A*H

RE27(大人27)

※あてんしょん※
コピー本のリサイクルです。支部にあげててこっち上げるのワスレテマシタ★
10年後未来捏造。 イタリアで十代目なツナと先生。先生は二度目の成長期。11歳美味しいよね!(笑)
リボ→→→←ツナです。温度的には。
リボ・ツナそれぞれモブ女の影がちらつきます。(ていうかツナの方はガッツリだな)
銃撃ったり撃ちぬかれて死んだり(モブ)な表記もあるのでご注意を!

 

 

 

 

この世に産まれたその日から、その瞬間から俺に出来ないことは無かった。
知らないことも何一つありはしなかった。
生きる上での知識、教養はすべて習う前からこの頭に、身体に与えられていて、そうと気付いた瞬間絶望した。
生まれた瞬間、生きるための理由を失ったのだ。
だが、そんな俺でも『人間』である以上、『生きる』ことに関しては貪欲だった。
俺は生きる為、与えられた仕事を遂行する。そこに感情はいらないんだろう。
ただ、完璧に標的を抹殺する腕さえあれば。
仕方なく、俺はそれを甘受した。
選ぶことは出来なかった。
だからせめて、このつまらない世界を生き抜くために、俺は俺の周りに流れる時間すべてを操る術を手に入れようと考えた。
俺の思う通りに人を、世界を、時間を動かしていくシナリオ≠描こうと。
ただそれだけだけれども、こんな世界の中、何も目標がないよりは楽しめた。

初めはそう。
生きる理由と、ただ自分が楽しむためのシナリオ≠セったはずなのだ。

「お前がそう、望んだんだろう?リボーン」

柔らかな声音で、けれど呆れたように俺の名を呼ぶのは。

「ツナ・・・そうじゃねーんだ。俺は」


いつからだろうか。
気ままに描いたシナリオ≠ナ、他人を操り踊らせていた俺が。

「・・・俺は」

自分で描いたはずのそれ≠ノ踊らされていたのは。

 

*無自覚なプロポーズ*



『五感で感じる違和感』


見上げた空は闇に黒く染まり、重苦しい雲に覆われ、星の瞬きなど見えやしない。
月明かりすらない夜空だけれど、俺としてはこちらの方が心地良い。纏わりつくような闇がこの身を包めば包むほど、この世の膿に汚れきった俺には落ち着くのだ。
「リボーン」
似合わない、俺に与えられた名を呼ぶ声。それでも振り返らずに俺はただ空を見上げる。
「・・・明かり位付けなさいな。今夜は月も無いのね。何にも見えないわ」
続きのシャワールームから出てきた女の声が静かな部屋に響く。開け放たれた窓の外から入り込む微かな街灯の灯かりを頼りに、その声は俺の真後ろまで移動した。
「何を見ていたの?」
甘えるように擦り寄る体温は悪くない。イタリアに戻ってもう何年か。片手では数えられない夜の相手は何も後ろの女だけではないけれど。
「薔薇の匂いがするな」
「貴方のくれた大輪の薔薇よ。飾ってもいいのだけれど、枯れる前の綺麗なうちにこんな風に使うのも悪くはないでしょう?」
「・・・そうか」
啄ばむようなキスが降りてくる。女のしたいようにさせながら、同じく振り降りる言葉の羅列を聞き流す。
「貴方は逢う度綺麗な花束をくれるわ。それも決まっていつも、真っ赤なバラの花束」
「それがどうかしたか?」
「薔薇の花に・・・いいえ、この香りに意味があるのかしらと思っただけよ」
くすくすと笑う声に、その柔らかな身体をシーツへ縫い付ける。
湯で温められた肌はそれだけで暖かい。他人から触れられるのは嫌いだが、自分から触れるなら悪くない。
「・・・寂しい人ね」
「・・・何だ」
「こんな夜を過ごす相手は別に私じゃなくてもいいのでしょう?」
真っ暗な空。雨まで降り出しそうな、重々しい夜空。
確かに、闇は好きだけれど、こんな空が好きな訳じゃない。暗闇は心地良いけれど、あの瞬く星も柔らかな月の光も嫌いじゃなくなったのはいつからだろう。
いつも側に他人がいる・・・それが苦痛でなく、当たり前になったのは。
「この香りに染めた相手なら、誰でもいいの?」
「・・・お前だけだ」
「あら嬉しい。・・・でもそれは私が『理解者』だからだわ。でも、貴方が本当に欲しいのは、『私』じゃないでしょう?」
もう黙れと言うように、唇を塞ぐ。目の前の愛人は立場を弁える賢い女だが、如何せん頭が回り過ぎる節もある。
それでもまあ、馬鹿よりは良い。元々賢い女は嫌いじゃない。
「リボーン。好きな人。貴方には大事な人は・・・いないの?」
俺に、そんな感情はない。
流石に、声には出さなかった。『誰かがいい』わけじゃない。『誰でもいい』のだなんて。
目の前の女がもし俺を裏切り、俺の描くシナリオ≠狂わせるように踊るのであれば、その役は問答無用で奪い取れる程度の執着だ。この暖かな体温を奪ってしまうことなど、呼吸をするのと同じ程度にしか感じない。
幾ら気に入った女でも。どれだけ求め合った相手だとしても。
人を殺すことに、躊躇いは感じない。他人に対しての、執着など。
「・・・淋しい人ね」
言われた意味はわからない。そんな感情など、俺には元からないのだ。
必要ないから、無いのだ。・・・それなのに。
暖かな体から香る匂い、舌で味わう肌、指先で触れる温度、声、柔らかく笑う瞳。
嫌いなものではないのに、感じるのは違和感。
もう一度重なろうとする唇に目を閉じれば、瞼の裏に浮かんだのは。
振り切るように部屋を後にしたあの時の。


もう見慣れてしまった――苦笑のような――どこか辛そうな顔で俺の名を呼ぶ教え子の顔だった。

 

 

 

 

 



『カウントダウンは6つまで』


そこは、十代目ドン・ボンゴレが所持する隠れ家の一つ。
隠れ家と言うからにはもちろん名義は偽名の、調べられても足の付かない一般人のものだが、紛れもなくそこは綱吉の存在で埋め尽くされた空間に染められていた。
他の場所より通う回数が多いのも理由の一つにあるだろう。けれどそれだけではない。長年を過ごした遠い日本の、沢田家のあの一室のような。どこか懐かしい空気が部屋を包んでいる。
「こんな所までようこそ先生。よく来たわって歓迎した方が良いのかしら?」
「気なんか使わなくて良いぞ。・・・どうせ直ぐに終わる」
だからこそ、余計に腹が立つ。あいつ≠フ空間に混ざり込む異分子を、今すぐここから排除してしまいたくなる。
見た目で言えば、過去あいつが恋心を抱いていた少女に似てなくも無い。
中身は極端に違うのだけれど、好きな男の前では可愛らしく甘えるようになるのだから、つくづく女という生き物は理解出来そうにない。
「あら、情報早いのね。パパったら、ヘマなんかするから」
「・・・御託はいい。大人しく死ね」
かちゃりと向けた銃口に、それでも女は怯まない。
綺麗な表情で微笑みながら、真っ直ぐに俺を見つめてくるその瞳宿るのは、優越と微かな嫉妬の炎か。
「・・・いいわね貴方はあんなに彼に愛されて。ツナったら、私が隣にいるのに貴方の話ばかりなのよ。本当に嫉妬しちゃう。ベッドの中では優しいのに、彼は私だけを見てくれる訳じゃないのよ」
「愛人の立場を弁えろ。・・・いや、今更遅過ぎるがな」
「貴方になんか言われたくないわ。・・・殺されてもあげない。私のこの命さえあの人だけのものよ」
途端騒がしくなる表通りと廊下に響く足音に、その本人が到着したのだと知る。
どんな時でも悠然と振舞い、威厳を失わぬよう行動しろと教え込んだにも関わらず、走る足音は昔のままか。懐かしい記憶を思い出して微かに笑みを浮かべれば、女は浮かべていた優越を嫉妬の炎で掻き消して、俺を睨み付けた。
「あいつがそんなに恋しいか?だから、お前は裏切るのか?」
「ツナは私だけを見ていれば良いの!他のものに目を奪われてはだめ。ファミリーなんて邪魔。貴方は、もっと邪魔なのよ!」

ドン・・・ッ!

「・・・!」
扉が開くその前に、引き金を引く。向けられたそれが火を噴く前に弾き飛ばし、踏み込んで来た影を眺めやった。
「・・・遅かったな」
「・・・リボーン!どうして、ここに・・・」
俺を映して揺れる琥珀の瞳に満足する。帽子の影から微笑めば、瞳は一瞬泣き出す手前まで揺れ、何かを言いたそうに口を開いた。
けれど、それが音になることはなく。
「ツナ!一緒に、一緒に死にましょう!逃げられないのはわかってるの、だから一緒に死にましょう!あなたにマフィアなんか似合わない!」
「リリー・・・」
癇癪のような女の奇声に掻き消され、俺を映していた瞳はそのまま女に向けられる。奪われた・・・その行動に、また微かに苛立った。けれども。
「・・・だから俺のファミリーを売ったのか?」
ピリッ・・と。空気が裂ける音がした。
孕む冷気に、殺気に、俺は思わず笑みを浮かべる。
反対に、今まで柔らかで穏やかなコイツ以外見たことの無かった無知な女は、その変貌に怯えて身を縮ませていた。
「ツナ・・・?」
「裏切り者には死を。そういう世界なんだ。知らないってことはないよね?・・・君が売った君の父親も・・・マフィアなんだから」
ボンゴレの偽の情報を掴まされ、溺愛する娘に唆され、敵対マフィアに情報を提供する羽目になったまだ若く有望な男であった。・・・だからこその欲もあったのだろう。
ボスの愛人である娘が掴んだ情報に偽りなどないと。持ち込んだ先のマフィアにガセだとスパイだと始末されたその男。それがきっかけで相手マフィアとの抗争は火に油を差したように激化し、お互いの被害は膨大な死者を生み出す結果となった。
その抗争も、敵対ファミリーの壊滅でようやく一段落つくかという今。綱吉は本来ならば、ここに居ていい男ではないのだけれど。
「パパも悪いのよ。あんな丸見えな嘘、信じたりして。ボスより娘を選ぶんだもの。死んで当然よ」
「・・・だからといって君が許される訳でもないんだよリリアーナ」
「なによ!私は、ツナのために・・・!ボンゴレなんて、マフィアなんて嫌いなんだって貴方、言ってたじゃない!だから・・・!」
「けれど、どうしようもなく愛してるんだとも、言った筈だよ」
愛する者たちが居る、愛すべきファミリーなのだと。
カチリと向けられた銃口。女は怯えたように息をのみ、逃げようと身を捩るその一瞬前。
ツナがその右手に構えた銃よりも早く、女の眉間を貫いた俺の弾が華奢な身体を床へと導いた。
「・・・な、どうして・・・どうして撃った!リボーン・・!!」
叫ぶツナの声を背中に聞きつつ、俺は何も告げずに踵を返した。
「流石、お見事です。・・・それにしても、リボーンさんがこんな痴情の縺れ・・・いやいや、前線に出てくるなんて珍しいですね」
扉の外。声を掛けて来たのはツナの護衛の獄寺だ。
未だ部屋の中で喚いているツナの怒声を聞き流しつつ、小さく答えを返してやった。
「・・・俺もたまには暴れたい時もあるってことだ」
その解答は、俺の本心などではないのだけれども。

ああ自分がわからない。俺は一体どうしちまった?
どうして撃っただなんて、何故出て来ただって、俺にだってわからない。
あいつがその手で最期をプレゼントしてやるには勿体無い女だと思っただけだ。
馬鹿に見えて、意外に頭は回ったらしい。
一緒に死のうだなんて、戯言だ。ただ、あの女は綱吉の手で殺されたかっただけだ。
その為に、父親の命すら利用し、ファミリーを危機に陥れ、ツナの怒りを買った。
ツナが銃口を向けたその瞬間、怯えた表情で戸惑いながらもあの女の顔に一瞬浮かんだのは、喜悦の笑み。
それを見た瞬間俺はその眉間を撃ち抜いていた。
本来裏切り者の始末はボスが自分でつけるべきものだが、殺させてなどやらない。
ツナのその手に掛けさせる。それだけのことが許せない。受け入れられない。
そして俺は、自分が理解出来なくなる。

一寸の狂いも許されないシナリオ≠狂わせたのは誰だ?
どうして、俺は動いてしまった?
自分で描いたシナリオ≠フ中で、自分の役≠ェ踊る場面などどこにもありはしないというのに。

 

 

 

『歪なトライアングル』


本当にどうしたの最近変だよリボーン。
女性は大切にしろってあんなに言ってたリボーンなのに、どうして俺の相手にはあんな態度ばっかりとったりするのさ。それも、彼女にだけなんて。
この間なんて『先生と私とどっちが』なんて、変な詰問までされたんだよ俺。
ねえリボーン。どうしたの。言いたいことあるなら、何でも言っていいんだから。
俺ね、今でもお前に頭あがらない。・・・うん、うんわかってるよ。ありがとう先生。
リボーンのおかげで俺は変われた。今の俺を知ってる人に昔の俺が救いようもないダメツナだったなんて言ったってきっと信じてもらえないよね。
俺としてはまだまだ弱くて逃げてばっかのダメツナだけど、お前がいるから頑張って、俺は立って歩いてるんだよ。
ねえリボーン。だからお前にはこれからも、俺の手を引くように前を歩いたり、情けない俺の背中を押して欲しいんだ。
間違えたら蹴飛ばして。銃ぶっ放して叱ってくれていいから。
今回の件もそう。俺に見る目がないのはそうなんだろうね。
京子ちゃんに少し似てるからって気にかけ過ぎているのは気付いてたんだよ。
・・・でも、彼女のことは俺の問題だ。
俺がなんとかするから、それはもうリボーンが考えなくていいことだ。
俺は俺の手で、俺のやり方でこの件に決着をつけるよ。
本当に、頼りない生徒でごめんなリボーン。
こんな俺だけど、これからも俺の側を離れないで側に居てくれるよな?

全く、好き勝手なことを言ってくれる。誰が手間のかかるお前の面倒なんか好き好んで見るっていうんだこのダメツナ。
だが、俺は気付いてしまった。
誰でもない・・・綱吉の傍に立つのはこの俺でなければならないと。
俺が描くシナリオに俺の役は無い。だが、作り直してでも欲しい立ち位置は、お前の前でも後ろでもなく・・・ただ、隣に。・・・側に居たくて。
くそったれ!
どうしたって言うんだ。この俺が。
何を望む?『人間らしさ』を代価に『この世の全て』を与えられた俺が、何を望む?
今までは望んで手に入らないものなど無かった。
だが、これは。
望んでいいものではないと、自分でわかっているのに。

気付いてしまえばもう早かった。
俺としたことが。
あんな一人ではまだ何も出来ないような男にこんなにも、執着しているなんて。
気付きたくは、なかったのに。

 




『午前、二時』


「別れろ」
「・・・いきなり、なんだよ!?彼女の父親に会わせたの・・・リボーンじゃないか!」
ボンゴレ古参幹部の娘。父親との付き合いからこんな関係になりはしたが、綱吉にしてみれば彼女との関係はまだ幾人かいる他の愛人たちと変わりなく、別に文句を言うほどのものでもなかったのだろう。
だからこそ、珍しくも俺の言葉に反発した。だが、たかが愛人を切れと告げたそれだけのことでこんなにも反発すること事態、綱吉があの女にハマり過ぎている状況を示している。
シャワールームから出てきた綱吉に言いつけた言葉は、俺の口から言うべきものではなかった。案の定激高した綱吉に睨まれるが、俺は気にせず言葉を続ける。
「相手は他にも居るだろ。あの女ばかりに手一杯な様子じゃ一人前とは言えねーぞ」
・・・それに、あいつはやべえ。今のうちに切り捨てろ。
それは、声に出しては言わなかったけれど。
消したはずの微かな殺気を感じたのか、綱吉は次第に激高した息を抑え、俺を呆然と見つめたまま、何故か悲しそうな顔で呟いた。
「・・・わからないよ、リボーン」
項垂れた、弱々しい姿を見るのは久しぶりだ。確かに、こいつは俺の教えの上で別人並みに変った。
「女性を愛せと。愛人囲えと。・・・・そう俺に教えたのはリボーンじゃないか」
変ったけれど、本質までは変っていない。綱吉の本質は、どこまでも甘くお人よしで到底マフィアには向いていないものだが、変えてはいけないものだと気付いている。
それが、『大空』の資質だと。消してはいけないものだと知っているから、多少甘くても目を瞑って来てやったのだ。
「それは確かにそう言ったがな。愛人なら愛人らしく扱え。入れ込むな。期待などさせるな。これ以上付き合えばあの女は・・・、わかるだろうが」
「わからないよ。ねえリボーン、彼女と何があったの」
「何でもねえぞ。いいな、忠告はした。後の結果はお前次第だ」
あの女の、父親の妙な動きは馬鹿で阿呆な綱吉でさえ気付いているだろうに、その行動とあの女をどうしても切り離して考えたいらしいこいつは、俺の警告にまた大きく瞳を揺らした。
「リボーン、リボーンは勝手だよ!お前だって愛人たくさん抱えてるくせにさ!なんで彼女はダメなんて言うんだ!?」
「それとこれとは関係ないだろうが。そもそも、一人の女にのめり込んだお前が悪い。愛人は所詮愛人だ。・・・自分が懐に入れて愛した相手さえ切り捨てる覚悟も、ドンには必要なものだぞ」
甘ったるいこいつにはまだ割り切れない非情な言葉に、俺に向けられていた瞳は静かに逸らされる。
「だからって・・・俺は人をそんな物≠ンたいに切り捨てられないよ・・・」
告いで吐き出された言葉はやはり甘過ぎて、綱吉の本質を変えぬままボスの座に座らせ続けるのは無理があるのかと、少しばかり後悔した。
「・・・でも」
完璧に仕上げたはずのシナリオ≠フ歪みを戻すにはどうすればいいか。頭の中で計算していた俺に、綱吉は真っ直ぐな瞳を向けて、告げた。
「裏切りだけが、理由じゃないんだろうリボーン」
いや。俺の教育は間違ってはいなかった。
どれほど甘い男になろうが、綱吉はもうボンゴレ十代目を引き継ぎ、頼りないながらも自力でその場に立っているのだ。
甘さを残したまま、最高のボスに。
「ねえリボーン、何でも言って。俺はお前みたいに読心術が使える訳じゃない。だから、言葉にしてくれないとわからないんだ」
もう、瞳は揺れていない。


俺の描いたシナリオ≠ヘ。
綱吉をボスに仕上げるというシナリオは、歪み一つなく完璧だったのだから。

 

 

 



『諦めた四文字(こくはく)=x


「理由だけ言わないなんておかしいよ。それは全部建前だろう。わかるよ、何年一緒にいたと思ってるんだ」
理不尽な俺の言葉に怒りや悲しみを称えていた綱吉の顔はもうそこには無い。
髪はまだ濡れたまま、衣服のみ整えた綱吉は、ゆっくりと俺の方へ歩み寄ってくる。その姿は確かに細く、華奢な印象も持たせるが、過去に比べて伸びた身長とそれなりの筋肉を包むスーツは着慣れた様子で、それだけは流れた時間を意識させられた。
「俺はお前と彼女を比べても・・・ううん、お前の言葉なら、どんな嘘でも信じるよ。だから、お前が彼女を切り捨てろと言うなら、それなりの理由があるってわかっているんだ」
同時に、その流れた時間だけ、この綱吉と過ごしたということも。
あいつが俺をわかるように、俺にもあいつがよくわかる。
生徒と教師として・・・・今までは。
解けた呪いは、再び俺たちの身体を成長させ始め、けれどまだ勝てない身長で見下ろしてくる視線を受ける。
「ねえリボーン、俺に言えないこと?彼女、お前に何かした?・・・何が、そんなにお前を苦しめているの?」
綱吉の瞳は、視線を合わせるように俺の前に跪き、揺れる視界で俺を映す。
映る俺は無表情としか言えない顔をしていたけれど、伸ばされた綱吉の手の平に頬を撫でられて、多少強張っていた自分を自覚した。
最初から、気付いていたんだろう。
俺のこの、揺れる感情に。押し隠した、あの女への殺気に。狂いそうな、嫉妬に。
「リボーン」
やわらかく、俺を呼ぶ声。こいつ以外に、誰にも真似の出来ない不思議な音。
不意に、ぞくりと背筋を駆け抜けるのは、確信を持った欲望だった。

ああこれが大空か。
綱吉のように何もかも受け入れるのは、諦めではない。
覚悟だ。
苦痛に思わず、ありのままの姿のままどんなものでも包み込む。
どんな相手にも染まってみせる。
こいつを思いのまま自分に染め上げられたら、それは、なんて心地良いのだろうか。
「ねえリボーン、聞かせて」
言葉に出来ないこの想いを、言葉にして聞かせろだとは、無茶を言う。
俺としたことが、その場では何も言えなくて。
「リボーン!」
何一つ、気持ちを言葉に出来なくて。
触れてきた手の平を払い落として、ただ逃げるように綱吉の側から背を向けた。


今ならまだ戻れる。諦めることは出来る。
だから離れよう。少しでも、側から。
これ以上踏み込んではいけない。踏み込ませてはいけない。
この想いは決して咲かない花だから。
咲かせてしまえば、俺もあいつも、まともでいられなくなる。
完璧なボスにするために、『俺』はあいつには必要ない人間だ。
家庭教師もそろそろ潮時だろう。まだ十分とは言わないが、これ以上、側には居られない。
けれど。
紛らわすよう女との夜を過ごせば過ごすほど瞼の裏に蘇る、あの笑顔。
耳の奥に響く、柔らかな声。俺を呼ぶ、俺に笑いかける、あの存在が。

離れれば離れるほど・・・―――欲しくて。

何か一つでもいい。だが、その全てを手に入れるわけには行かない。
だからこそ。選び取ったのは綱吉の『憎悪』を手に入れること。
そうしてもう一つ、綱吉を独占する『女』を奪うこと。

嫉妬に狂った暴走のまま、俺は一人の女を殺した。

夜の闇は心地よく俺を包み込む。
血にまみれた手も何もかも、闇が覆い隠してくれる。
欲しかったものを、俺は手に入れたはずだった。
それなのに、消えない痛み。
誰かを殺して、こんな気持ちになったことなど初めてだ。
見上げれば、闇。
黒く染め上げられた・・・それでも見上げるそれが大空なのだと、気付いた時に流れた雨はたった一滴。


俺の頬を濡らして、消えた。


 

 

 

 

『ひとつ、銀の髪飾り』


あれはいつのことだったか。
屋敷を訪れた俺は問答無用で綱吉の私室へ向かっていた。
早朝だろうが深夜だろうが時間など関係ない。何をしていようと問題でもない。お互いに気を使う相手などではないからだ。
だから、そんな場面に出くわすことも初めてではなかった。驚くこともない。

開かれた扉。
散乱する衣服に、身じろぐ白い肌。
綱吉は目覚めない。隠しもしない豊満な裸体を晒して、隣に起き上がる女の視線は中々に心地よい毒を孕んでいた。
女の勘は素晴らしい。ボンゴレの超直感に勝るとまでは言わないが、確かにあれは気付いていた。自分以上の関係で、未だ自身で気付いていなかった、自分と同じ相手に想いを寄せているだろう俺のことを。
そ知らぬ顔して、未だ眠る綱吉に絡み、牽制する。
これは私のものだと見せ付けるように。
寝ぼけた綱吉は、与えられるキスを笑って受け入れる。女の柔肌にその手が伸びた瞬間、何よりも怒りが増した。
俺など居ない存在のように綱吉に甘え、寝惚けて絡む腕を嬉しそうに解いた後で、さっさと身嗜みを整えて出て行った女の後姿。
敢えて無言で去ったのは、愛されていると言う自信と自慢だろうか。見せ付けられたそれに、その背中に、どれだけ銃を抜きたくて仕方が無かったか。
ようやく目覚めた綱吉のうめき声に、実行されることはなかったけれど。
「あれ、リボーン・・・彼女、帰ったのかな?」
ぐしゃぐしゃのシーツ。何をしていたかなど、判らないほど子供でもない。近づいたベッドサイドで、起き上がる綱吉から漂った香りに、小さく眉をしかめた。
「いいからシャワー浴びて来い。お前、匂うぞ」
「酷いな。薔薇の香りだよ。お前だってヒットマンの癖に、こんなキツイ香りを匂わせながら帰って来る日もある癖に。・・・どこの女か知りませんが?」
憎まれ口を叩きながらも、一応は言う通りにするらしい。
シーツを捲り、立ち上がった綱吉と同時に床にカシャンと華奢な音を立てて滑り落ちたのは、銀製の髪飾り。
細かい細工と埋め込まれた石に、随分と値が張るものと判るが、綱吉は拾い上げて困ったように笑った。
「・・・気に入らなかったのかな。これね、前に俺が誕生日で送ったやつなんだけど・・・」
「知るか。忘れただけだろう。いいからとっとと行け」
「うーん、そうだといいけど。どうかなあ・・・?」
パタンと、閉まった扉の向こうから聞こえてくる水音。濃い情事の証拠を掻き消すように、目障りなベッドを視界から引き剥がす。
そのまま、サイドデスクに置かれたそれに視線が流れた。
月の光を受けて、銀色に輝くそれは。まるで夜空に浮かぶ月の欠片のようで。
夜空に浮かぶことを、傍にいることを許されている証のように思えて、余計に腹が立つ。
あの空は、お前だけのものじゃないと。
ただの子供のように喚きたかった訳じゃないけれど。
「・・・くそったれ」
俺は、あの女に銃弾を打ち込めなかった。
その癖、あの女は俺を刺し抜いて悠然と立ち去ったのだ。


こんな証(もの)を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ただ広い夜空に、虹の欠片が願うもの』


夜の街はただ静かで、闇に慣れた俺の身体は簡単に溶け込める。
隠れ家を出る前、追いかけようとしていた綱吉は獄寺に止められていたけれど、足止め程度にしかなっていないだろう。
別に逃げることなどないのだが、どうしても、今の俺はあいつに近づけなかった。

女を殺した。目の前で。怒りに叫ぶ綱吉の声。これで、手に入れたはずだ。温和な綱吉には最も似合わない、あいつの『憎悪』を。
けれど、どうして。こんなにも、苦しい?
どうして胸の底が痛むのか、判らない。
手に入れた『憎悪』を込めて、あの瞳に睨まれるのが・・・どれほど痛いか、想像さえつかなかった。
「・・・ダメツナの癖に生意気な」
俺に後悔させるなんて生意気を、誰が許した?
あの言葉も、俺を誰だと思って言った?
『何でも言え』だなんて、何も知らないから言えるんだ。
俺の絶望も、欲望も、お前は知らないから言えたんだ。
知れば、怯えるだろう。
聞けば、拒絶するだろう。・・・きっとお前は俺を受け入れられない。
気付いていた。俺の、この想いは狂気だ。
たった今打ち抜いた女の暴挙ですら届かないほど、俺はお前に狂うだろう。
お前が知る俺はどこまでもお前の『家庭教師』のリボーンだ。
前にお前が言ったように、俺の居るべき場所はお前の隣などではない。
お前が俺に許したのは、『前』か『後ろ』。
けれど、それは俺が気に入らないと、お前は気付いているのだろう?

「・・・なあ、ツナ」

「リボーン・・・」

どれだけ闇に紛れても、お前は俺を見つけ出す。完璧な変装さえ見破ってしまう超直感の前で、確かに逃げるのは不可能だ。
「俺が、この手で、殺すつもりだったんだ」
「そうか。邪魔して悪かったな。でも、もういいだろ。あの女はもう死んだ」
「良くないよ!リボーン、リボーンが言ったんだよ。どれだけ愛した相手でも冷徹に殺せるようになれと。それが俺のあるべき姿だと。ドン・ボンゴレの理想だと!」
理想を語れば、確かにそうだろう。間違えたことは言っていない。
「・・・お前がそう、望んだんだろう?リボーン」
そういうシナリオを描いたのは確かに俺だ。そう教えた上で、こいつには確実に無理だろうと、それも判っていたから教えたのだ。
「ツナ・・・そうじゃねーんだ。俺は」
知っていれさえすれば良い。その冷酷な選択を受け入れられずとも、それでいいのだと。
ああ、譲歩していたのは俺なのか。
自分で描いたシナリオ≠キら狂わせて、役を嫌がるツナにそれを認めて、自由に踊らせていたのは、俺なのか。
「どうして、撃ったの・・・?俺が自分で手をかけなきゃいけなかった。そう教えたくせに・・・」
ああそうだ。出来る訳がないとわかってて言ったのだ。
冷徹になれと言いながら、その甘さを消したくなかった。
消して欲しくなかった。だから。
「・・・俺は」
「ねえ、なんで俺に撃たせなかったの」
次いで告げられた言葉に、俺は思わず視線を上げた。
待っているのは、憎悪に染まった瞳だと思っていたのだが、違う。
いつもと同じ、俺を映して少し困ったように笑う瞳。
「・・・ねえ、そんなに彼女が憎かった?」
「・・・!」
柔らかく笑う瞳に確信する。
俺が踊らせていたわけじゃない。
ツナに・・・綱吉に踊らされていたのは、俺だった。
「知ってるよ。気付いてた。彼女のお前に対する恨みも、妬みも。お前の・・・彼女に向ける嫉妬も」
そっと握られる穢れた手。絡まるのは、指か。この、伝えきれない心か。
「気付かれたくないんだって、知ってた。だから、・・・ごめん。迷わせて、一番辛いの、選ばせた」
やめろ。やめてくれ。
拒絶しろ。受け入れるな。
「最初から諦めないで。リボーン。死ぬ気でやれば出来ないことはないって、教えてくれたの、お前じゃないか」
その顔で、声で、俺の名前を呼ぶんじゃない。
願いたくなってしまう。願うことのない願いを。
望んではいけない望みを。
求めてしまう。暖かな腕で抱かれる夢を。
「わからない?リボーン。俺はね。お前が育てた俺はね・・・大空なんだ」
・・・―――この、大空に。

シナリオは狂う。
脚本家すら飲み込んで、世界は狂い始める。
俺は知らなかったのだ。
全てを知ったフリをしていただけで。こんな想いがこの世界にあるなんて、知らなかっただけだ。
もしかしなくとも、俺は生まれた時からあがき続けていたのかもしれない。
たった一人、気付かぬままに踊り狂っていたのは。

「ねえリボーン。・・・俺は、闇にだって・・染まれるんだよ」


見上げれば相変わらずの真っ黒な夜空。
俺が描いたシナリオ≠フ結末ではないけれど。
俺がもっとも望んでいたラストシーンはきっとこれだったのだろう。

仄かな街灯の下、流れた一粒の雫。
綱吉は気付いていただろうに、何も言わず。

ただ、俺を抱きしめた。

 


⊂謝⊃

リボツナというか先生(リボーン)が好き過ぎて書けなくて本気でこれが初書きでした。タイトル通り某ポ○ノな落書きの某曲がネタです。タイトルは確か『私は踊る』って意味なんだったかな?
「この曲すごくリボツナなんだって!」っていう友人の言葉と共に映像が脳内ムービーで流れました(笑)
楽曲がお手元にあるならば是非、再生ボタンと共にお楽しみ下さい(笑)
歌詞通りに書いたらお話の順番がバラバラになっちゃいました。サブタイトルみたいなものがそれぞれの時系列なので、並べ替えて読んで見ても楽しいかもです★

斎藤千夏* 2013/10/15 up!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『八回目の夜』

「なあツナ。お前あの時、何をあんなに怒ったんだ?」
「うーん・・・?いつの話〜・・・?」
意識は今にも夢の中に落ちそうな綱吉の耳元で、汗に濡れた柔らかな髪を撫でながら問いかける。くすぐったいのか、身を捩って逃げようとする身体を押さえ込むように抱き寄せて、ついでとばかりに耳に噛み付いた。
「わ、あ!こら・・・!もう、お願い、勘弁して・・・」
「若い癖に情けねーな」
「お前と一緒にするなよ!そもそも、お前、身体はまだ十一歳だろ!?何がどうなったらあんな・・・!」
「経験値の差だな。・・・まぁ、お前も素質はあるんじゃねーか?」
同時に腕を回した腰を軽く撫でれば、俺の言わんとすることを察したらしい。真っ赤に染まった目で睨まれても、大した威力もない・・・どころか。
「誘ってんのか?」
「ないない!断じてない!で?!ええとなんだって?」
逃げの口実だと分かっていても、別に無理をさせるつもりもない。今はまだ自制の効く範囲内だ。問いの答えを貰おうと綱吉の会話に乗ってやる。
「俺が・・・別れろと言った時だ。何をあんなに激高した?」
俺の問いに、綱吉は一瞬黙り込む。たった一週間程度の記憶すら思い出すまでに時間がかかるのはもう諦めた。忘れないだけマシになったのだ。
「あ、あー・・あの時の。え?俺そんなに怒ったっけ?」
「珍しく反抗するわ怒鳴るわだったじゃねーか。・・・・そんなに、アレが好きだったのかと思ってな」
俺の言葉をもう一度反芻するようになぞって、綱吉は途端、顔を真っ赤に赤らめた。合わせていた視線からも逃げようとする顔を捕まえて、シーツに押し付けるようにギリギリまで唇を寄せる。
「そ、そりゃ好きだったけどね!別に、それだけで何も・・・」
「・・・バカツナめ。お前、それで隠してるつもりか?」
欲しくて欲しくてたまらなかった時、怖くてこいつの中身など読めやしなかった。
けれど、今は読まずとも溢れるような俺への気持ちに、心に、俺ともあろうものが浮かれていると自覚していた。
「わ、るかったな・・・!どうせ、俺も・・・俺だってお前のことずっと好きだったんだよ!それなのに、俺の気持ちも知らないで女作れって言ったり勝手に別れろって言ったり身勝手で、その上お前は他の女の匂いつけて帰って来るしだから俺も真似したりしてみたけど虚しいだけで・・・ちょっと、リボーン?」
「お前な・・・告白するなら、もっと場面を考えてだな・・・」
「は・・・ぁ、うわ、何言わせてんだよお前!あの時あんなに可愛かった癖して、んぅ!」
喚く口を強引に塞ぐ。けれど抵抗さえなく、背中に回る腕に満足しながら、軽い音を立てて唇を離す。俺を映す目は、変らない。包み込まれる、この体温に。
「気になるようなら、別れて来るぞ。・・・どうせ、もう俺には必要ない」
幾らでも、狂い踊ってやろう。俺を踊らせるシナリオ≠描けるのは。
「お前だけだ・・・綱吉」

Happy Endless★
(2008/6/22 発刊) …古ッ(笑)