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裏10000HIT★キリ番リクエスト 宗瑞様よりv





もしも願いがひとつ叶うなら、あなたは何を望みますか?






* Forever... 1 *








「な、な、な・・・・」



朝目が覚めて、妙に体がだるいと思った。
眩しい光と、素肌に刺すような朝の空気が、それでも閉じようとする瞳をこじ開ける。
けれど、するすると滑る暖かいシーツから抜けるのを躊躇われて、隣の温もりに擦り寄った。
その温もりに触れれば、まだ寝ぼけているこんな時でさえ思い出してしまう、昨夜の情事。
その感覚も気恥ずかしさも慣れたもので、ちらりと目を開いて隣を見ると、案の定隣で眠るセフィリオの寝顔。
まぁ、こんな朝はいつもの事で、今驚いているのはそれじゃない。
「何だよこれ―――!!!?」



早朝、軍主の部屋で絶叫が響き渡った。






真っ先にその声に驚いて起きたのは、同じベッドの上にいたセフィリオだ。
「どうした・・・?」
まだ少し寝ぼけた頭で、シーツに包まっているオミを見る。
そんな朝の情景もいつもの事で、普段なら気にも止めないのだが。
「・・・オミ?」
様子が、いつもと違った。
声をかけられて振り向いたオミは、泣きそうなパニック顔でセフィリオの声に反応する。
シーツに包まるのはいい。素肌でいるには朝の空気は冷たいから。
でも、今は頭からシーツに包まって、ベッドの上に座り込んでいるのだ。
「どうしたの、オミ」
セフィリオはいつもの朝の様に、手を伸ばして触れようとした。
「だ、駄目!」
触れるか触れないかの寸前で、オミはひらりと逃げてしまう。
触れることを避けられて、セフィリオは少しむっとした。
ベッドから逃げ出したオミを追って、セフィリオもベッドから起き上がる。
「どうして逃げるの?」
「・・・・」
オミは、無言で来ないでと首を振っていた。
オミの表情は嫌悪ではない。ただ困惑しているのは確かだった。
オミは、何かにパニックを起こしている・・・・?
「ダメ!今は駄目ー!!」
そう言うと、そのシーツをかぶった格好のまま、部屋を飛び出してしまった。
置いていかれたのは、セフィリオ。
「『今は駄目』・・・・って、何なんだ一体」
指にくしゃりと髪を絡めて考えてみるが、どうにも思いつかない。
確かに昨晩は何時もよりも熱くて濃い夜だったのかもしれないが、それだけのことだ。
「別に、初めてじゃないし、怒らせてもいないのに・・・・・・」
この際、あらゆる意味で意地悪をしたのは置いておこう。
しかし、あの格好のまま飛び出したからには、逃げる先はひとつしかない。
ここから一番近くて、なお気の置けない相手がいる部屋。
「ナナミの部屋・・・・?」
と結論を出したところで、階下から叫び声が上がった。
オミではない。
恐らく、オミの格好に驚いた見張りの兵士の声だろう。
慌てるようなオミの声と、驚いたナナミの声。
そして扉の閉まる音までが聞こえる。
「・・・・・サービスし過ぎだよオミ」
一般兵士にまで、あんな姿を見せることないのに。
文句を言いながら、セフィリオは衣服を身に着け始めた。




-----***-----




「ナナミ、助けて!」
兵士に謝りながら飛び込んできたのは、シーツに包まったオミだ。
「ど、どうしたの?」
部屋の扉をあけて中に迎えて見れば、オミはほっとしたように息を吐く。
「そんな格好で・・・またセフィリオさんとけんかでもした?」
からかうようなナナミの口調。
こんな朝早くから部屋に飛び込んできた弟に、姉は怒りもしないで笑いかける。
「ナナミ・・・」
とたんにくしゃりと表情を崩して、抱きついた。
軍主になってから始めてであるだろう、『弟』の表情を見せたオミ。
ナナミはそれが嬉しくて、抱きついてきたオミの頭を撫でてやる。
「どうしたの?おねえちゃんに・・・・・あれ?」
ぎゅっと抱きしめて、その感触に驚いた。
慌てて離れて、それを確かめる。

「なんで、え、えぇ――――?!!!」


本日2度目の絶叫が、今度は城中に響き渡った。




-----***-----




流石に二度目のナナミの声は、城中の人々を起こしてしまったらしく、雪崩れ込むように5階へ殺到した。
特に、心配顔で転がり込んできたのはオミの元に集まる宿星たちだ。
「何があった?!ナナミ!オミ!!」
「何でもありませんとおっしゃってますから!」
「あんなに大声で叫んでおいて『何もない』はないだろう!」
「で、でもなんでもないと仰ってるんですよ〜!」
5階に侵入しようとする人々の宥め役に選ばれたのは、あられもない軍主の寝起き姿に驚いた警備の一般兵だ。
けれども、流石にたった二人で雪崩のような人々を引き止めるのは難しかった。
しかし与えられた任務だと、ぎりぎりまで留め、なんとかナナミの部屋へは入らないように頑張っている。
「・・・大人数で。どうかしたの?」
その場にけろりと現れたのは、オミの部屋から出てきたセフィリオだ。
背後からさも当然というように現われたセフィリオに誰もが驚いたが、ビクトールは慣れたもので話し掛けてくる。
「今の声!聞こえただろうがお前にも」
「あぁ、ナナミの叫び声・・・・・」
何を見たのか知らないが、恐らくオミの困惑の原因と同じだろう。
スタスタと歩いて、割れるように人垣の開けた先にあるナナミの部屋の扉をノックする。
「ナナミ、オミ。どうしかしたの?」
「あ、セフィリオさん・・!」
今まで音沙汰無かった部屋の中から、ナナミの明るい声が聞こえてきた。
「外、まだいっぱい人います?」
「・・・いや?」
そう言って、部屋の扉から見えない位置へ宿星たちを移動させる。
「あ、じゃあ入って下さい!ちょっともう大変で・・・」
かちゃりと開けられた扉の向こうには、ナナミともう一人・・・つまりは少女が『二人』いた。
「・・・・・・・その子?」
「あ・・・」
不安と困惑が混ざったような顔で、ナナミに衣服を借りたのか、そこには『オミ』が居た。
けれど、少女の姿をして。
顔はそんなに変わらない。少し睫が伸びた程度か。
体つきは華奢なまま、けれど全体的に丸みを帯びていて、女性的なそれに変わっていた。
「っちょ、セフィリオ!」
問答無用で腕の中に抱きしめられて、オミは慌てて引き離そうとする。
いつもの力さえも出せずに、結局大人しく抱きしめられているのだが。
「・・・・・柔らかい」
「・・・・・・・・」
なんの事を言っているのか分からない訳ではないけれど。
ちょっと染めた頬のまま、微かにセフィリオを睨むオミ。
「それ、確かめる為にわざわざ?」
「いや。けど、本物かなと思って」
そう言いながら、真顔のままたしっとオミの胸に触れる。
「・・・っ!?」
「セフィリオさん?!」
「あーいや。ごめんつい・・・ね」
ふーむと考えながら、何が原因でこうなったのかを反芻してみる。
オミの早朝の様子から、本人は原因など全くわかっていないだろう。
「『つい』で女の子の胸、触っちゃダメです!」
「ナ、ナナミ・・・僕は女の子じゃ・・・・」
「今は女の子でしょ?」
「あ・・・・、えっと」
こうなってしまった原因がわからない以上、元に戻すのも難しい。
心当たりがあるといえばあるのだが、まさかそんな奇跡みたいなことが実現するなどと言うのも無理な話だろうに。
それでもセフィリオはナナミと話しているオミを上から下まで眺めて、頷く。
「ねぇオミ。それが元に戻るか分からないけど・・・・」
1つ提案があるよ。




-----***-----




流石に変わってしまった姿のまま人前に出ることは躊躇われて、オミには無期限の休日が与えられた。
遠目で見れば分からない変化も、近くに寄ればすぐにわかる。
それほど、顕著に分かってしまうほどオミの身体は変化していた。
なまじ性的な行為に慣れてしまっている体のせいだろうが、同年代の少女達と何かが違う。
勿論それは少年の時ですらあったカリスマ性と言えばそうなのだろうが、やはり同性と異性で比べるなら、 今の姿の方が男性には受けがいい。当たり前だろうが。
「ホウアン先生でもわからなかったのに・・・」
「落ち込まない落ち込まない。・・・・僕としてはこのタイミング、嬉しいんだけどね」
「・・・・・?」
馬に揺られて、辿り着いたのはグレッグミンスター。
この都市には、セフィリオが解放軍を率いていた時に宿星だったリュウカン医師がいる。
セフィリオが城からオミを連れ出したのには色んな要素が含まれているが、
軍をほったらかして出て行くことに渋る彼をここまで連れてくるために、セフィリオはそれを持ち出した。
確かに、ずっとこのままでいる訳にはいかないし、今頼れる有名な医師と言えばリュウカンぐらいだろうから。
「居心地悪そうだね・・・」
「当たり前です。なんで僕がこんな格好・・・」
オミは一応、『アルジスタ軍のオミ』ということを隠している。
服装もバーバラから女の子のものをナナミが借りてきたらしく、嫌がったオミは無理矢理着せられたのだ。
それがナナミが好みそうな深紅の動きやすい服であっても、どう見間違えても少女にしか見えないだろう。
「さ、着いたよ。ちょっと覚悟してもらうかも」
「覚悟?」
屋敷の扉の前に立った瞬間に、勢い良く音を立てて中から開いた。
「坊ちゃん!!!一体何処へ行っていらしたのですか?!」
セフィリオの気配を感じたのか、走ってきた様子のグレミオは、泣きつくようにセフィリオの服を掴む。
「せっかくレパント殿が用意して下さった機会を!」
「だからだよ。なんで分からないかなーもー」
涙を流すグレミオを引き離して、振り向くセフィリオ。
「おいで」
まるでエスコートするように手を伸ばされて、オミは一瞬どきりとした。
小さく頷いてセフィリオに続くと、その様子を驚いた顔でグレミオが見ている。
「こちらの方は・・・?」
「僕の大切な人。粗相のないようにお持て成ししてくれる?」
セフィリオが客に対してこんな事を言ったのは恐らく・・・・・・・・・・いや、確実に初めてだ。
驚きを隠せない様子で、それでもグレミオは嬉しそうに頷いた。
「は、はい!今すぐに・・っ!」
屋敷の中に入っていってしまったグレミオに苦笑しながら、オミは少しだけセフィリオを睨む。
「・・・どういう紹介の仕方ですか」
「オミ、実は俺今とてつもなく危ない橋の上にいるんだ」
「・・・・・・・は?」
見当違いの答えを返されて、オミは首を傾げる。
「さっきレパントがどう・・・とか言ってたよね。アレ、婚約パーティー」
「・・・・は!?誰の?」
「もちろん俺の」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうですか」
「勘違いしないでよ。その気なんてこれっぽっちもないんだから」
いつかは来る話だと思っていたのは確かだ。
マクドール家と言えば、グレッグミンスターで・・・・いや、トランでは知らない者はいないだろうという名家で。
その御曹司が『トランの英雄』なのだから、そういう縁談話は腐るほど沸いて出ているのも確か。
更に言うなら、銘柄だけでなく、セフィリオの顔に騙されている少女達も決して少なくはない。
「名家の親って、可愛い娘ならなお更、名家に嫁がせたいと思うんですか・・・?」
「それもあるし、実際親が狙っているのは政略結婚だよ。中にはシーナを狙ってる家もいると思うしね」
シーナは現大統領の息子だ。このまま行けば、間違いなく大統領を引き継ぐのは彼だろう。
しかし音に聞こえた『放蕩』振りに、名家の親たちは少し眉を顰めているのもまた事実。
「・・・・・・・中身ならそう変わりはないのに・・・」
違うのは、歴史の表に描かれた『英雄』という名の肩書きだけ。
「それって俺とシーナが?」
「・・・・・・・」
無言で返したオミは、それが肯定ととられても構わないというように、セフィリオを睨む。
「オミと逢う前は・・・・・そりゃあね。俺だって男だし・・・」
無言のまま不機嫌な顔のオミを腕に抱き込んで、軽く頭を撫でる。
「でも今は本気でオミがいれば他には何もいらない。それは、本当だから」
不意打ちの告白に、オミは目を見張る。
少し怒っていた筈の気分は、あっという間にどこかへ消し飛んでしまっていた。
「・・・・・何だか上手く誤魔化された気がする」
「そう?」
笑いながら屋敷の中へオミを促すセフィリオ。
そんな様子を、驚いた顔をした人々が信じられないと言った面持ちで見つめていた。
城の前の大通りに面した道に、マクドール邸はある。
人通りの多いその道のど真ん中でやり取りしていたのだから、見られていて当たり前なのだが。
シーナだけでなく、セフィリオも相当浮名を浮かせていた遊び人だ。
けれども、シーナと違って自分の興味の無いものには全く見向きもしない。
そんなセフィリオが笑顔を見せてエスコートするのだから、見てしまった人々は驚きを隠せないでいた。
これがまたうわさとなって、グレッグミンスターの町に広まるのは、また少し後の話・・・・・・。






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⊂謝⊃

Forever... :タイトル訳『永遠に...』

このままでは終わりません。続きます。(汗)
どうにも、長々とした話になりそうなので、分けてしまいます。
中々終わらない・・・!ヤバイ楽しい・・・・っ!!(オイ)
『女性化』なんて、実は初めて書きます。それらしいのは沢山書いたけど。(笑)
色々オチの複線が引いてありますがお気になさらずv
もう暫くお待ち下さいませ、宗瑞様!!<(_ _)>

斎藤千夏 2003/12/07 up!