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A*H

56000HITキリ番リクエスト  米太郎様よりv

* 名前 1 *










「オミ、オミ?大丈夫??」
セフィリオの腕の中にある身体は熱かった。
馬を並べて覗き込むナナミも、不安で仕方が無い顔をしている。
ここは、遠征から城に帰るまでの道の途中だ。
もう随分馬を歩かせているから、そろそろ城が見えてくるだろう。
「もう少しだから・・・オミ」
額に小さくキスをする。
触れた額は、唇がジンとするほど熱かった。






-----***-----






オミが風邪を引いてしまった。
症状が酷いと言う訳ではないが、オミは熱に弱いらしい。
確かにこの寒い季節の中をあんな薄着で居るからには、少しは熱を出すのも当たり前だろう。
普段ならそれでも平気なのだろうが、最近は戦争が緊迫してきている為、睡眠もろくに取っていない様子だったのだ。
弱った身体が熱を出したのは仕方の無い事といえばそうなのだが、今は小隊での遠征真っ最中で勿論のこと軍医は傍に居ない。
ぐったりとなってしまったオミに、ナナミはもちろんのことパーティー全員が慌てた。
そのパーティーの中にはいつものごとくセフィリオもいて。
いつもの紋章の発作かと思いきや、本当に風邪らしい。が、熱がひどく高かった。
オミ自身はそれでも大丈夫と言っていたのだが、高熱が続くようでは体力も持たないだろう。
同行していたトウタの助言で、途中の村にある薬を集めたのだが・・・これが効いたのかよく分からなかった。
薬を飲んでから、ぐったりとしていたオミは直ぐに寝入ってしまった。
それも、倒れるように。
飲ませた薬の中には出所不明のものあったので、少し不安になる。
それに気付いたのはオミに飲ませ終えてからだったから、もう後の祭だ。








「あれから、起きませんね。大丈夫なんでしょうか・・・」
「オミのことだ。すぐケロっと目を覚ますさ」
後ろではトウタとフリックがそんな会話をしている。
確かに、高熱は治まった。
けれども、あれからまだオミは目を覚ましてくれない。
「ホウアン医師にも見てもらった。もう大丈夫だろうと言う話だ」
「すぐに目を覚ます?ホント?シュウさんホントに?」
「あぁ、大丈夫」
シュウはそう言って、城のオミの部屋から出て行った。
軍主はよく倒れてはベッドの住人になることが多かったので、もう慣れたものだ。
そんなシュウを追ってか、心配顔の仲間たちも次々に部屋を出て行った。
「あ、セフィリオさん。わたし、氷貰ってくるから見ててくれますか?」
「いいよ」
額に当てている布を濡らす桶を持って、ナナミが出て行く。
これで、部屋にはセフィリオとオミしか居なくなった。
オミの呼吸は整っている。躊躇いがちに額に触れても、もう熱くもない。
城に戻ってすぐホウアンに見せたのだが、その頃にはもうオミの容態は落ち着いていたのだ。
「薬が効いたかな。それとも・・・・」
薬を飲ませる時に気を送りながら口付けたので、その効果も少しはあったのかもしれない。
熱が取れるように・・・、そんな願いを込めながら。
勿論その場には遠征に参加したほぼ全員が居たのだが、セフィリオは全く気にしていなかった。
オミがその時のことを知ったらどうなるか、少し見物だろう。
セフィリオは小さく笑って、返事など返ってこないと分かっていながら囁いた。
「もう一度口付けたら、目が覚める・・・?」
かもしれない。
オミとは紋章を通して繋がっている関係だ。
勿論、心も身体も命・・・魂さえも。
「起きて、オミ・・・」
ベッドに沈んでいるオミの頬にかかった髪を避けて。
小さく開いていた唇に、指で触れて、そっと口付ける。
「・・・・ん」
呼気と共に、ゆっくりと気を送る。
オミとは気の相性も抜群で、セフィリオの気はオミ自身の気と混ざり、身体に染み込んでいく。
ゆっくりと唇を離して見つめれば、オミの瞼が小さく揺れた。
「・・・?」
ふと、セフィリオは違和感を感じた。
いつもと、何かが違う?
「オミ?」
名を呼ばれて・・・・オミはゆっくりと瞼を上げる。
セフィリオの感じた違和感は、その後すぐ明らかになった。






-----***-----






「・・・・っ!?」
開いた瞳にセフィリオが映り込んだ瞬間、オミは飛び起きて後ろへと後退さったのだ。
まるで・・・知らない人を見て驚いたように、身体を縮めて。
「・・・オミ?」
訳がわからなくて、セフィリオは手を伸ばす。
その手から逃れるように、オミは身を捩ってベッドの端へと逃げてしまった。
「どうした?なんで逃げるの・・・僕だよ?」
オミは無言のまま首を振る。
ベッドから逃げたくても逃げられないと葛藤しているようで、怯えた視線だけを返してきた。
それ以上近づかないでという、怯えた目で。
「オミ・・・?」
それ以上逃げないのをいいことに、セフィリオはオミを腕に捕まえた。
そして、抱きしめてはっきりと気が付く。
少し警戒したようにびくついた体が・・・・・・違った。
いつものオミの身体じゃない。
「・・・あ、の・・・」
小さく声を出したオミに、セフィリオは身体を離す。
オミの掴んでいるシーツを離させて、もう一度抱きしめるように抱き上げたのだが。
腕に殆ど力をいれていないのにも関わらず、オミの身体は軽々と持ち上がってしまった。
元々オミは軽いが、これはそんな段じゃない。
「・・・縮んだ・・・?」
軽く持ち上げただけで、浮いてしまう体。
「セフィリオさんオミは・・・あれ?」
扉を開けて入ってきたナナミを見て、オミは一瞬止まって・・・・目を大きく見開く。
「ナナミ・・・?」
「セフィリオさん、その子・・・?あ、れれ・・??オ、オミが縮んじゃってるー!!」
冷水と氷の入った桶を持ったまま、ナナミはセフィリオに抱かれたままのオミに近づいた。
「ナナミ・・・なんでここに・・?・・・それに大っきくなってない?」
「何言ってるのよ、オミが熱出して倒れたんじゃない!って大きくって、わたしが?」
正確には『薬を飲んで』から、倒れたのだが。
倒れたことは分からないと首を振るオミ。
そして、ゆっくりと自分を抱いている腕の持ち主に視線を向けた。
「・・・じゃあ、お客さんじゃない・・・・?」
「オミ?」
ポツリと呟いた言葉。
オミは小さく首を振って、少し申し訳なさそうな笑顔で言葉を続けた。
「僕のこと知ってるの・・・?じいちゃんの知り合いか何か・・・」
オミはセフィリオを、ゲンカク師範の知り合いで、親切に看病してくれた人だとでも思っているらしい。
「・・・・・何、言ってるんだ?オミ、僕は」
言葉に詰まった。
言えない。自ら『忘れられてしまった』なんて、言える訳がない。
自分からオミにもう一度名乗らなければならないなんて・・・・。
「ま、まさか縮んだだけじゃなくて、記憶まで昔に戻ってる・・・・なんてことは・・・・?」
ナナミは冗談めかして笑いながらそう言った。
けれど、オミは首を傾げる。
「昔・・・?そう言えば、ここはどこ?もしかして僕ジョウイの家で倒れたの?」
「・・・・・・」
ナナミもセフィリオも、もう黙るしかない。
オミはと言えば、ふと自分のいる場所が気になったらしい。
周りを見渡して見覚えの無いから、自分の家ではないとわかったようだが・・・。
「ここは・・ナナミ?」
「オミ・・・本当に記憶まで・・・」
何がどうなってオミがこうなってしまったか分からなかったが、オミは完全に退化していた。
記憶、そして身体までも。
恐らく10歳前後。記憶の中でのオミは拾われてまだ2、3年ほどしか経っていない頃合だろう。
「わたしとジョウイのことはわかるのね?」
「?うん」
きょとんと頷くオミ。
質問の意図を理解できなくて、軽く答えている。
「何言ってるのナナミ。僕、どこか変なの?」
「オミ。信じられないかもしれないけどココはキャロじゃない。そもそもハイランド王国でもない」
腕に抱いていたオミをベッドに下ろして、セフィリオが話し掛けた。
出来るだけ、ゆっくりと正確に理解できるように。
・・・・怒鳴りつけてでも、全てを思い出して欲しいと思う自分を押し殺しながら。
「・・・君は今都市同盟のアルジスタ軍にいるんだ」
「アル・・ジスタ・・・軍?もしかして捕まったの?」
「違う。オミ、君がアルジスタ軍の軍主なんだ。」
「・・・え?」
説明は長く続いた。
ナナミは時に横から解説を加えていたりしたが、内容が戦争の辺りになると、
「わ、わたしみんなを呼んで来るね」
と言って部屋を出て行った。
「王国と・・・戦争中・・・?それもジョウイが皇王さま・・・?」
「そうだよ。そして君は同盟軍の軍主・・・みんなの期待の星なんだ」
あらかたを説明し終えた頃、ホウアンを引き連れたシュウが部屋に飛び込んできた。
「ノックも無しに失礼致します。オミ殿・・・!」
「こ、これは・・・」
オミの幼いその姿に、シュウもホウアンも驚いた表情を隠せないでいた。
彼らの後ろから顔の覗かせた他の仲間達も、皆同様に驚いた顔をしている。
「あ、あの・・・」
「あぁ、名前。オミ、覚えてないから」
教えてあげて。
そう言って、オミが座っていたベッドの隣から立ち上がった。
セフィリオが離れた瞬間、オミはあっという間に仲間たちに囲まれてしまう。
慕われている証拠だろう。
皆とても心配していたのだから。
・・・・・・けれど、やたらとオミに触れるのは止めて欲しい。
「・・・・分かってるよね」
ベッドから離れた窓際でセフィリオはそう小さく呟いたのだが、少しでも聞こえた面々は直ぐにオミとの距離を保つ。
首を必死で上下に振りながら。
「・・・嫉妬丸出し」
突然、隣で呟くような声が聞こえた。振り向かなくても声の主はすぐにわかる。
「誉め言葉として受け取っておくよ。・・・君こそ珍しい。こんな所に何の用?」
「・・・別に」
ルックはちらりと、オミの方を振り返った。
そしてセフィリオに視線を戻して、少し目を歪める。
「アレの原因、あの変な薬の所為だけじゃないね」
ルックも今回の遠征に付いて来ていたのだ。
出所不明の妙な薬を最初に見つけたのも、ルックであったのだが。
「・・・原因、わかるの?」
「それに関することなら少しは分かる・・・。君の紋章、どういう力を持っていた?」
いつものことだが、ルックの言葉には謎掛けのような言葉が多い。
セフィリオは少し考えて、自分の紋章に視線を落とした。
「『生と死を司る紋章』・・・・・・。命を『与える』力、そして・・・・魂を『奪う』力」
命を。その魂を食う力。この紋章が『ソウルイーター』と呼ばれる所以だ。
「最近は『与える』力しか使ってなかったんじゃない?」
不完全な紋章に削られていくオミの命を永らえさせる為に。
けれど、紋章の力も無限じゃない。
オミに与えられる命は、少しずつ尽きてきていたのかもしれない。
「まさか、それで・・・?」
「本当はあの子の魂を奪いたかったんだろうけど。・・・君の意思が無意識下でもソレを許さなかった」
だから、オミから『時間』を奪った。
それは明らかな矛盾。
『与える』為に『奪おう』とした相手は、『与えたい』と思った相手なんて。
「そんなの・・・・僕は望んでない」
「望んだハズだね。あの子の命を繋ぐために『与えたい』って。そして、『苦しみ』を奪ってあげたいとも思ったんじゃない?」
紋章はそれに答えようとして、あんな方法を取ったのだろう。
「魂の時間を切り取ってそれは今、その中にある。・・・・早く返してあげなよ」
紋章を指差して、ルックは部屋を出て行く。
オミは相変わらず人に囲まれていたが、普段のオミを知る者たちには驚きの連発だろう。
いつもの煌々としたリーダーの雰囲気はまるでなく、捨てられた子供のような気配がその身を包んでいるから。
そこに漂うのは何故か頼りない子供らしさではなく、夜に慣れた娼のような・・・・。
そう感じるのはオミの生い立ちのせいだろうが、セフィリオ以外にオミの過去を知る者はいない。
容態を覗きに来たほとんどの仲間たちが、今のオミを『別人』だと感じていた。
「それでは、この原因が掴めるまでもう暫くお休み下さい」
「・・・はい」
流石にこのまま話し込んでいても、何も覚えていないオミ相手に解決策が浮かぶ訳でもない。
シュウはまだオミと話したがっている面々を追い払う。
「では、私達もこれで」
失礼しますと出て行く二人の背を、オミは目で追った。
色んなことを一度に言われて、信じろと言う方が難しいだろう。
「・・・本当、だったんだ・・・。僕、そんな・・・無理だよ」
ぼそりと呟いた言葉は、同じ部屋にいたセフィリオだけに聞こえた。
そんなセフィリオも部屋を出ようと扉に手を掛ける。
「あの・・・あなたは・・・?」
出て行こうとするセフィリオに、オミははっと顔を上げて言った。
目が覚めてた時から傍に居る彼がひどく気になったから。
「・・・・二度も名前を言う気はないよ。ごめんね」
しかしセフィリオはただそれだけを言って、オミの部屋を後にした。





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