A*H


夢現幻

YUME UTSUTSU MAHOROBA

ジャンル:復活/骸×綱吉10年後
発刊:2008年06月22日
仕様:FCB5オフ
頁数:36P
価格:¥500


あさと様との漫画+小説合同誌。
いつものパターンですが、今回は繋がってます。
小説→漫画で一つのお話です。
連載中の10年後に被せたような、捏造のような。
かっこいい綱吉くん(精神的攻)とちょっとヘタレな骸さん(精神的受?)を目指して★
嘘です。・・・あながち嘘ではないかもしれません。(どっちだ)
だってどう見てもつなむく・・・。(ボソ)
いやいや、10年後ムク→→→ツナって感じです!
内容はまぁ・・・白蘭にフルボッコされる前後のお話ですヨ。(これで大体わかるよね/笑)

あさと様のサイトにて、おまけページ稼働中です!
ヒバツナSideはMainにも掲載中★



▼以下おためし (文)





「うわー、今日は一段と冷えるねえ」
吐く息は白く、重ねた生地を通してさえも肌を撫でる風は刺す様に冷たい。
そもそも数年間、生身で風に当たることすらなかった僕が、この凶器のような空気を最も苦手としていることを知っていながら、世間では『ボンゴレ十代目』と呼ばれる青年へ恨みがましい視線を向けるのは仕方のないことだと理解して欲しい。
「・・・骸?元気ないねぇ」
「・・・なんで、車を追い返したりするんですか。護衛の僕の身にもなって下さいよ」
「えー?ついて来たのは骸の勝手だろ?俺は、一緒になんて言ってないし。先に車で帰っても良かったのにさ」
「・・・・」
「・・・ごめんごめん、それは嘘。冗談。護衛ありがとう骸。助かるよ」
時間の経過と共に、目の前の青年はゆっくりと彼を形作る色を変えて『ボス』の座についた。
まだまだ他のマフィアのボスに比べれば甘くどこまでも頼りない男だけれど、マフィア全てが憎く忌むべき存在と考える僕でさえ、彼ならば何故か許容してしまう。
庇護を誘うと言えばそこまで弱さを見せる訳でもない。全てを守ると言えば、そんなに強くもない。
けれど彼は全てを包む。
昔の、全てに怯えて全てを諦めていた少年は、緩やかに全てを受け入れ、慈しみ方を覚えた。初代を湛えボスを『大空』と呼んだ過去の者達への賛同は、この僕にさえ少なからずあるだろう。あぁこれが『大空』というものか、と。
「本当にこっちの冬は寒いよね。雪も綺麗だしさあ。・・・あぁ、また雪合戦とかしたいなぁ。いや、いっそしてみようか屋敷の庭とかでさ。景品つけたら盛り上がるだろし参加者も増えるよね」
「いい大人が誰しも貴方みたいに雪ごときではしゃぐとは思いませんが」
「骸って実は結構大人しい癖に毒舌だよねぇ。・・・別にはしゃいでないよー俺ふつうー・・ぅわ、」
雪の積もった石畳の上をくるりと回って見せた拍子に、脚をとられて傾いた身体を何とか支えて捕まえる。状況を掴めずにきょとんとした表情は、彼の内面をこんなにも変えた時間の経過を感じさせないほどに幼い表情で。
続けて、僕に凭れたままけらけらと笑い出した顔なんてもう、子供のそれだ。こんな様子を見て誰がこの青年をかの『ボンゴレ十代目』だと思うだろう。
「『はしゃいでない』・・・ですか?」
「・・・うん、ゴメン。実はちょっとはしゃいでる。多分、俺ちょっと嬉しいから」
「主語を言いなさい。この国に来て何年ですか?いい加減慣れてもいいでしょう。意味がわかりません」
「だって雪、降ってるんだよ。歩かなきゃ勿体無い気がしない?」
「いいえ全く。冬には雪が降るものです。そもそもこんな寒い雪の中、歩いて戻るなんて正気じゃありませんね」
「だって歩きたい気分だったんだ。骸、寒いの嫌いでしょう」
「・・・ええ嫌いですよそれが何か?」
「だからかな?」
いまだ斜めな身体を支えていた腕から抜け出して、今度は僕の正面からするりとコートの中へ腕を突っ込んで抱きついてくる。
「性格悪いですね君。・・・何するんですか」
「・・・あー、やっぱり暖かいー・・・」
多少寒さに赤く染まった頬を摺り寄せるように更に力を込めて抱きついてくる青年の頭は、成長した今でさえ僕の視線の下に埋まる。
「君ね・・・嫌がらせですか?」
「暖かい。・・・生きてる、音がする」
「・・・・」
中身と同じように、ふわふわと捉え所のない髪が冷たい風に揺れていたけれど、まだ僕にはそこへ顔を埋める勇気はない。
抱き締め返す、覚悟もない。
だらんと下がったままの腕は力を無くして、僕はぼんやりと視線を落とした。
「出られて、良かったね。本当に、良かった。多分骸は知ってることが多過ぎて、知らないことばっかりなんだ。俺ね、暖かい春も過ごしやすい秋も、暑い夏だって好きだけど、冬も捨てたもんじゃないって思うんだ。骸、寒いの嫌いだから、冬って好きになれないかもしれないけどさ。みんなが傍に居て笑って過ごせる季節があるって、そんな季節を何度も迎えられるって、俺にはすごく大切で大事なことだから、少しでも冬の良いところ、骸にも知って欲しくて連れ出した。骸も寒いの嫌いなくせに嫌がらないでついてきてくれた。だから嬉しかったんだ」
「・・・・なんですかそれ」
本当に、彼の言葉は意味が分からない。
脈絡なんてない。持って生まれた直感で話す彼の言葉は幼くて、拙いくせに。
寒いのは嫌いだ。寒さは痛みと孤独を思い出す。どんな世界を廻っても、幼い頃最初に感じた痛みは忘れられるものではない。だから僕がこの季節を好きになるなんて思えない。それなのに。
「冬って寂しいイメージがあるけどさ、一人じゃないなら、寂しくないよ。誰かが傍に居てくれる季節。こんな風にくっついてても、あぁ寒いんだって思われるだけ。・・・寂しくなんかないよ」
僕の過去なんか知らないくせに。
まるで、今までの僕を見てきたように、今僕が欲しい言葉をくれる。
それがどれだけ僕の痛みを消して、僕を作り変えてきたかなんて、きっと彼は知らない。
溢れて零れそうになる言葉と想いを何とか押し込めて、僕は表情を変えないままに彼の肩に手を置いた。
「・・・余計なお世話ですよ。もう十分分かりましたから。いい加減、離れなさい」
「え?・・・ええ?俺、冬の良いところ、まだ全然紹介してないんだけど。綺麗な雪とかさあ、積もった雪に月明かりも反射して、夜でも明るい街とかさ。誰も居ない街が青白く光ってるのって、何だか違う世界みたいで不思議な気持ちになれる。本当に冬は綺麗なんだって、まだ」
「いいえ・・・もう十分ですよ」
「ええ〜?でもまだまだ一杯あるのにさあ」
「・・・風邪を引きます。戻りますよ」
「あ。そうか、ごめん。骸、寒いよな?寒いの苦手なのに、ごめんな?」
「・・・いいえ。今はもう」
今はもう、寒くない。
雪は相変わらず降っているのに、刺す様に痛かった風はもう感じられなかった。
抱き返せない僕に一層強く抱きついてくる彼の体温が、冷え切った身体にゆっくりと広がっていく。暖を求めて抱きついているのなら逆効果だとしか思えないほどに、暖められたのは僕の方だった。


***





続きは買ってからのお楽しみv(笑)