A*H

2007 Christmas★FREE SS

>>ネタの赴くままにセフィリオ×オミ

*寒い夜に*




「うー・・・寒・・!いきなり降ってくるんだもんなぁ」
次に向かう町を目前にして雪に降られたセフィリオとオミは、一気に白く染まった視界に慌てて進む足を速めた。
到着した先の町はまだ出来て何年も経っていないようではあったが、オミの治める国をとても大事に思ってくれているということはひしひしと感じられた。
「寒い?だったらこんなにこそこそしなくても。『王様です』って顔してればいいのに」
もっといい部屋に案内されたと思うけど?
なんて軽口を言ってくれるセフィリオに、お願いですからとオミの身分は隠したままで正解だっただろう。
それでなくとも、セフィリオの持つ肩書きのお陰で上質すぎる部屋に通されてしまった二人だ。
なんてことはない。ただの町の宿屋ではあるけれども、国を大事に思うが故にあらゆる場所であげた功績がセフィリオの顔と名前を過去の『英雄』ではなく『名将』として有名にしていた。
オミはといえば城からあまり出なかった・・・いや、出してもらえる機会が少なかったので顔をあまり知られていないお陰で助かったのだが。
「・・・代わりに、何か勘違いされましたけどね?」
「いいじゃないか。あながち間違ってないんだし」
宿屋の主人や客たちには、セフィリオが甲斐甲斐しく荷物を持つ・・・ようにして奪ったり、雪に濡れたマントを掃ったりと世話をするオミのことを、『可愛い恋人さんですね』とか『名将も今夜は連れ込みかい?』なんて下世話な勘違いをされてしまった。
そして、あてがわれた部屋がコレ。
広い部屋に大きな暖炉。着けられて間もない火はまだ小さく、無駄に広い室内が暖まるにはもうしばらくかかるだろう。
飾りのような大きな窓には見覚えのある徽章が掘り込まれ、高い位置にあるこの部屋からの町並みの眺めは確かに綺麗だった。
部屋の続きで作られた小部屋はなんとも贅沢に風呂だという。
そして、あんまり見たくない視界の端には、これまた大きなベッドが鎮座していた。それもオミ一人で三回転半できそうなほどの大きさのものが。
何の為に用意された部屋なのかと項垂れたくなるが、隣の嬉しそうな顔の意味はあまり理解したくないオミで・・・。
「ともかく、冷えた身体は暖めないとね」
「や、あ、あの!まだほら夕食だって・・・!!」
途端、真っ赤に染まったオミの頬に、セフィリオは一瞬きょとんとし・・・それから我慢できないように噴出して笑って下さった。
「ははっ!あー、うん。嬉しい勘違いだけどね?それは夜のお楽しみにとっておきたいかな」
ふわりと、頭からやわらかい布を掛けられて、雪解けの水分を優しく拭ってくれる。
今まであのベッドのお陰で思考が飛んでいたオミは見事勘違いをしたわけだが、その勘違いに改めて視線を反らした。まさか期待してましたなんて誤解されたかと思うと恥ずかしくて視界を上げられない。
けれど珍しいことにセフィリオもそれ以上オミをからかうでもなく、顔だけ火照ったオミの手を引いて、部屋の中央まで連れ戻す。
「とりあえず、何か暖かい飲み物でも貰って来ようか。暫くその暖炉の前で暖まってて良いから」
ご丁寧にクッションを並べた暖炉正面にオミを座らせてから、セフィリオは離れ際に軽く額に口付けを落として部屋を出て行った。
「・・・前にも増して過保護になってないかなあれ・・・」
冷え切った身体と手足であるにも関わらず、顔だけが異様に熱いのは、照らされた暖炉の火だけの所為じゃない。きっと。
降ってきた雪は結構なものだったようで、とりあえず濡れたままのブーツを乾かすために脱いで、足を縛る包帯も解いていく。洗うのは後でいいとして、確かに水気を拭って置かなければ風邪を引くのは必然だろう。
しっとりと湿ってしまった髪を拭っていると、ほかほかと湯気を立てた暖かそうなカップを二つ、器用に片手で持ってセフィリオは戻って来た。
「ホットミルクだってさ。温まるように数滴の隠し味入り」
「・・・お酒は飲めませんよ」
「子供でも飲める程度だよ。大丈夫、どうせ酔っ払っても俺しか居ない」
オミの座るクッションにセフィリオも腰を下ろし、足の間に抱えるように座ってカップの一つをオミに手渡す。
触れたセフィリオの服がまた冷気を吸い込んでいて冷たかったが、同時に回された腕に再びカッと頬の温度が上がる気がして、文句は言えなかった。
言葉でも態度でも抱き締めてくる腕を何故か拒否出来なくて、仕方なく受け取ったカップの中身を啜る。確かに何か混ぜられているのだろう。じわりとしみこむような暖かさと、微かな甘みを感じた。
オミはもう気にしていなかったのだが、抱き締めた瞬間びくついたオミの肌に気付いたセフィリオは苦笑しつつも改めてオミの身体に腕を回してきた。
「あぁ、ゴメン。冷たかったか。・・・いや、でもこう暖かいオミに触れてると、俺も相当冷えてたんだって実感するよ」
そう寒くは無かったんだけどねと軽口を言うセフィリオも、そういえば同じ場所を歩いていたので、濡れているだろうし冷えているはずなのだと気付く。
振り返って髪に触れれば、冷たく濡れた感じが指先に伝わった。オミの髪はもう煌々と燃える火に照らされて十分乾いている。
拭うために身体を包んでいた布を取り払えば、むき出しの腕は寒さを訴えたけれど、気にせずセフィリオの肩に布を被せた。
「オミ?いいよ別に。そこまで寒くない」
「いえ・・・でも。・・・その、折角暖まったのに、セフィリオが冷たいんじゃ、僕も寒い・・・ですから」
「・・・素直に言えばいいのに」
「素直ですよこれ以上なく!!もう、寒くないならいい加減離して・・・あ・・っつ!!」
「オミ!?」
セフィリオの腕を振り払うつもりで暴れた拍子に、傾けてしまったカップから熱いミルクが脚に降り注いだ。
抵抗する間もなく脱がされた下衣に差恥はあったけれども、それ以上にひりひりと熱を持つ肌が痛い。
「水、流水で早く・・・」
「い、いえそこまで酷くないですから!」
「・・・じゃあ、濡れた布持ってくるから、暫くは暖炉の前から離れておいたほうがいいかもね」
火傷に熱を近づければ当たり前だが炎症は酷くなる。寒かったけれど、まぁ自分自身の失敗だ。オミもセフィリオの言葉に従って壁際の窓の傍へと移動した。
「ほらこれで冷やして・・・凄い雪だね」
「さっきよりは治まりましたけどね・・・ってぅわ!?」
外を眺めていたオミの身体を軽く脚の上に座らせて、先程オミが被せた布で自身と共に包み直す。勿論火傷の患部に濡らした布を当てながら。
「寒いは寒いんだろう?暫くこのまま冷やしておけば痛みと赤みは引くだろう」
「・・・ん」
大人しく膝の上に収まったオミは、暫く外の雪に気を取られていた様子だったが、何を思ったか再びセフィリオの髪に指先で触れた。
「オミ?」
呼びかけても返事は無い。何度も指先で髪を梳く様に撫でる刺激が心地良いとは思うけれども。オミにしては珍しい行為であるから、もう一度オミに呼びかける。
「オミ?どうした?」
「・・・ん、何でも・・・」
覗き込めば、ぼんやりとした視線にかち合った。さっきまでの視線からすれば、多少緩いというべきか。
どことなく潤んだ視線に理性が飛びそうになるが、珍しく甘えるようなオミの仕草にその全てを飲み込んだ。
「オミ・・・まさか、酔ってる?」
「・・・んー、ん・・・?」
くすくすと笑いながら返す返事も曖昧で、何処となく心地良さそうなのは確実に酔っ払っているからだろう。
たったあの程度でと思うなかれ。オミは生粋の下戸であったと、そして時を経てもそれは変わらなかったという事実のみが判明した。
「酔っ払ってるんじゃ・・・余計手は出しにくいな・・・」
自嘲気味に呟いた意味を、今のオミは正確には理解していない。というか聞こえてもいないだろう。
されるがままとなっていたオミへ改めて意識を向ければ髪を撫でていた指は唐突に止まり、苦笑を零したセフィリオの耳へちゅ・・・と小さな音が響いた。
「・・・オミ?」
顔を覗き込もうとすればそれは駄目だというように襟元を掴まれて、抵抗を失えば再び楽しそうに髪へと振り降りてくる口付け。
「・・・はぁー」
軽くちゅっと音を立てて振り降りるキスの嵐に、正直、誘っているのかと問いかけたい。
が、今のオミに言葉は通じない。問いかけるなら、この行為は止まるだろう。
滅多にないことでもあるし、甘えられるのは満更でもないセフィリオに残された道は、ただ楽しそうにキスを降らせるオミの行為に甘受するしかなかった。
けれども。
―――酔いなんて一瞬で、実は正気ですなんて。
素面で甘えるのは、いまだに抵抗があるから。精一杯のありがとうと愛しさを込めて、セフィリオにしがみ付く。
くすくすと上機嫌でキスを下ろすオミが内心そう笑っていたなんて。
セフィリオは知らぬが吉なのか、はたまた凶なのか。

・・・それは、今夜の二人のみぞ知ることである。



END




⊂謝⊃

イベント時に余裕のある連休って嬉しいもんですね色々準備できて(笑)
読んで戴けたのならお気づきでしょうが、TOP絵とリンクした妄想SSです。(笑)
あんな描き忘れ失敗談(・・・オミのスパッツ/笑)からネタが溢れてくれましたんで書いてみました一気書き!
10年後のセフィリオさんは異様にオミに甘いとイイよ!(笑)

見つけて下さってありがとうございましたv
ではでは、メリークリスマス!

※FREE期間は終了しました

2007/12/25 C.Saitou*Angel Halo