*喧嘩売るなら 2*
ここ数日何があったのやら、あっちで抗争こっちで暴動。
そしてそれらの対応に向かった守護者やヴァリアーが抱えて持って来る書類が綱吉の日々の仕事をこれでもかと増やしてくれた。
利き手である右手は未だに包帯が巻かれている。
リボーンのお陰でもう殆ど痛くはないのだが、包帯がないと無意識に使ってしまうので、早く直してしまうための枷の代わりだ。
修行時代にペンや箸はもちろんのこと、テーブルマナーなど、利き手を封じた修行までさせられたので、綱吉自身が抗争に向かわなければサインなどはとりあえず左手でも何とか処理できる。
差し迫っての不便はないのだが、怪我をしたという事実を口うるさい幹部連中や下位の部下たちに見せるわけにも行かず、結局は執務室に軟禁状態である。
「・・・あーもう疲れたー飽きたー・・・」
時計の針はまだ正午にも届かない。しかしながら朝も薄暗い時間から呼び出しの電子音に叩き起こされてここに座っているので、もう一日の四分の一以上使っていることになる。
「昼ごはんにもまだだしなー・・・リボーンも居ないし、いっそ逃げ・・・」
「ツナー!頑張ってるかー?」
ノックもおざなりに勢い良く開けられた扉の向こうから顔を出したのは、今日もさわやかな笑顔が眩しい山本武だ。
勢い良く開けた音で、ソファーの上でうたた寝していたナッツが驚いて転がり落ちる。
きょとんとしているナッツを救い上げて抱き上げ、逃げようとしていたことは誤魔化すように笑顔で迎えた。
「・・・や、やまもと。お、お帰り!出張はどうだった?」
「んー、まぁこっちにいい条件でなんとかなったと思うぜ。それより、コレお土産」
「お土産?・・・あ!」
そう言って掲げて見せたのは、綱吉お気に入りのケーキショップの箱だった。
「お疲れさんツナ。今日も朝から缶詰だって?ほれ、ここお気に入りのケーキなんだろ?出張の話も聞いて欲しいし、報告がてらちょっと休憩しようぜ!」
抜け出して行こうかと思っていた矢先の差し入れに余りにもタイミングが良過ぎるが、これを断る理由もない。
「さっすが山本大明神様!ありがとうありがとう!!俺お茶入れるね!山本はどっちが良い?」
「じゃあ緑茶で頼むのな」
「オッケー!ナッツもミルク入れてあげるからちょっと待ってな」
「ガオ」
今までのぐったりは何処へやら。
嬉々として席を立った綱吉は、執務室に備え付けてある小さな台所に駆け込んで行った。
料理はからっきしでもコーヒーにはとっても煩い先生と、お茶全般にはとっても厳しい先輩が居るので、必然的に上達した。
ナッツの分のホットミルクは少し蜂蜜を垂らして暖めるだけなのでまぁ言わずもがな。
しかし、これは女性陣にも意外と人気があるので、用意する回数は以外と多い。
今では、執務室で綱吉の用意するお茶を目当てに守護者が顔を出すことも珍しくないほどだ。
コン、コン、コン!
「おー」
キッチリ三度のノック音に山本が適当に返事を返せば、輝かんばかりの笑顔を浮かべた獄寺が顔を出した。
「失礼します十代・・・って、何でテメーがここに居やがんだ山本!?」
「こっちの準備は終わったから休憩なのなー。獄寺もどうせなら一緒に食ってくか?」
「食うって・・・って、まさかテメェお怪我している十代目に給仕させてんじゃねぇだろうなぁ?!」
「あー獄寺君お疲れ様ー」
「じゅ、十代目!ここは俺がやりますからお体を労って下さいとあれほど・・・!!」
また暫くお説教タイムが始まったが、ケーキの誘惑に耐え切れなくなった綱吉が獄寺に紅茶を差し出した所でようやく大人しく黙ってくれた。
折角淹れたばかりの飲み物が冷めてしまうからだろう。基本ものぐさな綱吉の給仕したお茶を飲めるのは、彼が珍しく自主的に動くか、他の誰かに強請られたり強要された時のみだ。
必然的に獄寺が相伴に与れることは殆ど無いに等しい。書類に掛かりっきりになる綱吉に給仕をするのも彼の仕事なので。
山本には暖かい緑茶。ツナと獄寺は紅茶を片手に、色とりどりのケーキを物色する。
ついでに買ってきてくれたらしい焼き菓子をレオンと瓜と次郎、小次郎がお相伴に与った。
次郎と小次郎は平気だけれど、未だに瓜がちょっと苦手なレオンはツナの膝から動かない。
次郎は山本の足許で、小次郎も山本の手から直接砕いて貰っているが、瓜だけが机の上で王様状態だ。けれどこれはもう見慣れた光景なので誰も何も言わなかった。
「それにしてもさー最近忙しいよね。抗争の事後書類以外でも今までにないハイペースで案件とか書類が回って来るんだけど、獄寺君何か知ってる?」
「え、・・・それは勿論知って居ますけど・・・。あの、リボーンさんから聞いてないんすか?」
「ん?何を?・・・そういえば、最近側に居てくれないんだよな。別に長期の仕事渡した訳でもないのに。今日なんて朝から顔も見てないんだよ。レオンにも会えなくて寂しいよねナッツ」
「・・・ガゥ」
ぼそぼそと呟いた綱吉と同じようにやはりしゅんと肩を落としているナッツ。
朝目覚めてから夜眠るまで同じ空間で過ごしていた相手が居ないと、綱吉もナッツもやはり寂しいのだ。
今までのリボーンならば、怪我をした綱吉を放って何処かへ出かけることなど稀であったのに。
そもそも、両利きのように訓練された理由が綱吉のバトルスタイルだ。
日々の生活に支障はなくとも、身を守るための武器が使えなければ、それこそ命の危険に繋がる。
護衛も兼ねているリボーンが、こんな綱吉を放っておくはずはないのに。
「・・・まさか、リボーン・・・俺に飽きちゃったりしたのかな」
「それはないのな!絶望的に」
「?絶望?」
「いやそれはこっちの話。小僧がツナに飽きるなんて、まずあり得ない話なのな」
「そうですね。その辺りは大丈夫なのでご安心ください」
「でも・・・」
「十代目・・・」
最近めっきり色気を増した様子のボスの憂う姿は心底目の保養になる。
それも、天空ライオンを膝に乗せてその背を撫でるその姿だ。まるで一服の絵のように完成度が高かった。
許されるなら写真として残しておきたいと思うほどの情景に、獄寺は言葉を呑み、山本は欲望のままにケータイで撮影を開始した。
「山本?」
「ん?午後からはもっと良いヤツ撮ってやっからな!」
「う、うん?」
よくわからないままに頷いて見せた綱吉の表情はやはりどこか疲れている。
説明もないままに多忙を極めたここ数日のスケジュールを振り返って、獄寺は綱吉に頭を垂れた。
「十代目。実はリボーンさんの指示で、明日以降の一週間ほど仕事を前倒しにさせて頂きました。今日にまで食い込んでしまって申し訳ないのですが、後はこちらで何とかしますので、十代目はそろそろご準備の方を進めた方がいいかと」
「一週間・・・って、何で?って、そもそも準備?って何の?」
「ガウ?」
綱吉に揃って小首をかしげるナッツの姿は、ライオンだということを忘れてしまいそうなほど大変可愛らしい。
これをついに独り占めされると思えば、山本も苦笑が隠せなかった。
「ったくずりーよなー。小僧も俺たちに何も言わねーでとっとと自分だけのモノにするなんてさ」
「え、と。山本?」
「ま、俺はこの位置から動く気はねーけどな。俺とツナはこれからもずっと親友なのなー!」
「う、うん!もちろん!」
これに負けずと張り合うのは獄寺だ。
「俺だって、右腕の地位は誰にも渡しませんよ!幾ら十代目がご結婚なされて所帯をお持ちになっても、この地位だけは!」
「それは勿論だよ!俺みたいなのにはそもそも獄寺君優秀過ぎてもったいないくらいなんだから!俺が結婚して所帯を持っても・・・・・・・・ケッコン?」
今度は先ほどと反対側に小首を傾げた綱吉に、真似をするようにナッツも同じ方向へと傾く。
「って、何それ!俺は結婚なんて・・・」
そもそも、綱吉とリボーンが所謂『そういう仲』であるということは、九代目と守護者、アルコバレーノやヴァリアーの知る所であったはずだ。
それもこれもリボーンがぶっとい釘代わりに彼らに吹聴したからであるのだが、確かに彼らは溜息を付きつつ若干何名かを残して頷いていたはずだ。
綱吉も、外に出る時や客を迎える時以外はリボーンと交わし合ったリングを左手の薬指につけている。
それを知っているはずの彼らが今更綱吉の結婚を口に出すのは違和感の方が強い。
「まーこのままズルズル行くよりは賢い選択だと思うのな。ツナだって小僧と別れる気はさらさらないんだろ?」
「ないよ!でも、だからこそ余計に意味が分からないよ。結婚なんて!幾ら、男同士だからって・・・」
どれだけ親密でも、世間的に彼らは未だ家庭教師と生徒。良くてボスとヒットマンか。
事実上綱吉は愛人も持たず独り身を貫き通している『超お買い得物件』であるので、頭のカタい幹部連中の娘や孫には格好の『婿候補』で、更にそれを狙っているのは同盟ファミリー内外に関わらず膨大な見合い写真がアプローチの手紙などが日々届けられている。
もちろん全て断りの連絡を入れているのだが、どこにこんなに女が居たのかと言うほど写真は減らずに増えるばかり。
綱吉はただいま人生最大のモテ期に突入していると言っても過言ではない。
だがしかし。望まない相手との結婚話など、ありがたくもなんともない。
「そもそも誰と結婚するって言うの?俺は」
「ダメツナめ。他に予定があるなら今から速攻で殺って来るが標的はどこのどいつだ?」
「え、いつの間に?リボーン!?」
朝から姿の見えなかったリボーンは、何やら箱や紙袋を大量に抱えて戻ってきた。
ナッツはここぞとばかりに綱吉の膝から飛び出して、リボーンの足許に擦り寄っていく。
また先を越された綱吉はそれでも、獄寺と山本の視線もあって、リボーンに抱きつきに行くのを我慢してとどめた。
「・・・それ何?」
悔し紛れに抱えられた荷物の中身を問う。
どれもこれも嵩張る重そうな荷物であったが、軽々と片手で持ち上げている事実を見ると怪力加減がよくわかるというもの。
応接セットの上にどかんと広げたリボーンは、そのままナッツを抱え上げて綱吉に近づく。
「何って俺とお前の衣装だろうが。フルオーダーで用意してやりたかったんだが生憎時間が余りにも足りなかったんでな。お前の分はこの間作ったもののサイズそのままだ。ま、微調整は俺がしといてやったから完璧だろ」
「・・・は?え?」
「とにかく今は時間がねーんだぞ。俺自らお前を着飾ってやりたいが、後は獄寺に任せる。手筈通りにな」
「はい、お任せ下さい!」
「山本はその間の護衛と足を頼むぞ。情報は事前にばら撒いておいたからな。刺客の数も警戒しておけよ。後で了平と雲雀が合流することになってるぞ」
「わかったぜ。任せてくれよ」
「え?ええ?刺客って何だよ?情報って?!」
「じゃあなツナ」
ナッツを抱き渡すついでのように、余りにも自然に重なった唇はちゅっと軽い音を立てて離れた。
同時にスルリと絡められた指が、綱吉の左手に光る指輪を抜き取ったことに一瞬気付かない。
「ぁ、何で・・・!」
取られてしまった指輪に気付いた時にはどんな魔法か、リボーンの指からもリングは消えてなくなっていた。
「大丈夫だツナ。・・・続きは会場でのお楽しみだぞ」
不安そうに見上げてくる綱吉の視線を嬉しそうに受け止めて、呼吸をするより自然に綱吉の唇を舐めて出て行ったリボーンに、された当人はしばらく呆然として思考が追いつかないでいた。
「では十代目。こちらへどうぞ」
その様子を横から眺めていた獄寺がちょっと顔を赤くして、まだよく状況の飲み込めてない綱吉を別室へと促す。
呆然とナッツを抱えたまま促された部屋へと歩いていけば、山本も当然のように荷物を抱えて同じく部屋に付いていった。
***
リボーンが持ってきた箱から出てきたのはこれはまた見事な純白の衣装だった。
こんなもん結婚式以外の何処で着るんだよと叫びたいが、正に今からその結婚式は行われてしまうらしい。
その手のプロである女中たちに丁寧に風呂で磨かれ、疲れの浮いた肌や顔などを丁寧に整えられていく。
いつも彼女たちはボスである綱吉から声を掛けられるのを待っているが、実際入浴ごときで彼女たちの手を借りたことはない。
今日ももちろん辞退したのだが、今日だけは綱吉を完璧に磨き上げよとの命令に燃えていた彼女たちを拒むことは出来なかった。
髪や爪、まさかの眉などに至るまで丁寧に整えられてしまった綱吉は、そのままフィッティングルームで待っていた獄寺に引き渡された。
すでにもうどうにでもして状態である。
「・・・よし!完璧だ!」
抵抗するという気が起きる前にアレよこれよと着飾られて、更には薄く化粧まで施されて準備を整えられてしまったのである。
「お、ばっちりなのなー!かっこいいぜツナ!」
「あ、ありがとう・・・」
「たりめーだ!十代目、お綺麗です!」
「・・・獄寺君、ちょっとなんだか違う気がする・・・」
綱吉の着るテールコートと同じ生地で作られているらしい蝶ネクタイを首に巻かれたナッツも得意気だ。
「それにしても二人とも・・・いつの間に」
綱吉が女中たちに磨き上げられている間に彼らも準備を整えていたようだ。
色味は普段と変わらない黒いスーツであるが、普段よりも更に仕立ての良い上等なスーツでばっちり決まっている。
これでは主役がどちらか分からないほどにキラキラしいが、そう思っているのは実は綱吉当人だけだということに気付かないのは綱吉だからこそ。
「よし、移動すっか。場所はそんなに離れてないんだけどなー」
「え?何かあるの?」
「十代目。リボーンさんが言っておりましたでしょう。大丈夫です!俺が命に代えましてもお守りします!」
「おいおい獄寺、『俺たち』な。それも命は賭けないで守ってみせるぜ。じゃないと俺たち式に出られねーのな」
「そりゃそうだな。十代目!隙もなく無事にお届けしてみせます!」
「・・・あ、ありがとう・・・?」
ばっちり決まった親友と右腕にがっちりと両側を固められて、乗り込んだ車は勿論改造車だ。
後部座席に綱吉が乗るのを見届け、当然の様に獄寺が運転席へと座った。
「おい獄寺。俺がそっちの方がいいんじゃねーか?」
「うっせぇ野球馬鹿!てめーの下手な運転で十代目がお怪我でもされたらどーすんだ?あぁ?」
「あーまぁなーお前ほど上手くはねーけど、俺そんなに下手か?」
「・・・えーと、あははは」
運動神経の良い山本であるから、バイクを短時間で飼い慣らしたように車の運転も別に下手ではない。
ただ、とんでもないスピード狂なだけで。
笑って誤魔化した綱吉の左側に仕方なく身体を滑り込ませる。
「ガォ!」
「お、ナッツはここな。いざって言う時はしっかりツナを守ってくれよ」
「ガウ!」
綱吉の膝の上に抱えられたナッツは山本の大きな手に撫でられながら元気良く声を上げて見せた。
「では、会場の方へ出発します。式は夜からなので十分間に合うかとは思いますが、邪魔が入る可能性がありますので」
「邪魔って・・・。リボーンもさ、何もこんな厳重にすることないのに」
「何言ってんだツナ。今日この日を邪魔してやろうなんて奴ら、腐るほどいるらしーのな」
「だから、どうして?」
振動も感じさせないほど緩やかに動き出した車は、四方を数台の黒塗りが囲むようにしてボンゴレの城を出て教会へと走り出した。
窓から流れる景色の速さでそれなりに速度は出ているはずだが揺れは殆どなく、獄寺は確かに車の運転が上手いのだ。
安心の運転手に任せて、綱吉はいい加減今日の趣旨を図りかねていた。
「ツナ、最近見合いの話とか多くね?」
「あ、あぁ。でもそれは俺だけじゃなくて皆にもかなりの数が来てるんだよ。みんな格好良いからわからないでもないんだけど、結婚とかお見合いとか話が早いよねぇ」
「そうじゃなくてな。ツナの話」
「ん?」
綱吉の視線は、山本の言葉に返されたものではなかった。
振り返り様無意識に懐に手が伸びる。超直感が何かを感じた一瞬後にパアンと銃声が鳴り響く。
「獄寺、来るぞ!」
「わーってる!十代目、少々揺れますがご安心ください!必ずや無事にお届けいたします!」
「うん、わかった!わかったから前見て前!!」
そう言う間にも銃撃戦は始まっており、周りの車は何台かタイヤなどを狙われて戦線離脱しているようだ。
向かってくる数も半端ではないようで、どこのファミリーというわけでもなくそれぞれに綱吉の車を狙っている様子が見られる。
「なんなのこの数!?今日何かあったっけ!?え?今日抗争の予定なんて入ってなかったよね!!?」
「だから言ったろーよツナ。こいつらみーんなツナをやりたくないんだとさ」
「やりたくないって何にだよ!?」
「だから小僧に・・・っと!」
言いかけた山本は、完全装甲車の窓ガラスを突き破ってきた銃弾に遮られる。
とりあえずの銃で応戦しているが、そもそも山本の獲物は近距離向きの刀であるので、中々的にも当たらない。
「やっぱり代われよ獄寺!お前の方が向いてんだろ?」
そうは言っても前方からの攻撃も止まない現状で運転席の交代は中々至難の業に思えた。
「っち!空からも来やがったか?!」
「違う!あれはうちのだよ獄寺君」
バラララと派手な音を立てて近寄ってきたヘリの操縦席には拳を振り上げる男が見える。
どう見ても笹川了平その人だと思うのだが、運転席に目を奪われていた彼らは突然車の上に落ちてきた音に少々驚いた。
「な、何か上に!」
「酷いね。君も一緒に噛み殺そうか」
「ひ、雲雀さん!?」
確かにリボーンは途中でこの二人と合流するだろうって言っていたが、まさかこんな合流の仕方だとは思わなかった。
とりあえず雲雀が到着したお陰で余裕も生まれ、山本と獄寺が運転席を入れ替わる。
綱吉が運転してもいいのだが、片手が少々不安な状態で戦場を走るほどの腕もない。
スピードさえ我慢すれば山本の方が安心だろう。
「っし、手加減しねぇぜ!くたばりやがれ!!」
助手席で構えた獄寺はここぞとばかりに大きな花火を打ち上げた。
上空からの援護射撃にも助けられ、周りを囲む数台が減ったが綱吉や守護者たちは無傷どころか衣服に乱れもなく、会場であるらしい教会まで到着したのだった。
***
式が始まるまでにはまだ時間がある。
準備も既に整っている綱吉はそのまま両側を山本と獄寺に挟まれ、既に集まっていた面々と挨拶を交わして回ることになった。
真っ白なテールコートの胸には淡い色づきの小ぶりな薔薇が差し込まれ、綱吉は何処から見ても本日の主役の片割れ・・・新郎のいでたちだ。
まだ本人も良くわかっていないままに、顔を合わせる知人たちは急な婚礼に驚きと祝福の言葉をかけていく。
「いやはや、急なお話で驚きましたぞ!」
「さてどんな娘を妻に選ばれたのか。ドンボンゴレの妻になる方だ。とても器量よしに違いない」
夫婦揃って顔を出してくれた同盟ファミリーのドン達からは、からかい交じりの言葉を受ける。
「おーツナ!先越されるとは思わなかったぜー!おめでとうな!」
いつにも増してキラキラしい兄弟子も、弟分の祝言にキラキラオーラが半端ない。
「沢田ちゃーん!心の友がお祝いに来たよ!カノジョがいるなんて言ってなかった癖にこのこのぉ!」
「っていうか良く来れたねロンシャン・・・」
お互いに当代を継いでからは表だって敵対はしていないとはいえ、過去を忘れた訳でもない頭の固い連中はどちらにもいる。
祝いの席で会えると思っていなかった級友に綱吉の顔は自然と綻んだ。
どうやら、流される気持ちとは別に内心緊張はしていたらしい。
ロンシャンと言葉を交わして、自分でも気付いていなかった緊張の糸が少し緩んだような気がした。
「ツゥナァー!いきなり結婚って何だ!?お父さん知らなかったぞーぅ!!!」
勿論最後の叫び声には心の底から無視してみせた。
彼らに交じり、他の弱小マフィアやここぞとばかりにつながりを持ちたがっていた男達が綱吉に近づこうとした時、唐突に現れた面々に誰もがその言葉を飲み込んだ。
「ようツナ。祝いに来てやったぞコラ!」
「僕も今日はこっちで参加するよ。ヴァリアーの仕事は全部鮫に押し付けてきたから」
「みんな!」
この世界に足を踏み入れている者なら誰もが知るアルコバレーノの面々と親しげに話し始めた綱吉を、彼らは遠巻きに見守るしか出来なくなる。
ドンボンゴレも確かに雲の上の人物だが、それ以上にアルコバレーノがこんなにも顔を揃えているのを見ることもまずあり得ない。
そんな彼らと親しげに言葉を交わす綱吉は、そろそろ緊張もすっかりほぐれたようで、いつものように穏やかな顔で笑みを浮かべている。
「ん?あれ?ナッツ?」
ついさっきまで足許に居たはずのナッツが居なくなっていることに気付いたのはその頃だった。
「今日は色んな方が見えていますからね。あぁ、先ほどイーピンと一緒にツナさんのお母様とお会いしましたよ」
「へ?!母さんまで来てるの?!」
「お前の親父の宥め役だろう。バジルが奮闘していたぞ」
「まぁ、そっか・・・。あの馬鹿親父なら母さんじゃないとどうにもならないもんね・・・」
とりあえず探してくると、綱吉は彼らに断りの侘びを入れて席を立った。
「ナッツー?」
裏方にさえ回れば、ここにはもうボンゴレの人間しか居なくなる。
山本と獄寺にもナッツをさがすことを頼んで、綱吉は直感の導くままにある部屋の前にまで辿り着いた。
「うわぁん!!」
「わ!ランボ!?」
「あ、ツナー!!!」
飛び出してきたのは青年にまで成長したランボであった。
けれどどうにもこの泣き虫癖は直らないようで、目の前に居るのが綱吉と分かるといつものように飛びついてきた。
しかしその腕が綱吉に辿り着く前に、足を引っ掛けられたランボはその場にずっこける。
「汚さないで下さいよ。着替えも用意してないんですから」
「・・・骸?」
床でグスグス泣いているランボを転ばせたのはどうやら骸らしい。そして、その隣には綺麗に着飾った凪の姿もあった。
「二人とも、こんなところにいたの?」
「私、ボスのために頑張るね」
「う、うん・・・?」
やはり脈絡のない凪の言葉にちょっと首を傾げて見せたが、凪の腕に抱かれたナッツに気付いて驚いた。
「こんな所に居たのナッツ。急に居なくなるから心配したんだよ」
撫でるツナの手を心地良さそうに目を細めてぐるぐる唸るナッツは心底気を抜いているようだ。
基本的に人見知りのナッツだけれど、そろそろ守護者達には慣れたらしい。
骸にだけはあまり近寄らないが、これは綱吉にも言えることなので、ナッツが警戒心を抱くのもわからなくもない。
「それにしても骸まで。みんな、こんな急な話なのに良く時間作れたね」
「アルコバレーノの手腕ですよ。結局はね。誰も彼には勝てやしない」
「・・・ちがうよ骸様。ボスのために動き出したら、あのヒトはもう止められないの」
「そうでした」
二人の会話をどう聞き取って良いものか首を傾げた綱吉に、扉の向こうからビアンキの声が聞こえる。
「その声はツナ?やっと来たのね。入って来なさい」
霧の守護者に視線を送れば、骸はそっぽを向いたが、凪が頷くようにして部屋へと進めてくれる。
何が待ち構えているのか、恐る恐る扉を開けて覘くと、何やら真っ白な布の洪水が目の前に広がった。
「な、に・・・?」
「遅かったじゃねぇかツナ。待ち草臥れたぞ」
満足そうに頷いているのはビアンキだが、その隣に座った細身の身体が振り返る。
振り返ったその人はどうやったってリボーンなのだが、まさかの。
「うえでぃんぐどれす・・・リボーン、お前が着てくれるの?」
「あぁ?他の誰と契りを交わす気だったんだ?」
「いや、ただの振りだと思ってた。役者さんにでも頼んでね。流石に男同士でってのは大々的に言わないだろうって思ってたけどさ。まさか・・・こう来るなんて」
ボンゴレのドンが式を挙げるならば、綱吉はどうしてもこの新郎スタイルに落ち着くだろう。これはわかっていた。
ただ、まさか本当にリボーンが隣に立ってくれるとは思わなかったので、綱吉は今更ながらに頬が火照ってくるのを自覚する。
「それよりもだな。一言ぐらい褒めたらどうだ」
骸がそっぽを向いた理由が分かった。
立ち上がったリボーンはどうしているのか綱吉よりも身長が低いし、剥き出しの肩はいつもよりとても華奢に見える。
傍目にはリボーンと分からないほどの変装なのだろうが、それでも綱吉にとってはリボーンにしか見えないのだが、変装を多様する骸も恐らく同じように見えているのだろう。
超絶美人に間違いはないが・・・骸にもリボーンに見えるので内心複雑といったところか。
しかしながら、綺麗なものは綺麗だと思う。それに、綱吉にとってはどんな姿でもリボーンはリボーンだ。
「・・・ん、綺麗だよリボーン。俺最高に幸せになれる気がしてきた」
「俺が相手なんだぞ。この先、幸せ以外の何がある?」
くすくすと笑う綱吉に寄り添えば、それは確かにお似合いの新郎新婦に見えた。
「お時間でーす!ビアンキさーん!リボーンちゃんの準備、終わりました?」
「えぇ、ばっちりよ」
返答を返したビアンキに促されて飛び込んできたのはハルだ。
「きゃー綺麗ですぅ!!素敵ですぅ!!今日のこの日のツナさんの隣に立つはハルだってずっと思ってたんですけれど、いくらハルでもリボーンちゃんには敵いませんねぇ!羨ましいほどにお似合いです!」
中々現れない新郎に痺れを切らした獄寺が呼びに来るまで、暫く綺麗だのお似合いだの羨ましいだのはしゃぐハルに、綱吉の気持ちはまた高まっていく。
「本当に、いいの?リボーンだったらもっと可愛くて綺麗なお嫁さんとか・・・」
「言うな馬鹿ツナ。俺が誰を愛しているか、お前は知っているだろう」
「・・・ん」
呆れた様子の骸や、やっと泣き止んだランボ。そして獄寺に付き添われ、綱吉は先に教会の方へと歩いていく。
「また後でな」
「うん。・・・待ってるね」
***
荘厳の教会の中で鳴り響くのは、パイプオルガンが奏でる独特な音楽だ。
多少のざわつきがあっても、神父の前に立つ綱吉に全ての視線が集中し、誰も彼もあの隣に立つ人間を今か今かと待ちわびていた。
嬉しそうに微笑むもの、悔しそうに睨みつけるものと様々だが、とりあえずは目立った問題もなく式は始まりの時間を迎えた。
「・・・ふぅ」
当たり前だが、結婚式なんて初めてだ。
緊張の面持ちで待っていると、今まで静かに流れていたパイプオルガンの音が音色を変えた。
同時に薄暗い教会内に、扉から差し込んだ光が差し込むように拡がっていく。
「・・・おぉ・・・」
扉近くの誰かが声を上げた。それもそのはずで、ヴェールに包まれた女性の顔ははっきりとは見えないものの可愛らしくも美人であり、その手を取って歩くのがまさかの九代目だったからだ。
「これはこれは素晴らしい」
「先代・・・神の采配にも認められたほどの女性とは恐れ入る」
「これでボンゴレは安泰ですな」
「いやいや、全ては子を成してからのお話ですよ、ねぇ?」
ざわざわと、まさかの登場に参列者達はどよめきの声を上げていた。
やはり歓喜の声だけではないと、分かっていながらも綱吉は少しだけ苦笑を浮かべる。
結婚式の最中でさえ、ドンボンゴレの妻の座を親族に欲しいと思う輩はゼロではないのだ。
政略結婚の全てが悪いとは思わないが、こうも狙われる立場になって色々と頭痛がしてくるもの。
しかしながら、否定の声だけでもない。
九代目の登場は思った以上に効果があったようで、まだ顔も見えない花嫁にこれ以上のないほどの箔がついた。
今後、式を終えた二人に待ち構えるのは『跡継ぎ』という問題だけだが、これはこれでどうにかなるだろうと綱吉も考えている。
それでも子供が生まれるまで、ドンボンゴレの妻の座を巡る騒ぎが収まることはないだろうと内心溜息をついた。
しかしながら、リボーンは更にその上を行く思考を持っていることをすっかり忘れていたのだ。
「な!?」
「まさか・・・!!」
長い長い純白ドレスのトレーンを持ち上げようと後ろからついて歩くのは、まだ頭を重そうによたよたと歩く幼い子供だったのだ。
その子供の登場は良いとして、しかしながら彼らが驚いたのは次の瞬間である。
「・・・う」
多くの視線に注目を浴びて俯き加減であった顔が、花嫁と視線を交わして、嬉しそうに綻んだところで。
ぽあぽあと揺れる柔らかい髪から、少々オレンジの濃い瞳など、まるで綱吉にそっくりだということだ。
「・・・なんだろ?」
綱吉の居る位置からでははっきりとその姿が見えないが、参列者達が花嫁と九代目ではなく、その後ろに立つ何かに視線が釘付けになっていることくらいは分かる。
神父の居る祭壇の前から少し前に迎えに出た綱吉とリボーンが触れ合える距離に近づいて、ようやく綱吉にもその子供が見えた。
「ナ・・・ッ!」
まさかと思ったが、ウインクをして見せたリボーンの仕業らしい。
その場に居たのは、以前綱吉が夢で見たあの日のナッツの姿だった。
自分そっくりのまだ幼い子供は、綱吉と視線が合うとこれまた嬉しそうに笑ってみせる。尻尾があればすごい勢いで振り切っているだろう。
一応猫科のはずだけれども。
九代目からにこやかな笑顔で花嫁の手を受け取り、こんな結婚式に反対どころか祝福さえしてくれる暖かな心に大いに感動した。
「綱吉君。君にはいつも面倒を掛けてすまない。・・・だが、私も驚いたよ。こんなに美人な女性を未婚者のままで居させるとは」
「・・・九代目・・・」
「じゃが、やっと安心できるわい。彼女となら、今まで以上にボンゴレを盛り立てて行けると信じておるよ」
「・・・・はい」
どう見ても訳知り顔で笑っているのだが、会場の殆どがそれは先代としての祝福の言葉と取ったようだ。
これ以上付け込む隙はない。いや、子供がいるといってもまだ幼い身。今のうちに・・・。
など押さえ込まれたざわつきはやはり止まることはなかった。
それほどの衝撃を与えた子供の存在は、会場の厳粛な雰囲気が揺れるほどにその場に居た面々の度肝を抜いたのだった。
彼がもしや十一代目になるやもしれない。そんな思念の渦巻く中、無事大儀を終えた子供は綱吉ににこりと笑いかけて、凪の席まで走っていく。
「・・・まさか凪?骸?」
「後でな。教えてやるから、今はこっちに集中しろよ」
どういう魔法を使ったのか、やはりリボーンの今の身長は綱吉よりも僅かながら小さく見える。
普段見上げることの多い視線が薄いベール越しに下にあって、妙に照れてしまうのはどうしてだろうか。
ようやく落ち着いた教会内で、再び厳粛な空気が流れ出す。
式はさほど妨害もなく、順調に進んでいた。
綱吉がリボーンのウェディングベールを外したところで現れた可憐で美しい美女とも少女ともつかない花嫁に、ドンの花嫁の座を奪ってやろうと考えていた女性達は項垂れ、また、その親たちも首をそろえて項垂れた。視線は絶世の美女に向けられたまま、厳かな空気は更に彼らを中心に広がっていく。
なぜだかどうして、リボーンの知り合い連中もこれがリボーンだと知っているが信じられない顔で見ている様子に、綱吉は少し笑ってしまった。
「では、リングの交換を」
神父の声に反応して現れた子供に、またしても教会内にざわめきが拡がった。
リングボーイとして登場したのは殆ど見かけないほどの絶世の美少年だったからだ。
真っ黒の髪と不思議な色合いの瞳を持つ子供は今度は驚くほどその花嫁に似ていた。
綱吉も、驚いたと同時に嬉しそうな瞳でその少年を見つめるものだから、時期十一代目は実はこちらか?とまたざわめきが拡がった。
「・・・レオンまで。リボーン、何をたくらんでいるの?」
「口が悪ぃな。素直に受け入れろよ。嬉しくないのか?」
「・・・そりゃ、嬉しいけど」
ぼそぼそと言葉を交わす内容までは誰の耳にも届かない。
そんな中睦まじい姿を見せ付けるように交換された指輪は、先ほどリボーンが引き抜いていったもの。
二人だけで交わした結婚指輪をもう一度、それもこんな場で交換することになるとは思っても見なかった。
「・・・だから外したんだ」
「不安だったか?」
「・・・うん。でも、今幸せだからそれでいいよ」
微笑む綱吉はどこまでも嬉しそうだ。
その笑顔だけでどれほど彼らが想い合っているのか見せ付けられ、その中でも我慢に我慢を重ねてきた者たちにとってはいい加減爆発してしまうほどだったようで。
「では、誓いの口付けを」
この言葉と同時に向けられた幾つもの銃口は、瞬く間に火を噴いた。
しかしそれらが綱吉とリボーンに当ることはなく、鳴り響いた銃声は綱吉が彼らの銃を撃ち飛ばしたものと、リボーンが放ったゴム弾が彼らの眉間にヒットした時の破裂音である。
息ぴったりのそんな技まで見せ付けられて誰もが勝ち目などないと悟ったのだろうか。
しかしながら、祝福の気持ちを送ることなど出来ない一部の者たちは、その直後に回りを巻き込んでの銃撃戦が始まってしまった。
「・・・あーあ、想像はしてたけど、こんなにいるの?」
「それほどお前は狙われてるっつーことだ。ま、今日を境にそんなヤツも居なくなるだろうがな」
視線は綱吉。けれど、向けられる銃口が火を噴く前に沈めつつ、二人は今一度向き直る。
「愛してるぞ綱吉。もう誰も俺からお前を奪えない」
「ありがとうリボーン、俺もだよ。ずっとずっと放したら駄目だからね」
お互いの誓いの言葉は、彼らの前に立つ神父にしか届かない。
背後で起こる戦争などものともせず、二人は荘厳な祭壇の前で静かに口付けを交わしたのだった。
『射撃の腕も十代目と同等、いやそれ以上!なんて女性だ!まっことドンボンゴレの妻に相応しい!』
結局、収拾のつかなくなった教会はそのままボンゴレの構成員や同盟ファミリーの彼らに任せ、綱吉とリボーンは意気揚々とボンゴレの屋敷に帰って来た。
しかしながら、祝福を送ってくれるものたちの中で、リボーンの存在は見事ドンボンゴレの妻として相応しいと認められたようで、今後の見合い云々に関しては解決したと言っていいだろう。
会場内でも帰る間際でも花嫁を狙う刺客は多かったが、相手はリボーンだ。どれもこれも返り討ちに沈み、当たり前だが二人とも無傷である。
また、がらんがらんと缶を引いて走っていく車でさえカーチェイスもどきのことをさせられたが、またも山本の手腕で全てを振り切って帰り着くことができたのだ。
今回の件で一掃できた反対派や私欲に目がくらんだ連中抜きでの食事会などはまた別の日に行うとして、二人はようやく住み慣れた屋敷に戻ってきたのだ。
「・・・あー疲れた。まさかあんなにいるとは思わなかった・・・」
「そうだな。流石の俺も多少疲れたぞ。・・・だがな綱吉、お前今日が何日が覚えてねーだろ」
帰り着くなりソファーでぐったりとした綱吉とは別に、いつの間にか変装を解いたらしいリボーンが、少々ラフな格好で側まで寄って来た。
時計を見ればまだ日付は変わっていない。
最近めっきり忙しかったので、曜日や日付など意識して動いていなかったのだが、確かに今日は二人の結婚記念日になるのだ。
いそいそとカレンダーを捲ってみて・・・驚いた。
「・・・うそ・・・待って待って!俺何にも用意してないよ!?」
「だろうな。だが別にいらねーぞ。・・・今日はお前を貰ったんだ。これ以上のもんはねぇ」
「・・・リボーン」
今日の結婚式を忠実に表すのなら、リボーンを貰ったのが綱吉になるのだろうが、それは上辺だけでの話である。
花嫁を貰った新郎という気分は綱吉にはない。
リボーンはリボーンで、綱吉は綱吉なのだから。
「それにしても、驚いたよ!ナッツもレオンも」
リボーンと共に戻ってきた二匹はいつもの通りの姿であったが、綱吉は至極あの姿の彼らを気に入ったらしい。
そうだろうと頷いたりボーンは、綱吉に向かって匣を投げて寄越した。
「これは?」
「骸と凪・・・それからヴェルデの贈りモンだ。ま、発注したのは俺だがな。この匣には霧の力が混ざっているんだぞ。どういうことか分かるか?」
「・・・え?ええ?」
その時ちょうど、カチリと音を立てて日付が変わる。
「これ、まさか」
「拡張匣って言うんだろ。お前の炎があればあいつらをいつでも人型に出来るって代物だ」
「・・・誕生日プレゼント?」
「に、なればいいが。嬉しいか?」
「・・・・勿論!でも、俺だって今日はリボーンを貰ったんだから、別に用意しなくたって良かったのに」
「・・・だったら、もうちょっと付き合え」
「うん?」
着たままであったテールコートを奪われ、それはソファーへと投げられる。
同時に持ち上げられた綱吉の身体は既にリボーンの腕の中。
「ナッツ、レオン。お前らの部屋は分かるな?」
「ガウ!」
今日を境に、彼ら二人の子供部屋と呼ばれる部屋が誕生していたらしい。
意気揚々とそちらへ歩いていく二匹を見送れば、これまた嬉しそうな笑みを浮かべたリボーンと目が合った。
「一応初夜だからな。プレゼントの変わりに、満足するまでお前を貰うぞ」
「っちょ!?それは、だって、仕事・・・!」
「何のための一週間だ。俺もお前もこの先暫く休暇だ。旅行に行くのもいいな。何処か行きたいところがあるならつれて行ってやるぞ?」
「え?ホントに?じゃあ・・・って!待って、だからって満足するまでなんて俺持たない!!」
「手加減はしてやるよ。だからって早々に潰れんじゃねーぞ。これも俺の愛の形だ。心して受け取れ」
「リボ・・・ッん、ぅ!!」
バタンと閉じられた扉は、朝日が昇りまた沈んでも暫く開かれることはなかった。
この後、ドンボンゴレはマフィアでも誰もが知る愛妻家となり、その美人の妻はいつまでも美しいまま衰えず、いざという時には表舞台に立ってドンを見事にサポートしてみせるような妻の鏡と呼ばれる女性となった。
勿論婚約者騒ぎも鳴りを潜め、しかしながら今度は愛人騒ぎが起こることになるが、そんな彼女や綱吉に喧嘩を売って勝てる者など居やしない。
誰にも邪魔をされることのない誓いを結んだ夫婦は、可愛い子供も二人に恵まれて、幸せな家族を作り上げている。
そんな最高の美人妻の正体が、最強の存在であるアルコバレーノのリボーンであるとは、元から知っている面子にも疑われるほど、決してバレることはなかったという。
END
⊂謝⊃
一ヶ月以上お待たせしましてすみません!
わー気が付けばオメタンになっちゃった!ということで誕生日も一緒にわっしょいしてみました。
無駄を省くいい方法だと思います。決して手抜きなどとは・・・あ、痛!石投げちゃ駄目!(笑)
ありがちっちゃーありがちですけど、ドンボンゴレとして結婚したんだからリボーンは世間的にはお嫁さんです。
一応家事も基本的にやってくれます。(まぁほとんどはお手伝いさんがしてくれますが、綱吉のことに関しては全てがリボーンさんのお世話です)
これからナッツとレオンが時折人間化してると思いますが、反則的な匣のせいということで目を瞑ってもらえると嬉しいです(笑)
斎藤千夏* 2010/10/13〜14(こじつけ気味に) up!