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『軌跡』 -上- 

KISEKI 1

ジャンル:幻水坊主/セフィリオ×オミ
発刊:2005年05月07日
仕様:FCA5オフ※成人指定
頁数:184P
価格:¥1,200

セフィオミWeb再録本上巻です。初オフ本です!
邂逅編〜ティント編までまでを収めました。 あと、コピー本で出した『Trace』も再録しております。
他にはほぼ全ページの加筆修正(笑)と、ほんの少しの書き下ろし小話という感じです。
でも見所はなんと言っても扉絵挿絵ですって!



▼以下おためし (文)


『闘神』(書き下ろし 部分抜粋)



情報集めに仲間集め。
更には近隣の町村の諍いを治めたりと、近頃のオミに休まる時など一瞬もない。それはそれだけ、戦況が切迫してきているからだ。
「お疲れ様ですオミ殿。・・・して、ご報告があります」
返って来たオミ達を待ち構えていたシュウは、着実に増えていく軍勢の喜びも束の間、渋い顔つきで首脳が集まる会議室へと招いた。
オミがデュナン湖近辺を駆け回っている間、王国軍の方もただじっと待っていたわけではない。ハイランドよりも更に北にある大国・ハルモニア神聖国の援軍を得て、都市同盟に進軍してきたという。
その軍勢の数、約倍以上。
増えたとはいえ、トランから借り受けた五千の兵を足したとしても、対抗できる勢力ではなかった。
「・・・迎え撃つ策はある?」
けれども、こちらも逃げる訳には行かない。
シュウの読みでは、トランと同盟を組んだばかりの都市同盟の援軍を封じる術として、ラダトの町を占拠するだろうと結果に落ち着いた。
「では、斥候隊は我々にお任せ下さいますかな」
リドリーが立ち、今すぐにでも出発できると声を重ねた。
すぐにでも動かせる軍を操る将軍の言葉はありがたい。
シュウとオミは了承して、休める者は休むようにと会議は終了した。
「・・・・・あぁもう」
部屋に戻ったオミは、ベッドの中で枕を叩きつけるように起き上がった。
運が悪ければ明日にはルカと剣を交えなければならない。
その為に、休まなくてはならないと分かっていて、一応横になってみるが、緊張の所為か中々眠れなかった。
傭兵隊の砦での、ルカと対峙した時の恐怖を身体が忘れていないのだ。
頭を冷やす為にも一度風に当ろうと屋上へ向うと、そこには先客がいた。
随分と久し振りに会う気がする、セフィリオの姿が。
「ど、どうして?トランにいる筈じゃ・・・!」
「・・・道々、悪い知らせを訊いたからね。このままじゃ、トランとの道を塞がれてしまいかねない」
だから先に出てきたのだと、そう言って笑う。その柔らかい笑顔を前に、オミは珍しく返す言葉を失った。何を話せば良いのかも、分からない。
同じ立場に立った人間として、聞きたい事は沢山あった。けれどもそれをどう告げるべきか迷って、迷いは表情となってセフィリオに伝わる。
「・・・緊張してる?」
「・・・どうして、わかるの?」
「表情が硬い割に、軍主であることを忘れてる。・・・・一個人として、あの皇子との戦いに怯えている顔だ」
「!」
そこで・・・ようやくオミはこの軍を預かる軍主であることを思い出す。
ルカとの戦うことが怖くないとは言えないが、主が怯えていては、勝てる戦にさえ勝てはしない。
「戦略は軍師に任せたらいい。オミはただ勝つ事だけを考えれば良いんだから」
「・・・・はい」
昔、同じ立場に立った事があるセフィリオだからこその言葉に、オミは素直に頷いた。他の者の言葉では、こんなにも楽に受け入れられなかっただろう。
「・・・・すこし気分が楽になりました。今なら、ゆっくり眠れそうです」
強張った表情は、緊張の取れた柔らかい笑みを浮かべてセフィリオに微笑みを向けた。けれども、そんな笑顔の中で、瞳の力だけは強く、軍主としての自覚を思い出したのだと見て取れる。
気の緩みはない。
けれども、余計な力の抜けたオミは、とても強く綺麗に見えた。
女顔というわけではないが、元々顔立ちの整った子供であった。
けれども、そんな表情を浮かべられるのは一重にオミの精神が強いからだ。
強がって見せていても、セフィリオは自分の心の弱さを自覚している。
だからこそ、オミのその強さに憧れるのかもしれない。
だからこそ、その美しさに、惹かれているのだろう。
「では、おやすみなさい」
「・・・待って」
立ち去りかけたオミの腕を引いて、抱き寄せる。突然、月明かりを塞いだ影に驚いて目を見開けば、再び柔らかく重なる互いの唇。
「・・・ッ!?」
もう何度目かになるキスだけれども、今日はいつもと少し違う。
ただ重ねられているだけなのに、その温かさと心地良さに、思わずオミも抵抗を忘れてしまった。
「・・・逃げないの?」
少し浮かせた唇を触れ合わせたまま、小さく囁くセフィリオの言葉にも、何故か反応を返せない。
怯えていたオミへ言い諭すように言葉をくれたセフィリオが、どこか寂しげだったからか。大嫌いだった、いつものからかうような笑みを忘れたように、柔らかく笑うから。
逃げなければいけないと分かっていても、どこかでそれを嫌がる自分もいる。
この腕の中から逃げたくないと。もう一度、その唇を受けてみたいと。
オミはどこか迷うような視線で、うっすらと開いた、セフィリオの鮮やかに蒼い瞳を見つめ返した。
「駄目だよ。・・・そんな目で見つめられたら、男はもう止まれない」
逃がすつもりはないと言うように、セフィリオの腕がオミの背中を強く抱き締める。
見上げた顎も固定され、今度は深く舌を絡ませてきた。
「んっ・・・ッ・・!」
腕の拘束が・・・キスが深くなっても、あれだけ嫌だったはずの接触に、オミは逃げる事を忘れていた。
間違っても自分から求めることなど出来ないが、与えてくれる温かさに心地良さを感じているのは、もう認めざるを得ない。
誰も彼も寝静まった城の中で、オミは近くにある綺麗なセフィリオの顔を見つめ、・・・静かに目を閉じた。


***





まだまだツンツンしてた頃のオミ(笑)ちょっとほだされかけてるけど、まだツンツンです。
続きは本でのお楽しみv(笑)