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オフラインコピー本『×ゲーム』

発刊日:2004/01/11|仕様:A5コピー26P





「じゃあ、ゲームをしようか」
「ゲーム・・・?」
突然言われた言葉に思考がついて行けずに、オミは聞き返した。
少々不安げなオミの表情に小さく笑ったセフィリオは、頷いて言葉を続ける。
「そう、ゲームだよ。でももちろん、罰ゲームは有りだからね?」


『×Game』





快晴。
清々しいほどの、青空の下で、オミは大きく背伸びをした。
「オミー!いっくよー?」
「あ、っちょっと待っ・・・っぷは!」
「あはははは!」
執務の仕事ばかりしているオミを見かねて、シュウがくれたたった一日の休日。その休日を、オミは久し振りに体を動かす為に使おうと決めていた。
そんなオミを外のデュナン湖へと連れ出したのは、ナナミと城下のまだ小さな子供達。
空が青々と晴れ渡っている室外は、それでもとても寒くて。
剥き出しの手の平が真っ赤になるほど、地面に降り積もったそれは冷たい。
「ナナミ・・・。いきなり投げるなんて卑怯だ」
「そう?避けられるでしょ、オミなら」
きゃっきゃと笑いながら、手の平で固めた雪の塊を再び投げてくる姉。
ナナミの横には、城下の子供達も一緒にいるのだから、オミは反撃さえ出来ずにただ投げられる雪球をことごとくかわしていた。
「おねーちゃん。あれじゃオミさまかわいそうだよ」
「・・・うーん。やっぱり、反撃の余地がないってことは、かわいそうかな」
えへへとナナミが笑った所で、オミを狙った雪球攻撃も終わりを見せた。
が。
「・・・っ!」
ナナミたちの方を向いているオミの頭を、雪球が一球、すれすれで通り抜けていった。
雪球が飛んできたのは、勿論後からで。
とっさに避けたオミは、慌てて後を振り返る。
「相変わらず、反射神経良いね」
「セフィリオ・・・!」
城の門の前でくすくすと笑っているのは、セフィリオだ。
いつもの服装の上に、暖かそうなマントを一枚。
右手には黒い棍を携えて、いつも通りの彼はそこにいた。
「あ、セフィリオさんこんにちは!」
「こんにちはナナミ。相変わらず元気だね」
ナナミに笑顔を向けて、微笑むセフィリオ。
それが作り笑いだとわかっていても、オミは少しむっとした。
「もちろんです!それが取り得ですから」
にっこりとナナミが返した返事に、セフィリオはそれもそうかと笑う。
もやもやした気分を何とか宥めて、オミはセフィリオの腕を引き寄せて尋ねた。
「でも、どうして、いきなり?」
オミがわざわざトランまで迎えに行かなくても、こうやって彼の方から訪ねて来る事の方が多いのだ。
突然訪ねて来られることは初めてではないけれど、やっぱり少し気になるので聞いてみるオミだ。
「うん?」
「突然来るから。何か用があったの?」
オミがそう尋ねても、セフィリオの視線は楽しそうに遊ぶナナミと子供達を追っている。
けれど彼の顔は穏やかで。
珍しいその表情に、オミは少々目を見開いて驚いた。
誰を見つめてそんな表情になるのか、少々不安になって、オミは名を呼ぶ。
「セフィリオ・・・?」
「・・・会いたかったってそれだけの理由じゃダメ?」
「は・・・」
内緒話をするように耳元で囁かれて、いきなりの台詞にオミの頬は真っ赤に染まる。
「オミは?」
「・・・え?」
「『寂しかった』って言ってくれないの?」
「・・・!」
くすくすと笑いながらのキス。
掠めるようなそれには、きっと周りの誰も気付いていないだろうけど。
確かに触れた、少し冷たい唇。
「・・・冷たい」
「ひどいな、久し振りなのに」
そう言いながらも、セフィリオはずっと笑っている。
オミは彼の顔を見上げるようにして、腕を伸ばした。
「冷え切ってる・・・」
頬に手を伸ばして軽く撫でるとまた、嬉しそうに笑うセフィリオ。
「それはね。深い森を抜けてきた訳だし・・・」
ここは水辺だから寒いしね。
オミ自身の手も冷え切っているが、それ以上にセフィリオは冷たい。
「ナナミ!僕部屋に戻るよ」
「えぇ?せっかくのお休みなのにー?」
「うん、ごめんね」
「仕方ないかー。じゃあ、またお休みの時にね」
ナナミたちが手を振ってくれるのに笑顔で返して、オミは自分の部屋までの帰路についた。
「・・・・オミ?」
冷たく冷えた、セフィリオの手を引くように引っ張りながら。


***


「今火を入れますから」
部屋に着くなり、乾いた布を渡されて、恐らくこの部屋の特等席だろう暖炉の前に座らされる。
オミの方から人前で手を繋いでくれた事自体がとてつもなく珍しいと言うのに、この扱い。
「別に、平気だよ?」
「でも、寒いの苦手でしょう?」
都市同盟と違って、南部にあるトラン共和国。
その中心にあるグレックミンスターは、当たり前だがこの城より人が多く住む都会だった。
その街で生まれ生きてきたセフィリオが、寒さに弱いのは当たり前で。
「こんな雪の日に外に出るなんて、今まで一度もありませんでしたから」
「・・・・そうだっけ?」
「そうですよ」
暖炉に火を入れ終えて、小さく火が爆ぜたのを確認してから、オミは振り向いた。
「濡れたままの服着てて、寒くないですか?」
「・・・・オミこそ、そんな薄着で平気?」
オミはと言えば、いつもと変わらない胴着姿なのだ。
あの雪の中で遊んでいた時も、今も。
寒空の下で、素肌を出していても、平気な顔をしているオミ。
「・・・僕は、慣れてますからね。ここはキャロより暖かいですから」
「・・・そうか」
キャロと言えば、都市同盟のもっと北。
今オミたち都市同盟軍が戦っている敵国・ハイランドの辺境にある小さな村だ。
そこで、オミとナナミは幼少を過ごした。
生まれがその村ではなかったけれど、家族3人で慎ましくも暖かく暮らしていたのは事実だった。
「道場は風通しが良かったから。それに暖炉なんて無くて。寒い時はナナミやじいちゃんとくっついて寝たりしてたんですよ」
平然とオミは言うけれど、セフィリオにはそれがどんな暮らしなのか想像出来なかった。
彼は元々裕福な軍人の父の元に生まれた。
小さい頃から、自分の世話をしてくれる人もいた。
恵まれた幸せな生活をしていたからこそ、セフィリオは街を追われた三年前、ひどく傷付いたものだ。
けれど、たった一年。
オミに近い生活をしていたのは、解放軍を率いて戦争をしていたたった一年だけだ。
「そんな深刻な顔しないで下さい。別に僕が不幸な訳じゃないんですから」
確かに、オミより辛く過酷な生活をしている人は、今現在も存在する。
オミはまだ恵まれていた。
血の繋がりは無いけれど、支え、愛してくれる家族がいたから。
「僕は・・・・幸せでしたよ」
「・・・・うん、ごめん」
そんなオミを哀れむなんて、それこそがエゴだろう。
彼に同情はいらない。
必要なのは・・・・。
「おいで」
広げられた、温かい腕。
「・・・・・」
いつもは文句を言い、絶対近寄ってはくれないけれど。
今日は寒いから。
二人とも、まだ濡れたままだから。
「おいで、オミ」
もっと傍に。
ゆっくりと近づいてきた体を、閉じ込めるようにその腕の中に抱きしめた。
「セフィリオ・・・」
「なに?」
「冷たい・・・」
「ひどいな。暖めてあげようと思ったのに」
「それ、さっきも言いませんでした?」
「そうだったっけ?」
顔を寄せ合って、二人で小さくくすくすと笑う。
挨拶の様に瞼や額に何度かキスを繰り返して、擽ったそうに目を細めたオミの唇を塞ぐ。
「・・・ん」
深いものではなくて、すぐ離れたけれど。
「少し、暖まった?」
「もう、冷たくない?」
同時に言い合って、また笑う。
ふと、縋っていた服が冷たい事に気付く。
「濡れたままでいたら、また風邪引きますよ?」
前に一度、雨の中出かけた所為で風邪をこじらせた事のあるセフィリオだ。
あの時より寒い今、濡れたままにしていたらまた風邪を引くかもしれない。
そう思って、オミは濡れたままのセフィリオの服に手をかけた。
ゆっくりと纏っている服を開いていたら、ふとその手を捕まれた。
「・・・・オミ、これって誘ってるの?」
「え?」
「オミが、暖めてくれるんだよね・・・?」
「・・・・っ!」
改めて、今の体勢に気がついたオミだ。
セフィリオの胡座を組んだ上に跨るように座って、背に腕を回されて抱かれているこの状態。
そして、正面では、自分が肌蹴させた服の合間から、セフィリオの素肌が見えていて。
「ち、違・・・・・・っん!」
今更気付いても、もう遅い。
何時の間にか腰を締める帯は外されて、開かれた合間から入り込んできた冷たい手に、オミは身をすくめた。
「だ、駄目だって!」
「なんで?」
「何で、って!こんな時間から・・・ッ!」
外はまだ明るい昼下がり。
気持ちの良い時間だが、こんなに日が高い時間からと言うのは流石に気が引ける。
「・・・・嫌?」
「・・・・そうじゃないけど、でも」
駄目だと思う。
小さく呟いたオミに、セフィリオは少し悩んで、そして笑った。
「じゃあ、ゲームをしようか」
「ゲーム・・・?」
突然言われた言葉に思考がついて行けずに、オミは聞き返した。
少々不安げなオミの表情に小さく笑ったセフィリオは、頷いて言葉を続ける。
「そう、ゲームだよ。でももちろん、罰ゲームは有りだからね?」

***

今まで、そういう雰囲気になってセフィリオが止めてくれたことなんてあっただろうか。
いや無い。
確実に、無い。
頭の中ではそれしか考えてないんじゃないかと思いたくなるほど、彼の手は必ず触れてくる。
髪に、頬に、唇に。そして全身へ。
「・・・ん、ぅ・・・っ」
「駄目だって。もう始まってるんだよ?」
こめかみに寄せられた唇から伝わって、耳の奥へと響く。
今は、そんな些細な振動さえ、オミにとっては辛かった。
小さく震えた体に苦笑して、セフィリオは止めていた指をもう一度動かし始める。
片腕で背中を強く抱かれて、オミに逃げる事は出来ない。
少しきつい睨むような視線を向けるが、正面のセフィリオはさも平然と笑う。
口腔に差し入れられた長い指を噛んでやろうかと考えが過ぎるが、仕返しが怖いので止めておく。
けれど、効果が無いと分かっていながらももう一度睨んでから、セフィリオの後にある時計に目を向けた。
まだ、三十秒しか経っていない。
「二分って、意外と長いよね」
からかうような声に、きつい視線をセフィリオに戻すが、同時に指を動かされた。
「!・・っ・・・ふ」
逃げるように動く自分の舌を追いかけて、指が蠢く。
セフィリオの指は細い方だと思うのだが、二本も咥えさせられては、流石に息が苦しい。
背中を支えていたセフィリオの腕は、いつの間にかオミの後頭部を押さえていて。
首を振って逃げようにも、その拘束は緩まない。
喉の奥を突付くように動くそれは、苦しいだけじゃなくて。
「・・・ん・・・」
呼吸より、身体が苦しかった。
ゆっくりと出て行く指を、無意識で少し舌が追う。
なんとなく物足りなくて、次の刺激はまだかと、視線を上げた。
「・・・・そんな顔してくれるのは嬉しいけど、俺の番は終わったよ?」
時計を指されて、あ、と小さく声を上げるオミ。
「・・・っなら、早く言って下さい!!」
「あまりにもオミが可愛かったからv」
くすくすと笑われて、頭を軽く撫でられる。
違う。
今欲しいのは、そんな刺激じゃなくて。
「さ、今度はオミの番。・・・・やれる?」
「・・・もちろん」
「期待してるよ」
「ぜったい、声、上げさせますから!」
秒針がきっちり十二を指したのを確認して、オミはセフィリオの額にキスを落とした。
これは、ゲームだった。
二分間だけ、唇と指を使ってなら、何をしてもいい。
その間、受ける相手は声を発してはいけない。
自分が受け身の時に声を上げたら、それで負け。
負けた方に待っているのはもちろん・・・・罰ゲームだ。
座ったセフィリオの前に膝を付いて立ち、頭を抱えるようにしてキスを下ろしていく。
瞼に唇を落として離れた後、うっすらと開いたセフィリオの鮮やかな蒼い瞳に、自分の姿が映った。
少し困ったような顔をしている自分が。
「・・・・・?」
「・・・・何でも、ない」
相手はセフィリオではないけれど、こういうことをした経験はあった。
・・・・・・それも、両の手では数え切れないほどの相手と。
こんな暖かい気持ちでこの行為が出来ると知ったのは、今目の前にいる相手と出会ってからだった。
それまでは、これはただの『仕事』で。
相手を喜ばせる事が出来れば、それだけ食べる物が増えたから。
「・・・・・・」
まだ少し心配げなセフィリオの頬を撫でて、彼の視界から逃げるように首筋へと顔を埋めた。
先程肌蹴たままの服をゆっくりと下ろして、肌をなぞるようにキスを落とす。
今まで抱かれた相手と同じ数・・・・いや、それ以上に、身体を合わせたその肌に。
腰を締めていた帯はもう取られているから、オミはセフィリオの肌にキスを落としながら、自分も胴着の前を開く。
すっかり肌蹴られた肌と肌が触れ合うのは、とても気持ちがいいのだが。
「・・・!」
オミが自分からそんなことをするなんて初めてで。
驚いて、少し目を見開いた。
「・・・経験は、沢山あるから」
恐らく、セフィリオ以上に。
オミ自身はあまり好きではないけれど。
知識としては、体験済みで知っている。
セフィリオは一瞬、手を動かそうとして、止めた。
彼は、同情など求めてはいないから。
「・・・っ」
ふと、肌に痛みが走った。
それは、次の瞬間快感に変わる。
確かに、オミは巧かった。相手を悦ばせる事なら、普通の娼婦でさえ敵わないほどに。
視覚的効果も、よく分かっているのだろう。
全て脱いでしまわず、動く度に服の隙間からちらちらと見える白い素肌が、相手を煽る事も。
「・・・、」
「・・・・・・・・あぁ、駄目だ。二分経ちましたよ」
思わず声が出そうになったその時、時計の秒針は十二をきっちり二度、回り終えていた。
「・・・危なかった」
「嘘臭いです。・・・・全然平気な顔してるくせに」
先とは違って、子供らしくむぅっと拗ねた表情も、可愛い。
どんな娼婦より艶のある表情をする相手は、まだ十五なのだとようやく思い出す。
先程伸ばしかけた腕を上げて、正面で膝立ちしたままのオミの肌に触れた。
「・・・っセフィリオ!まだ」
「・・・うん、じゃあ今からだよね」
カチリ、と秒針が音を立てて十二を過ぎる。
それを合図に、セフィリオはオミの細い腰を抱き寄せた。
目の前であんなに積極的なオミを見せ付けられて、反応しない訳が無い。
「・・っ!」
抱き寄せられて太股に触れた熱に、オミはびくりと身を竦めた。
「大丈夫・・・ゲーム中は手か、唇だけだから」
今はしないよ。
くすりと笑われて、オミはまた拗ねた表情をした。
セフィリオが驚くほど大人びた表情をするオミは、何故か行為が深くなるに連れて仕草が幼くなっていく。
それに自覚は無いらしいオミは、声を出さないよう堪えつつ、浅い呼吸を何度も繰り返していた。
たまに引きつったような呼吸をし、唇から溢れそうになる声を必死でかみ殺す。
「っ・・・――――!」
眉を寄せたその表情に、セフィリオ自身も下肢が熱くなるのを感じながら、笑うように囁く。
「まだこれからだよ?」
頃合を見て、セフィリオはオミの下肢を覆う布を取り払った。
今は呼吸する事が精一杯のオミは、その事には気付かない。
「・・・っ」
なぞるように臀部に手を沿わせ、閉じきったそこに濡れた指で触れる。
ひくりと動いたオミの体を更に抱き寄せ、後頭部に手を添えて下を向かせた。
「・・・っ・・・、ん」
斜めから、唇で唇を挟むように口付けて、擦り合せる。
小さく息を呑む音がしたが、これは声ではないからと無視した。
やるからには勝つつもりでいるゲームだが、堪える様子のオミを見ているだけでも中々に楽しい。
「・・・っ---、!」
キスの合間の息を吐いたその瞬間を狙って、指を一本差し入れる。
案の定、抱き寄せた体は大きく揺れた。
声を漏らすかと少しだけ唇を離していたけれど、オミは耐え切ったようだ。
「・・・ふ・・・はっ、・・・・・ん―――・・・ぅ」
小さく浅かった呼吸は、突然大きく喘ぐように変わる。
押し広げるように柔らかい内壁へ、もう一本指を差し入れたからだろう。
引き抜く動きと、奥を探って広げていくその動きに、オミの表情が変わっていく。
艶を帯びた、けれど、幼くあどけない表情に・・・。
「・・・オミ」
唇を合わせたまま囁いたその時、かくんと、オミの脚から力が抜けた。
「・・・もう、終わり、ですよ・・・」
時計を指差して、荒く息を継ぐ。
見れば、確かにあれからもう二分過ぎていて。
「・・・もう少しだったのにな」
そう言いながら指を抜いたセフィリオに、オミは小さく唇を寄せた。
「・・・・・」
抱き寄せられた耳元で、小さく囁かれた言葉。
「え?」
驚いて、もう一度聞き返すが、二度は言わないと言うようにそっぽを向かれてしまった。
けれどその横顔は、耳まで綺麗に朱に染まっている。
「・・・もしかして、二分じゃ物足りなかった?」
「・・・・・」
確認を取るようにもう一度聞くが、やはりオミからの返事は無い。
セフィリオも返事を期待していた訳ではないけれど、言葉の変わりにオミは表情で肯定を認めた。
「僕の・・・番?」
「そうだよ」
乱れた呼吸が治まって、暫く経ってから、腕の中のオミがそう声を上げる。
頷いたセフィリオにオミも頷いて、セフィリオのバンダナをしゅるりと解く。
同時に、カチリと十二を指した合図の音。
「・・・?」
解かれたそれで、オミはセフィリオの視界を遮った。
どうしてと疑問の表情のセフィリオに、触れるだけのキスをしてオミは帯に手をかける。
別に道具は使っちゃ駄目だとそう言うことも出来たが、あえて黙っておく。
オミが何をしてくれるのか。
それが、内心楽しみだと思っているなどということももちろん、秘密にしておくが。
「・・・?!」
腰帯を取られて、ある程度は予測していたが、急に触れてきた熱く濡れた感触に息を呑んだ。
「・・・っ、!」
うめく事も出来ず、その突然の強烈な刺激に、慌てて息を止める。
今呼吸などしていたら、確実に声を出してしまっていたかもしれない。
「・・・・セフィリオ」
「・・・・・・、」
甘えるような声音に、いつものオミの表情が重なって、思わず名前を呼び返しそうになる。
もう思いっきりオミの術中に嵌ってしまった訳だが、セフィリオは小さく笑った。
いつもつれなくて、抵抗ばかりするオミが。
聞こえる粘着質の濡れた音と、自身の身体で感じる感覚。
それだけで嬉しくて、もうゲームなんてどうでもいいように思えてきた。
「・・・ぁ・・ふ・・、ん・・・・」
視界を遮られるだけで、こんなに気持ちいいと感じるとは。
今のオミの姿を見たいと思うと同時に、いつものオミの姿が脳裏に浮かんでいくから不思議だ。
どんな表情で、どんな体勢でなど、手に取るようにわかるから。
ふと、今どれくらいだろうと考えて、息を吐く。
先程オミが耳打ちしたのは、時間を長くしてくれとそれだけだったのだが。
『二分』から伸ばされた『一分間』。今どれぐらい経ったのかは分からないが、三分は経っていないだろう。
まだ我慢しなければならないのかと、セフィリオは悩んだ。
手と口しか使ってはいけないのなら、今すぐ抱きたいけれどそれは叶わない。
オミは意地っ張りで強がりだ。これからも絶対に声を堪えるだろう。
それに待つのも惜しい。もっと余裕があれば、オミが声を上げるまで相手出来る自信はあるのだが。
「・・・・オミ、もう降参」
そう考えたら早かった。今は、少しの時間も惜しく感じる。
恐らくここだろうと言う場所に手を伸ばして、その柔らかい髪に手を伸ばした。
確かにそこにあったオミの頭は、驚いたように上を向く。
「・・・僕の、勝ち?」
「・・・うん、参った。降参」
両手を上げて笑って見せれば、オミが動く気配がした。
頭の後ろに腕を回されて、解かれる目隠し。
「・・・ホント、に?」
「信じられない?」
二人同時に時計に目を向けて、そこに指された時間は三分五秒前。
「でも、僕だけ・・・」
セフィリオに比べて、オミの時間が長かったのは確かだけれど、それはお互いが認めたルール変更なのだから構わないとセフィリオは笑った。
「ねぇオミ。それでも悪いと思うなら、今だけ俺の言う事聞いて?」
「・・・?」
きょとんと見上げられたオミの唇に、自分の唇を押し付ける。
驚いて少し開かれた隙間から舌を捻じ込めば、オミは縋るように手を伸ばしてきた。
抵抗するかと思っていたけれど、オミは素直にキスを受け入れる。
名残惜しみつつ唇を少し離して、セフィリオは囁く。
「・・・いい?」
その場所に緩く触れて、尋ねて見れば、小さく頷く頭。
「・・・・・オミも、欲しかった?」
流石にそれには答えてくれなかったけれど、首に回された腕に、少し力が篭った。
暖炉の火は何時の間にか煌々と燃えていて。
暖かいを通り越して少し熱いけれども、お互いもう汗だくなのだからあまり変わらない。
ベッドに移動する時間さえも惜しくて、セフィリオは肌蹴たままのオミの素肌に唇を落とした。
絨毯の上に座り込んだオミを抱えて、胡座をかいた上に跨らせる。
「・・・ぅぁ・・・あぁ・・・・っ!」
十分に濡らしていても、解していても、この最初の痛みだけはなくならない。
それに、いつもならまだ余裕の状態で繋がるから、痛みも少なく済むのだが。
「・・ごめ・・っ!オミ、息吐いて、落ち着いて・・・?」
無理をさせているのは承知だけれど、今更止まれない。せめて痛みを一瞬で終わらせようと、一気に貫いた。
締め付けてくる内部に、微かな痛みと、それ以上の快感を感じて、セフィリオは少しだけ眉を寄せる。
「ぅ・・んふ・・・ぁ・・・」
呼吸を整えるようにキスを繰り返して、オミが落ち着くのを待った。
それ自体はあまり深くないキスだけれど、オミはこれだけで落ち着いてくれる。
何度か啄ばむうち、痛みに眉を寄せていたオミがゆっくりと目を開いた。
「・・・・ん」
促すようなその視線の意味は、もう言葉が無くても分かるほど抱き合ったから。
促されるままにオミの腰と脚に手を添えて、ゆっくりと動かす。
こんなに日が高いうちから抱き合ったことも初めてではないけれど。
夜の様には声を上げずに、指の背を噛んで与えられる刺激に耐えていた。
「・・・聞かせて、くれないの?」
もうゲームは終わったんだよ?
滑りの良い滑らかな肌に少し歯を立てて噛み付きながら、尋ねるけれど。
キツク閉じていた眼を開いて、セフィリオを映すその瞳に、じわりと涙が溜まりだした。
「オミ?」
「違う・・、違うから」
その涙の意味がわからずに問えば、首を振って、微かに笑う。
「・・・嬉しくて」
「何が?」
「・・・内緒、です・・・っぁ・・・ん!」
オミの背を柔らかい絨毯に押し付けて、セフィリオはもう一度体を動かした。
急に与えられた刺激に、思わず声が出てしまって、オミの頬は見る間に染まった。
「オミ、顔・・・真っ赤」
「だ、から・・・!声、出すの嫌・・・だった、のに・・・っ!」
くすくすと笑いながらも、セフィリオは動きを止めない。
意識を持っていかれそうになりながらも、涙の溜まった瞳で睨み返す。
「・・・その視線、オミ、気付いてた?」
睨みつけるような、オミの視線。
元々強い光を宿しているオミの瞳で睨まれれば、誰だって身を竦めるだろう。
けれど、セフィリオはその瞳が好きだった。
「その視線に、俺が感じてるって言ったら、どうする・・・?」
「・・・?!」
反論したくても、オミにもう言葉を紡ぐ余裕など無い。
わざとオミの弱い所ばかりを、抉るように動くから。
声を押さえようと噛んでいるオミの右手を解いて、指を絡ませるように握り締める。
絨毯に押し付けてしまえば、自分の掌の中に納まってしまうほど小さな手。
きゅうと、搾り取るようなきつい内部の締め付けに、オミの限界が近いのを悟った。
けれど、それはセフィリオ自身も同じことで。
「・・・ごめん、もう加減効かない」
抱えた脚を軽く撫でれば、手をぎゅうっと握り返される。
その返事と共に、動きを急で深いものに変えた。
「や、ぁああ!!」
叩きつけ、引き摺られるようなその動きに、オミは高い声を零した。
痛みを感じるはずのその中で、見え隠れする、あどけない恍惚とした表情。
もっと、欲しいと思った。
まだ、足りないと。
「ぁ、あぁあっ――――・・・!」
今までで一番甲高い嬌声が上がり、ビクンと痙攣した瞬間、腹部の辺りが生暖かく濡れるのを感じた。
オミが果てたと同時に、セフィリオを締め付ける動きが尚激しく、きつくなる。
「・・・く・・っ・・・!」
その波を堪えずに、素直に熱を解放した。
締め付ける内部を一瞬押し広げて爆ぜたそれは、オミの最奥へと叩きつけられた。
「は―――・・っん・・・!」
体内でそれを感じたのか、オミはもう一度震えた。
そして、ゆっくりと、開かれる瞼。
オミを潰してしまわないように、少し力の抜けた体で覆い被さって、尋ねた。
「・・・大丈夫?」
汗で張り付いた髪を指で払って、目尻に流れる涙をキスで拭う。
「・・ん」
まだ荒い呼吸を繰り返しながらも、オミは微笑みを返す。
それが合図で、お互いわかっていたように、ゆっくりと。
唇が重なった。

***

「・・・あ」
「何?」
あれから結局ベッドに移動してもう一戦交えた後、オミが小さく声を上げた。
もう寝てしまったのだとばかり思っていたセフィリオは少し驚いて、隣に寝転んでいるオミを見る。
「あのゲーム、僕が勝ったんですよね」
「・・・・・・そうだったね」
今更後の祭りだが、セフィリオは紫煙を燻らせながら負けたことを後悔していた。
いつもいつも嫌がるから、『もう触るな』とか『夜の営みは禁止』とか言われそうで。
「罰ゲームって、僕が考えていいんですよね?」
「・・・うん、まぁ一応」
幾ら後悔しても、今更時間が戻る訳でもなく。
「・・・じゃあ、今日から三日間、この城に泊まってって下さい」
「・・・・?」
「だけど・・・」
セフィリオは不安げな面持ちで、言い噤むオミに視線を向けた。
やるの駄目とか言われそうとか考えていたら、思わぬ言葉が続けられる。
「その三日間だけは、僕以外と話さないで」
「!」
今日セフィリオが訪ねて来た時、自分より先に義姉と親しげに話した事に嫉妬を覚えた。
微笑むような笑顔が、他人に向けられる事も。
小さい奴だと思われてもいいから。
「・・・こんなの罰ゲームにはならな・・っ!」
オミが言葉を言い切る前に、セフィリオはその唇を塞いだ。
さっきまでとは違って、苦い味のするキス。
「・・・いや。オミがそれで良いなら、いいよ」
嬉しそうに笑って、セフィリオは言う。
いや、オミが嫉妬をしている事が、セフィリオにとって嬉しい事らしい。
何となく照れくさくて、ちょっと悔しくて、オミはきつい視線を向けた。
「・・・もう一回しようか?」
オミの視線を受けて、くすくすと笑いながらセフィリオはキスをくれる。
いいようにからかわれていることに拗ねながら、オミはセフィリオの手にあった煙草を奪った。
「・・・ちなみに、その三日間は煙草も禁止です」
「・・・え」
絶句したセフィリオに、オミは笑って、もう一言付け加える。


「僕と煙草。禁止にするならどっちにしますか?」







⊂謝⊃

あああ思い出したくない!(笑) 若い!若いよ文体が!!日付みてびっくりしたよ!(笑)
正直これが、セフィオミで初★オフライン本でした!
初めてなのにえろかったんですね・・・いやはや、さすがセフィオミ。(笑)
発行した部数もとんでもなく少なくて、正直このお話を読んだことがある方の方が少ないと思われます。
パソ子の奥底で眠ってたのを引っ張り出してきたので、相当ホコリ被ってると思いますがあえてそのまま掲載。
良く残ってたなぁと本当に思います。(笑)
ヘタレな文体でお目汚し、大変失礼いたしましたー!(脱兎)

脱稿:2004年1月11日  掲載:2010年5月22日up!