*守るべきもの*
いつもは明るい城内が、今日は何故だか静と静まりかえっている。
ユエはその雰囲気の悪さを肌に感じながら、ひとり、クリスタニアと名付けられた城を歩いていた。
そこかしこからは、すすり泣く人々の声。
城内だけでなく、人々が暮らす商店街の方でもざわめく人々はいない。
高らかに響く、鎮魂の鐘。
その鐘の途切れ途切れに、ささやくような声が聞こえた。
「お可哀想に・・・・、まだ幼い身で」
ユエに、嫌な予感が走る。
足はひとりでに速くなっていた。
目指すは、城主の居るべき部屋。
ユエは、走り出していた。
『怖い夢を見るんです。大きくて黒いものが、僕を・・・飲み込んでしまうような』
その言葉を数日前リア本人から聞いていなければ、このように焦ることもなかったのだろうが。
大きく開け放たれた部屋には、同盟軍の重役数名がベッドを囲むように立っていた。
「・・・・ユエ・・・・!」
フリックが驚いて、声をあげる。
「わりぃ・・・知らせんの、遅くなっちまった」
申し訳なさそうなビクトールの謝罪の言葉。
深い悲しみが見て取れる表情に、ユエはらしくもなく舌打ちをしてしまう。
立ちすくむ数名を掻き分けて、ベッドへと、近づいた。
「・・・・・・・リア?」
眠っているように見えた。
実際、眠っているんだろう。もう二度と目覚めない深い眠りに。
「・・・2人に、してやろうぜ」
ビクトールが気をきかせて、全員を部屋から連れて出ていく。
ユエには、聞こえていなかった。
ただ、眠るように目を閉じている、リアの幼い顔を・・・・・・・静かに眺めていた。
「リア・・・?ねぇ、起きて・・・」
そっと撫でた髪はいつものように柔らかく、触れた肌はいつものように滑らかで。
ただ、いつもと違う冷たさが、手袋越しに伝わってくる。
慣れてしまった、体温。
生ある者が持たない冷たさ。
「リア」
旅立ってしまったのだ、遠い世界へ。
もう、迎えには来てくれない。
あの声で、名前を呼んでくれることもない。
「・・・・リア・・・・」
もう、あの瞳を見ることもない・・・・・。
ずくんと、右腕がうずく。
嫌な予感が、思考を巡る。
もしかして僕はまた・・・・――――――――――?
繰り返してしまったのだろうか。
近しい、親しい大切なものをまた。
この・・・・右手に?
コウと言う少年を助けたあの時点で、もう関わりにならないと言っておけば。
分かっていたのに、離れられなかった。
リアの笑顔が、声が、姿が・・・・・・眩しくて。
一度それを知ってしまったユエに、もうその暖かさを手放す勇気はなくて。
守ると決めた者を、この手で奪ってしまうと分かっていたはずなのに。
自分が求めると、それは必ず自分の右手に奪われてしまうのに。
分かっていたのに、離せなかった。
失ってから気付いた、自分自身の心。
自分の頬を流れる静かな涙。
泣き方を忘れていたはずなのに、止まることもなく溢れでてくる、心。
今までの誰を失った時より辛く、堪えがたい感情。
そして、気付いた自分の気持ち。
欲していたのだ。
彼を。
・・・・・・どうしようもなく愛していたのだ。
もう・・・遅いけれど。
「・・・・・・!」
眩しい光が、瞳に差し込んだ。
ユエは、目を細くしてその光の中を探す。
その先には、心配そうな顔をした、リアの瞳が。
「・・・わっ?!」
勝手に身体が動いた。
目の前に居るリアを抱き寄せて・・・・・・抱きしめる。
「あ、の・・・、マクドール・・・さん?」
状況が良く分かっていないリアは、不思議そうに声をかけてきた。
抱きしめた身体は温かい。
生の有る者の、暖かさ。
自分の腕の中で、ゆっくりとした脈を繰り返す存在が愛しくて。
「・・・・あ、の!えっと・・・マクドール・・さ」
リアの右手が動いて、ユエの頬に滑る。
流れる涙を、拭うように。
「泣いて・・・たんですか・・・。怖い・・夢でも?」
『怖い夢を見るんです。大きくて黒いものが、僕を・・・飲み込んでしまうような』
「その夢は・・・リアが」
「僕が、ですか?あぁ、あの夢の続き、この間見たんです」
暗い世界で、何か黒いものが僕を飲み込んでしまう寸前に。
白い光が目の前を照らして・・・・・そしてその光はとても暖かくてなつかしい。
その光のなかに・・・・
「いたんです。手を差し伸べて」
「・・・・?」
「マクドールさんが」
にっこりと嬉しそうに笑う、太陽のような笑顔。
なぜか、ユエの中にずきりとした痛みが走る。
欲しているのだ。
自分も、紋章も。
この光を。
ユエはソファーに座っている自分の足の上に、座り込むようにしているリアの身体を押して退けようとした。
「だから、僕から離れて行っちゃわないで下さいね?」
その手が、止まる。
「・・・リア、どうして・・」
唐突に言われて、ユエは目を少し見開く。
「出ていきたそうな・・・・顔してましたから」
辛そうな顔で、リアはもう一度笑う。
「無理に引き止めることも悪いと思っています。でも・・・僕にはマクドールさんが必要なんです」
闇の中から、助けてくれた存在だから。
「そしてあの夢みたいに、僕を悪夢から守ってください」
勝手なお願いですけど、と付け加えて、はっと気付いたように慌てる。
「あっ、あの!重かったですよね!すみません今退きますから・・・」
立ちあがろうとしたリアの手を引いて、もう一度抱きしめる。
「・・・いいの?」
「わ、えっ?あ、あの・・・」
「僕が・・・ここに居ても」
言われたことを理解してか、リアは嬉しそうに微笑んだ。
「はい!もちろんですよマクドールさん!」
「ユエ」
「え?」
「ユエ・・・と」
「え、マクドールさん・・・じゃなくて・・・ユエ・・さん///」
「リア」
「は、はいっ!」
「・・・・・ありがとう」
「は・・・・ッ・・ぅ?」
リアの言葉は飲み込まれた。
軽く、触れ合わせた唇に。
「な、な、な、な、・・・〜〜ッ?!!///」
リアにとっての光は、ユエ。
ユエにとっての光は、リア。
「・・・・・・ありがとう」
どちらにも、互い自身がかけがえのない光。
「必ず・・・・守るから」
約束を交わすように、もう一度口付ける。
もう失わないために。
かけがえのない・・・守るべきものを。
END
*謝*
できました。(笑)ユエ×リア第2弾!甘い〜〜〜///!!!(悶)
こんな感じですらすらと書けたら文句ないんですけど。
で、この話の最初リア死んでますね。
アイタ、ごめんなさいぃぃ〜〜!(石飛んできた)
いやぁねぇ、ユエに気付いて欲しかったのよう!
失ってから分かる痛みって言うじゃない?
じゃないといつまでたっても進まないような気がしてねぇ・・・。(何の?)
まぁいいじゃないっすか!ユエの夢なんだし!!(オイ)
でもあれ絶対ソウルイーターからユエへの宣告だと思うんだが・・・(ちょっと待て)
リアを殺さないように頑張ります・・・・っ!(逃走)
Saitou Chinatsu* 2002/10/14 up!