*ふぁみりー!*
朝、ぼんやりと目が覚めた。
無意識に伸ばした手の先にあるはずの温もりが無くて、手探りで探す。
途端、くすくすと押し殺した笑い声が聞こえて、綱吉はようやく重たい瞼を押し上げた。
「・・・・れ?」
見えたのは天井でも乱れたシーツでもない。
ピントが合わないほど間近で覗き込むのは、見慣れた目の色に似た・・・。
「ツナ、お寝坊!」
きゃっきゃと笑いながら俺の隣にダイブしてきたのは、まだ幼い子供だった。
はて、ココはどこだったかと寝ぼけた頭で考える。
見渡せば勿論、見慣れた自室。ボンゴレを継いでからもう長く住んでいる屋敷の綱吉の部屋だ。
「ツナ、まだ眠い?」
「あ、ええと」
この子は誰だったかなと思う前に、すんなり名前が出てきた。
「おはようナッツ。今日も良い朝だね」
「うん、おはよう!」
ごろごろと懐くように胸に頭を摺り寄せてくる可愛い子供に、綱吉も自分と同じぽわぽわの髪に顔を埋めてぎゅうと抱き締める。
嬉しそうに悲鳴を上げるナッツとベッドの上でじゃれていると、唐突にがちゃりと部屋の扉が開いた。
「起きて来ないと思ったら、またやってる。朝ごはん出来てるよ二人とも」
真っ白いシャツに黒いベスト。黒髪に、薄い黄色の瞳。
ナッツよりは年上の、けれどまた少年は少々呆れたように微笑んで二人を促した。
「朝ゴハン!食べる!」
「はいはい、ごめんね。・・・おはようレオン」
ベッドから起き上がって、カーテンを開けてくれたレオンの頬に小さくキス。
くすぐったそうな顔をしながらも、レオンも綱吉に同じ挨拶を返す。
「おはよう、ツナ」
ナッツほど甘えてはくれないけど、照れたように笑うレオンが可愛くて綱吉はついついぎゅうと抱きしめてしまう。
恥ずかしいのか抱き付き返してはくれないけど、レオンも嬉しそうに笑ってるからこれはこれでいいのだ。
可愛い子供を二人も持てて、短気で俺様だけれど優しい人がこれからずっと自分の側にいる。
綱吉はなんとなく、朝から自分の幸福を噛み締めた。
「ツナ、でも早く着替えないと」
「あぁ!そうだった!」
あいつはめちゃくちゃ短気だから、待たせると怖いのだ。
レオンが呼びに来た時点でほぼ最後通告なのに!と慌ててパジャマのボタンを外す。
「ツナー!ナッツもー!」
「えー?」
前ボタンを外して上着を脱ごうとしたところで、もう一度ナッツがしがみ付いてきた。
どうやら、レオンにした朝の挨拶をしてみたいらしい。
「はいはい、もう一回おはようナッツ」
「おはよう!」
屈んで頬に唇をくっ付けると、ナッツは綱吉の首にしがみ付くようにしてちゅうちゅうと頬にキスを繰り返す。
「あはは、くすぐったいよナッツ」
「・・・そうか、じゃあねっちょりしてやるぞ」
びりびり腰に来るような低い声が、突然後ろから直接耳に吹き込まれた。
勿論その瞬間には腰を抱えられて、後ろからがっちり密着度100%だ。
「リボーン!?」
「おそようだぞツナ。折角作った朝飯は冷めちまうなぁ?」
「わわわかった!冷めないように今すぐ食べるから・・・ぁ!」
全開のパジャマのあわせに手を突っ込まれて、若干綱吉より低い体温に身体が硬直する。
一気に上がった体温に視線を後ろに流してみれば、きらきらと嬉しそうに見上げているナッツとばっちり目があった。
「!!?やー!やだやだってば!とにかく離れろ離れてくださいリボーン様!」
「この後に及んで逃げられると思ってんのか?」
押しのけようとした手の平の指は甘く噛まれて反射的にリボーンから遠ざけると、妨害の無くなったリボーンはチャンスを逃さずに朝の挨拶のキスにしてはねっとりと頬を舐められてついでに耳朶も軽く噛まれる。
「っ・・!」
ダメだ。耳は絶対ダメなんだ。
弱い箇所を噛まれて、殆ど反射で膝から力が抜けてしまった。が、綱吉にもどうしたって譲れないものもある。
「だ、めだって!ナッツが・・・」
「あ?・・・レオン、先に食ってろ。ママンは二度寝をお望みだそうだぞ」
「・・・ほどほどにしてあげてね父さん」
「善処しよう」
空気を読める賢い子供は、ナッツの両目と両耳を器用に塞いで苦笑しながら部屋を出て行く。
とりあえず、好奇心の詰まった視線から逃れてほっとした綱吉は、その直後後悔した。
「ま、レオン待っ・・・!」
「出来た息子を持てて幸せだなあ?よし、ヤるか」
「何を!?」
「今更説明もいらねぇだろ」
反論の余地ナシと、気が付けば乱れたままのシーツの上へと押し付けられていた。
うつぶせに押し付けられたのでそのまま這いずって逃げようとしたのだが、そもそもリボーン相手に何をしたって逃げられない。
「安心しろ。加減はしてやる。が、フルコースで行くぞ。潰れんなよ」
「無茶言うな・・・!」
腰を持ち上げられてズボンを下ろされる手前、もういっそ本当の意味で二度寝したいと切実に願った綱吉の思いは果たして。
「・・・・れ?」
ある意味恐怖に見開いた綱吉の視界に見えたのは真っ白い見慣れた天井で。
「あれ・・・夢?」
衣服を確かめてみても、多少寝乱れているだけで、大した被害はない。
多少混乱したままの頭でとにかく起き上がってみれば、腹の上でもぞもぞともがくナッツが居た。
「ナッツ、お前もここで寝てたのか?・・・あれ?」
綱吉が起き上がったせいで、もう一度おさまりの良い場所を探そうとしていたのだろう。呼びかけたツナの声に、ぼんやりと目を開けて、後ろ足で耳の辺りを掻く。
一度伸びをして、ようやく小さく「ガゥ・・・」と寝ぼけた声を出した。
「ナッツ・・・あれ?なんで?」
「いつものことだがいい加減起きろ。飯出来てるぞ。・・・ん?どうかしたのか」
開いた扉の先で、呆れた様子のリボーンが立っている。
上着は脱いでシャツは腕まくりし、黒いベストの珍しい出で立ちで、肩にはレオンがおはようと言うように目をぱちぱちとしてみせた。
見慣れた、いつもの朝の光景だ。
そう、こっちが正しいはずなのに、夢で見たあの光景を綱吉は疑問にも思わなかった。
レオンとナッツが人型だったのはまぁ夢だしと思う。ただ、問題はその関係性だ。
二人が可愛い子供・・・息子だったのだ。そしてリボーンは綱吉のことをなんと呼んでいたか。
「・・・んん?『ママン』・・・で、リボーンが『父さん』・・・?」
「何を百面相してやがんだ」
「ひぃ・・ッ!」
間近で聞こえた低い声に、反射的に恐怖が先立つ。
硬直した綱吉の反応に、ただでさえ気の短い先生様はイラっとしたような感情を瞳に宿した。
リボーンが無表情だと誰が言ったのだろうか。こんなにも判りやすいのに・・・と、先ほどとはまた違う恐怖を感じて、綱吉は地味に後ずさる。
近寄ってくるリボーンに、ついでに夢の最後を思い出して、真っ青の後に真っ赤になった。
その反応も読み取って、リボーンは少々機嫌を上昇させたらしい。にやりと笑みを浮かべて、にじり寄る。
「逃げんな。・・・オメーがそういうつもりなら、期待に応えてやらんでもないぞ」
「無理無理何する気だよ?!俺朝から会議の予定なの!ああせっかく夢オチだと思って安心したのに!」
「夢?・・・っと」
無駄にでかいベッドの端から端まで尻でずり下がる綱吉を追いかけてベッドへ乗り上げてきたリボーンに、完全に目の覚めたらしいナッツが嬉しげに飛び掛る。
その様子は百獣の王だとか言われているはずのライオンがまるで子猫にしか見えない。
まるで夢の中で人型のナッツがしていたように、リボーンの腹にごろごろと懐いている姿を見て、綱吉は小さく笑った。
「なんだ」
「ううん、なんでもない」
両親の夜の営みを邪魔しに来た幼い子供のようだとは、間違っても口にしちゃダメなんだと内心耐えていた。
懐くナッツを撫でながら、リボーンの困ったような気が削がれたような顔を見てしまえば嫌でも思い出す。
なるほど、夢もあながち間違いじゃないと思いながら、綱吉もベッドを伝って指に絡みついてきたレオンの尻尾に気付いた。
「レオン、おはよう」
本当に嬉しがるかどうかは判らないけど、夢で見たようにそっと抱えてキスで触れる。
くすぐったかったのか何なのか、レオンはくるりと目を瞬かせて、お返しのように長い舌でぺろりとツナの頬を舐めてきた。
「あはは、ありがとうレオン。誰かさんとは違って、夢でも現実でもレオンはいい子だなー」
「・・・ツナ」
「あぁしまったぁ!ご飯出来てるんだよね!今すぐ着替えてそっち行くから・・・!」
誤魔化して、暗に出て行けと言ったつもりだったが、リボーンは問答無用で綱吉の側まで近づいてきた。
「読まれたくなければ今すぐ吐け」
「・・・ハイ」
読心術であれやこれやと読まれる前に自分の口から話したほうが、都合の悪い箇所を隠せる。
取り合えず、嘘さえ吐かなければ、正直に話した後無理やり読んで来ることは無いのだ。
「・・・っというわけで、なんだか俺たち、家族みたいになってたんだけど」
違和感なかったんだよなぁと内心で考えて、口にはしない。
実際問題、跡継ぎ関係で綱吉は日々幹部連中にねちねち言われている身だ。
今更ケッコンに夢見る歳でもないが、子供は可愛いと思うし、出来るならばしてもいいとは考えているが。
「リボーンさん・・・?」
黙り込んだリボーンと俺の間で、ナッツとレオンがお互いに朝の挨拶でじゃれている。
微笑ましいなぁと一瞬思考回路が逃避したが、がしりとつかまれた肩に嫌でもリボーンを見つめ返した。
「幸せだったか?」
「は?」
「夢の中で、お前は幸せだったか?幸福を感じられたか?」
きょとりと見上げる二対の目。そして、正面の、リボーンの漆黒の瞳。
あの夢も、現実とそう変わらないけど。
「・・・うん」
レオンとナッツが居て、これからずっとリボーンも隣に居てくれるなら。
「幸せだったよ」
「じゃあその幸せを現実のものにしてやろう。今すぐ式の準備するぞ。その前に既成事実が必要か?」
「は?」
理解出来ない言葉の羅列に瞠目している間に、綱吉の視界はくるんとひっくり返って、見下ろすリボーンしか見えなくなってしまっていた。
抵抗もせずに転がされたものだがら、脚の間にはちゃっかりリボーンが入り込んで逃げることさえ出来やしない。
「レオン、ナッツ。いい子で待ってろよ。ママンは俺と寝直したいそうだ」
リボーンのその言葉に、興味津々のナッツに上ったレオンはそのまま促して、隣の部屋へと消えていく。
リボーンの教育の賜物で、ナッツは後ろ足できちんと扉を閉めてくれる気遣いさえ見せてくれた。
「良く出来た息子だなママン?」
「だ、誰がママンだー!!っちょ、ホントに・・・夢じゃなかったのかよー!?」
こんな時に限って、守護者の誰も来やしない。
断末魔のような綱吉の悲鳴はそのままかき消され、綱吉がぐったりしながらも部屋から出てこれたのは昼を随分と過ぎてからの時間であった。
結局朝の会議は延期になった。
書類をめくる疲れ切っただるそうな綱吉と、珍しくもそんな綱吉を気遣うような素振りを見せる、どこか満足そうなリボーンの足元には、相変わらず仲の良いレオンとナッツ。
今までと同じような、けれどどこか暖かく丸い雰囲気を醸し出す二人と二匹に、守護者や幹部たちは後に報告されるびっくりな慶事に、なるほどと首を縦に振ったのだった。
「何で誰一人疑問に思わない訳?!」
「俺たちの関係が変わったからといって、ある意味今更だからだぞマイハニーv」
「ああああ―――!!」
END
⊂謝⊃
もしかしたら初の通常設定(でも十年後)かもしれない。
それなのに何だか物凄く可愛い話になってしまった。(笑)
兄弟パラ・家族パラなんて平和なのも萌えますが、マフィアだけど敢えてほのぼのもイイなぁと思うのです。
殺伐してこそリボツナだとも思うのですが、根底に先生の独占欲という愛があれば!もう何でも良い感じです!!
家族ネタいいなぁv(もしかしたら続編書くかも?)
斎藤千夏* 2010/05/23 up!