A*H

56000HITキリ番リクエスト  米太郎様よりv

* 名前 2 *










あれから数日後。
もう動き回れるようになったオミだが、相変わらず身体も記憶も元には戻らない。
オミがあの時飲んだ薬も、壜に付着した僅かなそれを調べた結果、成分的に害は無いと出た。
しかし、それを中和する薬を飲み続けているにも関わらず、やはりオミの身体は戻らない。
そんなオミに執務も遠征も出来る訳が無く、ここしばらくは軍議も停止していた。
・・・こんな時分にハイランドからの攻撃や侵略の報告もないことだけが唯一の救いだろう。
いつまた激戦が始まるのか分からない冷戦状態だからこそ、いつまでもこのままでいる訳にもいかなかった。
「オミ」
「あ・・・」
早く元に戻って欲しいという人の期待感が、今のオミを圧迫しているのは確かだった。
けれど、原因を知らないオミがどう努力しても元に戻る事など出来はしない。
それがよくわかっているから、あれからセフィリオは毎日城を訪れている。
オミがいるのは大抵自分の部屋かデュナン湖の辺だったから、今日もすぐ見つけることができた。
「また、ここに居た」
そよそよと静かな風が流れる湖の辺。
青い空に水がキラキラと輝いて綺麗だった。
オミは水辺に座り込んでじっと自分の顔を眺めていたけれど、セフィリオに気づいて立ち上がる。
「だ、だって・・・。人の前にいると・・・みんなの視線が怖くて」
軍主である以上、城下を歩けばいつも期待と羨望、そして強い願いを込めた目に見つめられる。
それはセフィリオにもよく理解できる視線だ。確かにあの視線は、痛い。
けれど、前のオミはそんなことさえ受け入れていた。
その人々の『願い』を受け入れて、叶えようとしていた。
「・・・こんな風に、怖がらなかったのにな」
「それは・・・僕じゃない!」
きっと強く睨んでくるオミの目は、少し涙を浮かべていて。
「軍主なんて、戦争なんて知らない!僕はあの人たちが求めてる『オミ』じゃないのに!」
いつものオミじゃないと分かれば、申し訳なさと同じ位、落胆した声で謝ってくるのだ。
「あの人たちは悪くないのに!それとも、忘れてしまった僕が悪いの?ねぇ・・・っ!」
どん、とぶつかるようにしてすがり付いてくるオミ。
オミがこうなってしまってから、その肌に触れたのはこれが始めてだった。
『違う』けれど『同じ』オミの体温に、抱きしめてしまいたくなる腕をなんとか押しどめる。
「・・・オミは悪くないよ」
「嘘だ!みんなそう思ってる、僕が悪いんだってそう・・・っん、ん・・・!?」
気が付いたら、その唇を塞いでいた。
ただ慰めて欲しかっただけかもしれない。
ただ一言、『君は悪くない』と言われたかっただけかもしれない。
「・・・・そうやって無防備に・・・・僕に近づくから」
君が悪いんだよ。
噛み付くようなキスに、オミはあっけなく呑まれてしまう。
「ぁ・・・は・・っ」
ズルリと、力の抜ける身体を、セフィリオは簡単に地面に押し倒した。
飲み下せずに唇の端から溢れた雫を舐めとって・・・。
噛み付きたくなるような首筋を隠す布を取り払ってしまえば、オミに逃げる事は出来ない。
今の縮んだ体に合うように作り直された赤い胴着の前を開く。
いつものオミなら、ここで抵抗して嫌がるのに・・・・。
「・・・何で、抵抗しないの?」
今のオミにとっては、セフィリオは知らない人のままだ。
未だに名前さえ、名乗っていない。
けれどオミは抗わない。知らない人間に押し倒されても、オミは少しも抗おうとしなかった。
それどころか、抱かれるのを待つように体の力を抜いてしまっている。
「・・・僕が、出来る・・・唯一の仕事だから」
胸に抱き込んだ身体は幼く、小さい。
そんな子供が、抱かれる事を・・・性欲の捌け口に使われる事を受け入れていた。
小さく、本当に小さく・・・・身体を震わせながら。
「・・・・違う」
「・・・・?」
押さえつけていた身体を離して、セフィリオは身体を起こした。
無理矢理抱きたいんじゃない。
性欲の発散目当て・・・?そんな安っぽい理屈でもない。
「・・・今すぐ城に戻ってくれないか」
近くに居られると、身体が欲しがる。
オミの身体だから、自分の身体を抑える方が難しい。
でも、欲しいのは身体じゃない。
そして、今セフィリオが欲しい物は・・・・ここにはないから。
「・・・・っ」
肌蹴られた胴着を掻き合わせてオミは走って行く。追うつもりはない、いや、今は追えなかった。
「・・・・・・・・いつまで、持つかな」
『オミ』をこの腕に抱けない日が続くとして、僕自身はいつまで・・・。
青々と生い茂る草の上に寝転んで、セフィリオは空を見上げた。
自分たちはこんなに焦って切羽詰っているのに、世界は何も変わらない。
草も木も動物達も、何一つ、変わっていない。
それが、自然なのだろう。
それが、自然の理だから。
けれど人間はそうはいかない。
失えば悲しむし手に入れれば喜ぶ・・・・感情というものがあるからだ。
そもそも今回の事だとてオミが時間を失ったのは、全てに理由があった。
人為的な理由。原因の全てはセフィリオが握っていると言っていい。
「でも・・・・受け入れてくれない相手に、どうやって返せばいい・・・?」
誰も答えてくれない事を知っていながらも、セフィリオはぼそりと小さく言葉を吐いた。
呟きはやはり、誰にも届く事はなく静かに消えていく。





-----***-----





「・・・・何で」
走りながら、煩い胸を押さえた。
押さえていないと苦しいのだ。激しく鼓動を打つ胸に尋ねても、その理由はオミにはわからない。
嬉しかったのかもしれない。
何故だか分からないけれど。
セフィリオの肌に触れて、確かにオミは恐怖に震えた。
それは行為に対しての恐れではなく、淡い期待を持ってしまいそうな自分に対して。
「何もかも・・・包んでくれそうな気がしたんだ」
もうあの仕事はやらなくていい。ゲンカク師範に拾われたその時にそう思ったはずだ。
あんなに嫌悪していたその『仕事』を、嬉しく思ってしまう自分がどうしてなのかオミにはまだわからない。
「・・っ」
走っていた足を止める。
まだ服も乱れたままで城に入るわけにもいかない。
腕を動かす事が出来ずにオミは唇を押さえる。
触れた唇は、熱かった。
そして、ひどく懐かしかった。
初めてのはずなのに、・・・・・・・・・・・・嬉しかった。
「何で・・・僕、こんな」
ドキドキしてるの?
足から、ゆっくり力が抜けた。
ぺたんと地面に座り込んでしまったオミは、ゆっくりとした手付きで服を調える。
どうして逃げてしまったんだろうとか。
どうしてこんなに・・・・胸が苦しい?
「どうしましたか?・・・おや、もしかして」
穏やかな声と共に、ふと大きな影がオミを包んだ。
「オミ様・・・?」
呼ばれて顔を上げて、でも知らない人で。
「どうかされたのですか?お顔が真っ赤ですよ?」
目線を合わせるようにひざま付いた姿は格好良いけれど、胸のドキドキとは違うもので。
オミがいつもと違うオミだと言う事に気が付いたのか、柔らかく微笑んでくれる。
「私はカミューと申します。オミ様を守る騎士の一人ですよ」
「・・・騎士、様?」
「カミューとお呼び下さい。そんなお姿でいる理由は聞きませんが・・・今は城へ帰りましょう」
手を伸ばしてくれるカミューにオミは静かに握り返した。
「っわ!」
引っ張られたと思ったら、ふわりと腕に抱かれていた。
膝の裏と背中を抱えられて軽々と。
「あ、あの・・」
「構いませんよ、お気になさらず。・・・立てないのでしょう?」
「そう言われても・・・」
立てないのは当たりだが、気になるものは気になるのだ。
城下に入ってから突き刺さるような人の視線よりも先ず、カミューに対しての申し訳なさが漂って仕方ない。
カミューに抱かれたまま、オミは顔を下に向けていた。
「オミ様?具合でも・・・?」
城下の人々は俯いたままのオミに、本気の心配顔を向けてくれる。
それはありがたくもあり、とても申し訳ない。
「い、え・・・」
俯いたまま答えたオミに、小さく苦笑して返してくれた。
「・・・早く良くなるといいですね」
具合が悪い訳でもない。
別に病気な訳でもないのに。
「・・・・僕は、ここにいていいんですか・・・・?」
口の中で小さく小さく囁いた声には、当たり前だけれど誰も返事を返してくれなかった。





-----***-----





キィ・・・・・。
広すぎる軍主の部屋では眠れなくて、オミはこっそりと部屋を抜け出した。
ベッドの隣にナナミが居てくれても、やっぱりここは『自分』の居場所じゃないから・・・。
下に行こうにも見張りの兵士がずらりといて、出て行くことは出来ないだろう。
オミは、仕方なく屋上に足を向けて歩き出した。
運良く兵士は居ない。
階段と梯子を上って、外へ出る。
風が、もやもやとした頭に気持ちよかった。
見渡す夜空と景色は綺麗だけれど、泣きたくなるほど心細い。
自分の知らない世界。
見下ろした城下には沢山の人がいて、その全ての人を守るだなんて出来る訳が無いから。
もういっそ・・・・・・・・・・ここから逃げて、しまいたい。
今生きていることを全て、否定・・・・・・・・・してしまいたい。
「・・・・・どこ行くの?」
「っ・・・?!」
慌てて振り向いて姿を確認するまでは良かった。
屋根の上に上ろうとしていたオミは、その拍子にバランスを崩して足を滑らせる。
斜面になった屋根から、身体はふわりと宙に浮いた。
「ぁ!」
「・・・・死ぬ気?オミ、そんなに苦しいの?」
落ちかけた身体をとっさに支えてくれたのは、勿論セフィリオだった。
「な・・・んでここに・・・」
「君が部屋から出て行く所を見たから。・・・追ってみて正解だったね」
それとも、僕は邪魔?
セフィリオの笑顔にオミは違和感を持ちながらも、小さく首を振る。
知らない人のはずなのに、どうしてこんなに懐かしいのか分からない。
包んでくれる腕も、胸から香る匂いも、少し軽めの口調や声にも。
「・・・・名前・・・教えてくれないんですか?」
「・・・二度は教えない。そう言ったはずだと思うけど」
「そうですか・・・・。マクドールさん・・・?」
「・・・」
名前を聞いたら分かるかもと思った。
人が彼を呼んでいる名前を真似てみても、何かが違うから。
「オミは、僕のことをそう呼ばない。2人きりの時は・・・・」
「・・・ぁ」
斜めに唇を奪われて、オミは小さく悲鳴を上げる。
啄ばむだけの短いキスで・・・・オミはセフィリオの身体を突き飛ばした。
「・・・僕のことは嫌い、みたいだね。でも、あの騎士は好きなんだ?」
「?・・・・っ!」
違う。
嫌いじゃ、ない。でも・・・!
「嫌がられても、抵抗しても。君が幾ら僕を嫌いでも君は僕のものだから」
誰にも渡さないし、離さないよ。
証拠とばかりに、右手を強く捕まれる。
ギリ・・っと強く捕まれて顔を顰めるが、セフィリオは力を緩めようともしない。
「ほら、この紋章。この紋章の所為で君の命はもう短い・・・だから、君は僕に生かされてる」
本当の事実はそうではないけれど。
「君の命は僕のもの。君の身体も心も・・・・僕のものだ」
斜頚のキツイ屋根の上に押し付けられて、身体に乗り上げられる。
身に付けていた夜着はあっと言う間に引き千切られた。
「っや!いや・・ぁ!!」
「暴れるな!」
無理矢理押さえつけられて。
夜風にさらされた肌に、噛み付くように降りてくるキス。
拒絶を言うことも出来ずに、唇はセフィリオの手の平に押さえつけられている。
「んっむ・・・ぅ・・・ん、んー・・・っ!」
苦しさに首を振る。
それでも手の平は付いてきて、離れてはくれない。
愛撫と言えないような行為だけれど、抱かれる事に慣れている体はそれすらを刺激として受け取ってしまう。
幾ら感情が嫌だと言っても、身体は刺激には正直だった。
「ぅ・・・・――――ッ!」
直接握り込まれる強さにオミは思わず息を飲む。
静かな夜だからこそ、下肢から聞こえてくる濡れた音が酷く身体を昂ぶらせた。
「んんっ、ぅ・・!!」
少し溢れ出したオミのもので濡れただけの指が、閉じ切ったそこに無理矢理捻じ込まれる。
気が付いたら、口を押さえていた手は無くなっていた。
「ぅあ!あ、あぁ・・――ッ!!」
痛みに、涙が溢れる。
身体の痛みだけじゃない、もっと別の深い所が切り刻まれるように痛い。
それでも昂ぶってしまった身体は、内部で動く指の動きのままに反応を返してしまう。
「・・・痛い方が気持ちいいみたいだね?」
「ち、が・・・!」
「まだ指が一本しか入ってないけど、もう平気なのかな」
「・・っ!!!」
止めてとも、嫌だとも言えずに、オミは首だけを振る。
なけなしのオミの抵抗も、セフィリオには全く通用しなかった。
広げようとする行為を止め、セフィリオの指は出ていってしまう。
「っ・・ん」
「僕はね、オミが嫌いなんじゃないよ。寧ろその逆だ。・・・・だけど」
「う・・ぁ、ぁああっ!!!」
痛みが、身体を貫いて引き裂くような痛みが脳天を突き抜ける。
もういっそ気を失ってしまった方が楽だろう。
けれど、皮肉な事にその痛みが邪魔をして意識を飛ばしてしまう事を拒んだ。
「僕はねオミ・・・。『僕を知らない君』が許せないんだ。・・・・ごめんね?」
優しげな言葉を吐きながら、その行為は酷く荒くて激しかった。
抑えきれない何かを叩きつけるように、オミの身体にぶつけて来る。
「ぃ・・、はぁっ、ぁあっ・・!ぅ・・・!!」
「君に・・・返したいものがあるんだ。僕を拒否したままじゃ返せない・・・・」
何かを言われているが、よく聞こえなかった。
身体を重ねた下で、嫌な音と痛みと濡れた感じが広がっていく。
こんなに酷いことをされているのに。
無理強いで抱かれているのに。
「・・・・ぁ・・、ん・・・!」
どうして、身体は歓喜する?
胸が、こんなにも苦しい?
「・・っ、・・・オミ?」
ぼろぼろと涙を零しながら、オミは自分の腕でセフィリオに抱きついた。
そこに、拒否感はない。
「・・・・オミ」
ゆっくりと動きを止め、セフィリオは目を瞑ったままのオミの頬に触れた。
冷たい涙が、指を濡らして流れ落ちていく。
「・・・酷い事、したよね・・・。ごめん」
悪いのは、オミじゃないはずだ。
オミがこうなってしまったのは、理由を誰に求める事は出来ないけれどオミに非がある訳でもないのに。
「・・・・ごめん」
止まりそうにないオミの涙を唇と舌で拭う。
ゆっくりと、おずおずと・・・オミは伏せていた瞼を開いた。
現われたのは淡いが光の強い榛色の瞳。
涙に濡れた瞳は、セフィリオが最も好きなオミの瞳の輝き。
「・・・・ん」
右手を重ねて。
自然に、唇が重なった。




...BACK | NEXT...