A*H


誓い

Chikai

ジャンル:幻水坊主/セフィリオ×オミ
発刊:2010年8月22日
仕様:A5コピー(表紙カラー)
頁数:52P
価格:¥500


『軌跡』の続編序章・・・のような雰囲気です。
旅の目的は『始まりの紋章』について調べること。
最も身近な専門家といえば・・・と、オミはセフィリオに連れられて『魔術師の塔』を訪れる・・・。
そんな感じのお話です。

セフィオミでは妙な人気がありましたルック、新登場でセラ、もちろんレックナート様もちらりちらりと。
中身的に延々紋章の話ばっかりしていますが、主体はもしかするとルックの話なのかもしれません。
いちゃつき度は低めですが、なんていうか熟年夫婦みたいなセフィオミです・・・。(ん?)



▼以下おためし


時は太陽暦四七一年。
デュナン統一戦争から約十年が経ったその年。
時代に飲まれて星に見定められ、激動の中を行き抜いた二人の少年がいた。
彼らは同じ運命の星の元に生まれ、そして出会い、何度か諍いもあった紆余曲折の後、最後には惹かれ合ってこれからの長い生を共に生きようと誓い合う。

しかし、世界は未だ彼らを見逃したわけではない。
これから起こる歴史の変動に、彼らなりに関わっていくことになるのは、まだ誰も・・・夜空に浮かぶ星さえも知らないことであった。

---(略)---

結局服もずぶ濡れになってしまったセフィリオは仕方なく、下衣を纏った状態で泉から這い出てきた。
一緒に投げ込まれた上衣もあったが、それくらいはいいだろうそのまま出てきたのだが、木陰で着替えたらしいオミの視線が妙に冷たかったので張り付いて気持ち悪いが黒い上衣に仕方なく袖を通す。
まぁこの天気だ。もう少し時間も経てば陽は辺りを燦々と照らすだろうし、乾くのもそう時間は掛からないだろう。
「それにしても・・・まさか女の子とはね」
「何か言いました?」
「いや別に」
 大きな岩を椅子代わりに座る少女の前に、オミは先ほどから熱心に少女に声をかけていた。
先ほど悲鳴を上げていたので話せないわけではないだろうに、少女はオミの言葉にはなかなか反応しない。けれど先ほどからじっとオミの顔ばかり見つめている。
「あの・・・何かついてる?」
「・・・」
ふる、と首を否定的に振る少女は恐らく十三から五の間だろう。淡い色の髪も涼しげな目元も可愛い少女は、将来はきっとすごい美人になるだろうと思わせるほどの美少女だ。
けれどそれだけではない。外見的な美しさも確かにあるが、それ以上に内面に秘めた力と言うべきか、魔的な美貌だと感じた。
なんとなくオミもセフィリオも、お互い口には出さないが、知っている少年の顔を思い浮かべていた。
「森を抜けてきて喉乾いてない?お茶にするけど、飲めるかな?」
「・・・・」
オミの言葉に、今度は気づかないほど緩くだが、肯定の意味で首が上下に振られた。
名前も正体もわからない少女だが、この場に来ることが出来るということはオミたちと同じような存在なのだろう。
紋章の気配はないが、オミとセフィリオの耳に光るピアスのように、魔力を悟らせないよう封じる魔具や呪具はこの世にはたくさん転がっている。油断はできない。
オミは警戒心もなく荷物の中から野宿用の鍋や材料などを広げて、軽いお茶の準備をしている。結構な頻度で野宿をしている二人だからこそ、このような道具も揃えていた。
その間にも少女の視線はオミに向けられたままだ。
セフィリオは小さく溜め息を零して予想外の来訪者にどうしようか考えを巡らせていれば、オミから暖かな湯気のたつ茶器を差し出された。
受け取って礼を言ったセフィリオの正面では、少女も微かな声でありがとうと声を出している。
今まで黙っていたのは驚きと警戒で、彼女の中でオミは安全なものと判断されたのか。あまり表情の動かない少女だけれど、その時に見せた微かな笑みに、オミも心からの笑顔で頷いている。
「・・・オミの浮気者」
「意味が判りません」
オミとセフィリオの会話にまた薄い笑みを浮かべた少女は、温かい飲み物に落ち着いたのか、小さくセラと名前を呟いた。
「あの、聞いていいかな?セラはどうしてこんな所に?」
「・・・ここに、いると思ったので・・・迎えに」
「迎って、誰か・・・ここによく来る人がいるの・・・?」
こくんと頷くセラに、オミの冷たい視線がセフィリオへと向けられる。
昨夜、嫌がるオミをあの手この手で黙らせて行為に及んだ時、確かに誰も来ない場所だとセフィリオは言ったのだ。
まぁ、そうは言っても禁域とは言えない場所なので条件が合えば来ることは出来る。
泉に近寄れるか、または近寄れても長時間この場に居続けることは普通の魔力程度しか持たない人間ならそれは不可能なことだというが、実際それを体験し、知る者もいないので事実かどうか何とも言い難い。
少女から感じられる魔力は真の紋章のものではないが、セフィリオの目から見て、このセラという少女は相当な魔力の持ち主ということが分かっていた。
オミはその辺りの感覚が極端に鈍いので気付いてもいないだろうが、どこかで修練を積んだ魔女か。
もしかすれば、真の紋章を身に宿したことがあるのかもしれない。今その気配はないが、セフィリオは直球で尋ねてみることにした。
「君は真の宿主?」
「いいえ」
ずばりと聞いた質問には、即答の否定で返された。
意味が分からない様子もないので、この少女はやはりそれなりの修練を積んだ魔女、魔導士ということになる。
「じゃあ前にそうだった。もしくは、今後その予定?」
「・・・その予定・・・だったのかも、しれません」
「ふうん・・・・」
「なんなんですか・・・?」
質問の意図が読めないオミに、セラはじっと視線を向けて不思議そうに首をかしげる。先ほどからオミを眺めていたのは、オミに宿る紋章の気配を察してか。
「僕に、何か?」
「あなたはとても不思議な人。・・・あなたも、宿主?」
「ええと・・・・宿主っていうのは」
武術に関しては鍛錬を積むのが何よりの気晴らしというオミであっても、魔法的な知識はあまりないに等しい。知識として書物は幾つか読んだことはあるだろうが、誰かから教えを受けたこともないオミは救いを求めるようにセフィリオに視線を移す。
「紋章持ちかと聞かれているんだよ。ここに居る以上、そうだね。僕もオミも真の宿主だ。でも」
セラに近かったオミを引き寄せて、後ろから羽交い絞めにしつつ滑らかな頬に唇を寄せた。
「あげないよ。オミは俺のだからね」
「っちょ・・・!何ですか突然!」
二人きりならばこの程度の接触など慣れたものとはいえ、目の前に人がいるのにべたべたされることが苦手なオミは慌ててセフィリオの腕から逃げ出そうともがいていた。
が、その瞬間セラは弾かれたように立ち上がり、森の入り口へと走り出してしまった。
「あ、セラ・・・!もう、セフィリオが変なことするから驚かせちゃったじゃないですか!」
「そう?目的は別みたいだけどね」
「え?・・・あれ?」
怒りと差恥に真っ赤になって怒っていたオミは、セラの背中を視線で追うセフィリオの苦笑のような表情を見てその視線を追った。
するとセラが飛び込んだ森の入り口から、今度は見知った姿の男が歩み出てきたので、オミの大きな瞳はそのまま驚愕に見開かれた。
「え、嘘・・・ルック!?」
「・・・懐かしい気配がすると思ったら君か。オミ」
陽の照り始めた空を眩しそうに手で遮るルックは、それでもあまり十年前と変わらない。
いや、それでもまったく変わらない訳でもなかった。
首元から肩ぎりぎりまで伸ばしていた髪はさっぱりと襟足で切られており、淡い色味の多かった衣服はどちらかと言えば暗めの衣服に変わっていた。
昔のようなローブでもない、ラフな衣服なのかもしれないが、オミはルックのこのような気軽な恰好を見ることが妙に新鮮だった。
「・・・本当にルック?」
「僕だよ。そんなに変わったつもりはないけど」
「うん、ごめん・・・なんだか、見慣れなくて」
照れくさいような顔をしたオミがふらふらとルックへ近寄ろうとするのを、セフィリオは腰に回した腕で引き止める。
オミが驚いたような視線を向けてくるが、セフィリオはそのまま視線をルックへと向けて意味ありげに笑みを浮かべた。
「俺も居るんだけど?」
「あぁ知ってる」
セフィリオの言葉には相変わらず冷淡な切り替えしで、オミに向けられていた微かな笑みも消えてしまった。
オミが王として籠っていた城からセフィリオと共に旅へ出る時にも一度姿を見せてくれたルックだけれど、その時は本当に一瞬過ぎて碌な会話も出来なかった。
結局、腕の拘束から抜け出したオミが嬉しそうに走り寄る姿を視線だけで追いかけつつ、セフィリオはふむと考える素振りを見せる。
「女の子が来るなんて驚いたけど、まぁ、最後には待ち人も来たことだし良いとするか」
ぼそりと呟いた言葉は、オミの朗らかな声にかき消されて誰の耳に届くこともなかった。
走り寄ったルックの隣には、ルックの服をぎゅっと掴んだままのセラがじっとオミを見ていた。
オミは屈んでセラと目線を揃え、苦笑を浮かべて色々驚かせてごめんねと謝罪の言葉を告げる。それに小さく首を振った少女は、そのまま視線をルックに向けて、もう一度オミに戻した。
「ん?」
「・・・ルック様がこの場所をお好きなのは、この方と同じ色だからなのですね」
「・・・・・・・セラ」
咎めるというほど堅くもなく、どちらかと言えば困ったような表情を浮かべてみせたルックに、セラは小さく笑った。
「あ、可愛い。ね、ルック、この子・・・どうしたの?」
「・・・君も本当に変わらないね。セラはもう子供というほど子供でもないよ」
「それでも可愛い子は可愛いから。・・・ねえ、セラ。自己紹介が遅れてごめんね。僕はオミ。昔ルックには色々お世話になったんだ」
「オミ・・・・様?」
「様はいらないよ。ただのオミって呼んで。その方が嬉しい」
少し困ったようにルックに視線を動かしていたが、ルックに頷かれてセラはこくんと首を縦に振った。
「はい」
うん、と立ち上がったオミはそのまま目の前のルックに視線を向けて、あれ・・・?と目を瞬かせる。
「ルック・・・もしかして身長、伸びた?」
「あぁ、まぁ少しはね」
十年も経てば普通は伸びるだろう。
けれどルックは。
ルックも、オミたちと同じく真の宿主ではなかったか。
真の紋章を宿したものが得る能力はその強大な力と、老化を止める真の紋章は、とどのつまり生き物としての成長を止めるということだ。
オミも数えて二十五の年になろうとしているのに、外見は親友を殺したあの日から・・・右手に宿る真の紋章が形を変えてから、変わらないまま。
「・・・俺もそこが聞きたいんだよね。やぁセラ。改めまして俺はセフィリオ。これでもルックとは長い付き合いなんだ」
「・・・初め、まして」
オミとは違って堅い反応に苦笑しつつ、最初の印象が全裸だもんなぁなんて考えながら視線をルックへと向ける。
「この子とルックが知り合いだったなんて偶然だけど良かった。実は俺もセラと同じ。待っていたんだよ。ルック、君をね」
「セフィリオ?待つって・・・・ルックのことだったんですか?」
人気の多い街を渡り歩いて消耗しきったオミを、魔力の補充がてら休ませるというのも勿論目的の一つだったのだけれど。
『星を見に行こう』と言ったセフィリオは夜に夜空を眺める訳でもなくただずっと『待ってる』を繰り返しつつ悪戯な手をオミに伸ばして来ていたのだ。
時間は幾らでもある二人だから、まぁいいかと心地よい野宿を続けていたオミだったのだが、セフィリオにはやはり目的があったらしい。
「ここは魔術師の塔に程近い。けれど足で行くのは無理だ。竜を使わせて貰ってもいいのだけれど、今回は私的な旅だし、オミはお忍びだしね。結論的に竜という移動手段を使わないで辿り着くにはお迎えに来て貰うのが一番だろう?」
「って、言ってもルックがここに来るかもしれないなんて分からないじゃないですか」
「・・・いいや。きっと来ると思っていたよ。似ているからねこの場所は」
「・・・はぁ・・・?」
あまり理解していない様子だったが、元気そうにセフィリオと言い合うオミの姿を眺めてルックは、もう一度眩しそうに目を細める。
十年だ。遠くから何度か眺めていたことはあっても、目を見て言葉を交わしたのは本当に久しぶりのこと。
「・・・・君も随分変わった」
「?でも、身長も変わってないし・・・セフィリオにはちょっと痩せたって怒られたけど。言うほど変わったかなぁ?」
少年らしかった身体は昔から中性的なものだったが、今のオミは更に性別が分からない雰囲気を醸し出していた。
長く伸びた赤茶の髪。これは終戦間際もそうだったのだが、あの弱り切った頃と比べても、違う意味で細くなったように感じる。
女々しいのではなくて、どこまでも『オミらしい』のだ。
これが元々オミの持つ気質なのか、新たに宿した紋章のせいなのかは分からないが、この柔らかな空気はどこまでもこの清浄なる場に溶け込むように存在している。
「・・・・・逆にこの子をここに連れて来れる君の精神を疑うよ」
「うんまぁね。オミは俺の側にいる。信じてるから。だから平気かな」
「・・・あぁそう」
景色と同化して消えてしまいそうなオミに不安を抱いてしまうルックはやはり、その手をオミに伸ばすことはなかった。
「ルック様」
「・・・・仕方ないね。レックナート様が君たちを拒めるわけがない。来たいなら連れて行ってあげるから準備しなよ」
そんな突然行ってもいいのだろうかと躊躇するオミと違い、セフィリオはさも当然というように頷いている。
「レックナート様も君と会いたがっていると思うよ」
「・・・わかった。ありがとう。ちょっと待ってね」
にこりと微笑んだオミは急いで荷物を纏めるために走り出す。その姿を眺めつつ、セフィリオはルックの側から離れない少女に目を移した。
「で、この子は?」
「名前は聞いたんだろ。今はレックナート様の下で暮らしている。前に居た場所はハルモニアの神殿」
「・・・・!」
「恐らく君の想像の通りだと思うよ」
何かを言いかけたセフィリオは、荷物を抱えたオミが走り寄ってくる気配に口を噤んだ。
「おまたせ。準備出来たよ」
「・・・なら行こうか」



気になりましたらどうぞ!
ぜひ手にとってやってみてくださいね!!