A*H

*Assassin*






ティントから、正式な同盟軍参加の意思を示した書状が届いた。
「これで、我々サークリッド軍も、ハイランド王国軍と対等に渡り合えるようになったと言う訳です」
「そうですか!やっと、対等に・・・」
それは、今までのような逃げや守りばかりの戦争ではなく、こちらからも仕掛ける事が出来ると言う事だ。
軍の力が大きくなったのは嬉しいが、これからは今までと比べ物にならない争いになるだろう事は簡単に予測できた。
リアには、それが少し辛い。
ジョウイの率いる軍に近づくにつれて、彼との距離が離れていく気がするから。
酷くなる戦争に、傷付く者も多く出るだろうから・・・・。
「そうです。ですから、これからはこちらからも打って出ます。クラウス」
「はい。現在王国側はミューズに兵を集めているようです。西が手薄になった今こそ、グリンヒルを取り戻す機会ではないかと考えています」
クラウスのその言葉に、聞いていたテレーズが息を呑んだ。
ずっとずっと待ち望んだチャンス。それが、今。
気持ちが昂ぶるのも無理はない。
「兵の数は多くはありませんが、駐在している将軍がユーバーと呼ばれる謎の男なのです。彼を良く知る人物に尋ねたところ・・・人間ではないようなので、絶対に油断はしないで下さい」
「・・・魔物か?なんて奴を使ってるんだジョウイの野郎」
「おいこらビクトール!」
「あ、すまん」
「いいえ、気にしてませんから」
愚痴を吐いたビクトールの迂闊な言葉に、フリックが止めた。
おずおずと見た先では、リアは気にした素振りも見せずに笑っている。
「・・・リア」
それが、本心からの笑顔でないと気付いたのは、隣にいたナナミのみであったが。






-----***-----






「お疲れでしょうリア殿。作戦は明朝から開始ですので、今夜はゆっくりと休養なさって下さい」
そう言われて見れば、先日ティントから戻ったばかりだった。
ネクロード戦では苦戦を強いられたのだし、本来ならもっと疲れているのだろうけれど。
「・・・ユエさんがいたからなぁ」
戦闘では、全くと言っていいほど困らなかった。
最近は特に、よく手合わせをしてもらっているお陰か、リア自身も随分と強くなっていたし。
ベッドに寝転がる。
けれど、眠れない。
もうすぐ争う事になるだろう、ジョウイの事を考えると。
正直、彼とは戦いたくなかった。
けれど、向こうには引く気など、全くないだろう。
この戦争に勝つためには、こちらが引くことも出来ない。
「考えるの、もう止めよう・・・」
けれど、目を閉じても、一向に睡魔は現われない。
最近はずっと、眠る時には傍に誰かが居たから。
あの人が、傍で眠りを守ってくれていたから。
冷たいシーツが、寂しさを募らせてしまう。
あんなに、傍に居たのに。
一晩も立たないうちに、会えない事が寂しく感じた。
「・・・少し、夜風に当たるのもいいかな」
起き上がって部屋を出ようとして、ふと思い出す。


『風邪、引かないようにね。最近は冷えるから・・・・』


そう言って、背中から布で包まれた。
冷えた身体には、その布よりも布越しに触れるユエの身体がとても温かくて・・・。
思い出した暖かさにくすりと笑って、リアは肩に布をかけてから部屋を出た。






-----***-----






クリスタニア城の中の色んな場所を歩き回る。
いつもは昼間の城内しか知らないから、夜の暗さと冷たさが寂しくて、静かさが心地よい。
ただ屋上に出るだけのつもりだったのだが、先客が居たので場所を変える事にした。
けれど、見張りの兵士達がいて、外には出してもらえなかった。
道場の方も締め切られているし、仕方なくリアは酒場に向かった。
「おーリアじゃねぇか。なんだ?お前も飲みに来たのか?」
「違うんです。ちょっと、眠れなくて・・・」
「じゃあ暖かい飲み物でも持ってこようかね」
「あ、ありがとうございますレオナさん」
ビクトールに誘われ、隣に腰を下ろした。
こんなに遅くにここへ来た事などないリアには、酒場で飲む彼らが珍しくきょろきょろと周りを見回す。
回りも、リアの出現に嬉しそうに笑っていた。
「どこ行っても人気者だなぁお前は」
「そうですか?」
「・・っんとに、無自覚だからさらに凄ぇよ」
少し酔っているのか、ビクトールは豪快に笑ってリアの背中を叩く。
リアはレオナからもらった蜂蜜ミルクが零れそうになって、慌てて机に置いた。
「明日、どうする気だ?」
「何がですか?」
「作戦は明朝開始だぞ。迎えに行く時間もない」
「え?」
「気付いてるのは俺とナナミ位だろうさ。お前、無理してないか?」
「無理なんて!僕は全然元気だし平気・・・」
「身体じゃなくてだな、ここは・・・どうだ?」
とん、と軽く胸を押された。
どきりと、脈が強く響く。
「無理はするなよ。嘘も付くな。逢いたければ『逢いたい』と言っていい。それ位は我侭にもならねぇよ」
かわいいもんだ、とビクトールはエールを煽った。
「でも、ユエさんも帰ってきたばかりだしトランの家に戻って・・・」
「でも、あの家には誰も居ないんだろ?」
「あ・・・・・」
言われてみればそうだ。
ユエは、ティント戻ると同時にトランへと帰っていったけれど。
彼には帰る家はあっても、帰りを待つ人も居ないのに。
「リア。お前は、会いたくないのか?」
「・・・・逢いたい・・・です。傍に・・・」
いたい。
「・・・・・うん、僕もそうだよ」
声が。
「なんで・・・・?!」
後ろから、聞こえた。
いつもの赤い服を着ていなかったし、頭のバンダナも外しているから、今まで気付かなかったけれど。
「ユ、エさん・・・っ」
カウンターに座るリアの、丁度後ろの席。
そこに座っていたのは、紛れもなくユエ本人で。
「もう寝てるかと思ったけど、起きてたんだね」
「じゃなくて!ユエさん、いつ・・?!」
「トランの家に着いて、椅子に座ったのだけど・・・どうも落ち着かなくて」
気が付いたら、またここへ来ていた。
「リアに、逢ったら・・・落ち着いた」
そっと、撫でてくれる手が優しくて暖かい。
「・・僕も、驚きましたけど。凄く嬉しい・・です」
ふわりと笑ったリア。
いつもの、太陽のような輝きは無いけれど。
誰もが目を奪われるような、優しい微笑み。
「・・・・あとは部屋でやってくれ」
「あ・・・」
ビクトールの冷やかしの声に、周りの喝采も大きくなる。
2人して苦笑して、その場を離れた。






-----***-----






「あ」
「ユエさん?」
「ちょっと忘れもの・・・。先に行っててくれるかな」
走っていく後姿を目で追いながら、当然のように自分の部屋に泊まると言う発言に、リアは笑う。
いつものことだから、気にも止めていなかったけれど。
そもそも、リアの部屋のベッドは広すぎるのだ。
だから、一人で寝ることに慣れていないリアには、少し寂しい。
それに気付いているのかは分からないが、ユエはいつも優しく包むようにして眠ってくれる。
眠りを守ってくれる暖かさが、リアにはとても嬉しくて。
「ゆっくり眠れるといいな」
明日は早い。
ジョウイの事で悩む事も、今夜はもう無いだろう。
リアは嬉しげに顔を綻ばせて、5階の自室へ向かった。




この部屋は、他の部屋から結構離れている。
一番近い部屋が、ナナミの部屋だ。
けれど、それでも1階の差がある4階にナナミの部屋はある。
そして6階は屋上。先ほどはフリックとニナがそこにいた。
何かを話していたようだけれど、内容までは聞いていない。
「もう皆寝てるだろうけど・・・」
幾ら他の部屋から離れているからとて、大きく音を立てるのは引けた。
そっと扉を開けて、ゆっくりと身を滑らせる。
「!」
窓から差し込む月明かりに、何かが光った!
「・・っちィ!」
「誰だ?!」
とっさに身を地面に転がして、飛んできたそれをかわす。
扉に突き刺さっているのは、短いナイフ。
ひゅ・・・っ!
「・・っつぅ!」
黒い何かが飛んできた。
ナイフではないが、長い紐のようなもの。
それも反射的に身体を動かして避けたが、暗さのせいかよく見えず、腕に掠ってしまう。
それは服を裂き、薄く肌をも裂いた。
「誰なんだ!?どうして僕を・・・」
「お前さえ死ねば、この下らぬ戦いも終わる」
「何、だって・・・?」
「そのままの意だ。あの方にとってお前は邪魔だ。さぁ、死ぬがいい・・・ッ!!」
振り被った体勢から、一気に下へと振り下ろす。
やっと目が慣れてきて、微かだがそれが見えた。
何とかかわして、その懐に飛び込んだ。
「何?!」
「伊達に武道家やってないからね・・・っ!」
リアは丸腰だった。
それで相手は油断していたらしい。
打ち込まれる拳を何とか凌いで、もう一度鞭が飛んでくる。
「っ、聞きたいんだ!あなたを一体誰がここへ・・・?!」
「聞いてどうする?お前を殺せと命じた者の名前など!知ったとしても報復など出来ないように殺すまで!!」
「そんなことはしない!何で、僕を・・・っうッ!!」
繰り出される連発の攻撃をかわそうと身を捩った時、腕の傷が痛んだ。
その隙を見逃すような相手ではない。
「貰ったッ!!」
バチィィイ・・・・・ッ!!!
酷い音がした。
肉が裂けて、血の匂いが辺りに充満する。
「・・・・ユエさん・・っ?!!」
「平気・・?」
リアの身体を突き飛ばして、庇ったのは・・・・・ユエ。
背中に鞭を受けておいて、痛むだろうにユエはリアに微笑んで見せた。
「僕は・・・・ユエさん、背中・・・っ!!」
「気にしないで」
一言短く言うと、ス・・と敵に向き直る。
「邪魔を、するなぁっ!!」
「・・っ」
ヒュ・・・と風を切る音がした。
身体が倒れる音と、その傍に立つユエのシルエット。
その手には、棍。
「ユエ、さん・・・?」
リアの声に、ユエはゆっくりとこちらに近づいてきて、そっと抱きしめられた。
その身体が、少し震えていた。
「どうしたんですか?!ユエさん、背中の怪我が痛んで・・・っ」
「・・暖かい、生きてる・・・・・・。無事で、良かった・・・」
少し、その腕の力が強くなる。
「振り下ろされる瞬間が焼きついて・・・」
リアが、死ぬかと思った。
そう言ってもう少し・・・もう少しだけ、ぎゅっと、抱きしめる力が強まった。






-----***-----






「逃がしてあげて」
「おい!いいのかリア?!」
騒ぎを聞きつけて駆けつけたフリックに、リアはそう言った。
「いいんだ・・・。この人が何で僕を狙ったのか・・・聞きたいけど教えてくれないし」
無駄に命を奪う事が目的ではないから。
それに、検討ならついているから。
「なら、殺さずに牢にでも・・・」
「ううん、いいんです。城の外へ連れて行ってあげて下さい」
「リア・・!」
「もういいだろうフリック。狙われた本人がそう言ってんだ。行くぞ」
フリック以外にも集まった中で、ビクトールがそう言い、刺客を引き連れていく。
明るい元で見てみれば、見たことのない民族服を纏った女性だった。
「カラヤ族か・・・」
「カラヤ・・?」
「グラスランドに住んでいる民族のひとつ。今のは・・・族長の娘ルシア」
部屋から全員が出て行ったところで、ユエがそう言った。
「ユエさんって何でも知ってますね」
「・・・そうでも、ない」
痛々しく笑うユエに、リアはぎゅっとしがみ付いた。
「リア。血が・・・」
ロウソクの灯しかない部屋で、急に辺りが柔らかい緑色の光に包まれた。
暖かな光が、背中の傷を癒していく。
光が消えた時には、深く肉が裂けていた傷は、白い線だけを残して消えていた。
「ごめんなさい。僕のせいで・・」
「・・・リアが無事なら、構わない」
「・・・・・ありがとう、ございます・・っ」
正直、怖くなかったとは言えなかった。
暗闇の中で、それも自分の部屋の中で、いきなり命を狙われたのだから。
安心しきっていた所に、鋭い刃を向けてきた刺客。
一瞬生まれた隙を突いて、殺されると思った瞬間。
「怖かったんだね」
「・・・・はい。でも、もう平気です」
「?」
「ユエさんが・・・いるから」
ぎゅ・・・と抱きつく。
背中の傷のあった場所へ、静かにキスを落として。
「・・・リア」
すとんと、腰を下ろした先はベッドの上で。
「あまり、刺激しないで・・・」
言われたことがよく分からなくて、リアは小首をかしげた。
「欲しく・・・なるから」
「え?」
「リア・・・が、欲しくなるから・・・・」
「・・・・っ〜〜!!!!」
言われた意味は、そっと降りてきたキスで伝わった。
啄ばむようなそれが離れて、もう一度柔らかく口付けられる。
今度は角度を変えて、深く。
何度も、何度も・・・・・・。








「絶対に死なせない。君は、僕が守るよ」









END


*謝*


  Assassin  タイトル訳:刺客

 はい、『ユエ×リアで、ルシアに襲われる辺り』のリクを戴きました〜★
 LAO様、ありがとうございました!こ、こんなので良かったでしょうか?(ドキドキ)
 本来ならリクエストの欄に入れるべきなのでしょうけど、メインストーリーの方へ入れちゃいましたv
 ・・・もともとユエ×リアはメインストーリーが短編ですからね・・・(笑)
 しかーし。これで終わったらつまらないので、一応グリンヒル奪還編として続き書きたい。(ぇ)
 書くとなれば、ユエ×リアで初ゲームストーリー長編ですね!気合入れて行きますよー!
 そしてこの話、丁度セフィリオ×オミのティント編の後・・・みたいですよね。
 俺の頭じゃ2通りの同じネタなど考え付かないので、
 グリンヒル奪還編はユエ×リアオンリー★で行きます。
 セフィオミで続きは〜?・・・ミューズ市攻防戦辺りで書きますヨ。
 同時進行で書いていきたいので、ちょっとのんびりupしていく事になりそうです・・・。
 それでも良いよと言う方は・・・のんびりとお待ちくださいねv 

斎藤千夏 030914_up!


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