A*H
『軌跡』 -下-
KISEKI 3
ジャンル:幻水坊主/セフィリオ×オミ
発刊:2008年01月13日
仕様:FCA5オフ※成人指定
頁数:148P
価格:¥1,000
セフィオミWeb再録本下巻です。最終巻です!
ルルノイエ〜ラストまで収めました。
もうおまけページがメインと言っても過言ではないような仕上がりに。(笑)
完成詳細です!
ミズキ様:章扉、書き下ろし漫画9P★
あさと様:表紙、挿絵、書き下ろし漫画8P★
小説書き下ろし:9Pでした。みっちり字です。
▼以下おためし (文)
『永遠に』(書き下ろし※10年後)
ふ・・・と、自分でも驚く程穏やかに瞼が開いた。
王の座に就いてからというもの、こんなに穏やかな目覚めは本当に久し振りのことだ。
遮光性のない薄い布が覆う窓から朝日が差し込む部屋の中、まだ目覚めたくない程に心地良い暖かさに包まれて、オミの瞼はもう一度ゆっくり閉じようとする。
「・・・寝汚いなオミ。まだ寝るの?そんなに寝たら、目が融けるよ」
柔らかく髪を撫でる指と、くすくすと頭上から振り降りる声に、閉じかけた瞼を何とかこじ開けて視線を上げた。
「・・・・・・・、・・・・・へ・・・・?」
一瞬、思考がついていかない。
夢かと、思う。
けれど、包まれている体温も、抱き締められて香る匂いも、その声も仕草もその全てが現実だと教えてくれるけれども。
「もしかして、寝ぼけてる?・・・オミ、おはよう。俺が誰だかわかる?」
「セ・・フィリオ・・・」
「はい、正解」
くすくすと、とても楽しそうに笑うセフィリオの瞳が距離を無くしてオミに近付く。
未だ眠った思考でぼんやりしていたオミは、降りてくるおはようの挨拶に抵抗もしないまま、柔らかく唇で受け止めた。
「・・・ん、ぅ・・ん、――ッ・・・!」
久々の朝の触れ合いは、それはもう一瞬で目が覚めるほどに深いキスで、オミは息苦しさに慌てて抱き締められているセフィリオの胸を叩く。
口付けだけなら昨日も散々したとはいえ、足りないというように絡めてくる舌の動きに、人との接触自体久々なオミはもう呼吸の方法すら忘れて必死に首を振ってキスを解こうともがく。
息苦しさを感じているオミに気付いてか、セフィリオは穏やかなそれに変えてくれるけれども、唇はまだ離れない。
次第に、胸を叩いて抵抗を示していたオミの腕が、拒絶を忘れて縋りつくようになるまで、セフィリオはオミを離してはくれなかった。
「・・・ふ、は・・・ぁ・・・!」
「随分、苦しそうだねオミ?」
「・・あ、当たり前、です!こんな、朝からなんて、身体ついていきませんよ・・・!」
言葉の合間に苦しげな呼吸を零しつつ、オミは真っ赤に染まった頬のまま、セフィリオを睨みつける。
けれど、その榛色の瞳も先程の口付けに甘く濡れて、睨んで牽制されるどころか煽られる始末なのだが。
起き上がれないオミの身体を再び隙間なく抱き締めるようにして、セフィリオは多少拗ねた声でオミの耳に囁いた。
「そんなの俺だってそうだよ。・・・オミ、俺を焦らして楽しい?」
「・・、っ!」
十年越しの逢瀬の夜・・・昨夜のことだが、オミはセフィリオに身体を許さなかった。
何処でもいいからと連れ込まれた町に宿屋は一軒しかなく、おまけに大部屋に数台ベッドを詰め込んだような造りで、ベッドを仕切る布はあるものの、壁もなにもないこんな場所で当たり前だが触れ合える訳がなかった。
おまけに商売は繁盛しているらしく、満室御礼でなんとか確保できたベッドが一台きり。
お互い共に寝ることに文句などないが、セフィリオはこれでもかと盛大な溜め息を零したものだ。
オミとて、期待しなかった訳ではない。十年の月日を確かめるように触れ合えるなら、それでもよかった。
・・・けれども、ここは条件が悪すぎる。
「しかも、一晩中可愛い寝顔見せられて、それなのに相変わらずの寝相で抱きついて来るし、俺昨日は一睡も出来なかったんだけど」
「そ、そんなの知りませんよ!って、また人の寝顔なんか眺めて・・・!」
「オミ、綺麗になったね。寝てても分かるよ。頬の辺りの丸みが取れて、美人になった・・・・。あぁでも、もう少し太ってくれないと抱き心地が・・・」
「あー!もう黙って下さいお願いですから!」
一応、二人の会話は小声で行われているのだが、なんにせよ仕切りが布しかない部屋の中だ。隣に漏れていないか心配でたまらない。
逃げるようにセフィリオの腕から抜け出したオミは、光を遮らない布を取り払って窓をそっと開ける。
この町にも隔てなく春は訪れているようで、吹き込んでくる風は少し甘い花の香りがした。
春とは言えど、朝の空気はまだ少し肌寒い。暖かいベッドから出たばかり身体は正直に少し震えて、小さな熱を生み出そうとする。
「そんな薄着で風に当たるからだよ。ほら・・・」
肩の上に掛けられたのは、セフィリオの外套。その上から、更に包み込むように背中から抱き締められる。
「風邪とか病気とか・・・まさか、そんなもので俺の前から居なくならないでね」
「・・・セフィリオ」
「勿論、怪我も。・・・俺達は『不老』だけれど『不死』じゃない。・・・それを、忘れないで」
「うん・・・」
ぎゅうと力の込められた腕をオミも抱き締めるように手を添える。
背中の広い胸に寄りかかるように力を抜いて目を閉じれば、また近くなるセフィリオの吐息。
どれだけ触れていても物足りない。
もっと深くまで抱き合いたい・・・今この場所では出来ないけれど。
放すまいと腕の力を緩めないセフィリオの、その拘束が嬉しいと思う。
自然と寄り添い、互いの吐息を感じるその瞬間・・・。
「そろそろ朝食もなくなるよ!ほら、起きた起きた!!」
騒々しく部屋へと入ってきたのはこの宿の女将だろう。寝汚い客を片っ端から起こして回っているらしい。
仕切り的に一番奥のベッドでよかったと、オミはセフィリオの身体を押し返しつつホッと息を吐く。
・・・けれど、身体は離れない。
「あの・・・ちょっと」
「何かなオミ」
「離れませんか・・・?」
「どうして?」
面白がっているとしか思えないセフィリオの表情と、近付く足音にオミは多少焦り出す。
同性のパートナーに対して厳しい世界ではないが、偏見がないわけでもない。
オミだとて別に男が好きなのではなく、セフィリオだから好きなのだが、傍から見ればそう理解してくれる他人など居ないに等しい。
だからこそ離れて欲しかったのだけれど、押し返せば押し返すほどセフィリオはイタズラに抱き締める力を強めて、更にはこめかみや額、頬へと軽い口付けを楽しそうに落としていく。
「っちょ、もう・・・!」
「ほらあんたたちも・・・って、おやごめんよ邪魔したかい?」
「い、いええ!!す、すぐ行きますから!」
軽い接触程度とはいえ、甘い音を立てて振り降りるキスを何とか避けながら、オミは必死で首を振る。
その必死さがどう伝わったのか分からないが、女将は嬉しそうにオミを抱き締めるセフィリオに視線を向けて、少々呆れ声で窘めてきた。
「その辺にしときな?こんな可愛い伴侶なら分からないでもないけどね。女は人に見られて喜ぶ生き物じゃないんだよ。そういうのは、雰囲気ってもんが大事なんだ」
見た目はいいのにわかってないねー・・・などと捨て台詞を残しつつ消えていった女将の背中を、唖然と見送ったのは言われたセフィリオではなく。
「ぼ、僕は女の人じゃ・・・は、伴侶って・・・・」
「・・・く、あははは!伴侶、うん、そうだね。良い響きだ」
「・・・僕ってそんなに、女々しいですか・・・?」
もう何度目かも分からない勘違いに、オミは大きく溜め息を零すしかない。
抱き締めた腕の中で、風にさらりと揺れる髪が細い頬に振り下りて、確かに性別の判断はつけかねるが。
「いや、そうじゃないけどね。女らしいというより、オミは男に見えないんだよ」
「・・・どういう意味ですかそれ」
白い肌に流れるようなさらさらの赤茶色の髪も、良い色を宿した柔らかそうな小さな唇も、光の強い・・・けれど穏やかで優しい榛色の瞳も。
例えその瞳が睨むように力を宿して拗ねられても。
「悪い意味じゃないよ。オミは美人で可愛いって、そういうこと」
「誉め言葉なんですか?それ」
少し呆れたように言いながら、拗ねた顔でオミはセフィリオの腕の中でもがく。
いい加減身支度を整えて食堂に向かわなければ、支度の遅い二人を再びあの女将が呼びに来るだろう。
今度は素直に解放して、女扱いされたのが気に入らなかったのか、拗ねたままのオミの姿を眺め見る。
振り返らずともその視線に気付いたのか、オミは面白くなさそうな声音で問いかけてくる。
「何、笑ってるんですか?」
本音を言えば不満だ。一晩隣に・・・いや、腕の中に居たのに、何も出来なかった事実に当たり前だが不満は残る。
けれど。
「いや。・・・幸せだなと思ってさ」
「は・・・・」
姿形は、殆どと言っていいほど変わっていない。十年の月日が嘘であったように、あの日のあの頃の記憶のままの姿で、今二人は傍にいる。
けれども、二人の間には確かに十年の隙間があって。
その隙間を早く詰めてしまいたいけれど、今はただ、こんな近くに。
その事実だけで、幸せを感じられる。
「・・・も・・・」
「うん?」
小さく、オミの声が聞こえた。
けれど、意味までは聞き取れなくて聞き返す。
まだ拗ねているのか振り向かないまま、身支度を整えたオミが吐き出すように一言。
「僕も!・・・・・・・ほら、行きますよ、朝食!」
走るように布を分けて出て行ってしまったオミの耳が、恥ずかしさにか真っ赤に染まっていたことは気付かないフリをしてあげよう。
そう、セフィリオは湧き上がる嬉しさに零れる笑みを止められないまま、出て行ってしまった愛しい背中を追いかけた。
10年後のくそ甘いセフィオミ。
続きは本でのお楽しみですv(笑)