*懐かしい歌*
今日は天気がいい。空気も澄んでいた。
だから、会えないと分かっていながらも来てしまった。
「仕事中・・・、かな」
絶好の散歩日和だが、肝心の相手がいないとつまらない。
ジェイド城の外観を見上げて、セフィリオは呟いた。
視線の先には、遥か高い場所にある執務室の窓。
手の届かない場所に居るのがもどかしくもあり、仕方の無い事だとも思う。
オミに会えないとつまらない。けれど、だからと言って仕事を邪魔する気も毛頭ない。
せっかくの天気なのに少し気分が白けてしまって、口寂しく感じた時、無意識に手が懐へと伸びていた・・・。
が、こんなに人の多い場所で堂々と火をつけるのも気が引ける。
「ん・・・、と」
仕方ないので、どこか人気の無い場所を探そうと足を速めた。
「!」
口に煙草をくわえていたお陰で、声は出ずにすんだが、驚いた。
ふと思いついてふらりと湖へ来てみれば、先客がいたのだ。
今は仕事中のはずの、オミがそこに。
何をしてるわけでもなく、地面に腰を下ろしたまま気持ちよさそうに風に髪をなびかせている。
「・・・・・・」
小さく小さく何かが聞こえた。
セフィリオもよく知っている、その懐かしい歌。
誰が好んで歌っていたか、セフィリオ自身もそらで歌えてしまうほどに、繰り返し繰り返し聞いた曲。
もっと近くで聞こうとしてか、セフィリオは無意識にそちらへ歩み寄ってしまった。
オミはかさりと草を踏む微かな音に反応して、ふと振り返る。
「・・・セフィリオ?」
小さい声でオミが尋ねた。
期待のような、少し嬉しげな声。
そう、と返事を返そうとして、オミの周りに居る子供達に気が付いた。
「・・・寝てるの?」
「そう、みんなお昼寝中。静かにね」
オミの周りを囲うように、2、3人のまだ幼い子供達がぐっすりと眠っていた。
毎度の事ながら、オミは誰にでも好かれる。
城下の民は勿論のこと、こう言った小さな子供達にまで。
これだけ小さな子供にとって、外で熟睡するなどとは普通危険な事だ。
けれど、子供達は危機感も全くなく、安心しきって眠っていた。
それだけ、オミの包容力が強いと言う事なのだろう。
オミも、今は自然な顔で微笑んでいる。いつも感じる、あの微かな緊張も無い。
そんな自然なオミを初めて見た気がして、セフィリオの頬も緩んだ。
「・・・・少し、妬けるかな」
「・・何?」
「いや、こっちの話。そういえばオミ。さっき何か歌ってなかった?」
「・・・あぁ、うん。子守唄代わりになればと思って・・・」
ふと目線を落とすと、オミの腕には更に小さな子供がいた。
布に包まれて、心地よさそうに眠っている赤ん坊。
「この子たちのお母さんね、この子達のために一生懸命働いてるんです」
「だから、子守り?」
「・・・ん。せめて眠りだけは守ってあげたいから」
すうすうと眠る赤子の額にキスを落として、オミは囁く。
その様子が、素晴らしい一枚の絵のように見えて、セフィリオは少し笑った。
自分でもこんなものの見方が出来るようになったなんて、今までの彼なら信じられないからだ。
「なんか、いいね」
「?何がですか?」
オミの横、子供達が眠っている隙間にセフィリオも腰を落として、囁く。
「家族、みたいじゃない?」
「・・・・え?」
「子供が欲しいとは思った事はないけど、こういうのも・・・ありかなと思っただけ」
オミがいて、子供達が傍で眠っていて、腕の中には赤ん坊・・・。
眠っている赤ん坊の手に、そっと指で触れる。
ぐっすりと眠っているのにも関わらず、赤ん坊はセフィリオの指を、強い力で握り締めた。
「うん・・、可愛いね」
くすくすと笑うセフィリオに、オミは何故か呆然としていた。
セフィリオをじっと見つめたまま、驚いた顔をして黙っている。
見上げてくる視線にどうにも我慢できず、セフィリオはそっと上体を屈めた。
「・・・何?キスでもして欲しいの?」
「してから言うなっ!・・・じゃなくてっ!驚いてたんです!!」
ちゅっと、触れるだけのキスを贈って離れると、オミが真っ赤になって叫んだ。
・・・けれど子供達を起こすのはかわいそうなので、出来るだけ小さい声で。
「何に?」
「子供、好きだったんだなぁって・・・、思って」
「そんなに意外?」
「・・・似合わない、とかじゃなくて・・・・」
オミは、そっとセフィリオの足元を見る。
ひねって消したまだ長い煙草。 さっきまで吸っていただろうことは、キスの味で分かった。
それも、まだ火を灯したばかりのものであることも。
「・・・抱いてみます?」
「いいの?」
嬉しそうに破顔したセフィリオに、オミは思わず笑ってしまった。
「・・・起こさないで下さいね?」
「分かってる・・・」
そういいながらも、こんなに小さい子供を抱きかかえたのは初めてらしく、手つきが危なっかしい。
「まだ首がすわってないから・・、こう、支えてあげて下さい」
「こう?・・・軽いなぁ」
「そして暖かいでしょう?小さい子って、抱いてるとほっとしますよね」
「可愛いしね」
オミと同じように、額に小さなキスを贈る。
「・・ふ・・ぇ・・っ」
「あ、ダメだ起こしちゃった・・・っ!あ、ど、どうしたら??」
ぐずり始めた赤子相手に、セフィリオは本気で焦っている。
ソレが面白くて可笑しくて、オミは赤ん坊を受け取りながらもずっと笑っていた。
「・・よしよし」
「・・・何でオミだと泣き止むかな・・・」
「不本意ですか?」
「・・ちょっと、ね」
まだしゃくりを上げている赤ん坊を宥めながら、オミは立ち上がって湖の方へ歩いていく。
「『傷ついて そして つまずいて 涙流して 人は大人になれる・・・』」
あの歌を歌いながら。
「『悲しみも そして 喜びも この丘を越え 少し強くなれるから・・・』」
懐かしい歌に、セフィリオも思わず目を細めてしまう。
それはとても懐かしい、歌だから。
彼が好んでよく歌っていた、あの歌だから。
「「『・・・ここから歩き出そう』」」
旋律をあわせて、セフィリオも歌う。
オミは一瞬驚いて、そして笑って、頷いた。
「・・・歌うと元気が出る、おまじない」
「そう、言ってたね・・・」
2人してクスクスと笑って、もう一度腰をおろした。
ふと、隣に寝ていた子供が目を覚ます。
「オミさまぁ・・・?」
「あ、起こしたかな。ごめんね・・・?」
「ううん・・・もう、おかあさん帰ってくるし・・起きなきゃだもん」
弟妹の面倒を見ることが自分の仕事だと思っているのか、左右に寝ている弟妹も起こして、身支度を整える。
「この子たちのお姉さんかな?偉いよ」
誉めてあげると、姉は嬉しそうに笑った。
オミの腕に抱えている小さな赤ん坊を受け取って、妹の手を引きながら帰っていく子供達。
その様子を見送ってあげながら、やっぱりオミは笑っている。
「オミ、さっきから何を笑って・・・」
「セフィリオ・・・って、やっぱり子供好きでしょう?」
「うん?・・まぁ否定はしないけどね」
「じゃあ気付いてる?自分であの子達を気にしてた事」
「・・・?」
「それ・・・。まだつけたばっかりだったんじゃない?」
「あ・・・」
消したことさえ無意識で。
いつもはずっと右手に握っている棍も、今は最初にオミを見つけた近くの木に立てかけたまま。
「さっきから僕のことばかり見てるけど、セフィリオも結構雰囲気変わってる」
「・・・・そう、かな?」
本当に、あの子達の父親のようで。
見ていて、微笑ましかったから。
「家族って・・・いいですね」
そう言ったオミを後ろから包んだら、珍しく抵抗せずに身体を預けてきた。
だから、腕に力を込めて抱きしめて、オミの耳元で、そっと囁く。
「・・・じゃあさ、本当に『家族』になろうか?」
「?」
「2人だけの家族でも良いから・・・・・・・――――しよう」
「・・・・・・・・え?」
丁度良い時に風が吹いて、小さな小さな声は掻き消されてしまった。
振り向こうとしたオミは、拘束の強くなった腕に阻まれて。
きつくきつく抱きしめられているから、密着した背中で、彼の鼓動が良く聞こえた。
いつもより速くて、大きな、その鼓動。
「・・・・本気・・で?」
「冗談では言えないよ、こんな言葉・・・。幾ら僕でもね」
いつもの冗談かと思った。
聞き取れなかったけど、意味は十分伝わったから。
だから、いつもの悪ふざけかと思ったのに。
伝わる鼓動が、『本気』だと、分かる。
「『・・・すぐ傍に 涙拭いてくれる誰かがいる 君は一人じゃないよ・・・』」
「オミ?」
「・・・うん」
首だけを廻らせて、口付ける。
オミからのキスなんて滅多になくて、セフィリオは、本気で硬直した。
緩んだ腕からオミは抜け出して、今度は正面から抱きつく。
「あの歌、曲名は知らないんですけど・・・。教えてくれた人が、言ってたんです」
「・・・・・」
「僕が独りだって、もう生きていけないと泣いてた時・・・歌ってくれたのが、この曲で・・・」
す・・とオミが顔を上げた時には、顎を支えられて、深く口付けられていた。
抵抗するまもなく、息も出来ないようなキス。
名残惜しく離れた時には、オミの目尻に少し涙が滲んでいた。
そっと、唇でそれを拭って・・・歌う。
「・・・・『悲しみも そして 喜びも この丘を越え 君は強くなれるから』」
「・・・はい。だから・・・2人で」
ふわりと笑ったオミ。
声を合わせるようにして、セフィリオも笑う。
「「『ここから歩き出そう』」」
END
⊂謝⊃
柊葵様・・・こんなのでよろしかったでしょうか・・・・?物凄く失敗感がありありと・・なんですけど・・・(滝汗)
何か非常に勘違いをした話になってしまったと思うんですが・・・ッ!(汗)
アンケートにて、ネタを下さってありがとうございます★
この話の中で歌ってる歌ですが、一応『彼』って『テッド』のことです。
まだ書いてませんけど、オミとテッドの過去話でもこの曲には触れますね。
勿論、この世に存在する曲ですよvJAD(略してます)の『Plastic』という曲なんですが・・・。
もう幻水にしか聞こえねぇ。(笑)
このセフィリオとオミは(多分)戦争終焉後随分経った後の2人ですね。
だから、ラブラブしてます。(笑)あぁ砂糖の上に蜂蜜とガムシロップぶっかけたような糖度に・・・。
まさかセフィリオさんプロポーズかましてくれるとは思ってませんでしたけど、
受けるオミもスゲェと驚いたんですね作者なのに俺が・・・・・・・(メソメソ)
未来の彼らが本当にこうなるかは俺にも分かりませんが、これからも温かい目で見守ってやっていて 下さい★
これからの彼らがどうなるか、全ては皆さんの暖かい一言で決まる・・・かもです。(笑)
斎藤千夏 2003/09/09 up!