A*H


AZ

AZU

ジャンル:幻水坊主/ツァオ×エアル
発刊:2008年10月12日
仕様:FCA5オフ※成人指定
頁数:60P
価格:¥600


久しぶりの合同誌でっす!
気合を入れてえろいのを!(違います)宵藍のミズキさまとリレー小説です!
でも確かにアダルティーに仕上がってしまいましたので、未成年の方、苦手な方はご注意を!
まだ作るか新坊主ですが、ツァオ(坊)さんは本当に酷い人です。エアル(2主)苛めが楽しくてなりません。(待て)



▼以下おためし (斎藤担当箇所から抜粋)




堅固な、けれども幾年もの月日を過ごした古い城でさえ壊れてしまうのではと思うほどだ。
昨夜のあの静けさは何だったのだろうか。そんなことを思ってしまうほど、勝利の余韻は甘美過ぎた。
誰もが一度は死ぬと思っただろう。それほどまでに手強い相手であったことは確かだけれど、運と勝機は今こちら側に傾いている。もう、恐れる敵は消えたのだ。これからは守り一辺倒に徹せずに済む。
その活気と士気の高さに後押しされて、昨夜から同盟軍の城では盛大な祝杯が挙げられていた。
「エアル様!軍主様!我ら都市同盟軍!万歳!!」
わあわあと騒がしい兵士たちの合間を縫って、ようやく宿星の集まる場所へと移動する。
もみくちゃにされた頭はぼさぼさで、軍主の威厳もなにも無いが、所詮エアルは戦災孤児の平凡な少年なのだ。
元々威厳も風格もなにも無い。
そんな普通の少年らしい活発な顔はしているが、素朴で人好きのする笑顔を浮かべるそれは人々を安堵させ、魅了し、無意識に人を惹きつけると言って間違いは無いだろう。
彼は何処から見ても平凡な普通の少年だったけれど。
誰よりも、この都市同盟軍の軍主であった。
「お疲れ様、エアル!怪我は、ない?大丈夫よね?」
流石にあのルカ=ブライトを相手にして無傷とはいかないが、酷い怪我は一つもない。軽い掠り傷や打ち身程度で、処置も済んでいるので痛みも無い。
相変わらず過保護な義姉に苦笑してみせて、頷いた。
「うん、僕は大丈夫。元気だよ」
「本当にもう、心臓止まるかと思ったのよ!一人で立ち向かうなんて・・・!」
「ナナミ、そう怒ってやるな。結果的に押し勝ったのはエアルなんだ」
「でも!」
「怪我も大したことないしな。この軍勢で奴を倒せただけでも凄いことなんだぞ」
ビクトールとフリックに両側から説得されて、渋々ではあるが、ナナミも機嫌を直したように笑う。
「でも・・・そうだね、そうだよね。これで戦争は終わるんだよね」
「ナナミ?」
「だって、もう戦う相手がいないじゃない!」
「そうだな・・・偵察隊の情報でもハイランドの現皇王は死んで今の王権はあのルカ=ブライトにあったって言うし、そのルカももう、死んだんだ」
「ハイランドの皇族にもう男は居ない。・・・あっちに残るのはルカの妹のジル=ブライトのみだ」
この勝利は確かに、こちらが勝ったとしか思えない結末に流れていた。
けれども、それはどうだろうか。確かなことは言えないけれど、淡い期待はどこかで警鐘を鳴らして、油断してはダメだと訴えているようにも思える。
「きっと、きっと大丈夫!帰ってくるよ・・・!わたしたちのところへ、ジョウイは帰ってくるよ!」
「そう、だよね・・・うん、きっと」
するりと、無意識に触れた腕の傷。
棍を構えて笑い合っていたジョウイと、重ねて見えた赤い影に、エアルは、はたとここへ来た目的を思い出した。
「そうだ、僕マクドールさん探してたんだった・・・!見に行ったら、ホウアンさんのところにはもう居なくて」
「何言ってんだお前。あいつならもうとっくに・・・」
「帰った!?あの怪我で・・・そんな・・・!」
「あ、こら待てエアル!お前だって怪我はなくとも休んでないだろうが!」
後ろから掛けられた声を振り切ってエアルは再び人並みを掻き分け広間を後にした。
向かう先はグレッグミンスターだけれども、今から出て行って追いつけるかどうか判らない。ルックかビッキーに逢えればバナーまで飛ばしてもらうことは可能だろうが、城全体が、いや城下も含めて本拠地全体がお祭り騒ぎのこの時に、そう簡単に見つけられるものでもない。
「地道に足で追いかけるしかないか。・・・よし!」
「何処へ行くの」
城の門から飛び出そうとした所で掛けられた声にあわてて振り返る。
いつもの格好・・・とは違う、長衣を脱いだ気楽な格好で呆れたように立っている相手こそ、エアルが探していた相手であった。
「マクドールさん!」
「エアル、君ね。あの連戦の後一睡もしないまま丸腰で何処へ行くつもりだったの」
「え?あ・・・」
言われてみれば、昨夜の勝利が決定した瞬間、緊張感に気を失いはしたけれど、城に戻る前にはすぐ目を覚ました。
怪我も大してしていないし、ホウアンに軽く見て貰った後は自分で処置し、残された後始末に大わらわだったのだ。
勿論寝ている時間も無ければ、休む暇もなしに祝杯へ借り出され、何度か抜けて傷ついた兵士や仲間たちに声を掛けつつ捜し人を求めて彷徨った結果が今これだ。
ひとまず見つけることしか考えていなかったエアルは、実際疲労で回っていなかった頭にようやく自覚する。
言われるまでトンファーや手鏡すら持っていない丸腰なことに気付かなかったのだから。
「あの、その、マクドールさんが帰っちゃったかと思って」
「・・・僕は今目が覚めたところだよ。それとも、帰って欲しかったのか?」
「ち、違います!もう好きなだけ!ゆっくり休んでいって下さい!だってこの傷・・・」
見た目はそう変らない歳の頃の細い腕。この腕からどうすればあそこまで強い打撃が生まれるのか、エアルには理解出来ないけれど。
彼の強さは、本当に今まで類を見ないもので。
同じ武具を扱う幼馴染を知っていてさえ、その動きの違いに戸惑うことも多く、その強さに圧倒された。
そんな彼が、怪我をした。
「かばうなんて、こんなこと・・・」
「大した怪我じゃない。それに、あの場面で君が怪我を負うことの方が危険だったはずだ」
それは紙一重の士気。ほんの少しの傾きで、高まっていた士気は恐怖に突き落とされてしまいそうな綱渡り。本当に勝てるのかなんて誰もが思っていたことだ。
誰もが感じていた恐怖。それを支えていたのは、まだ肩幅の細いたった一人の少年・・・エアルの存在だけで。
誰に言われなくとも、それは気付いていた。自分の存在が、この軍の支えになっていることくらい。
だからこそ、エアルは膝を着いてはいけない。
鋭い攻撃からエアルを庇って飛ばされたのが目の前の彼でなければ、もっと大惨事になっていたと知っている。
「・・・僕は本当に大丈夫だから。エアル、君は一度休んだ方がいい」
「でも・・・」
「・・・一人寝が寂しいなら、添い寝でもしてあげようか?」
「はぁ!?い、いえ僕もうそんな歳でもないし・・・」
「正直、僕も寝足りない。行くよ」
「マクドールさん!」
半ば引き摺られるように連れて行かれた先は自室だ。確かにこのベッドは他の部屋のどれより大きいけれど、だからといってその大きさが人と一緒に眠るためというわけではない。
義姉とでさえ数年前から別々に眠っているというのに、顔見知りの知り合いとはいえ、緊張するなというほうが無茶だ。
エアルにとってマクドール・・・彼は三年前の解放戦争時、解放軍を率いていた軍主であると同時に、シュウや周りの宿星たちから切々と説かれた人物像に尊敬を抱いていた憧れの人物に他ならない。
「何をぼうっとしているの。緊張なんてしていないで早くおいで」
部屋の主人よりも気楽な様子でエアルを招く姿は、確かに嬉しいものがあるけれども。
言われるままに側に寄れば、するりと伸びてきた腕に金冠を外される。
「ま、マクドールさん!?」
「・・・まずはそこからか。・・・エアル、僕の名前を覚えているの?」
「え?マクドールさん」
「それは家名。名前じゃない」
「・・・ツァオ・マクドールさん」
「覚えているのに、どうしてそっちで呼ばない?」
「そんな!呼べません!だって・・・」
「僕が『トランの英雄』だから?」
「・・・!」
そうではないと、言いたいけれど。
エアルにとっては憧れの人なのだ。尊敬する人物をどうして親しくも名前で呼べようか。
彼が『英雄』扱いされることを嫌っていると知っているのに、どうしても次の言葉が出てこない。
「・・・急ぎはしない。いいから今は眠ろう」
真夜中から朝を過ぎ、今はもう昼にも近いこの時間からベッドに入るのは躊躇われたけれども、触れたシーツに身体は確かに休息を欲しがった。
素直にベッドへ乗りあがり、開けてくれた場所へ身体を滑り込ませる。
思った以上に疲れていたのか、横になった途端訪れた強烈な眠りに、いけないと思いつつも瞼が落ちていく。
「・・・いい。眠って」
さらりと撫でられた掌は、夜とは違って冷たく感じられて・・・それがまた、心地よかった。
緊張に鼓動を高める胸は次第に落ち着きをみせて、撫でられる感触に意識が遠くなる。
「・・・」
瞼が完全に落ち、すうすうと穏やかな寝息が部屋に混ざり始めた頃。
「・・・『エアル』。幼くて、純粋で、それでいて、全く普通の、子供」
眠るのに苦しかろうと肩布を解き、腰を締める帯を緩めれば、大きく開いた襟から覗く滑らかな肌が目に映った。
歳のわりに身長は普通だとしても、体つきは多少華奢か。身体年齢的にはツァオの方が年下なのだが、それでも一回りはエアルの方が小さかった。
「どうして、こんなところで出逢ったんだろう。どうして君みたいな子供が・・・軍主にならなければならない?」
隣に眠る体温に引き寄せられてか、擦り寄ってくる身体から伸びる腕・・・手袋を外した右手の甲に、それはある。
「君の立場、終わらない戦争。・・・そんなものさえなければ、僕はもうとっくに君を」
柔らかな、心地よい髪を撫でながら、幼くもあどけない寝顔に、彼・・・ツァオは少し冷めた笑みを浮かべた。
「・・・君とはもっと違う形で会いたかったよ・・・エアル」


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気になりましたらどうぞ!
ぜひ手にとってやってみてくださいね!!