A*H

ティント編

*休息片刻*












オミを腕に抱いたまま、同盟軍の味方がまだ移動していないこと祈りつつ、セフィリオはクロムの村に足を進めた。
オミの熱はそう高くないのが幸いだった。
近くの川で簡単に身を清めてからだったためか、村に着いた時には既に日も落ちてからさらに数刻後であった。

「あれは・・・?」

村の入り口でそんな囁きが聞こえたが、もちろん無視する。
ちら、と見えた先には、闇に紛れて人が立っていた。

「あの、もし!」

明らかに無視したのだが相手は諦めなかったようだ。

「・・・何?」

仕方なく足を止めて振り返る。さりげなく、抱いているオミを隠すようにして。
声を掛けてきたのは、全身黒尽くめの男だった。
この夏真っ盛りの暑い土地で、黒のコートを纏っているこの男の気が知れない。
と言うか、怪しすぎた。
時刻はもうすぐ0時を過ぎる深夜。
何が目的で声を掛けたのかは知らないが、一応睨んでおく。

「あ、いや!怪しい者ではない。その方はもしや、オミ君ではありませんか?」
「オミ・・・『君』?」

オミを同盟軍の軍主と知る者は、そんな敬称をまずしない。

「・・・・で。あなたは?」

相手に腕の中の人物がオミだと確信させることは後に回して、セフィリオはにこやかに尋ねた。
その余りもの顔の良さに、男は少々たじたじしながらも、はっきりと言う。

「いや、これは失礼を。私はカーンと申します。ネクロードを追っているバンパイアハンターです」
「!」
「オミ君・・・いえ、同盟軍の軍主になられたとか。オミ殿には一度、ノースウィンドウで手をお借りした事があるのです。私は、代々ネクロードを倒すためだけにこの道を鍛えた者。ネクロードとの決着の時にはもう一度手を合わせると約束していたのです」

どうやら嘘は言っていないようだった。
見た目はかなり怪しいが、悪人のようでもない。

「セフィリオさん!オミと仲直り出来ました?」

声を聞きつけたのか、こんな深夜であるにも関わらずナナミが走ってくる。
寝ずに、ずっとオミを待っていたのだろう。
目が少々赤かった。

「・・・内緒だって言ったのに」
「え、でも。仲直り、したかったんじゃないですか?」

何が喧嘩の原因か知りませんけどv

「・・・そう、だね。仲直りは・・・多分出来たよ」

あとは、セフィリオの心構え次第だ。
オミが飲み込まれないように、制御しきるだけ。
ふと、ナナミが視線を廻らせて、所在なさそうにしていたカーンと目が合った。

「あぁっ!カーンさん!お久し振りですっ!!」
「ナナミさん。ネクロードの件、約束を果たしに来ましたよ」




-----***-----




昨夜はもう遅いと言う事もあって、会議は翌朝に持ち越された。
太陽が、微かに南へと移動し始めた頃。

「おはよう!いい朝だねオミ」
「うん、おはよう」

オミも、ナナミに起こされる前には目を覚ましていた。
少々悲鳴を上げる体を起こして、周りには何事もないように見せている。

「・・・あの人は?」
「戦いには手を貸すけど、会議に自分は不必要だって」

そういって、釣りをしに行っちゃった。

「・・・ノンキだよねぇ。でも、あの人らしいかっ」

あははと笑うナナミと一緒に少し笑ってオミは思う。
まだいくつか話さなければならない大切な話がある。
彼が待っていてくれるなら・・・けれど、ゆっくりと話したい大事な事だ。

「そうだね。じゃあ僕たちは作戦たてに行かなきゃね」
「うん!」

オミの笑顔が戻った事に、ナナミは嬉しげに笑う。

「やっぱり、オミは笑ってる顔がいちばんだよ!」
「そ、そうかな」

そう言ってくれるナナミの笑顔に、オミは救われているのだが。

「起きてきたか!飯食いながら話すぞ。ちょっと時間がないからな」

大声でそういうビクトールの声に、慌てて彼の座る隣へ腰掛ける。

「あ、ごめんなさい。ゆっくり寝すぎてて・・・・」
「いや、責めてる訳じゃないさ。ある程度話は固まってるから端折っていくぞ」
「うん、お願い」

ナナミは、うんうんと頷いていた。
軍主としても個人としても、オミに無理がなくなった。
昨日までのそわそわした・・・落ち込んだような空気がなくなっている。
少し気になることはあるけど、オミが元気ならそれでいいと思った。

「ナナミ。これ持って行ってやんな」
「あ、ありがとうレオナさん!」

2人分の朝食を渡されて、ビクトールと話しこんでいるオミに渡す。
もちろんもう一人分は自分のものだ。

「・・・・てな訳でな。ティントは落ちて、ジェス、ハウザーと・・・覚えてるか?グスタフの娘のリリィ。そしてロウエン。あの灯竜山の姉の方さ。大きく言えばこの4人が全くの行方不明だ」

他にも、帰ってこなかったものは沢山いるのだが。
ハッキリと面識がある面子の中では、リリィとロウエンには何故か引っかかるものがある。

「・・・・花嫁」
「は?花嫁だ?それがどうかしたか?」
「うん、多分・・・・その2人はネクロードに攫われたんじゃないかな。だから、生きてると思う」
「ネクロードにだと?!」
「・・・・詳しくは後で話すけど、あいつ、"花嫁"を探してるみたいなんだ」

花嫁と言う名の、生き血を吸う為と伽の相手なのだが。
食べていた手を止めて、急にナナミがビクトールに詰め寄った。

「そうだよ!私もオミも花嫁になれー!って襲われたもんっ!!」
「うわ、ナナミッ!ちょっとそれは・・・」
「マジかよ?!よく無事で・・・ん、花嫁?・・・・・・・・・オミ、お前がなのか・・・?」
「・・・・・・・言われたけど、知らない」

何となく男のプライドとして、悔しい気がするのだ。
だから後で話すと言っていたのだが。

「ごめーんオミ!気にしてるなんて思わなくて・・・」
「いいよもう・・・。ところで」

オミは、先ほどから前に座っていながら何も話さないカーンに目を向けた。

「約束・・・ネクロードを倒す方法を見つけてくる・・・と言ってましたけど」

少し言葉を濁して尋ねたオミに、カーンは頷いて言う。

「えぇ。見つかりました。・・・けれど、それにはもう一人助力を乞いたい方がいるのですが・・・」
「人?もう一人って・・・」
「この近くにもういらっしゃってるようなのです。もしかしたら、あの方も私たちと目的は同じかと・・・」
「ネクロード、ですか?」

こくりと頷いて、カーンは言葉を続ける。

「そうです。ネクロードの持つ紋章、ご存知ですか?」

そういわれて、オミは目の前で見せられた紋章を思い出す。
綺麗な、美しい紋章だった。
あんな汚らわしい者には相応しくない、孤高なる紋章。
そう、直感で感じた。

「・・・・はい。月の形をした蒼い・・・」
「『蒼き月の紋章』・・・吸血鬼を生み出すと言われる『27の真の紋章』のひとつです。あの紋章で呪いをかけられた人間は、誰でも逃げる事も出来ずに吸血鬼になると言われています。今回、私が助力を乞いたいと思っている方は、その正当なる持ち主の方なのです・・・」
「正当な、持ち主?・・・・と言う事は、その相手も」
「はい。もちろん吸血鬼ですよ。それも、始祖と呼ばれるお方」
「・・・・・吸血鬼の・・・始祖」

少し想像出来なかった。
オミが知ってる吸血鬼と言えば、血に飢えた残忍なネクロードのみだ。
その、始祖と呼ばれる存在。
怖くないなど、とてもじゃないが言えなかった。
急に黙り込んでしまったオミの肩を、ビクトールは軽く叩いた。
瞬間びくりと顔を上げたオミに、ビクトールは明るく笑う。

「誰もがネクロードみてぇな最低野郎だとは限らねぇよ」
「そうですよ、安心してください。彼女は紋章の庇護下にあるので、生きるために他人の血は必要としません」
「え?吸血鬼なのにですか?」
「・・・・・・よくそこまで調べたな」
「え、ぇえ。全てはネクロードを完全に倒す為ですからこれ位は・・・・」


「そうは言うても、勝手に人のことを調べられるのはあまり良い気がせんのぉ」


「「「?!」」」

急に間近で声が聞こえたと思えば、直ぐ傍に髪の白い少女・・・いや、女性が立っていた。
その肌も抜けるように白く、瞳は赤い虹彩を放っている。
明らかに人外のその出で立ちに、その場に居たものは全員息を飲んだ。
その横には、片手にまだ手製の竿を持って、何気なく立っている彼がいた。

「・・・セフィリオ?」

驚いて声を上げたオミに、ゆっくりと笑って見せた。

「ネクロードの件でここまで来たらしいよ。どうせならと思って連れてきたんだけどね」

もしかしてグッドタイミング?

「おぉよくやったじゃねぇか!まさにその通りだぜ!!」

ビクトールにバンバンと背中を叩かれながらも、セフィリオは軽口を言って笑っている。
あの、『地』はまた隠すつもりなのだろう。
ちょっと似合っていたのになんて、不謹慎な事を考えては慌てて首を振るオミ。

「・・・どうかした?」
「・・・何でも」

ふいと顔をそらしたのは、少し赤くなっただろうそれを隠す為。
けれど、その瞬間に、ほんの刹那だったが、唇が触れた。

「っっッ?!!!」
「・・・不安なんだ。ダメ?」
「・・・・・」

余計性質が悪くなっているような気がする。
幸いにもビクトールを初めカーンもナナミも突然現われた始祖様に掛かりっきりで、誰も見てはいなかったのだが。

「マリィ家の倅か」
「はい。・・・もう私が当代になるのですが、初めてお目にかかります、シエラ様」
「うむ。さて、おんしら。わらわに何か手を貸して欲しいとな」
「あぁ、頼む!ネクロードの野郎を叩きのめしてぇんだ!手を貸してくれねぇか?」
「そうさの・・・。おんしらがわらわの足手まといならんと言い切れるのなら考えんこともないが・・・」

ぐるりと視界を回して、ビクトールたちの顔を見ていくシエラ。

「・・・・おや?」
「・・・・・・・・?」

ふと、シエラがオミに視線を止めた。
じっとその赤い瞳に見つめられて、オミは背中に冷たい汗が流れるのを感じる。
「こやつか?」
「そう」

直ぐ傍まで近づいてきたシエラは、セフィリオに何か確認をとると、静かに頷いた。

「・・・我等には求めても手に入らない血の持ち主じゃな。狙われんかったか?」

ネクロードに血を。

「えっ?!」
「・・・・・微かに紋章の呪縛の跡も残っておる。そこまでしてでも手に入れたい特殊な血というものがあるんじゃ。吸血鬼にはの・・・」

ス・・と肩口に近づいてきたシエラに、オミがただ呆然としていると、思いきり腕を後ろに引っ張られた。
そのまますぽんとセフィリオの腕の中に収まってしまう。
何が起きたのか良く分かっていないオミは、そのままの体勢で硬直していた。

「ダメ。そう最初に言いましたよ僕は」
「・・・?」
「・・・味見ぐらい許してくれてものぅ。ケチじゃのぅおんしは」
「あ、味見・・・?」
「気を抜かないで。・・・また、『俺』と会いたい・・・?」

手ひどく扱われた昨日のことを思い出して、オミは首を振る。

「そう?てっきり惚れ直したかと思ったのに」
「・・・っ!!!」
「ラブラブじゃのぅおんしら」
「うわぁ!!いきなり何を言うんですかシエラさんっ!!!」

からからと笑う彼女に泣き付いていると、ふと上階から足音が降りてきた。

「シュウ軍師と連絡が取れました・・・が、どうしたんです?」

会議をしていた筈なのに、どこか雑談のような和やかな空気が流れているのに、クラウスは驚いてそう言った。

「・・・あ、あの。私シエラと申します。此度ネクロード退治の件で手を貸して欲しいと言われましたの」
「そ、そうですか・・・。よ、宜しくお願いしますね」
「はいっ!あの、貴方様のお名前は・・・・?」

急変したシエラの態度に、全員が唖然だ。
クラウスはクラウスで、急に懐かれたものだから全く焦る一方。

「・・・あ、まぁ。そういうことになったらしい」

いち早く回復したビクトールがそう締めて、もう一度計画を練るために会議を再開した。










END

⊂謝⊃

 休息片刻  タイトル訳:ひとやすみ


 閑話です。休憩話ってところですか。
 ・・・・・今までのシリアスはどこへ。(汗)
 閑話だからいっかな★とか・・・・ダメじゃん?(汗)
 わ〜!!!シリアス目当てで読まれてた方すみません!
 すっかり打ち解けてますよセフィリオ&オミ!!
 なんかラブラブ光線出しまくってましたよ?!!
 ・・・・・本当に?(ぇ)
 だって、閑話ですからv(オイ)
 この先どうなるかは・・・・・・神様でもわかりません。(俺の脳内次第★/笑)
 そして・・・カーンさんの口調が適当でス。すいません!<(_ _)>


斎藤千夏 2003/08/27 up!