A*H

リボツナ+2匹で10年後・・・続いちゃった★

*一日の始まり*







目覚めはいつも、自室の天井を見上げることから。
一緒に寝てるナッツと、たまにレオンに起こされたり起こしたりして、ちょっとだけ苛々して待つリボーンが用意してくれた朝食を四人・・・二人と二匹で食べる。
イタリア人は元々朝食はそんなに食べない。
勿論、綱吉が言えば屋敷のコックたちは喜んで作ってくれるだろうし実際何度か聞かれもしたが、それを断ってしまうのはやっぱりこんな時間を大切にしたいから。
リボーンも綱吉と長く過ごした日本での生活に慣れたせいか、朝からがっつり食べる綱吉に付き合って食べてくれる。
そして食後にと淹れてくれたカプチーノを飲みながら、膝の上にナッツを乗せて撫でたり新聞に目を通したりしながらリボーンが食後の片付けを終えるのを待つ。
「ツナ、レオンに飯やってくれ」
「ん、はいはい」
朝食でお腹いっぱいじゃなければ綱吉もちょっと摘んでみたいほどいい香りのするクッキー。
リボーン特製のレオン専用ご飯だ。
そのままあげてもいいけれど、綱吉はいつも手の中で細かく割ってから少しずつレオンに差し出す。
「あは、そんな急いで食べなくても誰も取らない・・・って」
手の中にあったはずのクッキーのカケラは、綱吉の手ごとナッツの口の中へ。
「こ、こら、ナッツ!」
「どうした?」
片付けを終えたリボーンが手を拭きつつ歩み寄ってきて、その一瞬で何があったか理解したらしい。
「ナッツ。お前にも何か用意してやるからとりあえずツナの手離せ」
「・・・ガゥ」
「よし、良い子だ」
ナッツはそもそも匣兵器だから物を食べる必要はないはずだ。
毎日定期的に綱吉の側にいて身体を触れ合わせるか、直接炎を匣へと継ぎ足しすれば姿を維持できるらしくて、今まで何かを食べている姿を見たことはなかったけれど。
「・・・お前も一緒にご飯食べたかったんだな」
「ガウ!ガウガウ!!」
綱吉の膝からリボーンの腕へと移動したナッツは、綱吉とリボーンの言葉に嬉しそうに尻尾を振って鬣の炎を明るく揺らめかせた。
「よし、ツナ。時間だ」
「はいはい、じゃあ今日も一日頑張りますかねー、っと!」
ジャケットを羽織り、ボンゴレの本拠地である屋敷へ向かう準備をする。
それほど離れてもいないけれど、四六時中屋敷に閉じ込められたら綱吉が発狂すると見込んだリボーンが用意した別邸は確かに綱吉の趣味に合ってひどく心地良いもので、ここに帰って来れると思えば何とか毎日嫌気が刺すような仕事でも続けていられる。
「ツナ、待て」
「うん?」
部屋を出ようとした綱吉の腕を引き、緩めに締めていたネクタイをキッチリと上まで上げて整える。
「ボスがだらしねぇ格好してんじゃねーぞ」
「あぁ、うんそうだった」
学生の時ならまだしも今は一応ボスであって、構成員や人の視線を浴びる結構な偉い立場だ。
綱吉は見落としがちな些細なことも、リボーンが隣で完璧にサポートしてくれるからなんとかやっていけている。
「じゃあそろそろ行かないと」
「まだ忘れもんがあるぞ」
「え?何・・・―――」
整えてくれたネクタイを更に引っ張られて、気が付けば腕の中。
ちぅ・・・とやけに可愛らしい音と共に、柔らかくて暖かいそれが綱吉の唇から離れていく。
「バ・・・ッ!?」
「違うだろ。『行って来ます』は?」
「・・・・い、行って来ます」
「よし。行くぞ」
さりげなくにやりと流し目で部屋を出ていったリボーンの背中はどこか浮かれているような、楽しそうなもので。
「・・・レオン、気使ってくれてありがたい、けど・・・なんか居た堪れない・・・」
「?ガウ?」
レオンも目を閉じたまま、深い帽子に変化してナッツの頭に被さっている。
確かにナッツからは見えないだろうけど、毎回レオン気遣いに逆に恥ずかしさを感じているのは綱吉だけらしい。
「ツナ!遅刻は許さねぇぞ!!」
「あぁもう!今行くから!」
ナッツと、その上に乗ったままのレオンを抱き上げて、二匹にも軽いキスを送って。
「じゃあ行こうか」
こんな平穏とは程遠いだろう、戦場の職場へと。

 

 


***

 

 


車を運転するのは綱吉の仕事だ。
リボーンは助手席で膝の上にナッツを抱えている。勿論レオンは肩の上に。
もしもの時、動く車の中から銃撃戦なんて綱吉には無理なので、必然的にこうなった。
射撃でリボーンに敵う人間はまだ見たことはない。リボーンが本当に人間ならの話だけれど。
「今変なこと考えなかったかツナ」
「別に何も」
同じ敷地内なんだから、車で僅か十分程度の距離だけれど今日も何事もなく到着。
「十代目!おはようございます!」
「おーツナ。小僧もおはようなのな」
嬉々として出迎えてくれる右腕の獄寺と、「左腕は譲らねぇのな」とか最近言い出した親友の山本。
二人の一歩手前で挟まれるように執務室へ向かう途中、リボーンは綱吉たちのずっと後ろを歩く。
ボスの到着にかしこまるファミリーの構成員たちは、恐らくリボーンに気付いてはいないだろう。
そこにいるのに『居なくなれる』リボーンだから、綱吉がボスとして立ち振る舞う時は殆ど存在を消してしまうのだ。
それが少し寂しいと思ってしまうのは綱吉だけではないらしく、足許でナッツもきょろきょろと何かを探している。
「・・・ナッツ、大丈夫だから落ち着いて」
「ガウ・・・」
執務室に到着して扉が閉まればもう他の者の視線はない。
一番最後に足音も立てず扉を閉めたリボーンに、ナッツは急いで走り寄って行く。
「・・・十代目、よろしいですか」
「あ、あぁ!うん、ごめん」
ぼんやりとナッツがリボーンに飛びつくのを見つめていたら、隣で書類を抱える獄寺に気付かなかったらしい。
本日の予定を聞いて、書面の資料とサインが必要な書類をざっと見て分類したり、不備を直感して突き返したり。
現状の報告を聞けば一応ここで朝の確認は終了。
「では、よろしくお願いします。十時ごろにお迎えに上がりますので」
「今日は俺も一緒に行くのな!」
「うん、よろしく」
ぱたんと出て行った二人を見送ったあと、手元の書類を捲ることから始める。
「今日はメィエーレファミリーと昼食か」
「・・・うん。リボーンはその、苦手なんだろうけどさ、でも」
「くだらねェ心配すんなダメツナ。俺はお前の影だろう。離れてどうする」
「・・・うん、うんそうだね・・・!」
メィエーレとは蜂蜜だ。やけに綱吉を気に入っているドンが居るのだが、またこれが名前の通り根っからの甘党で。
昼食と言ってもメィエーレファミリーに掛かれば甘い匂いが蔓延するほどの甘ったるい品が並ぶ。
そんな匂いをあまり好まないリボーンには辛いだろうが、付いて来てくれると安心した綱吉は嬉しそうに手元の資料を捲りだした。
その右手を取り、軽く指を絡める。
「・・・ツナ」
「・・・ん」
かつん、とあたるお互いの指に煌めく細い白金のリング。
精度なんて関係のないただのアクセサリーだが、綱吉の炎にも耐えられるように加工は行ってあるし、何より。
「あんな危険な場所で目を離していられるか。お前無防備過ぎるぞ」
「・・・ふふ、ごめん」
内側に彫られた文字と、カケラのような石の破片はお互いしか知らなくていいもの。
「次お前に触ったら撃つからな」
「それは困るよ!大事な同盟ファミリーなんだから!」
「じゃあ触らせんな」
「うぅ・・・努力するから」
足許できょとりと見上げるナッツと、リボーンの腕を伝って机に下りてきたレオンの目は窺うように綱吉を見ている。
流石に相棒である前に武器であるナッツは具現化させておくわけにはいかないので、匣に戻すことになる。
レオンもリボーン同様に護衛としては付いて来てくれるが、気配は『消えて』いるので居ないと同じこと。
相手ファミリーのボスに自重して貰うには、気安い山本では少し物足りなくて。
「・・・やっぱり、俺が努力しなきゃ駄目か」
「当たり前だ。ツナ」
「ん、」
ナッツからは机の影で見えない位置で、軽く唇を吸われる。
まだぜんぜん慣れないけれど、こんな風に突然重なるリボーンからのキスは段々と当たり前になりつつあった。
困るけれど、嫌じゃないのでもっと困る。
なんとなく情けない顔になっていたんだろう。リボーンはく、と小さく笑うと綱吉の髪をくしゃりと撫でてくれた。
「ドン・メィエーレが無事のままで帰って来れたらご褒美やろうな」
「・・・期待してる」
負けてばっかりも嫌なので強がってそう言えば、にやりとまた意地悪な笑みを浮かべられる。
重ねたままだった手を持ち上げられて、軽く手の甲に触れるキス。
「期待してろ。さて、仕事だ」
甘い時間は終わりとでも言うように、目の前の資料をバサリと拡げられる。
リボーンが四六時中付き添うようになってから綱吉が執務室を逃げ出す機会は皆無になった。
会いたい人は側にいるのだから、わざわざ探しに出かけなくても良くなったということで。
それから二人、過去に戻ったようなスパルタ式な方法で怒られながらも時折甘い接触を繰り返しつつ、執務時間は過ぎていくのだ。

 

 


***

 

 


「あ、ご褒美」
夕食を終えシャワーも済ませて今日一日を終える準備をする。
今日も無事、急な抗争が入るわけでもなく血の雨を見ずに仕事を終えることが出来た。
一瞬、楽しい昼食会を真っ赤に染めそうな出来事があったのだが、ナッツのお陰でなんとか無事に終われたのだ。
「ありゃ、お前の努力じゃねーだろ。それでも要求するか?」
「・・・それはまぁ、ナッツのお陰でもあるけどさ」
他の男と挨拶さえもさせてくれない心の狭い伴侶様は、良く来たと喜ぶボスと挨拶で握手しようとしただけで、消えている癖に殺気を剥き出しにして下さった。
それでも気付かなかったドンがついに触れるかどうかのその瞬間、綱吉の身体は殺気に硬直したままで黒いマントに包まれて何とか危機を脱したのだ。
形態変化の防衛モード『マンテッロ・ディ・ボンゴレ・プリーモ』であるが、綱吉の触れられたくない意識に反応して変化しただけで、ナッツも元の姿に戻った時は突然匣から出ていてきょとりとしていた。
「あの後、驚いたドンも元に戻ったナッツを気に入って気を逸らしてくれたから、助かったのは本当にナッツのお陰なんだけど」
結局ドンは最後まで元気にまた来てくれと綱吉たちを見送ってくれた。今現在、彼は五体満足で無事である。ので。
「約束のご褒美。くれないの?」
「・・・ったく、日に日に図太くなりやがって」
今も濡れた髪をリボーンに丁寧に乾かして貰っているのだ。
膝に眠そうなナッツとレオンを抱えたまま上向きに見上げれば、ちょっと悔しそうなリボーンと目が合う。
「昔の可愛らしいお前は何処に行った?ツナ」
「それこそ俺が聞きたいよ!中身が実は年上って反則だろ!?」
「実際歳なんて気してねぇ癖に反則も何もねーだろうが」
「・・・うん、まぁ。リボーンはリボーンだしね」
かちりと、ドライヤーの止まる音がする。
元々乾きやすい跳ね放題の綱吉の髪は、けれどリボーンが乾かしてくれるだけでびっくりするほど大人しくなるから不思議だ。
そのまま転がるように座っていたベッドに横になって、もううとうとし始めているナッツとレオンをそっと寝かせる。
「で?」
「うん?」
「何が欲しいんだ」
「・・・・あ、わかる?」
リボーンが綱吉に何を用意していたのか、それも気になるけれど、綱吉にはずっと欲しいものがあったのだ。
捲ったままの掛布団を被せてくれようとしたけど、それを拒否して軽くシーツを叩く。
「何だ?」
「い、一緒に寝ようって言ってるの!・・・そして、出来れば・・・俺が起きるまで出て行かないで」
いつか見た夢のように、当たり前に隣に眠る約束が欲しい。
けれどいつか見た夢のように、黙って隣から消えることはしないで欲しい。
冷たいシーツなど虚しくなるだけだ。起きるまででいいから。一緒に居て欲しい。・・・なんて。
「・・・・・・ツナ」
「な、何だよ」
言ってから、妙に甘ったるくなってしまって後悔しても遅い。
一瞬驚いたように見開いたリボーンの眼は嬉しそうに笑みの形を作り、乗り上げるようにベッドの上に入ってくる。
「それは誘ってんのか?」
「ば、ばか!ナッツたちがいるだろ!?普通に寝ようって言ってるだけだよ!」
悔し紛れにぐっすりと寝入ってしまっているナッツを抱きしめる。
あまり気の強くないライオンであるナッツは、勿論かなりの人見知りだ。
今日一日見知らぬ他人にべったべった触られて疲れきってしまったんだろう。
これだけ騒いでも起きないナッツに気を良くしたリボーンは綱吉と向かい合わせにベッドへと横たわり、軽く起こした上半身を屈めて唇を触れ合わせる。
「リ、ボ・・・ッ、・・・!」
朝から触れ合わせるだけのキスは何度もした。けれど、身体の底に熱を植えつけられるような口付けは、ある意味我慢させた分、我慢した分性急でねちっこく、終わりが見えない。
二人の間のすぐ真下にナッツが居るというのに、きっともうレオンは起きてしまっているのに、それでも止められないキスは。
「っは、ぁ・・・」
「・・・仕方ねーからコレで勘弁してやるぞ」
「・・・意地が悪い!」
「どっちがだ。この状況でベッドに誘ったのはお前だろうが」
「誘・・っ!」
中途半端に熱を煽られて、けれどどうしようもなくて綱吉の顔は真っ赤に染まっている。
散々貪られてひりつく唇と、追い上げられてしまった体温。
悔し紛れに睨もうとしたけれど、シーツを握り締めていた右手をそっと握られて、また指が絡む。
それだけで安心しきってしまった身体から、ふっと緊張が解けた。
「・・・朝までこのままで居てやる。もう眠れ。・・・だが、起きたら続き覚悟してろよ」
「・・・ん」
瞼の上を撫でるように擦られて、綱吉はゆっくりと瞼を閉じる。
やはり綱吉も、ナッツと同じように少し疲れていたのかもしれない。安心しきった途端、急速に襲ってくる眠気に身体の熱も忘れていく。
寝入る最後の瞬間、おやすみと呟かれた言葉と共に唇が振ってきた気がした。

 

 


***

 

 


「・・・ン」
翌朝。まだ少し空が青白い時間。
けれど、何かに呼ばれたようにゆっくり綱吉の意識が浮上した。
もぞりと目覚めた身体でみじろいで、けれど目を開けるのはまだ少々辛くて綱吉はごろごろとシーツに転がる。
「・・・ガオ」
「・・・ん、ナッツ・・・?」
腕に抱いたふかふかのナッツも気付いた様子だが、けれど目覚めるのは綱吉と同じく億劫なのかまたもぞもぞとシーツの中へと潜っていく。
周りからはいつも似た者同士だと言われる相棒のナッツと綱吉だが、流石にここまで寝汚くはないと思いたい。
「何だ、そっくりじゃねーか」
「!」
目を開けてみれば、すぐ近くに寝起きのリボーンの顔。
繋がれた手はそのままで、ちゅ、と音を立ててその指に唇が落ちてくる。
「おはようツナ。良く眠れたか?」
「・・・う、うん」
そのまま引き寄せられて、寝ぼけたままの顔にも柔らかいキスが振ってきて。
「・・・よし、ヤるか」
「・・・・・・・・・・・・・・何を」
アレなんだかすごく既視感を感じる。
「約束したろ?説明が欲しいなら実地でしてやる」
「いやいやいらないから!ほら、ナッツ!ナッツとレオンが」
「もういねぇぞ」
「・・・え?」
何処からか取り出した一枚のクッキー。
勿論見覚えがあるそれはリボーン手製のレオン用ご飯であるものだけれど。
「昨夜用意しといたんたぞ。ナッツの分もな。レオンはしっかり誘導してくれたみてーだな」
「・・・レオン、もう本当に気を使い過ぎだから・・・!」
けれど、これでもう逃げる理由もない。逃がして貰える理由も失った。
繋いだままの手の平をそっとシーツに押し付けられて、ナッツの分開いていた間を埋めるようにリボーンが擦り寄ってくる。
「ツナ、まだ駄目か?」
「・・・う」
うっすらと差し込む朝日の中で、一体何をしようとしてるのか考えるだけで顔の温度が上がっていく。
けれど、見上げた視線の先。
見慣れた白い天井の変わりに、真っ黒な目で見下ろしてくるリボーンの顔がそこにあって。
「もう、一回だけ・・・だからな!」
「それはツナ次第だな」

 


多少仕事に支障が出ても、結局はリボーンのせいでもあるのだし、四六時中側に居てくれるなら的確なフォローだってしてくれるだろう。
ならばまぁ、こんな朝もあまり悪くもないかもしれない。
綱吉はそっと笑みを零した。

 

一日の始まり。


目覚めはいつも、貴方から。



 

 


END



⊂謝⊃

『ふぁみりー!』、続いちゃいました。
書き出したら怒涛のように絡んでくれますこの先生。しかも、書き終わる(いちゃつける)まで寝かせてくれなかったんだぜ・・・・(ただいま朝の九時前ですね。ハイ寝てません/笑)
元々感化されて書き出したほのぼの家族ネタなのですが、まさかのご本人さまから気に入って貰えちゃったので調子に乗りましたすみません。(爆)もしよろしければ、貰ってやってください!(押し付け気味に)


このリボツナは、日中は旦那(ツナ)と妻(リボ)で、夜は逆転するタイプかと。
ツナにナチュラルで尽くす先生に自分で萌えた・・・!(笑)
先生の朝ゴハンはきっと美味しいと思います。 では、おやすみなさい!(日曜でよかった・・・)

 


斎藤千夏* 2010/06/27 up!