A*H

1827現代 (気持ちR-15)

*掌*

人間は個別だ。一人一人が違う存在。
交わることなどない、単一の存在。
だからこそ能力にも違いが起こり、弱い者は強い者に群れたがる。
・・・煩わしい。
群れなければ生きていけないほど弱い者など、この世には必要ない。
そう、思っていた。

『他人』ということは、すなわち『自分』ではないということ。
自分ではない者の思考など、わからないのは当然で。
いや。
理解していたとしても、結論としてはどうでも良かったんだろう。
僕は『僕』で、それ以外の何者でもないから。

最近になって起きる騒ぎの中心には必ず、いつでも群れている集団がいた。
けれど今までに見てきた群れとは決定的に違う何かが、そこにはある。
弱い生き物たちの中心にいるのは、何故か最弱の草食動物。
それは、今までにはありえない光景だったから。
・・・だからこそ、少し興味が沸いた。

生きていく上で交わる筈もない、かけ離れた存在の『僕』と『それ』。
僕の『それ』に対する感情は、それだけ、だった。
・・・はずなのに。


「ヒ、バリ・・・さん」
僕を見つけて、一瞬怯えたように息を呑む。
けれどそれ以上の反応は示さず、ただ何かを待つように見上げてくる無防備な瞳。
『これ』の何がそんなに人を惹きつけるのか。
『これ』より数段に強いだろう者たちをあっさりと手懐けてしまうものなんて、何もないだろう?

「ねぇ・・・君」
「は、はい・・・!」
「僕と付き合ってよ」
「え!?あ・・・あの」

どういう意味に取ったのか、一瞬で赤く染まった頬に好都合だと訂正はしなかった。
逸らされない瞳に映り込む僕の姿。
・・・そこには珍しく、少し楽しそうに笑う僕がいた。




「・・・った・・・」
ちょっとした興味が執着に変わるのに、そう時間はかからなかった。
初めはからかうだけ。そのつもりだったのに。
『これ』を知れば知るほど、手放せなくなる自分に驚いた。
この子は弱い。
だからこそ、興味を持った人間に庇護欲を覚えさせる。
この子を知れば知るほど、自分だけのものだと、独占したくなることも。
「・・・お願・・・っ・・・もう、・・・」
そして、呆れるまでに素直で馬鹿で単純で、純粋だ。
キレイ過ぎて、苛々する。
誰にも触れさせたくなくて、穢されたくなくて。
守りたくて・・・けれど、それ以上に。
誰の手でもない、自分の手で穢してしまいたくて。
庇護欲は次第に、征服欲へと切り替わる。
意思を征服するならまず身体から攻略するのが一番手っ取り早い。
言うことを聞かない奴は、噛み殺す。身体に痛みを覚えさせれば、二度と抵抗などしてこない。
基本的にはそれと同じことだ。
性を知ったばかりの幼い身体は、心よりも素直に僕を受け入れる。
「・・・良い顔、出来るようになったね」
狼の群れの中にいながら、何も知らずに笑っていた子羊の君はもういない。
「・・・ぁ・・・う・・・」
ぼろぼろに泣き崩れて僕に縋り付く君を見たら、あの群れた集団はどんな顔をするだろう?
・・・誰にも、見せるつもりはないけどね。
「ほら、どうすれば・・・良いんだった?」
僕の声に、言葉に。
怯えながら期待して。
「ヒバリさ・・・ヒ、バリさ・・・っ」
逃げようともせず、救いは僕だけだという様に・・・掌を差し伸べて。
壊れた玩具は止まることなく僕の名前だけを囀って、新たな刺激を強請る。
「良い子だね」
何も知らない子供に無理矢理覚えさせた『僕』という存在。
理解よりもまず身体で教え込んだ行為の上で、僕は『それ』の全てを知った。
癖や性格、外見に至っては本人ですら知らない所まで。
僕らを他人だと別つのは、それぞれを区切る熱い身体だけ。
「・・・ねぇ、なんで?・・・どうして?」
こんなに熱いんだから、融けてしまえばいいのに。
どうして君は未だに『君』という個体なんだろう。
・・・まあ、大した問題じゃない。
それなら溶けて混ざるまで。
「何度でも・・・君を抱けば済むことだ」


誰より『それ』を知っていても。
僕らの関係性は変わることもなく。
だからこそ、本当の意味で僕は『それ』を理解していなかった。
『それ』が群れの中心に居た理由と共に。


校内や周りで騒ぐ群れの中心は、これ見よがしに自己を主張し騒ぎ立てる。
そういう誇示が強いほど、実際は大したこともない弱者の場合が多い。
けれど『それ』は。
知る限りで最弱の草食動物は。
僕よりも遥かに広く深く暗い世界で生きていた。


弱そうに見えたのは、ただ偽っていただけ?
こうして、僕は君がわからなくなる。
腕を伸ばして、捕まえて、この手に堕として。
それでも、君は『僕のもの』にはなりはしない。
君が何を求めていたのか、それさえも僕は知らない。
だって、必要なかったから。
知らなくても、僕が満足していられた。
・・・でも、今は。

君からの、答えが欲しくて。



僕らは別の人間だ。交わることなどない、単一の存在。
その境目が煩わしいと感じた理由は・・・簡単なことだ。
ただ、君が欲しかった。
君とひとつになりたかった。
僕はそう、望んでいたのだと。


伸ばした掌に、握り返される小さな掌。
僕が足掻いていた理由を掻き消すように、君は笑う。
初めて僕が『それ』と認識した時と同じ瞳で。
ただ、真っ直ぐに僕を見つめて。
僕らは個別だと。
相容れないことが自然で、違うからこそ交わりを求めて手を伸ばす。
僕らはそれでいいのだと。
それでも、僕らはどこまでも僕らでいられる。
僕と、君と・・・・。
この、変わること無い関係性の中で。


僕が僕で良いと言うのなら、君はもう僕を否定することは出来ないだろう。
君は『君』にとって『僕のもの』にはならない。
けれど、『僕』にとっては『僕のもの』だ。
この行為が暴力なのだとしたら、僕の好意は君にとって凶器。
痛がっていても、泣き叫んでも、それは僕から君への好意。
変わらなくていいと、そう言った君の言葉に甘えて。
「『愛してる』と、言ってごらん」
それが、君にとっては何の意味もない言葉だとわかっていても。


「ねぇ・・・綱吉」


僕がここにいる、理由になるから。




⊂謝⊃

コレが本気で初書きのリボーン文でした。唄ネタ第一弾ですね。
いえねぇ・・・聴いてた曲がものすごくヒバツナで萌えたから字にしてみたってだけだったのですが(苦笑)
とりあえず、人様にあげてみたり、イベントで配ってみたり。
刷った分もなくなったから、サイトの方でサルページ(笑)
未だに、この曲(↑と同タイトル)聞くとヒバツナだーって思ってしまうんです。(笑)

斎藤千夏* 2007/06/26 初 / 2009/10/22 up!