A*H

*涙*



2


「マクドールさん!」
息せき切って僕の家に走り込んできたのは、リアではなく姉のナナミだった。
後からスタリオンとビクトールもついてくる。
「・・・・どうした?」
僕の目が3人の後ろに誰かを探していたことに気付いたのだろう。
「リアは、いない」
「いない?」
「助けて!リアが、死んじゃうっ!起きないんです、何しても、何度呼んでも・・・・目を」
今まで必死に我慢してきたのか、ナナミの目からぽろぽろと涙が流れ出す。
しゃくりをあげるナナミをどうにか宥めて、旅支度もそのままに僕は家を飛び出した。
グレッグミンスターを出たところで、ナナミが瞬きの手鏡を僕に差し出した。
天魁星が引継ぐべき魔法の品だ。
受け取って、力を解放する。
光に包まれて戻った場所は、城の入り口付近の大鏡の前だった。
誰も何も口にしない。
この静けさが、かえって僕は嫌だった。
あの、悪夢を思い出す。
「マクドールさん・・・」
促されて、リアの部屋の扉を開いた。
部屋には、同盟軍の重役数名がベッドを囲むように立っていた。
「・・・・ユエ・・・・!」
フリックが驚いて、声をあげる。
思わず、舌打ちした。
ここまで重なると気味が悪い。
「・・・マクドール、殿・・・」
フリックと同じく驚きに目を見開いたのは、軍師であるシュウという男。
「・・・リアは?」
「目を覚ます兆しがありません・・・・」
僕の質問に答えたのは、ホウアンという軍医だった。
「軍を引き上げる際に、リア殿は負傷兵が多かった場所へ向かって手当てを手伝ってくれたのです」
「まさか・・・紋章を?」
「・・・えぇ。それで何人の命が救われたか。それでも、死を眼前に控えた者もおりました。敵兵でしたけれど・・・」
ホウアンの言葉を聞きながら、僕はリアの横たわる直ぐ傍まで近寄った。
「・・・・外傷が?」
「いえ、傷付けられた訳ではありません。ただ、傍で・・・・手を握っていらっしゃるだけでした」
少し、やつれたようにも見える、リア。
あの柔らかい髪を掻き揚げて、撫でてやる。
嬉しそうに微笑んだ、彼は今ここにはいない。
リアの右手袋を外して、紋章に触れる。


突然だった。


「!」
僕とリアの身体を包むように、リアの紋章から黒い霧が現れた。
「・・・・・魂?」
リアにしがみ付くように、そして僕を引き離すように。
その黒い霧は僕達の間を行き来する。
「マクドール殿?」
他の誰にも見えていないらしい。
黒い霧は、リアの腕や首に巻き付いて、離れようとしない。
いや、離れまいとしているのではなくて、どこかへ連れていこうとしているようだ。
冥界へリアを引きずり込む気か?
「・・・させない」
僕は右手を差し出して、リアの右手に重ねた。
輝く盾の紋章の中は、さぞかし暖かく気持ちいいだろう。
この暖かい光を、薄暗い冥界へ連れていきたくなる気持ちもわかる。
だけれど。
「リアは・・・・渡さない」
使わないと封印した右手の紋章。
「・・ソウル・・・イーター・・ッ!」
久しぶりにこの名前を呼んだ気がする。
そして、爆発的な黒い光が、僕とリア・・・そしてこの場にいた全員を飲み込んだ










右腕が痺れるこの感覚は、いつまでたっても慣れない。
リアはその後直ぐに目を覚ました。
この事は一部の人間しか知らされていない。
知らされていなかった人々は、遅ばせながら姿を現したリアに歓喜の声を投げかける。
リアも、死にかけたとは思えないあの明るい笑顔で、僕の傍に走ってきた。
「ユエさん!」
「リア・・・」
城の裏。牧場がある反対側の崖側に、大きな木立を見つけた。
リアはどうやってここを見つけたのか、木立に背を預けている僕の隣に腰を下ろす。
「呼んでくれて、・・・ありがとうございました」
「呼んだ・・?」
「えぇ、ほら、あの嫌な夢で。あの時みたいに・・・手を」
リアは自分の手を日に翳して、空を見上げる。
「・・・掴んで、黒い大きなものから・・・助けてくれました」
太陽を掴むように、伸ばした手を空で握り締めた。
「違う」
「え?」
自然と、言葉が出てしまった。
リアが言っている『黒い大きなもの』は・・・きっと。
あの時でさえ、ひとりの戦死兵の魂だけでは飽き足らず、リアの魂まで吸い取ろうとしたのだから。
無理に紋章に逆らった反動か、右腕の倦怠感と共に痺れて動かせない。
「貪欲なのは、僕なんだ。リア」
「・・・ユエ・・さん?」
「何よりも・・・・君を飲み込もうとしている巨大な影は、直ぐ近くにある。気を許しては・・・いけない」
燦燦と降り注ぐ太陽に、リアの髪も目も、光を映して金に映える。
「そして、死を迎える者に、必要以上の気を掛るのは・・・・・取り込まれてしまうから、避けた方がいい」
「わかってたんです」
「・・・?」
「この人の手、握ってたら・・・連れていかれるんじゃないかって。死ぬ間際なのに、凄い力で・・・」
空の雲が、強い日差しを隠してしまう。
「それでも振り払えなかった。消えていく体温が、抜けていく力が・・・・この手に・・残って消えなくて」
穏やかな晴れ間の陽気は身を潜めて、雲行きは悪く荒くなる。
「気が付いたら、あの夢みたいな空間にいました。引きずられて奥へ進もうとした時、声が」
「・・・・声?」
「・・・『・・・させない』って・・・強い声が、届きました」
大粒の雨が降ってくる空。
「どうしてか、ここに、ずんってきて・・・なんで・・・か、な・・・・?」
力なく笑って見せるリアの頬を、透明の雫が流れ落ちた。
雨かと思ったが、それは確かにリアの涙で。
「ただ・・その一言だけで、・・・僕にはユエさんだ・・って、わかりました」
どうしてと言うような顔をしてしまったのか。
「・・・だって、ものすごく暖かかったから・・・」
リアの瞳からぽろぽろと零れ落ちる涙は、大粒の雨と混ざって地面に染み込んで行く。


「・・・雨・・・・・・・・・」
「・・・戻りましょうか」


僕に習って立ちあがったリアの頬に、唇を滑らせて。
「・・泣いてる?」
「いいえ、・・・泣いてませんよ・・・?」
「・・・嘘吐き・・・だ」
そのまま上を向かせて、僕は唇を重ねる。






少し、海のような味がした。






END


*謝*


 うやん。訳わかんないですねコレ。(滝汗)
 なんか、ユエ×リアって砂糖並に甘いくせになんだこの暗さは。
 しかも妙に小難しい話ばかり・・・。すみません。
 でもキスはやる。以外にしっかりしてるねぇユエさん。(笑)
 あ、今回初!一人称。
 被害者はユエ・マクドール。<だって一人称だ内心全部バレるだろ?だから被害者。(笑)
 1話完結形式にしてるくせに、ものすごくつながってますね。このお話。
 コレからも続いていくかも。いや、行くでしょう。
 あははは・・・ユエリアとセフィオミ。実は交互に書いてたんですけども。(汗)
 webに直す前に消しちまいました。上からこの話書いて上書きをぽちっと。(殴)
 あ゛〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!って気付いたのついさっきv(死)
 泣いちゃうかと思いました。んで、現在再び書き直し中デス。(滝汗)
 あぁホントにパロったの久しぶりでお目汚しな点多数ありますが、
 ここまで読んでくださって有難うございました★
 ワガママ言うなら感想伝えてくれると感激します。(笑)

 Saitou Chinatsu* 2002/10/20 up!



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