背中に手を伸ばした。
僕から縋り付くなんて、最中を除いてそうそうあることじゃないから・・・セフィリオは驚いた声を上げて僕を呼ぶ。
「・・・ひとつ、聞いて良いですか?」
「何?」
「煙草を吸うのは、何故ですか・・・?」
薬屋の主人は、『薬の一種』だと言っていた。一度吸うと、止められない依存性があることも知っている。
だけど、セフィリオが煙草を吸う理由は他にもあると思ったから、僕はそう聞いたんだ。
でも、帰ってきた言葉は以外なもので・・・。
「・・・俺にとっては鎮静剤なんだよ。・・・落ち着く為の、ね」
「鎮静剤?」
「そう・・・。こうやってオミが傍に居るだけで。まして、抱きしめるだけで満足するほど、俺は聖人じゃない」
「っ・・・!!」
何の事を言われているのか、分からない筈がない。
僕は真っ赤になりそうな顔を背けて、慌ててセフィリオの腕の中から逃げようとした。
「・・っ!」
「ぁ、わ、セフィリオ・・?!」
腕に力を込めて押し退けようとした僕と同時に、セフィリオの顔が少し歪んだ。
「・・・ぃたた。足の怪我・・・忘れてなかった?」
・・・忘れてたけど。僕は、首を横に振る。
「痛みは?」
「薬、切れてきたのかな。・・・少しね」
じわりと額に滲む汗に、その痛みが少しではない事に気付く。
強がる必要なんて何処にもないのに・・・・セフィリオは苦笑して誤魔化そうとした。
「・・オミ?」
僕の上から退こうとしていた体を、今度は逆に抱き寄せる。
「・・・いいから、動かないで」
セフィリオの汗の匂いに、自分の鼓動が煩くなって行くのは分かってるけど・・・。
もう何度も何度もなぞったその行為を、期待してしまってると言う事だけは、気付かれたくなかったから。
「・・・じっとしてて。痛みが引くまで・・・もう少し」
「・・・ん」
頷いた声に顔を上げると・・・目配せする必要も無しに唇が重なった。
「・・・・これからは、逆効果になりそうだ」
床に置きっぱなしの煙草を見つめて、苦笑混じりにセフィリオが言った言葉。
何のことか、最初はよく分からなかったけれど・・・・。
「煙草は、麻薬の一種だからね・・・一度嵌ると抜けられない。危険な薬なんだよ」
それにしては、出回り過ぎだと思う。大人の男性なら、ほぼ過半数が嗜んでいると言っても良いだろう。
疑問が顔に浮かんだのか、セフィリオは頷いて、囁いた。
「認められているから。・・・そして、求められているから。俺には・・・」
僕を照らす月から隠すように、上に影を作ったままセフィリオは笑う。
「オミに似てるとも、思う」
「・・・?」
「俺にとっては、オミも麻薬だ。・・・もう、手離せない」
「・・・・・うん」
真剣な言葉を吐きながらも、その顔は嬉しそうに笑っている。
僕の存在がセフィリオにとって麻薬だと言うのなら・・・それは、僕にとってセフィリオも同じだと言えるだろう。

「・・・っ・・!」
夜風に晒された肌が、鳥肌を立てる。
「・・オミ」
でも、熱い掌にすぐ触れられて、そこから熱が移ったように僕の身体は体温を上げる。
漂うのは夜の冷気と、熱を孕んだ目の前の肌の匂い。
「・・ぁ、あ・・ッ!」
僕の悲鳴は、流れていく風に乗って、夜空に消えた。






煙草の香りは、危険だ。


その香りには、胸を高鳴らせるという・・・媚薬に近い効果を秘めているのだから。







END




⊂謝⊃

何処ぞの漫画のタイトルですか(笑)いえいえそんなわけありませんデスハイ!!(笑)
えー、リクを戴いてからもう何ヶ月お待たせしてしまっているのでしょうか?!!
やっと消化できました〜!!もう、文の構成も何もありません!スミマセン砂成様!!(涙)
97000hit★『セフィリオさんの煙草をこっそり吸ってしまうオミ君』デシタv
・・・・・・速攻で見つかってますけどね(苦笑)こ、コレで良かったのでしょうか???(滝汗)
気に入ってもらえたら良いのですけども!・・・あぁ俺的未消化だスミマセン〜!!(涙)

でもでも、97000hitの申告をありがとう御座いましたv&キリ番ゲットおめでとうございますv
満足して頂けたのなら、また狙ってやって下さいませv(笑)
って、コレを『裏』と言って良いのだろうか・・・・?(悩/笑)


斎藤千夏 2004/06/21 up!