A*H

ティント編

*あいたい*












「大切なものなんて」
守れないのなら、初めから、ない方がいい。







けれど、もう遅過ぎたのかもしれない。














「・・・この城をこうやって見上げるのも、2度目か・・・」
朝日も昇りきらない薄明るい朝もやの中を、荘厳なる城を見上げながら呟いた。
「いつになるかな・・・今度は」





前回は三年だった。
世界をただ一人で歩き回って。
旅の途中の噂話で、このトランの国のことも聞いた。
新しい王は良く頑張っていると。
任せて安心だと、なおさらトランから離れるために足を進めた時期もあった。
その頃か。
また、争いが始まったと訊いたのは。
「今度は都市同盟とかの大国ハイランドが揉めてるらしいですぞ」
「ふーん・・・」
さして興味もなかった。
だから、酒場の爺さんの言葉も、あまり聞いていなかった。
ただ。
「なんと!都市同盟の軍を支えているお方が、『真の紋章』を右手に宿した、まだ少年だそうじゃ!」
「・・・へぇ・・・?」
真の紋章を宿した少年。
その言葉だけ、やけに大きく聞こえた。
それは、天魁星に選ばれた証。
「おまえさんもここに来るまで色々あったんじゃろうて。色んなものを見てきた目をしとる・・・」
もしかして気付いているのではないかというように、しみじみと言う老人をただ見つめ返した。
















色々。
そう、色々あった。
それはもう、過去の話。
逃げるように去ってきた、遠い国の話。
「新しい、天魁星か・・・・」
自分と同じ運命を辿るのか。少し興味があった。
「行ってみようか、その少年を見に」
願わくば。
同じ道を辿らん事を。




















つくづく、ひねた性格をしていると思う。
同じ『運命』を持つ少年に、自分と同じ思いをして欲しいなどと。
苦しめばいい。悲しみに囚われて。
その苦しむ姿を見たら、自身の苦しみは少しでも癒されるのではないかと。
だから、会いに行った。


「初めまして二代目天魁星。僕は初代天魁星、セフィリオ・マクドール」


思った通り、歓迎はされなかった。
からかったら、思いきり頬を殴られた。
けれど、思わぬ誤算もあった。


『オミは、僕がもらうから』


始めは冗談のつもりだった。からかって、笑う程度の。
けれど、予想外の反応に、更なる興味が湧いた。
彼という本質を知る度に、激しくなる独占欲を抑えきれなかった。
無理やり、体も開かせた。
抱かれ慣れた、体だった。
その事については、一度も触れていない。
オミは、気付かれていないと思っているようだったから。
問い詰めて、自分以外の相手の名がその口からこぼれるのを恐れて。
気付かない、振りをした。
だから、オミも何も言わない。




その時はただ、オミが欲しかった。
今も、オミに。


「あいたい・・・」


なんて。




自分から、背を向けたくせに。














守れないのなら、傍に居ても仕方ない。
そもそもこのままでは守るどころか、セフィリオ自身がオミを害してしまいそうだった。
セフィリオ自身・・・いや、その力『ソウルイーター』
近親者の魂を好んで食し、所持者に永遠の命の呪いをかける真の紋章のひとつ。
だから、離れた。
オミが、何かに気付いてしまったから。
自分も、気付いてしまったから。
これ以上傍に居られないと。
オミの前から逃げ出して、西へと向かった。




-----***-----




「それにしても、この敵は・・・」
洞窟で体を休めようと入り込んだのはいいが、どうやら炭鉱所と繋がっていたらしい。
わらわらと出てくる死人の体は腐敗して、あたりに嫌な匂いを撒き散らす。
この敵には見覚えがあった。
ビクトールと共に倒したはずの。
「ネクロード・・・?」
まだしぶとくも生きていたらしい。
これも何かの運命か。
襲い掛かるゾンビの集団を右手を翳して消滅させる。
「今度こそ、出る事の出来ないあの世に送ってあげるよ」
まとった幅の広い布をマント代わりに翻して、さらに奥へと進んだ。
「たまにはこういう人助けも、悪くないかな」
オミの性格がうつったのだろうか。
困っている人を放って置けない性質なのか、よくよく厄介ごとにひっかかっていた。
「・・・オミ」
今、君は何をしているんだろう。
さよならも言わずに、君の手を離した。
さぞ、憎んでいる事だろうけれど。
思い出したら、止まらなかった。
「・・・本当に、逢いたいよ。今、とても君に」




けれど、逢ってしまったら。
もうそこから引き返せないと分かっていたから。


あいたいけれど。
もうあえないだろうと。









END

⊂謝⊃

Σ短っ!!
ネクロード対決の続きです。あれだけ引っ張ってこの短さです。・・・ダメじゃん?(汗)
しかしながらティント編という意味がない気がします。(笑)
ティントでのイザコザ(?)は萌え要素たっぷりなので、非常に好きなのですが・・・!
あ、ネクロードファンの方!続きは見ない方が良いかもしれません。(何)
だってここは坊主なんです!彼には少年も襲ってもらうので★(オイ)
そしてジェスファンの方も・・・ちょっと扱い悪いんで。(はい俺はジェスさん好きじゃないんです/苦笑)
あと・・・セフィリオさんが、どんどんヤバイ方へと変わっていきますので。(何)
一人称変わっちゃったよ俺とか言ってるよ二重人格かよお前どうしよう〜・・・。
・・・あぁネタばらしちゃったよ・・・(笑)


斎藤千夏 2003/08/17 up!