A*H

読み切り セフィオミ閑話

*A Beautiful Lover*


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「・・・ん」
オミが目を覚ましたのは、それからさほど時間は経っていない夕刻。
濃紺色に染まっていく西の空を窓の外に見て、ぼんやりとしていた意識を集めていく。
「あ、起きた?・・・丁度出来た所だよ」
声のする方を振り返るように顔を向けて、トレイを抱えたセフィリオと正面から目が合った。
「・・・あれ・・・セフィリオ・・・?」
「ん。・・・まだ少しぼんやりしてる?・・・無理させたかな」
トレイをテーブルに置いて、半身を起こしたままのオミの頬を撫でるように、セフィリオの大きな手が滑っていく。
少し乱れた髪を手で柔らかく梳かれ、それが気だるい体に心地良くて、抱き寄せるように伸びてきた腕にもされるがままで目を閉じた。
隣に座り込んできたセフィリオの胸に上半身を埋めて、その暖かい体温にほっとした溜息を零す。
「・・・嬉しいけど、食べないと。冷めるよ?」
「・・・食べる・・・?・・・あぁ!!」
オミは、鍋を火にかけっぱなしだったことを漸く思い出す。
寝かされていたソファーから飛び降りる勢いで立ち上がるが、ふと良い匂いに気付いてテーブルの上に並んだ食事の用意に驚いた。
「な、なんで・・・?」
「大丈夫。オミが寝てる間にちゃんと、良い具合に火は通ってるから」
くすくすと笑い声が聞こえて、オミは少しだけセフィリオを睨んだ。
誰のせいだと訴えんばかりの視線を感じて、座ったままのセフィリオもオミを見上げてくる。
「・・・オミが作ってくれたんだ。きっと美味しいよ?」
「わ・・っ!」
腰を引き寄せるように抱かれて、そのまま後ろに座ったセフィリオの脚の間にストンと身体が納まった。
「さ、食べようか・・・?」
「・・・っ」
肩の後ろから囁かれた言葉は、先程のセフィリオを思い出させるには充分過ぎて。
途端に赤く染まる頬を隠すように、オミは顔を俯かせてしまう。
「オミ?・・・もしかして、怒った・・・?」
「・・・ない、けど・・・。今は離れて・・・欲しいです」
「それは嫌だ。折角オミと一緒に居るのに、我慢するのは辛いって身に染みて分かったからね」
ぎゅうっと抱き締めてくる腕は、逃がさないとばかりにオミの身体を拘束する。
「・・・食べるのもこのまま・・・?」
「なんなら食べさせてあげようか?」
「・・・自分で食べられますから遠慮します」
苦笑を零して、仕方なくオミは手元の器を手に取った。
暖かい湯気を立てているシチューを一口食べて、驚いたようにセフィリオを振り返る。
「こ、これ・・・グレミオさんと」
「同じだと思うよ?・・・いや、こっちの方が美味しいけどね」
だが、オミに最後まで仕上げた覚えはない。
けれど、これだけ美味しく仕上がっていると言う事は、オミが気を失ってしまった後にセフィリオが何か手を加えたとしか考えられない。
「や、やっぱりセフィリオって料理・・・」
言いかけたオミの言葉は途中で途切れ、更にテーブルに並べられていくサラダや、綺麗にカットされたデザートフルーツに驚いて視線を上げる。
「あ、こんばんはオミ君。ついつい心配で帰って来ちゃいました」
「・・・・・・・・・・・・グ、レミオ・・・さん」
「はいグレミオですよ。やっぱり坊ちゃんったら夕食の準備もしないでお茶ばかり飲んでるんですから」
「・・・セフィリオ」
「ん、どうかした?ほら、早く食べよう」
「離して下さい。離れないと今から城まで帰ります」
相変わらず、他人の目があるとこれだ。
囁くような声はセフィリオにしか届かなかったようで、グレミオは二人のことなど気にせずお茶の支度をしている。
低く呟かれた声は本気で怒っているオミの声音だ。
「・・・わかったよ」
ここで抗って抱き締めつづけても、言ったからには本気で帰る。・・・帰られては困るので、仕方なくセフィリオもオミの拘束を緩めた。
立ち上がって、セフィリオが座っていた端とは反対の端に腰を降ろし、並べられた食事を黙々と片付けていくオミ。
言葉を発しない雰囲気からして相当に怒らせてしまったかとセフィリオは苦笑したが、食事の後、部屋に誘ったセフィリオにオミは抵抗もせずついてきた。
「・・・良いの?」
「何がですか?」
「・・・俺の部屋に付いてきたって事は、してもいいって事だよね?」
機嫌を損ねていたとばかり思っていたセフィリオは、柔らかいオミの態度にほっと息をつく。
どうしようもなく欲しくなったから無理矢理に近い状態で抱いたけれども、それで嫌われてしまってはあの行為の意味が無い。
「・・・オミ」
薄暗い部屋の中で抱き寄せて、そっと塞ごうとした唇はオミの手によって止められた。
「そうじゃなくて。・・・因みに、今夜僕に何かしたら本気で嫌いになりますよ」
「・・・やっぱり怒ってる?」
「怒りますよ。でも、許してあげます。・・・条件さえ守ってくれればね」
そういって、真っ直ぐにセフィリオのベッドに横になるオミは、手招きするようにセフィリオを呼び寄せて、隣に寝るように示した。
誘ってるとしか思えない行動だが、それにしては色気はない。
湯の後に再び貸した衣服をしっかりと身に纏ったオミは、同じく寝転んだセフィリオの胸に暖を取るように寄り添って目を閉じる。
「・・・あの」
「明日、連れて行ってくれるんですよね」
「・・・うん、そのつもりだけど」
「じゃあもう寝ましょう。・・・何もしないで下さいよ」
そう言うだけ言って、セフィリオの胸に擦寄ったオミは小さな寝息を立て始めてしまった。
安心しきって眠る表情に、期待や甘い誘惑の色など微塵もない。
「・・・条件って・・・正直な所きついな」
隣に眠るオミに対して、何も手を出してはいけない。きっとそれがオミの突きつけた条件なのだろう。
それにしても、深い眠りの中に居るオミは、例え様もなくあどけない表情を浮べて眠る。
普段のオミからは想像も出来ないほど、年相応に見える幼い寝顔は、かわいいとしか言えないようなもので。
他の何よりどうしても欲しかった物は、今この腕の中に眠っている。
この家で、普通の市民の様に、何もかも忘れて暮らせたら。・・・どんなに楽しいだろうと思えて仕方ない。
「・・・あぁ、結婚したいってきっと・・・こんな気分なんだろうな」
ずっと寝起きを共にしたい。生きていく全てを共に歩みたい。
きっと、同じ場所に根を張ることの出来ないセフィリオだからこそ、その願いは強いのだろうけれど、相手がオミでなければ考えた事も無かっただろう。
「・・・愛してるよ。お休み、オミ・・・」
いい香りのする柔らかい髪に顔を埋めて、触れるか触れないか程度の小さなキスを落とす。
摺り寄せてくる体を抱き締めるくらいは許して貰えるかどうか悩みながら、白い光が舞い始めた窓の外を眺めて、セフィリオも静かに目を閉じた。



-----***-----



軍事演習はオミにとって色々な知識を知る事の出来た良い経験の場所になった。
5日間丸々通して行われたらしいその最後には、参加者全てに豪華な食事が振舞われた。
最終日の5日目にしか参加出来なかったことをレパントに詫びながら、オミはふと思いついた言葉を口にした。
「凄い料理ですね。演習の最後にこんな料理が待ってるなんて、思いもしませんでしたけれど」
「演習会合だけものではないですからな。オミ殿、今日が何の日か知っておいでで?」
「・・・すみません」
苦笑して謝るオミに、レパントはいやいやと首を振る。
「きっと、あの方が教えてくれましょうぞ。のう・・・セフィリオ殿?」
「・・・いい加減オミを返して貰いに来たよ」
またも珍しい礼服に身を通しているセフィリオは、先程から注目の的だ。
色んな相手に掴まっていた彼に置いていかれ、それでも声を掛けてきたレパントに救われたような形で会話を楽しんでいたのだが、セフィリオにはそれが気に入らなかったらしい。
「今日はお招きありがとう。・・・でも、もう少し時期を考えてくれると嬉しいよ」
「おや、どうしてですかな?」
「野暮な事を訊くね・・・。恋人が居るなら、今夜くらい誰にも邪魔されたくないんだよ」
独占欲を誇示するように肩を強く抱き寄せられ、オミは慌てて逃げようと身を捩るが、大した抵抗も出来ないまま人気のないテラスへと連れ出されてしまった。
「もう!誤解されますよあんな事言って!・・・それに、なんでこんな寒い所に」
オミも、セフィリオから借りた礼服を身に付けているが、肌を指すような冷気を含んだ風までは遮ってくれない。
小さく身体を震わせたのもつかの間、暖かい腕に抱きこまれたと同時にそっと唇が重なってくる。
「・・・誤解じゃなくて事実だよ。・・・それに、ここは人気がないから」
「・・・っ」
甘く唇を噛まれながら囁かれた言葉の振動に、オミは寒さに閉じていた唇を思わず開いてしまう。
再び重なってきた唇は少し冷たかったけれども。
深く深く融けていきそうなキスの熱に、何時の間にか降り始めた雪は二人の間で溶けて、消えた。








END


⊂謝⊃

 糖度高過ぎ。(笑)
 どうしちゃったんでしょうか二人とも(笑)何やら異様に甘い雰囲気漂ってますよ。(笑)
 セフィリオもオミも『素』の顔を出してみようと頑張って見たんですが、
 ・・・ただのバカップル話になってしまった気がします・・・_| ̄|●(笑)
 それにしてもセフィリオって尽くすタイプだったとはね・・・(笑)

 はてさて。エロについてはさらりと流す方向で!(笑)
 ブラックアウトを使わないエロってのは久し振りで異様に時間掛かりましたけども。
 ・・・何が書きたいのかわからんですよ。(笑)新婚さん雰囲気目指してたのにな〜(笑)
 最初に思いついたシーンが、オミの脚に腰押し付けてくる所云々だったあたり、
 俺もかなりヤバめだったという結論がでた所でさっさと逃げましょうか。(笑)

 あ、最後に一つ。
 タイトルの『A Beautiful Lover』って、何となく『綺麗な恋人』とかそういう意味
 に感じますよね。あれ?感じませんか?(笑)
 ですが、実際にこのタイトルに決めた理由は、本来の意味を知ってから。(笑)
 『セッ○スが上手な人』って意味なんだそうで。(これぞトリ○ア/笑)

 ではでは読んで下さいまして、ありがとうございましたv


斎藤千夏 2005/12/20 up!