*英雄*
3
「・・・・あなたは・・・?」
軽く息が上がったオミは、一度深呼吸をして整える。
もうひとりの・・・セフィリオは、何事もなかったように平然としている。
手に持っている棍を軽く振り、オミの前につく。
「すごいね、その歳でこんなにも綺麗に型をなぞれるなんて」
「い、いえ・・・」
読み取れない笑顔、オミは返事に困った。
「場所、移そうか?」
「・・・・・そうですね」
ここは先ほどの型を見ていた子供達がわーわーと騒いでいる。
そして何人かの休憩中だった兵士達、ふらふらと歩いている市民達も、型の美しさにぼうっと呆けていた。
彼らはかるく子供達をあしらって、歩き出す。
「あなたは?失礼でなければ、お名前を・・・」
「オミは勉強家なんだよね」
この言葉に、オミは少々むっとする。
ナナミやビクトール、フリック以外に、久々に敬称なしで呼ばれた。
別にこれはいい。
問題は。
「えぇそうかもしれませんけど、僕の質問、聞いてます?」
「聞こえてるよ。でも言ったらつまんないし」
「それって!」
「リーダーは熱くなってはならない。常に冷静でないと、ね?」
「・・・・・・わかって・・・います」
オミは内心あせっていた。
癖のある大人相手に渡り合ってきた自信も経験もはっきりとある。
それが・・・この人物には全く通じない。
見た目は同じ頃合の歳だろう。が、まとっている雰囲気がどこか、違う。
似ている風を知っているからか、オミは、自分がいらついていることにも腹を立てていた。
「僕、誰かに似てる?」
ふいに、笑顔で言われて・・・・オミは驚いてつい地の声でしゃべってしまった。
「・・・なんでわかるの?」
「へぇ、そんな話し方も出来るんだ?生粋のリーダーだって脅されてたんだよねー」
「・・・・・・・ッ、だから!何なんですかあなたは!」
オミも、ここまで神経を逆撫でされたのは初めてだ。
質問は無視、相手の話を全く聞かずに自分の言いたい事ばかりを並べ立てるその精神に。
そして・・・・・・外見に。
これでもオミはもう15歳になる男だ。
同じ年頃のセフィリオの体躯と整った造形に憧れや軽い嫉妬を覚えるのも無理はない。
「・・・うーん。でも少しムリしてる?顔に疲れが出ているよ」
応接室に向かって歩いていたオミは、ぴたりと足を止める。
「あれ?どうかした?」
「・・・・・・・あなたには、関係ないことです。用が無いのなら、もう帰っていただけますか?」
そう、少々困った顔で言い返すオミ。
オミは、必死で自分の気持ちを抑え込んでいた。
今少しでも身体を動かすと、左手に抱えたトンファーを使ってしまうかもしれない。
セフィリオも相当強いから怪我をするとかはないだろうが、まずいことになる。
感情で動くのは自粛せねばならない。リーダーとして・・・・。
握り締めた右手が白くなるまで握って・・・・・そっとほどく。
「・・・・・・・・・うん、合格かな。ごめんねいじわるしちゃってさ」
セフィリオはぺ・・・っと舌を出して、すまなそうに笑う。
「合格?」
「うん。さすが天魁星。抑えなければならない怒りを知っている」
くすくすと嬉しそうに笑って、セフィリオはオミの右手を握った。
「でも少し言うなら、自分の心を相手に悟られてはいけない。リーダーという者は、誰にも思考を読まれてはならないんだ。
怒りと言う感情は熱しやすく冷めやすい。その弱みに、つけこまれる」
珍しく手袋を外していながら強く握り締めたため、手の平は爪で傷付いていて多少血が流れている。
ためらいもなくセフィリオはその手を唇に近づけ、血を舐め取った。
「っちょ・・・?!・・、あの・・・!」
「初めまして二代目天魁星。僕は初代天魁星、セフィリオ・マクドール」
今度は手の甲の『輝く盾の紋章』に口付ける。
「・・・二代目の君に会いたくて、戻る気のなかった旅から帰ってきてしまった」
「・・・初代・・・・・?トランの・・・英雄?」
「そう呼ばれるのは好きじゃないけどね。わざわざ来た甲斐があったよ、思っていた以上だ」
セフィリオはにこやかに笑う。
「からかって悪かったね、オミ」
その笑顔を見て、オミは全てを悟った。
今までのあの「のれんに腕押し」状態の会話は全て、自分を試していたのだと。
が、いつまでたっても右手を放そうとしないセフィリオに、軽い違和感を持ったが。
ちり・・っと走った右手の痛み。一瞬、セフィリオの右手に、強い力を感じた。
「真の・・・紋章?あなたも・・・?」
「・・・オミ、ね。・・あ〜あ、まずっちゃったなぁ。気に入るなんて思ってなかった」
話が見えないオミは、不安げな瞳でセフィリオを見上げる。
オミの持つ『輝く盾の紋章』は、不完全な真の紋章だ。
使う度、発動する度にオミの生命力を奪っていく。
完全な形にすればその心配もなくなるのだが、片割れの『黒き刃の紋章』は、オミの大切な親友の右手に宿っているのだ。
そういう紋章の詳しいことについて知らないオミは、右手に走る痛みと、セフィリオの理解できない言動に大きく動揺していた。
絡んだ視線が、潤む。
「・・・・・・・・そんな不安そうな顔しないで?・・・・僕も、欲しくなっちゃうから」
ちりちりとした痛みが、オミの不安を掻き立てる。
「え、あの・・、その手を・・・」
離してと訴えているオミを、セフィリオは逆に引き寄せた。
「僕の右手には、呪われた紋章が宿ってるんだ。人の魂を欲しがる紋章でね」
紋章・・・・という言葉を聞いて、オミはセフィリオの腕から逃げることを忘れて聞き入っている。
「戦争が終わって3年・・・。この紋章とは何とか付き合ってこれた。これのせいで体の成長は止まっちゃったし、僕の大切な人もみんな死んでしまったけど・・・今更僕と紋章の利害が一致してしまったみたいだ」
「利害の一致?」
「そう。僕の紋章は君の右手を求めている。そして僕は・・・・、オミ、君を求めてる」
冗談じゃないかというような顔で言われて、オミは何を言われたのか理解できずにいた。
そうやって無防備に考え込むオミは、ふと近くなったセフィリオの瞳に驚いて目を見開いて・・・そして思考は停止した。
「・・・・・・・・・・・オミ。キスの時は、目を閉じるものだよ・・・?」
何かが、唇を塞いで、擽る。ソレがセフィリオの唇だと分かるまで、数秒を要した。
はっと気付いたが、ここは城のど真ん中。話にのめり込んでいたため気付かなかったのだ。
白昼堂々とかましてくれたキスは、現場にいた人々を酷く驚かせる。
それも我らのリーダー・オミと、見知らぬ見かけ良い旅の男。
「・・・・〜〜〜ッ!!?」
「あははっ!そんな可愛い反応返ってくるなんてね。初めてだった?」
パン・・・・ッ!!
乾いた音が、城の中に響いた。
真っ赤な顔で、オミはセフィリオの頬に平手打ちをかましていた。
怒りのあまり少々涙の溜まった瞳で、きつく睨む。
「僕は・・・・信じませんから」
「なにを?」
張られた頬をさすりつつ、平然とセフィリオは言う。
「あなたが天魁星だったなんて、僕は認めない!!」
それだけ叫ぶと、セフィリオに背を向けて走り去っていった。
「・・・・あ〜あ、怒らせたか。まぁ、泣き方も怒った顔も見れたし満足だけど」
左の頬をさすっていた左手を、そっと唇に滑らせて。
「・・・・キスだけって・・身体に良くないなぁ・・・。まだまだ相手してもらわないと」
そして右手を見つめて、そっと呟く。
「残念だけどソウルイーター。オミをあげる訳にはいかなくなったよ」
自嘲気味に笑ったセフィリオはなぜか嬉しそうに、オミの走っていった方角を見つめた。
「オミは、僕がもらうから」
・・・・・その後。
「まだまだー。さー、次の人!」
「オイ、そろそろやめとけよ?ここらで、な?」
元気良く道場で兵士達を鍛えているのは、頬にばんそうこうを貼ったセフィリオだ。
フリックは、止める気配のないセフィリオの鬱憤晴らしを止めさせるべく話かけたのだが。
「ダメだよ。この人達にはしっかりとオミを守ってもらわなくちゃ」
「随分と気に入ったようだな。お前にしちゃ珍しく」
ビクトールが面白そうに言う。
「まぁね。あ、今は君達に貸しておくけど、戦争が終わったら返してもらうから大事にしてよね」
「「は?」」
ビクトール、フリックの両名は、セフィリオが何を言っているのか分からずに、抜けた声を出す。
「手を出したり傷つけたりしたら、遠慮なくさらってく。で、・・・・・命がないと思ってね?」
道場が冷たく凍りついたのは、言うまでもない・・・・・。
END
⊂謝⊃
今回はセフィリオ(坊)×オミ(2主)でお送りしましたv好きでスね。もしかしたらあっちのカップルより格段に。(オイ)
なんつーか、セフィリオさんの性格オレそのものだから、動かしやすいのなんのって!(あっはv)
ではオミ苛めをひたすら書くと思いますが、ソレは書けたらで〜(滝汗)
う〜・・・久々にパロって見ると難しいなぁやっぱり。
次はいつお会いできるでしょうか。
またの機会に・・・・!
Saitou Chinatsu* 2002/10/11 up!