A*H

狂皇子討伐編

*Liar*


2

「っや・・・、もう・・!」
「ダメ。・・・まだ離してあげない」
涙と汗で濡れたオミの顔は、もう立派な同盟軍リーダーのものではなかった。
頬を真っ赤に染めて、組み敷かれて鳴いているその姿はセフィリオだけのもの。
「我慢してたんだ。初めて会った時から・・ずっとね」
解けた包帯の下、傷ついた肌をそっと舐める。
それだけで、オミの体は波打つのだ。
流されまいと抗う姿が可愛い。
だから、止まらなくなる。
「も・・・離し・・・っ、あぁ・・っ!」
弱い場所に指を滑らせる。耳、首筋、背中、脇腹・・・。
でも本当に欲しがってる場所には触れないで、焦らして、欲しがらせた。
「ね、オミ。言って?」
仕草や態度で示すものに、嫌悪的な印象はない。
だから、言葉で欲しかった。
「・・・な・・にを・・っ」
「僕に・・・どうして欲しい?」
オミは首を振る。
言えないと首を振る。
目から零れる涙が、肌を濡らして。
「言わなきゃ・・・ずっとこのままだよ?何でもいい。『僕』に、言ってみて」
確かな言葉じゃなくてもいい。
本心からでなくてもいいから。
『僕』に向けて、『言葉』を伝えて欲しいと。『心』をさらして欲しいと・・・・。
「い・・じ・・わ、っる・・!」
「それに欲張りなんだ。『体』だけじゃなく、『心』も欲しい」
真っ白になるまでシーツを握り締めたオミの手を解いて、指を絡めた。
「オミの『言葉』で、聞かせて?」
強く握って、口付ける。
「あ、なた・・・なんかっ・・」
深くにまで沈められたセフィリオを全身で感じて、上手く喋れない。
自分の声でさえ下肢に響いて堪らないのだ。
何もかも奪うような動きは収まっているものの、熱い脈動は嫌と言うほど感じている。
なまじ動かない方が辛いかもしれない。
意識がはっきりしているせいで、差恥や意地が先に立つ。
セフィリオは、言うまで動かないだろう。
解放してくれることもなく、ずっとこのまま・・・・。
「・・・――っ!」
「・・・よく言えました。ご褒美・・・あげるよ」
開始された律動はセフィリオ自身も耐えていたかのように激しいもので。
オミはもうそこから意識を飛ばしてしまっていた。
最後に微かに聞こえた、セフィリオの声。
「でもやっぱり・・・オミは、嘘つきだね」




-----***-----




「・・・ぁ・・っ・・・ぃた・・っ!・・い」
軽く目が覚めて、それでもまだ休息を欲しがる体を寝返らせた。
その途端走った激痛。その痛みに昨晩の記憶が一気に蘇る。
一瞬で真っ赤になった耳に、後ろから囁く声と共に呼気が吹き込まれた。
「・・・おはよ」
「うわぁっ!」
「その反応、可愛い・・・」
くすくすと笑っているのは、記憶に嫌なぐらいこびり付いているセフィリオだ。
上半身は裸のまま、ずっとオミの寝顔を見ていたらしい。
居心地の悪さを感じてかオミはもぞもぞと起き上がる。
そして何かにはっとしたように目を開けると、そのまま冷めたいつもの顔に戻った。
「・・もう、離れて下さい」
「・・・そっけないなぁ。昨日はあんなに可愛かったのに」
「・・・っ!」
肩肘を付いて微笑むセフィリオは同じ男として嫌気が差すほど・・・・格好良かった。
平静を保っていたが、それさえも簡単に崩される。



誰の前でも強くなければいけないのに。
弱みなど・・・見せてはいけないのに。



真っ赤になったと思ったら、ベッドの上で座り込んでしまったオミに手を伸ばした。
「オミ?」
「触るな・・っ!」
思わず出た拒絶の言葉。
辛そうに顔を歪めて、ベッドから降りてしまう。
何も身に付けていないから、日光の差し込む部屋にオミの体が眩しく映った。
「・・・オミ?」
おぼつかない足取りで、壁際に逃げる。
オミのその行動が読めず、セフィリオはその後を追いかけた。
「近寄らないで!駄目・・!駄目なんだから!!」
「オミ・・ッ!」
部屋の隅に座り込んで、顔を覆うオミ。
体を抱きしめて震えているその様子は、見ていてとても辛い。
何かに怯えているようにも見えた。
俯いた首の辺りに見える、赤いシルシ。
昨夜付けた、自分のものだと言うアカシ。
「・・抱いたのは、謝らないよ」
ゆっくり近付きながら、セフィリオは声をかける。
オミはその言葉には反応しなかった。
「ねぇ、何に怯えてるの?オミ・・・」
「僕は・・・リーダーだから・・この城の主だから・・・!!」
「だから、何?」
「っ?!」
怯えるその腕を取って引き上げ、壁に貼り付ける。
折れそうに細いこの腕に、抱きしめればまだ柔らかい肩に全てが圧し掛かっているのだ。
正面から覗かれて、オミは辛さに顔を背ける。
「リーダーだから?主だから?」
顔を背けたために顕になった首筋に、唇を落として。
「それに何が関係あるの?」
驚いて振りむいた唇を、舌で絡め取る。
「・・ん、ん・・・ぅっ・・・!」
唇を塞がれて、息を奪われて、それでも抵抗を続けるオミ。
セフィリオを見るハシバミ色の目に嫌悪感はない。
だからこそ、オミの抗う理由がわからない。
慣れないキスに息を荒げたオミは、静かに泣いていた。
見ても涙は流れていない。
奪うようなキスを止め、柔らかく口付ける。
オミの中で音を立てて流れる涙を止めようと、優しく。
そのうち抵抗は軽くなり・・・オミの体から力が抜けた。
支えて、抱きしめる。
「オミはオミだ。僕にとって戦争も城も関係ない・・・ただのオミ」
その言葉に、びくりと細い体が波打つ。


「それが、僕が欲しいと思ったオミだから」


その言葉に、今度はオミの目から一筋、光が流れた。
「あ、あれ・・、ダメだ、泣いちゃ・・っダメなのに」
慌てて涙を拭うオミ。
しかし、もう片方の手でしっかりとセフィリオに縋り付いている。
セフィリオは涙を拭うオミの手を取って、額に口付けた。
「こっちが、オミの本当の姿?」
泣き虫で、意地っ張りで、甘えることが好き。
「僕は大歓迎だよ。嘘つきなオミ・・」
セフィリオの腕の中で、オミは同盟軍のリーダーになって初めて、涙を流した。




-----***-----




オミがリーダーではなくなるのはセフィリオの前でだけ。
怒りをあからさまにぶつけてくるのも、セフィリオだけに。
泣くのも、甘えるのも、縋り付いて鳴くのも・・・セフィリオだけに。
これだけ全身で誘ってくるくせに、オミは相変わらず・・・。




「あなたなんか、大っ嫌い!!」

「オミは、嘘つきだからね。でもいつか・・・」




城内でばったり会った時、話し掛けてからかったら、こう怒鳴られた。
オミはまだ、セフィリオの事に付いて気持ちが纏まっていないらしい。
やるだけはやったがそれも気持ちの上では複雑なようだ。
気になってはいるようだが、『好き』かときかれたら、オミの返事はいつも『大嫌い』



キスを奪おうとして張られた平手打ちが痛む頬を摩りながら、セフィリオは不敵に笑う。



「オミに僕を『好き』だって言わせてみせるよ」


END

⊂謝⊃

 さてさて。とってもお久しぶりな幻水です。しかも初裏です。(笑)
 不特定多数の皆様(笑)、どうもお待たせ致しましたv坊主セフィリオ×オミside裏でございます。
 このサイトに来てるログを見てるとブックマークの次に多いのが、坊主リングからのお客様!
 もの凄く嬉しい反面、もの凄く焦ってました。うん、難産だったなこの話も・・・。
 最初のページの半分が携帯メール打ちでそこからなんとか文章にしてあれやこれや繰り返して・・・。
 ネタがあればさらさら書けるんですけども、大抵のネタってもう書かれてるもの多いしなぁ。
 そうやって悩んでる間に日にちはどんどん経っちゃうんですけどね。
 うーん・・・どなた様か、坊主のネタ下さい。(笑)あ、ちなみに『Liar』とは『嘘つき』っちゅーことでス。
 では、また会える事を願って・・・っ!(切実)

 Saitou Chinatsu* 2003/03/05 up!