A*H

RE27(ありがちな吸血鬼パラレル)

 

 

 

 

*鬼の血脈 2*





「・・・リボーン」
降り止まない雨は窓を叩き付けるように降り注ぎ、ガタガタと風に揺れるガラスは今にも割れてしまいそうだ。
照明の落とされた部屋は何も見えないはずなのに、鳴り響く雷に鋭利な輪郭が照らし出される。
神様は理不尽だと思うほど男としての魅力を全て固めて作り上げられたような造形美。
同じ同性の目から見ても美しいものは美しく、綱吉は魅入られたように目が離せない。
「ツナ・・・」
そろりと撫でられる頬。
二人分の体重を受けて、広く柔らかい寝台がギシリと悲鳴を上げる。
重なってくる男の身体に嫌悪はなくて、その心地良い重みを綱吉は遠い何処かで『懐かしい』と感じていた。
恐怖は感じない。
窓の外はうるさいほどの嵐なのに、シンとした部屋の中で聞こえるのは互いの命を運ぶ鼓動の音だけだ。
その音は綱吉の興奮に合わせて次第にリズムを早めていく。
何かを確かめるように、または宥めるように触れる優しい指先と、少し冷たい唇。
パーカーのチャックを緩められて脱がされ、曝け出された首筋に触れられた時、全身に何かビリリとした電流が流れた気がした。
「・・・ぁ・・」
「・・・怖がるな。楽にしていろ」
刺激に跳ねた身体を、恐怖で逃げたがっているとでも思ったのだろうか。
誤解を解きたくて、力なく投げ出したままだった腕をリボーンの逞しい背中へと回す。
更に身体を重ねるように強く引き寄せれば、肌に触れたままだったリボーンの唇がくっと小さく笑みを浮かべたのだと分かった。
「良い子だ綱吉。・・・そのまま力を抜いていろよ」
「・・・ひ、ぁ、ッあ・・!」
どくどくと跳ねる心臓を直接掴まれているような感覚。脈打つ首筋の上の唇がゆっくりと肌を滑った瞬間、身体中の熱が奪われるような感覚が襲い、消えてしまいそうな身体を必死に目の前の男に摺り寄せて縋る。
この感覚を与えているのはリボーンなのに、その当人にしがみ付くことしか思いつかない。
「抵抗するなよ。お前は俺のものだ。・・・俺をその身体へ受け入れろ」
低い声に囁かれ身を震わせたと同時に、熱を奪われた箇所から全身に何か冷たい液体を流し込まれたかのように身体がびくびくと跳ね上がった。
痛みはない。
けれど、知らない感覚に身体の中をまさぐられているようで、心地良いとは程遠かった。
「・・・っん、」
それでも縋る相手は目の前の男しかいない。
ぐちゃぐちゃになってしまいそうな感覚を耐えようと、回した腕でしっかりとしがみ付く。
「・・・ツナ」
そんな綱吉の反応を気に入ったのか、とろけるような甘やかな声でそっと名前を呼ばれる。
きつく閉じていた瞼をゆっくりと開けば、やはりこの世のものとは思えぬほどの造形美が、更に色を増して艶やかに綱吉を見下ろしていた。
「良い子だ。・・・美味かったぞ、我が永遠のConsorte」
「・・・っは・・・」
かき回される感覚が馴染んできたのか、先ほどまでの不快感は嘘のように消えて、肌に触れたまま響かせるリボーンの声に身体を走るぞくぞくとした刺激が堪らない。
もっと欲しくて、止められるのが怖くて、必死で腕を伸ばしてしがみ付く。
機嫌良く笑ったような声と共に、ピチャリと濡れた音が何処か遠くで聞こえた。

 

 

***

 

 

「・・・はッ・・・!」
起き上がってみたそこは見慣れぬ部屋で、驚くほど広い空間にベッドが一つぽつんと置いてあり、綱吉はその上で跳ね起きた。
「なんだったんだ・・今の」
服装の乱れを確かめてみても、なんてことはない昨日と全く同じ服装だ。
着替えた記憶もないのでこれで間違いはないのだが、どうにも今見た夢が頭の中をぐるぐるとかき回す。
「って、俺・・・どうしたんだっけ?」
親に呼び出されたイタリアで迷子になって、妙にエロくて胡散臭いけど親切な日本語ペラペラの男・・・リボーンに拾われた。
怪しさ満点だったのに会話しているうちに警戒心もなくなり、確か彼の運転する車の中で・・・。
「起きたか」
「寝ちゃったんだよ!って、うわあ!?」
幾ら能天気な綱吉だといっても、昨日の行動は褒められたものではないと流石に理解できる。
旅先で会ったばかりの男に警戒心も抱かずにほいほい付いて来てしまったのだ。
身包み剥がれてポイっとかされても文句は言えないのだが、叫び声を上げた綱吉の反応に噴出すように笑みを浮かべて、何やらガラガラと引いてきたワゴンを綱吉の前に示して見せた。
「ったく今頃警戒か?・・・ま、良い心がけだが今は無用な心配だ。腹減っただろ。食うか?」
今時有名料理店やホテルでしか見ないような銀色の蓋・・・ドームカバーと言うらしいが、それを仰々しく開いて見せた中には、湯気を立てているほっかほかの料理が立ち並んでいた。
勿論、サラダやカットフルーツ、サンドイッチなどの軽い食事も用意されていたが、なにより綱吉の胃を刺激したのはとても良い匂いの湯気を立ち上らせるスープだ。
「・・・あ」
「腹は正直だな。確かに今日のスープはうちのコックの自信作だそうだぞ。早く起きて来い」
ベッドの上からは死角になっていて気付かなかったが、リボーンが促した先には大きめのテーブルが置いてあった。
そこに手際よく皿を並べているリボーンはとても手馴れていたのだが。
「・・・なんか、似合わないっていうか・・・、いつもしてるの?こんなこと」
「いや。使用人がいるには居るがな。客が居る時は基本的に俺がやっている。自分で出来ることはやっておかないとな」
「しようにん・・・」
促されて座った椅子は、所謂アンティークとかいう高級なものだろう。
テーブルもきっと目玉の飛び出るほど恐ろしい値段に違いない。
並べられた食器も真っ白で、銀色に輝くスプーンやフォークには顔が映るほど。きっと当たり前に銀食器だったりするんだろう。
当たり前にこんな豪華な食事を作ってくれる人が居て、客が居なければ当たり前に給仕されて生きているらしい。
けれど、客が居たらホストを行うのは主人である彼だそうで。
「・・・結構なポリシーで」
「あぁよく言われる」
褒めればそれが嫌味でも、謙遜のけの字も出てこない。
そんなところでここは日本じゃなくてイタリアなんだなぁなんて考えていた綱吉は、ようやく回りを見渡す余裕も生まれてきた。
先ほどまで警戒心が蘇っていたというのに、一度口を開くとどうにもその気持ちは始めからなかったかのように霧散してしまう。
「リボーンって、変」
「あ?」
「黒いのに、オレンジ・・・ううん、なんか暖かい黄色っぽくて、変」
「!」
昨日街中でぶつかった時は真っ黒のスーツに真っ黒の帽子をかぶっていたので、やはりイメージとしては黒くて『夜』なのだが、どこか眩しいような光・・・まるで、日中の太陽のような暖かな日差しを浴びている気分にもなる。
「なにかあるの?」
「いや。だが、そうだな。・・・改めて言われてみれば、あながち間違いでもねぇなと納得しただけだ」
家の中だからか、帽子と上着は着ていないが、それでも露になった艶やかな髪と瞳が湛える色もやはり黒。
どこに黄色のカケラがあるのか不思議に思いつつも、動かす手はいつの間にか空振った。
「あれ?」
「・・・おまえ、どんだけ食う気だ」
喋りながらもあれだけ並んでいた食事は全て綺麗に平らげていたらしく、スープ皿にいたっては皿の底が綺麗に顔を出している。
呆れた様子で差し出してくれた冷えた牛乳を受け取って苦笑する。
「昨日も思ったがその小せぇ身体の何処に入ってんだ?」
「小さいって言うな!い、一応これでも日本人の平均」
「以下だろ」
「・・・・どうだっていいだろ!」
一気飲みしたグラスを机において、一息。
ご馳走様と手を合わせてからようやく、現在の時間が気になった。
「ごめんリボーン、今何時かな?」
「昼回ったあたりじゃねぇか?今日は親戚探しに付き合ってやろうと思ってたんだがな、生憎とこの天気じゃあな」
「あー・・・」
白い壁に明るい照明のせいで気付かなかったが、眠っていた綱吉を考慮してか、重く分厚いカーテンは閉まったままだった。
ちらりと開けられた隙間から覗き見た外の景色は、とても高い場所から外国らしい町並みを一望できる素晴らしいものだっただろうけれど、殆ど視界は斜めに叩き付ける様な雨に遮られて殆ど何も見えなかった。
時折響く轟音もカーテンがかき消してくれていたのか、間近で光る稲光は正直背筋が凍りそうになる。
「お前さえよければ、いつまでもここに居るといい。手伝ってはやるから、今日は大人しくしてろ」
「・・・・でも」
確かにこの天気の中、外に出る気力はない。
だからといって、本当にこのままリボーンの世話になっていいものだろうかと悩む。
ホテルに泊まるくらいの所持金なら一応持たされてはいるが、そのホテルを探すところからして綱吉一人ではきっとどうしようもない。
そもそも、綱吉は知らないが、この屋敷・・・いや、城から降りて町に向かうにはどうしたって車などの交通手段が必要になってくるほどの距離だ。
運転免許は一応持っているが、国際版ではない免許では運転さえ出来ない。
リボーンがここに留まればいいと言うのならば、わざわざホテルに泊まるために車を出してと頼むのも変な気がする。
「・・・あの、じゃあお世話になっちゃうけど、せめて電話か何か貸して貰えないかな」
「あぁ。これでいいか?」
差し出されたのは固定電話ではなく、携帯電話だ。
普段使い慣れているものとは少し違うが、基本的に使い方は変わらないだろうとありがたく借り受けた。
流石に、住所や地図はイタリア語でも、電話番号の数字の羅列くらいは読める。
覚束ない手付きながら、なんとか呼び出し音が耳の側で鳴り出してほっとした。
「っていうか、これ誰に繋がるんだろう・・・あっ、父さん」
呼び出し音が止まり、聞き覚えのある声で「Pronto?」と対応に出た人物にほっとした。
ところで、綱吉が必死に電話番号を打ち込んでいる間に、リボーンも隣でその様子を眺めていた。
勿論、綱吉の持っていたメモや地図も見えてしまった訳だが、書かれていた場所にリボーンは軽く瞠目した。
『ツーナ!いや、ツナか!お前今一体どこに居る!?』
「何処って・・・」
ここはどこだろう。と、リボーンに意識を向けてみれば、リボーンも何かに驚いたような顔をして綱吉を眺めている。
『そもそもなんでリボーンの電話からお前が掛けて来てるんだ!?ま、まさか連れて帰られたなんてことはないだろうな!』
「え?ちょっと待って、父さんリボーンと知り合いなの?」
『知り合いも何も・・・!あぁくそ!もう見付かるとは鼻の良いヤツめ!!ツナ何もされてないか!?急いでそっちに迎えに行くからリボーンから離れてろ!触らせるんじゃないぞ!!』
「え、ええー?」
予想外の反応に困ったような表情を浮かべた綱吉の手から、するりと携帯が奪われた。
「Ciao!家光。まさかツナがお前の息子だとはな」
『お、お前、リボーン!うちのツナに指一本でも触ってないだろうな!?』
「もう遅いぞ。だが、そうか。お前の息子ということなら納得した。ボンゴレの血・・・なるほどな」
ピッ・・・と、あっさり通信を切られた電話は、そのまま電源までしっかり落とされて床に落ちる。
あ、と思ったその瞬間には視界がぐるりと回っていて、先ほどまで寝ていたベッドの上に押し倒されるように寝転がっていた。
身体の上には、機嫌の良さそうなリボーンがいる。
身じろぎしても解けるほど弱くもない拘束は、痛くはないけれどやはり心底不安になってくる。
「・・・リボーン、何?父さんと知り合い?なら、もう迎えに来るから、俺・・・」
「駄目だ。家光が来てもお前は返さない。今後何処にも帰さねぇぞ。ツナはもう俺のものだからな」
「や、やだ・・・・っん!」
喚こうとした口は、あっさりとリボーンの唇にふさがれた。
叫ぶ寸前だったので大口を開いていたのがまずかった。噛み付かれるように唇を重ねられて、逃げようともがけば唇をちりちりとした鋭利な何かが掠めていく。
それが何かと疑問に思う前に奥へ逃がしていた舌を絡めるように奪われ、正に人生初のディープキスに目の前が真っ白になった。
重なる生温いそれは器用に動いて丁寧に綱吉の口内を探る。絡めた舌が逃げようとすれば追いかけ、たまに噛まれては痛いほどに強く吸い上げられて意識は次第に霧がかって消えていく。
「・・・ん、んぅ・・・ぁ、は、・・・ふ、ん」
「・・・甘ぇな。止まらねぇ」
抵抗も、もう忘れていた。
縋るようにシーツをきつく握り締めれば、大きな手の平が強く握り返してくれる。
重なる身体が『当たり前』で、与えられる心地良さも『リボーンだから』感じられるもの。
理性ではなく本能でそう感じて、綱吉は促されるままにリボーンに縋りついた。
「・・・あぁそうだ。ボンゴレの血の継承者ならば俺たちの呪いは拒めない。俺のConsorte・・・永久を誓ってやろう」
唇から滑り落ちた言葉は何処までも甘く綱吉に染み渡っていく。
離れた唇がそのまま首筋を辿り、確かめるように舐めた直後に肌を食い破る音が聞こえても、綱吉は陶然とした表情でその全てを受け入れていた。





続・・・?

⊂謝⊃

自分が我慢できなくなった!んで続きです。
最初の予定とどんどん違って行きます。書けば書くほどずれて行く。うん、いつものことだね仕方ないよ!
ギャグなのかシリアスなのかよくわかりませんが、こんな感じの雰囲気で続けられるなら続きます。
というわけで、長編に移動だけしておきます。でも次回は未定です(笑)
読んで下さりありがとうございました!

斎藤千夏* 2010/07/14 up!