A*H
Angel Halo 6
AH6
ジャンル:幻水坊主/ゼロ×アーティエ
発刊:2010年3月28日
仕様:A5コピー(表紙カラー)
頁数:34P
価格:¥300
AHシリーズ第8弾!
暖かな春爛漫の都市同盟。本拠地隣にある湖の側は、春の野花で色とりどりの花を咲かせる。
お花に馬に恋に成長!大忙しの春到来!
またまたしても新キャラ登場です。
ハイランドメンバーも本当に平和な頭の作りをしているようです。(笑)
▼以下おためし
間章 追憶
「んふふ、この調子だと今度の夜会もたくさんの人が集まりそうね!」
深夜。人々が寝静まった頃、カサカサと大量の紙を相手にしていた少女がうーんと背伸びをする。
やはり作業は夜がはかどる。
年頃の女の子として徹夜はお肌の大敵だけれども、一度入ってしまった創作スイッチはそんな簡単に消えはしないものだ。
「それにしても、アーティもゼロさんも、なかなか進展しないなぁ」
アーティとは、彼女・・・ナナミの義弟であり、目に入れても痛くないほど可愛らしい絶世の美少年だ。
そろそろ十五を数える年頃であるはずの少年なのだが、見た目は幼い少女のような、いやむしろこの世界に迷い込んだ天使のような清らかな子供である。
対してゼロと言えば、三年前隣国で起こった赤月戦争時、解放軍のリーダーとして活躍し、多大な犠牲を払って国を救った英雄とされるこちらもまた絶世の美男子である。
日光に透かしてさえ色褪せない漆黒の髪に、向けられる眼差しは磨きたてられたアメジスト。
解放軍リーダーの過去は飾りではなく、その強さは折り紙つきで、鍛えられた長身の肢体などそれはもう悪魔のように美しい。
流し目一つでばったばったと倒れる女性を、またまた端からつまみ食いばかりしていた過去なんてのも、風の噂で耳にすることもあるが、それはそれ。過去は過去。大事なのは今なのだ。
「それにしても運命よね〜。過去の歴史の中でもこんなに短期間に近隣で紋章戦争なんて起こってなかったのに。その軍主が偶然にも出会って、お互いに惹かれあうなんて!」
少女のような少年・アーティエは、現在戦争のど真ん中にいる軍主である。その義姉であるナナミも勿論その戦火中に居るはずなのだが、その手には武器よりもペンが握られていることが多い。
そう・・・ここは、都市同盟エストレア軍本拠地・ミストラル城。
戦争らしい戦争はほぼしていないと言っても過言ではないが、確かに戦火の真っ只中のはずだ。
「それに、ルックとゼロさんの過去もちょっと気にになるし・・・そういえばシーナさんまだ諦めてないのかな」
赤月帝国・・・今はトラン共和国と名前を変えて存在する隣国の英雄・ゼロは、浮名を流していた過去の栄光を何処かへ置き忘れたかのように、純粋無垢の塊であるアーティエにぞっこん片思い中である。
片思いと言ってもアーティエにその気がないと言うわけではなく、ただ短にまだ『恋愛』というものをはっきりと理解していない子供であると言うだけで、今後アーティエが成長さえすれば、まず間違いなく大変見栄えの良いカップルになるであろうことは目に見えている。
けれど、そんなくっつき切れない二人だからこそ、その間でうろうろとさまよう人物はゴマンと居たりするのだ。
ゼロは過去の戦時中、軟派な性格が災いしてルックを美少女と間違え、口説いて見事オトしてしまった過去を持つ。
もう現在は切れているとはいえ、ルックの方はゼロを忘れてはいない様子で。
けれど、そんなルックを眺めている男もいる。
いつも何かひとつ詰めが甘いシーナがそれだ。
このまま行くと本気でルックに嫌われてしまいそうだが、切り裂かれるのに慣れ始めている時点で上手くいく見込みは少ない。
「戦争はこの調子だと激しくなりそうにもないんだけど、ジョウイだってアーティのこと絶対に諦めないだろうし・・・思わぬ伏兵も出てきたことだし・・・どうなるのかなぁ」
ジョウイは幼馴染でアーティエの親友である青年である。けれど今は敵国の皇王の座に就いてしまっているため、気軽に会える仲ではない・・・はずだけれど、結構な頻度で都市同盟に訪れては王妃であるジルに首根っこを掴まれて引き戻されている。
そんなジョウイは昔からアーティエにぞっこんで愛を注いでいたのだが、お互い子供だったためにまさしくそれは親愛以外の何物でもなかった。アーティエはそれをキッチリ『弟』として受け取り、今後も進展は見込めない。
更に先日、敵国ハイランドの狂皇子とまで呼ばれた男が突然現れ、アーティエを実の弟だと爆弾発言を落としていった。
突然の病で亡くなったとされていた男が生きていたことも驚きだが、アーティエの出生と都市同盟、ハイランドがこれからどう動いていくのか、不安にならないわけでもない。
「・・・まぁアーティが幸せになれたら、わたしはそれでいいんだけど」
色々な方面からアプローチされている義弟相手として、一番相応しいのはやはりゼロであろう。
アーティも懐いているし、何より出会うべくして出会った二人だ。文句はない。が、こうも二人の間に問題を並べられれば、多少手を貸してあげたくもなるものだ。
「ゼロさん、アーティを大事にしてくれるのはいいんだけど、・・・ちょっと大事にし過ぎなところもあるのよね」
それを世間ではなんと言うか。『ヘ』で始まって『タ』が間に挟まり『レ』で終わるそれだ。
女の子には手が早いくせに、いざ本命となるといきなり奥手になってしまうゼロのあれこれにやきもきされないはずもなく。
「仕方ない。今回はちょっとだけお手伝いしてあげようかな。ゼロさんも勿論だけど、アーティも、もうちょっとなんだけどなぁ・・・」
微かに白み始めた東の空を眺め、温かくなってきた風を窓からささやかに迎え入れる。
流れた風は緩やかだが、書き散らかされた紙はかさかさと独特の音を掻き混ぜた。
その微かな音に身じろぐ影が一つ。
大きなベッドの端っこに転がっていた小さな身体が、目を擦りながら起き上がる。
「ぅ、ん〜?ナナミちゃん、まだ、起きてるの・・・?」
「あ、ごめんね。起こしちゃった?」
「・・・ん、」
覚醒したとは言いがたい寝ぼけた様子は本当に幼い子供の仕草で、大変可愛らしいものであるのだけれど、何時ものように隣にもぐりこもうとしたナナミを、アーティエは小さく首を振って駄目だという。
「なあに?お姉ちゃんと寝るの、いや?」
「・・・そうじゃ、ないよ、でも・・・ナナミちゃんは、お部屋に戻らなきゃ、だよ?」
「・・・ん、そうだね。そうするね」
本当に少しずつ、少しずつだけれどアーティエは成長しているのだ。
ナナミは笑いながら頷いた。
弟の姉離れは寂しくはあるけれども、これは大切なことなのだ。
いつまでも、子供ではいられない。
ベッドから降りて窓を閉めようと近づいた所で、後ろからアーティエの静止の声が響く。
「どうしたの?」
「しめなくて、いいよ。・・・お花の匂い、するね・・・」
ぼんやりと揺れる蒼と碧の宝石のような視線は緩み、そのままぽすんと軽い音を立ててシーツに埋まってしまう。
「アーティったらもう・・・」
すうすうと寝息を立てるアーティエの肩にシーツを引き上げてあげながら、ナナミも柔らかい風の匂いを胸いっぱいに吸い上げる。
「・・・お花、かぁ・・・」
ある意味湖畔に聳え立つ城であるミストラル城の周りは、季節によってさまざまな花が咲き誇る。
花の匂いかどうかはわからないが、確かに微かに甘く、気持ちのいい空気であることに間違いはない。
「春一番の風(ミストラル)・・・そうね、お花、それがいいわね!」
毎月の催し物であるパーティの良い案が浮かんだナナミは、企画の練り直しだとばかりに散らかした紙を集めてそっと軍主の部屋を後にする。
後に残るのは、心地良い風に髪を撫でられながら眠る、天使のような少年の柔らかな寝息だけだった。
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気になりましたらどうぞ!
ぜひ手にとってやってみてくださいね!!