A*H

*嘘*



「ユエ!そっちに行ったぞ!!」
森の奥深く。
ちょっとした遠征の旅の途中で、僕達は何かの巣穴に紛れ込んでしまった。
倒しても倒してもわいて来るキリがないような戦いの中で、もちろん、みんなそれぞれ必死に戦っていたんだけれど。
「ユエさんッ!」
傍を離れないようにしていたつもりなのに、今の僕の位置からユエさんのいる場所まで4歩と少し。
ビクトールさん達の攻撃の隙間を潜り抜けて、ユエさんの前に立ちはだかった敵は、もうユエさんの目の前まで移動していた。
自分に向かってくる敵を蹴飛ばして走り寄るけど、これじゃあ間に合わない!
「ユエさん・・・!」
見ていられなくて、ぎゅっと目は閉じたけれど、気付いて欲しくて出来る限りの声で叫ぶ。 と同時に、軽く地面を蹴る音に続いて、ヒュ・・・っと風を切る音が響いた。
「ユエさ・・・・・あ、あれ?」
驚いて、そうっと閉じていた目を開けてみれば、さっきと同じように立っているユエさんの前には倒れてる敵の姿があって。
「・・・リア?」
棍を握って、いつもと変わらない穏やかな表情で、ユエさんは僕に首を傾げてみせる。
そこに笑いながら近寄ってきたのは、フリックさんだ。
「・・・瞬殺だな。お前、ホントに目見えてないのか?」
ようやく敵の出現が落ち着いたみたいで、自然と周りには穏やかな雰囲気が漂っていた。
フリックさんがユエさんの目の前で手をヒラヒラさせて見せるけど、ユエさんは瞬きすらもしないままじっと同じ方向を見つめてる。
「・・・・・」
僕は、小さく表情を歪めて、溜息を零した。
あれだけ的確に敵を捉えて攻撃したんだから、見えるようになったと・・・・目が治ったのかと思ったのに。
「やっぱり見えてないよなぁ。それで、あれだけ戦えるのか」
感心したようにフリックさんは言うけど、それが僕には少し悲しい。
ユエさんは、本当に強い。
でも・・・強いからこそ、僕は・・・・。
「リア?どうかしたか?」
座り込んだまま俯いて動かない僕の様子に、ビクトールさんが声を掛けてくれた。
その言葉に誰よりも早く反応したのは、さっきから表情の動かないユエさんで。
「・・・リア?怪我でも・・・」
でも僕のことになると、いつも・・・・こうやって少し顔を顰めて心配してくれるんだ。
見えないことが余計に不安なのか、ユエさんの手はいつも僕に触れている気がする。
真っ直ぐに伸ばしてくるユエさんの手を握り返して、精一杯の明るい声で返した。
「い、いいえ!全然この通り、僕はどこも怪我なんてしてませんよ!」
「そう・・・なら、良かった」
僕の言葉に、ふわりと柔らかくなる。
碧色の瞳は相変わらず僕を映してるのに、ユエさんには何も見えていないんだ。
・・・それが少し悲しくて、同時に少しホッとする。
「ねーねー!こっちに小さな河があったよー!」
立ち上がるきっかけを探していた僕の耳に、ナナミちゃんの声が届く。
少し乱暴に僕の頭を撫でて、ビクトールさんが返事を返した。
「おぉ!よくやったナナミ。じゃあ、今日はこの辺で野宿だな。日も随分傾いてきた頃合だし、丁度いいだろ」
言葉は普通に。けれど、苦笑を浮かべたビクトールさんの表情と、少し呆れ顔のフリックさん。
何か言いたい事があるような・・・だけどその言葉は噤んだまま、僕に小さく頷いてくれた。




***




「リア」
「ビクトールさん?」
「ほら、コレ。後でナナミにでも塗って貰えよ」
「あ・・・ありがとうございます・・・」
軽く荷を解いて、野営の支度を手伝っていた僕に、ビクトールさんがくれたのはおくすりだった。
・・・ユエさんには『怪我なんてしてない』って言ったけど・・・。
実はちょっとボロボロだったりする。
目が見えてないユエさんを気にしながら戦っていたから当たり前で、防御力は落ちるし集中力は散漫だし。
フリックさんにもビクトールさんにも怒られながらの戦闘だったけど、気になるんだから仕方がない。
「・・・それで、こんなに怪我してちゃ元も子もない・・・んだけど」
心配だけは、掛けたくなかったから。
だから僕は嘘をつく。
心配をかけないために。
ユエさんの笑顔を、曇らせないように・・・・。




***




元々、ユエさんの目が見えなくなってしまったのは僕のせいだ。
グリンヒル市で戦ってた時に、ボーンドラゴンの業火から庇ってくれて・・・その炎の光にユエさんの目は焼かれてしまった。
リュウカン先生にもホウアン先生にも診てもらったけれど・・・。
治る見込みは・・・低いって言われてしまった。
望みがあるとすれば、それは僕の右手に宿る紋章ぐらいで。
でも、今の紋章の力じゃ、光を失った目を取り戻すことなんてできやしない。
「・・・紋章ってどうすれば強くなるのかな・・・?」
ふと、考えてみたけれど。
そう言えば、僕は『強くなる』ことしか考えてなくて。
魔法力を上げるための鍛錬って・・・どうしたらいいのか知らなかった。
紋章だって、この右手の紋章を継承するまで、宿したことさえなかったんだから。
「リア。手が止まってるよ?ね、ね?やっぱりお姉ちゃんが作ろうか?」
と、考え事に没頭していた僕の後ろから、突然ナナミちゃんが顔を覗かせてきた。
「え?え・・あ、えっとごめん!ううん、大丈夫だから・・・」
期待に満ちた表情だったけど・・・・ごめんね。
ナナミちゃんが作ろうか?って聞いてくれた瞬間、フリックさんとビクトールさんが同時に腰を浮かせたんだ。
「・・・えー、そう?・・・じゃあ、お姉ちゃんは何か食べれる草でも探してくるね」
「うん、お願い」
ナナミちゃんの背中が小さく消える頃、フリックさんが大きく溜息を零した。
「・・・安堵の溜息だぞ。言っとくが」
その言葉に僕は小さく笑って、そこで、ユエさんの姿が見えないことに気が付いた。




***




「ユエさん?」
「・・・リア」
サラサラと流れる河辺に座り込んで、何をしてるかと思えば・・・。
「釣り・・・ですか?」
そう聞いた僕に頷いて、隣に座るように手招きしてくれる。
言われた通りに傍に座り込んで、僕はユエさんと同じように、静かに流れていく水面を眺めた。
日が沈みかけた、何とも言えない明るさの空気に、ひんやりとした水滴が混じって気持ちいい。
思わず目を閉じてしまいたくなるような心地良さに耐え切れず、瞼をゆっくりと下ろした。
「・・・リア。・・・大丈夫?」
「・・・え?・・・っ!」
一瞬何を聞かれたのかわからなかったけれど、ユエさんの掌が触れた頬がピリっと痛んで、僕は息を飲んでしまった。
「な、何で分かったんですか・・・?」
ユエさんの指には、少しだけど赤い血がついていて。
それが開いてしまった僕の頬の傷だとは、一瞬気が付かなかったけど。
「・・・血の匂いがしたから」
「あ・・・」
さっきの場所は、切り倒した敵の血で分からなかったのか。
でも、ここは透き通るような空気だから・・・僕の流す血の匂いを嗅ぎ取れたのかもしれない。
「どうして、嘘をつくの?」
「・・・・・・」
答えられるはずがない。
傷付けたくないと、その笑顔を守りたいと。
心配をかけないために吐いた嘘で、ユエさんが・・・こんな・・・・。

「・・・リア」

傷付いた顔をするなんて。

「・・・ゴメン・・・なさい・・・」
微かに震える唇から零れた言葉は、嘘をついた理由じゃなくて、謝罪の言葉。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
謝る言葉は止まらずに、何度も唇から零れ落ちる。
本当に、ただ心配を掛けたくなかっただけなのに。
誰でも、嘘をつかれたら傷付くって分かっていながら・・・僕は。
一番、大切な人の信頼を・・・失ってしまうかと思うと怖くて。
「ごめんなさい・・・ごめんなさ・・・っ!」
急に、言葉が途切れた。
言ったつもりの続きは、柔らかく塞がれたユエさんの唇に遮られてしまって。
「・・・もう、いいから」
触れ合わせるだけのキスだったけど、壊れたように謝り続けていた僕の唇は、音を無くして黙り込む。
カタと、釣り竿が地面に置かれた。
僕の傷に触らないように優しく確かめながら、抱きしめてくれる暖かい腕。
頭を胸に抱き込むように抱きしめられても、僕は驚いたまま言葉を返すことが出来ずにいた。
「・・・怒ってるんじゃない。・・・ただ、リアがどう言う理由で嘘をついたのか・・・聞きたかっただけなんだ」
「ぁ・・・ッぅ・・・!」
指で傷を探しながら、見つけた傷口に降りてくる唇。
最初はピリっと染みるけれど、その優しい感覚に自然と僕の瞼は閉じる。
頬の切り傷から、肩、腕・・・全身の傷に優しく触れてくれるユエさんの唇は優しくて暖かくて・・・・・どんなおくすりより効くかもしれない。
「・・ぁ、あの・・・」
ただ、もの凄く恥かしい・・・ってことだけが問題といえば問題で。
「・・・?痛い?」
「そうじゃないですけど・・・ええと」
恥かしいんだけど、だからと言って離れてしまった唇の感触が恋しい・・・とも思ってしまう。
やめて欲しいけど、やめて欲しくない。
こんなの、どう言えば伝わるかなんてわからなくて、僕も口をつぐんだ。
「・・・困った顔、してる・・・?」
「・・・ええと・・・」
「でも、少し顔は赤いね」
「え?!」
見えてない筈なのに、くすくすと笑うユエさんの言葉は、多分大当たり。
さっきまでは少し暖かく感じてたユエさんの手の平が、触れてる頬に冷たく感じるから。
「・・・熱じゃなければ、良いんだけれど」
「違います!・・ええと、熱じゃなくて・・・」
そう、熱なんかじゃない。
あ・・・でも、こんなのも『熱』って言うのかな。
ユエさんの唇が降りてきた所から、火がつけられたみたいに熱くなっていく僕の体。
「リア」
呼びかけてくれる声の優しさに、僕はゆっくりと目を閉じる。
「・・・・」
あ、そうか。見えないんだった。
・・・いつも、目を閉じたら、それが合図でしてくれるのに・・・。
でも・・・。
「・・・ユエさん、あの・・・」
「・・・?」
切り出せない・・・!けど、して欲しい・・・から。
僕が何かを伝えようとしてることは分かってくれたらしく、急かすことも促すこともしないで、ただ微笑みながら待ってくれている。
「・・・えっと・・・して、欲しいんです」
やっぱり、その言葉は言えなくて、河の流れに消えてしまうような声になってしまった。
でも、ユエさんは小さく微笑んだまま、頷いて・・・・暖かいキスをくれる。
「・・・ん」
唇をそっと舐められて、促されるままに小さく開けば、僕の口の中に入り込んでくるユエさんの舌。
僕の頭を支えるように、ユエさんの手が動く。
固定されて身動きが出来ないけれど、動こうなんて意識さえ、僕にはもう残ってなくて。
「・・ぁ、・・ふ・・・」
気持ち良くて力が抜けて、体がふわふわ浮く感じ。少し息苦しいけど・・・でも、止めたくない。
倒れそうになる体を支えようと、重い腕を持ち上げてユエさんの服を握り締める。
そんな僕に気付いて背中に腕を回してくれるけど、縋り付いていないと、どこかへ飛んでしまいそうになるから・・・。
深い深いキスを受けながら、ぼんやりと目を開けば、近くに見えるユエさんの綺麗な顔。
「ん・・・は、・・・ぁ、・・・ぇ?」
いつもならゆっくりと離れていくのに、急にぱっと離されて、小さく抗議の声を上げてしまうけれど。
・・・でもユエさんは何も言わないで、そのまま立ち上がって森の方をじっと見つめていた。
「ユエ・・・さ、ん・・・?」
「・・・誰だ」
気がつけば、ユエさんの手には棍が握られていて。
・・・もしかしなくても、誰かいる・・・?
立ち上がろうにも、腰に力が入らなくて立ち上がれない!
ユエさんはさりげなく僕の前に立ってくれる。まるで、僕をかばうように。
その優しさは嬉しいんだけれど・・・・・・守られたい訳じゃない。
「ユエさん!あの・・・僕も」
「・・・良いから、座ってて」
言いかけた僕の頭を軽く撫でて、ユエさんも落ち着いた様子で座り込む。
・・・敵じゃ・・ないの?
「・・・邪魔したみたいで悪かったなぁ。ナナミが戻ってきたんで、いらん事される前に飯作ってもらおうかと呼びに来たんだが」
「ビクトールさん!い、い今の・・・って邪魔したってそんな・・・!!」
「・・・戻ろうか」
慌てる僕の体を、自然にふわりと抱き上げて、ユエさんはビクトールさんに近付く。
・・・わかってるんだ。僕が動けないってこと。
それが何だか恥かしくて照れくさいけど・・・抱き上げてくれる腕が嬉しかったりするんだから、自分の心なのによく分からない。
「リア、ちゃんと道案内してやれよ」
「え?」
「ユエの目の代わり、してやれば良いんじゃないのか?」
・・・そうだった。
ユエさんの目が治るまでは、僕が変わりに全てを見るって・・・。
僕の目に映る全てをそのまま伝えるって・・・。
そう約束したのに。
「・・・もう、嘘・・・つきませんから・・・」
「・・・ん」
きゅっと首に腕を回して、耳元で囁いた声に、ユエさんは頷いてくれて。
ビクトールさんも見ないフリをしてくれる気なのか、ユエさんが置きっぱなしの釣り竿を手に取って釣りを始めていた。
「釣れたら、持って来てくださいね」
「おー、上手く焼いてくれ。間違ってもナナミに焼かせるなよ」
「あはは」
そうだった、早く戻らないと!
あんまり言えない事だけど、ナナミちゃんに料理させたら、僕たちはここから暫く動けなくなっちゃうから。
「急ごうか。・・・方向は?」
「あ、ええと右です!そのまままっすぐ、障害物はありません」
片腕に座るように僕を抱き上げて、もう片手で棍を使いながらユエさんは歩く。
「・・・不自由はしてない。だから、リアが気に病むこともないよ」
「不自由・・・?あ・・・!」
暫く黙り込んだままだったユエさんの声が急に聞こえて、僕はふと言葉を反芻する。
それが、目が見えていないことに対して不自由していないという言葉だと気付いたのは、地面を這う大きな木の根にさえ足を取られないまま、しっかりとした足取りで歩くユエさんに気付いてから。
「僕はリアを守りたくて今ここに居る。リアに守ってもらう為じゃない」
「・・・はい」
そんなこと、わかってるんだけれど。
僕だってユエさんを色んなものから守りたい、と言う気持ちはどうしようもないんだから。
僕の納得がいかないような返事に、ユエさんは少し苦笑して、ただ・・・と言葉を続けた。
「見えなくて、困る事は1つだけ。・・・リアが見えないことが・・・少し不安だから」
「え?」
急にぴたりと足を止めたユエさんは、苦笑したまま僕をその瞳に映し込む。
・・・勿論見えてるわけじゃないから、僕がどんな表情をしてるかとか、ユエさんには一切伝わらないけど。
「リアが怪我したり傷付いたりすると、僕は悲しいし心配もする・・・」
今まで握っていた棍は肩にかけ、その右手でそっと僕の頬を撫でながら、言葉は続く。
「でも、それは当たり前のことなんだと思うよ。誰だって、大切な人が傷付いたりすれば心配するだろう?」
「・・・はい」
言われてみて、その通りだ。
僕が、ユエさんを守ってあげたいと思うのは、傷付けたくないし怪我をさせたくないから。
ユエさんが傷付くのは不安だし、悲しい。
心配させるのも悲しいから・・・あんな嘘をついてしまったんだけれど。
「だからと言って・・・言ってくれないのは余計悲しい」
「ユエさん・・・」
考えを見透かされたようなユエさんの言葉に、じんと目尻が潤んでしまった。
こんなことで泣きそうになるなんて情けないけど、『ごめんなさい』って気持ちと、『嬉しい』気持ちがごちゃごちゃになって・・・。
「リア・・・?」
言葉は何も告げられなくて、だから、回していた腕でしっかりとしがみ付く。
ユエさんの目、今だけは見えなくて良かった。
・・・泣いてるのには気付かれたくないから。
ごめんなさい。
これが、最後の嘘だから・・・。




***




「何処行ってたのリア!あれ、マクドールさんも一緒だったんですか?」
開口一番、ナナミちゃんは包丁を持ったままの手で僕たちにそう叫んだ。
「・・・ナナミちゃん・・・まさか」
「え?あぁ、うんこれ?リア帰ってくるの遅いから、お腹も減ったし作っちゃおうかなってv」
えへv・・・って可愛く笑われても・・・!
僕が途中まで作ってたお鍋も、この調子なら中身は変わってしまってるだろう。
「フリックは・・・?」
「あれ?ホントだ。ナナミちゃんフリックさんは?」
ユエさんの言葉に、僕も辺りを見回すけれど、姿が見えなかった。
さっき溜息ついてた位だから、いたら絶対止めてるはずなのに。
「フリックさん?・・・ここにいるじゃない」
「・・・え」
ナナミちゃんの足元に倒れてる人影・・・フリックさん!?
ユエさんに降ろしてもらって、歩けるのを確認してから近付くけど・・・手に持ってるのは小皿?
「・・・ナナミちゃん。もしかして味見頼んだの?」
「うん。だってもうお腹減ったって言うから、食べてもらったんだけど。食べてすぐ寝ると太るって言うのにいいのかなぁ?」
「・・・寝てるんじゃないと思うんだけど」
「何か言った?」
「・・・ううん何でもない」
フリックさんに内心でゴメンナサイと謝ってから、僕は立ち上がる。
だって、覚悟を決めないと・・・同じ目に合うんだし・・・!
「おーいリアー!飯出来たのかー?」
机代わりの、大きくて平らな石に並べられた食事に、ビクトールさんが声を上げて近寄ってくるけど・・・ゴメンナサイ。
「あ、ビクトールさんお帰りなさいvさ、たんと食べて下さいね〜!」
「・・・おい、リア・・・?」
「・・・ええと」
文句を言いたそうなビクトールさんが、溜息を付いて僕に差し出したものは。
「ユエも結構釣ってたみたいだな。ほら、大漁だろ?」
「・・・こ、こんなに沢山・・・!」
籠の中は、詰まりに詰まったお魚の山だった。
僕、本拠地の釣場でさえこんなに釣った事ないのに・・・!
「・・・リア、焼いてくれるよな?」
「はい!」
なんて言ったってユエさんが釣った魚だし、僕が料理したいから。
「わたしは?手伝う事ない??」
「うん、大丈夫だから・・・包丁、返してね」
「えー・・・」
残念そうな声を上げてもダメ。・・・僕にだって譲れない事の一つや二つ、あるんだから。
「ユエさん。お魚、料理させて下さいね」
倒木の上に腰掛けたユエさんにそう声をかければ、少し苦笑したユエさんが頷いてくれて。
ナナミちゃんの料理って見た目も匂いも美味しそうなのに・・・なんでこんなに食べられない物なのかは、僕にもわからない。
ユエさんは多分、目の前の料理の微かな違いの匂いでわかるんだろう。
そんな変化、僕にはわからないけど・・・・。
「腹減ったな・・・」
「じゃあ、こっちを先に食べてていいですよビクトールさんv」
「あぁいや平気だ待てるから、な!!」
「でも、お腹減ってるんじゃないの?」
「・・・ほら、ユエも待ってるし、第一リアに悪いだろ・・・?」
必死で説明するビクトールさんも、まだ地面に倒れてるフリックさんも、本当に優しい人だなと思う。
嘘をついてる訳じゃないけれど、みんな、ナナミちゃんに正面きって言わないし。
出されたものは、何であれ全部食べてくれるし。
「・・・城に戻るのは日が延びそうだな」
ぽつりと零したビクトールさんの声に、僕は苦笑して、焼けたばかりの串を差し出した。
「ホウアン先生のお薬、後で出しておきますね」
勿論小さい声でそう返して、小さい声で笑った。
「・・・・あぁ、くそ」
「お、目が覚めたか。ほらお前も食っとけ」
ビクトールさんが、一口齧ったそれをフリックさんに渡す。
一瞬ナナミちゃんお手製かと疑ってたみたいだけれど、毒見済みなのを確認してからようやく口を付けた。
「なぁナナミ」
「なぁに?」
黙々と食べながら、ビクトールさんがナナミちゃんに口を開いた。
「・・・リアに料理教えてもらえ。花嫁修業は早いに越した事はないぞ」
「え?でも、わたしお料理できるのに」
「習っとけ」
「うーんと、じゃあリア、また一緒に何か作ろうねv」
「うん」
すごいなぁと思う。
3人共、結局最後までナナミちゃんの料理自体に文句をつけることはなくて。
でも、誰一人嘘なんかついてなくて。
優しさが人を傷付ける・・・なんてカッコいいことは言えないけれど、気を使い過ぎるのも僕には向いてないみたいだし。
「・・・ユエさん。僕、もう嘘・・・つきません」
「?」
「いっぱい、色んな事我慢してて、それでも・・・『平気』だって思ってたんですけど」
僕が心配かけないように嘘をつくだけで、誰かが傷付くなら、そんな嘘に意味なんてない。
「ユエさんには、何でも我慢しないで、言っても良いですか・・・?」
誰にも聞こえないように小さい声で囁いた僕の言葉に、ユエさんはゆっくりと頷いてくれた。



とても嬉しそうな表情で、僕を見つめながら。





END


*謝*


 砂糖大さじ何杯入れたらこんなもん出来上がるのでしょうか。謎です。(笑)
 
 凄まじく久し振りにユエリア書いてみたりしちゃいました!
 少々オフラインのコピー本ネタが混じってて読みにくいでしょうが、すみません!
 一応、説明は入れたつもりですが・・・あくまでつもりなので・・・失明ネタ知らない方には激しくゴメンナサイ(苦笑)
 
 ユエリアはのんびりゆっくり痛いラブを書けるカップルだと、マジ実感しました(笑)
 やーやー実を言うと俺嘘つくのが激しく苦手で。あぁいやお話には別に関係ないんですけども(笑)
 でもどうしてもつかなきゃいけない嘘ってのもあるでしょう。人間生きてるなら。
 でも、そんな嘘なんてひとつも使わなくて良い相手って、身近に居ますか?何気に居ないでしょう。(笑)
 やー・・・そんな相手が恋人だったら嬉しいだろうとこんな話に。
 ・・・ハイ、こんなネタ突発の思いつきでス。(笑)
 
 では、こんな所までお付き合いありがとうございました!!<(_ _)>

斎藤千夏 04/09/01 up



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