*HIKARI*
「・・・期待、してくれていたら・・・嬉しい」
そうユエに囁かれた睦言に・・・。
「ぅ。えっと・・・・・・・・・・・・・・はい」
嬉しそうに、少し照れくさそうに・・・・リアは笑った。
今夜は月も身を潜めた新月。
雲ひとつない夜空・・・沢山の星の中で月がひとつ無いだけなのに、ひどく暗く感じる。
「・・・・っ・・」
部屋を仄かに明るく染めるのは、ただひとつの揺れる灯火。
微かに蜂蜜を溶かしてあるのか、蝋が燃えて揺らぐ度、甘い香りが鼻孔をくすぐった。
「明かり、消し・・・っ・・」
「・・・今夜は新月だから、消したら何も見えなくなるよ」
微かな衣擦れの音に紛れて、ユエは小さく笑った。
「あ、あの・・・」
ベッドに背中を押しつけたまま、前合わせの夜着を開かれたリアの頬は、
この闇に紛れた視界の中でも分かるほど、熟れた果実の様に赤く染まっていた。
「どうかした?」
二の次が言えず黙り込むリアに、意地悪な問だと気づいていながら口に出す。
そんなユエも、いつもはきっちりと閉じている高い襟を緩め、開いた布の隙間からは形の良い鎖骨が見てとれた。
「・・・っ!」
無意識に漂うユエの艶を含む仕草に、ユエの指が触れるより先に肌は淡く朱に染まっていく。
「無理強いはしないから・・・そんなに怯えないで」
つ、とユエの掌が肌に重なると同時に、宥めるようなキスが顔中に降ってきた。
額に瞼、目尻の涙を拭って頬へ。
「・・・ん」
そして、待ち焦がれた唇へ柔らかく降りてくる。
啄むように何回も。
角度を変えて触れてくるそれに耐えきれず、リアは少し唇を開いた。
「ん・・・ぅ・・っ―――!」
怖ず怖ずと開かれた唇に十分な湿り気を与えて、重ねた唇の角度を徐々にずらしながら、キスは深さを増した。
咥内を宥めるようになぞっていく舌に、少し物足りなさを感じたリアの舌が、誘うように動いた。
無意識だったのか、ユエの舌に触れた途端、恥ずかしがるように逃げてしまったが。
怯えるように逃げ惑う舌を絡め取り、上顎を舐め上げて、丁寧に深く・・・執拗に口内を侵す。
「リア・・・」
何度も何度も交わされる口付けの中で、ユエは幾度も繰り返してその名を呼んだ。
名を呼ばれる度に、硬く強張ったリアの体は少しずつ解けていく・・・。
そもそも緊張するなと言う方がおかしいのだ。
リアがこういう行為に慣れていないのは明らかな事実で、恥かしいのか先ほどから目を瞑ったまま開こうとしない。
「目を・・・開けて?」
呼気と共にそう、耳朶に直接吹き込んだ。
すると、触れていた体が驚くほど飛び上がって反応を返した。
それなのに声が上がらなかったのは、両手で口を塞いでしまったから・・・。
驚いて目を開けて、ユエと目が合った瞬間、音がするのではないかという勢いでリアは顔を染めた。
「・・・そんなに恥かしい?」
「・・ぅ・・・」
言葉を忘れてしまった子供のように、必死で首を縦に振る。
そんな様子が可愛くて・・・また、愛しい。
「恥かしいなら目を閉じていても良いけど・・・・」
ベッドに座るように体勢をもどして、ユエはまとっていた赤い長衣を脱ぐ。
そして、おもむろにリアの右手を取って、シーツに押さえつけた。
「・・・ユエ・・さん?」
「声は、出して・・・僕に聞かせて・・・?」
「ひぁ・・・っ?!」
突然、ユエの空いていた手が、裸の胸を撫で上げたのだ。
くすぐったいのと、自分が出してしまった声の高さに驚いて、リアは慌てて空いていた左手でユエを押し返した。
「ああああの・・っ?!!」
何だか信じられないところを撫でられなかったか今・・・・・っ?!
軽いパニックを起こしているリアを宥めて、ユエはもう一度キスをした。
「大丈夫・・・大丈夫だから・・・」
キスの熱さに流されているリアの右手をぎゅ・・・と握って、もう一度優しく触れていく。
「ん・・・、ん、ん・・・・・・」
最初はただ全体を撫でるように。
「・・・っ・・」
次第に真っ白な肌の中の、淡く色付いたそこに触れた時だけリアが息を呑み始めた。
少し、強く摘む。
「・・ぁ・・っ!」
びくりと跳ねた肌は、しっとりと汗を含んでいて。
指だけで弄られた乳頭などは軽くその存在を主張し始めていた。
「・・・気持ち良い・・?」
「わかんな・・っ・・ぃあ・・っ!」
するりと、ユエの唇が耳朶から滑り、耳の裏の柔らかい皮膚に触れた。
微かな濡れた音と軽い痛みが、背筋を流れる電流に変わる。
薄暗い部屋の中でも、白いリアの肌に咲いた華の色は綺麗に見て取れた。
それは想像していたよりハッキリと映って、見えてしまう位置に付けてしまった事を、ユエは少し後悔した。
「ごめん・・」
「・・・?」
何に対して謝られたのか、リアには分からなかったが、思考などはまた直ぐに停止した。
するすると降りた唇は、鎖骨から下に・・・ついには軽く立ち上がった胸の飾りを捕らえてしまったのだから。
「ぅ・・あぁッ!」
何が何だかわからないままに、湿って少しざらついた舌で転がすように舐められて、リアは身を捩らせた。
何をされているのかもわからない。
自分が感じているもどかしさも、まだリアにはわからないでいたのだが。
「・・・ユエ、さ・・っ・・!」
押しのけようと手を伸ばすけれども、意図に反して、ユエの頭を抱え込むように押し付けてしまう。
抵抗したいのに自由にならない体が嫌で、恥かしくて、少し涙が溢れた。
「・・・リア・・」
ふと見上げたリアの瞳が酷く濡れていて、驚いたのはユエも同じだ。
この目を見るのは、2度目。
酷く幼い顔の中心で、酷く艶を含んでいるそれは・・・ユエを魅了する。
リアにその自覚が無いことが、また酷くそそられてしまうのだ。
溺れるように、行為は深く深く沈んでいく。
痛いくらい立ち上がった胸からやっと離れて、もっと下へと滑り出した。
全身に唇で触れるように・・・そして珠に甘く噛んだり、時には強く跡を残して。
「ぁう・・ぁっ・・あ・・も・・っ・・・!」
切な気に揺れる瞳と、感じている証の下肢が甘く震えているのを見て取って、ユエは臍のさらに下に唇を滑らせた。
「ひゃあぁっ!!」
立ち上がっているリア自身に触れる。
熱い手に包み込んで、先走りの蜜を滴らせる先端に接吻けると、反射的に腰が逃げを打つ。
「や・・ッだぁ!!ユエさ・・お願・・っ!!!」
「・・・大丈夫だから」
細い腰を引き寄せて、もう一度口付けると、湿った音が室内に響いた。
「や・・ぁっ、あぁ・・・っん・・っ!」
引きつるように内腿が震えて、それを堪えるように息を詰めるリア。
「・・・1度出してしまおうか」
限界が近いと見たユエは、躊躇わずにリアを口内に含んだ。
「うぁっあ・・・――――ッ!」
急に濡れた熱いものに包まれて、思わず閉じていた目を開いてしまう。
しかし、目を開いた事をそこでしっかり後悔した。
目の前でユエが行う行為に、慌てて体を捩って逃げようともがく。
「やっ!汚いっ・・・か、らぁ・・・ああぁ―――――・・・ッ!!」
けれど、解放してもらえるはずも無く。
驚いたのとあまりの衝撃に、リアはそれから間を置かずに吐精してしまった。
「・・はぁ、・・・・は・・ぁ・・・っ・・」
荒く呼吸を繰り返すリアに、ユエは労わるようなキスを降らせる。
呼気を塞がないように優しく啄ばむようなキスに、リアの意識はただ朦朧と漂うだけ。
体に纏わりつく疲労感は、重なる肌の熱さを、心地良い刺激に代えていく。
「ぅ・・―――っ・・・ん」
だから、ユエの指が明確な意思を持ってそこに触れても、
リアは与えられる緩やかな愛撫に意識を漂わせていただけだった。
最初は、キスをしながら周りを緩く触れるだけ。
くるりと、体をうつ伏せに変えられた。
一瞬ひやりとしたけれど、それが何かわかる前に、まだも意識は流されていく。
湿った水音がそこから聞こえてきても、あまり気にしなかった。
ただ、ユエに触れられている個所から与えられる心地よさに、文字通りうっとりしていた。
「ひゃぅ・・・っ?!」
意識は、突然覚醒する。
自分の上げてしまった声に驚いて、リアはびくりと体を跳ねさせた。
何時の間にか、キスを与えてくれていたユエが、リア自身の下肢に頭を埋めている。
「ゆ、ユエさ・・・っ?」
濡れた柔らかいものが、ゆっくりと・・・入ってくる?
その初めての感覚に、気持ちいいのか気持ち悪いのか理解できないまま、全身に鳥肌が立った。
それが出し入れされる感覚に、確かに体はなにか反応していた。
「・・・っ・・あぁ・・!」
ツプリ・・・と濡れた音を立てて、先ほどよりは硬いものが入ってくる。
痛みは微塵も無いが、酷い排泄感がリアを苛んだ。
そこが何をする場所か、それしか知らないリアは、差恥に白い肌を真っ赤に染め上げる。
「ぃや・・っ!やだそんなとこ!ユエさ・・・お願ッ・・・!!」
「・・・怖がらないで。絶対・・傷付けたりしないから」
そう言って、うつ伏せだったリアの体を抱き起こして、後ろから優しく抱きしめた。
直接吹き込まれるようなユエの掠れた低い声に、体は正直に快感を感じる。
ゾクリと感じた瞬間、中のものは更に深く入り込んでくる。
「ぁ・・ぁ、あ・・・」
カタカタと細い肩を揺らすリア。
起こした体を膝に座らせて、空いている手で優しく、しかし強く抱きしめる。
決して傷付けないように。
嫌というほど時間をかけて。
「ゃあッ!!?」
指を3本に増やしたところで、リアは高い嬌声を上げた。
「・・・ここ?」
慣らすために埋め込んだ指が、無意識にリアの良い場所に掠ってしまったのだろう。
くるりと指を動かして触れると、確かに柔らかい壁の中に、しこりのようなものがある。
「ぁあ・・だ、だめ!触ったらぁ・・・ぁあッ!!!!」
あまりにも強すぎる快感に、どうにもならない体を持て余しては縋り付く。
助けてくれるのは、目の前のユエしかいないと言うように、ぎゅっと手を握り締めて。
「・・・もう、良い・・?」
荒い息を継ぐ事しか出来ないリアを覗き込み、背中からトサリと、シーツの海に沈めた。
引き抜かれていく指を名残惜しく締め付けてしまって、赤面しながらおずおずと目を開く。
「・・・ぅ・・・っ」
やっと見えた視界の中で、ゆっくりと彼の頭に巻きつけられた布が解ける。
する・・・と落ちたその下の髪は、しっとりと汗で濡れていて・・・。
「・・・リア」
「・・・っ!」
ひどく濡れた深碧の視線を正面から見てしまって、ぞくりと痺れるように体が震えた。
それは、期待だったのかもしれない。
これから先、与えられるだろう快感の前兆・・・・。
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すーすーと寝息を立てる、優しげな寝顔を、腕に抱きしめたままずっと見ていた。
外は既に白く、夜の帳は静かに明けて行く。
「・・・・・・」
ふと、ずり落ちた布をその肩にかけようとした時、気付いた。
夜は薄暗くて見えなかったけれど、朝の白い光に映し出されたリアの肌には、数多の傷が微かに残っている。
幼く、まだ体も完成しきっていない肌にこれほどの傷が刻まれていたなど、誰が予想できるだろう。
それが吸い付くようなきめの細かい肌をしているものだから、余計に痛々しかった。
左肩から斜めに大きく巻かれた、白い包帯も、酷く痛々しい。
「・・・強く、ならなければ」
リアは強い。
全てを包み、守ろうとするその心が。
けれど、それだけで生き残れるなど現実はそう甘くない。
これからもリアは誰もを守ろうとするだろう。そのために、この細い腕を振るうのだろう。
それが無謀な戦いであったとしても、誰か一人が助かる為になら、きっと躊躇わずに走り出すのだ。
だからこそ、リア自身が『強く』なくてはならない。
誰かを守りたいと強く思う彼を、誰よりも『強く』しなければならない。
そうしなければ、きっとまたリアはこの肌に傷をつけて戻ってくるのだろうから。
いや、最悪のこともありえるのだ。
戦争は、いつでも死と隣り合わせの危険な戦いだ。
リアは、争っている勢力の片方のリーダーだ。
命を狙われるような、もっとも危険な位置にいる。
「・・・・ん・・・」
瞼を焼く白々とした朝日から逃げるように、もぞもぞと身を摺り寄せてくる。
暖かかった。
殺伐とした自分の世界に、飛び込んでくるように入り込んできた少年。
眩しすぎて、手の届かない高みにいたはずの彼は、ふわりと微笑むだけで包み込んでしまった。
色を失って3年、その瞬間に、世界は鮮やかに色を吹き返した。
太陽の光ような、この少年に照らされて。
「・・・は・・・れ・・・?」
「・・・おはよう」
「ほ・・ぇ・・ぅ・わわわっっ!お、おはようございます〜・・・」
目が合って、ゆっくりと覚醒した瞬間、真っ赤に染まる頬。
それが愛しくて、ユエも微笑んだ。
何でもしよう。
彼が望む事全てを叶えると誓う。
この、愛しい存在を守るためなら。
END
*謝*
お待たせいたしました。表の『強さ』の間の暗転後・・・です。
「読みたいです」などと、ありがたくもいくつかのお声が掛かったので書かせて戴きました!
・・・・いや、マジで続き希望されるとは予測してなかったんで、感動しました。
ありがとうございます!(笑)
初裏でも何でもないですけど、どうしてこんなに照れるんでしょうか裏って。
いやはや・・・すいませんっ!最後まで書けませんでした(滝汗)
幻水で(ユエ×リアだからか・・・?)書くとめちゃくちゃ恥かしいんですけど。(笑)
うーん、もうちょっと頑張って最後まで書けるようにならないと・・・っ!
せっかくの希望なのに・・・ヌルイなぁ・・・。(オイ)
次回はもうちょっと濃く(ぇ)しますので!・・・できれば。(笑)
それでは〜!(逃走)
Saitou Chinatsu* 2003/08/14 up!