A*H

オミ過去編

*The past story of OMI.〜02*





「ぅ・・・・」
夕刻から今の今まで抱かれ続けた体は、ひどく衰弱していた。
優しげだったのは風貌だけで、行為の内容は酷く偏ったもので。
そもそもこの仕事を始めてから、まともな性交を求めてきたのは、数えるほどしかいなかったのだけれど。
娼婦でも女ではまずい、地位的にスキャンダルになりかねない・・・・・・・。
そう言う他人に言えない性癖を持つ者ばかりがここへ来るのだから。
「・・ケ・・・ホ・・・・ッ」
時間に遅れた罰として、食事は味のない粥のみ。
部屋を追い出された今、藁を敷き詰めただけの馬小屋の隅で、臣は酷い吐き気に耐えていた。
と、背中に暖かい手が置かれる。
「・・・っ・・・・・・?」
「・・・平気?なんか、辛そうだけど・・・」
後ろに居たのは、怪我をして迷い込んできたあの少年だった。
水を飲ませた後、隠すようにここ、馬小屋の奥へ押し込んだのを忘れていた。
本気の心配顔に臣は面を食らって、暫く相手を見つめ返した。
「あ、ごめん。おれはテッド。君の名前は?」
「・・・・」
臣には、首を振る事しか出来ない。
声が、出ないから。
「・・・名前ないの?・・・じゃなくて、喋れないのか」
「・・・・・」
こくんと首を縦に振る。
臣も彼・・・テッドに聞きたい事は色々あったが、声が出ない以上こちらからの問いかけは不可能だ。
「文字は書ける?」
「・・・・・」
それにも、首を振る。
仕事の内容が内容なだけに、一般的な知識さえ与えてもらえないのだ。
臣は、物心ついた頃にはここにいた。
普通臣くらいの子供ならばまだわかりもしないような刺激で、無理やり身体を開発される毎日で。
客を取るようになってからは、毎晩をそうやって過ごしてきた。
何が気に入られたのかは知らないが、臣には・・・・毎晩・・・・・客がつくからだ。
「うーん、そもそもここは何処なんだろ?随分大きな屋敷だけど・・・そこの家の子・・・ではないか。使用人の子供か何かかな」
「・・・・・」
それも違うと、首を振る。
ここで働いているのは確かだが、使用人とかそう言うものではないから。
その時、揺れた柔らかな臣の髪の間から、赤くきらりと光る石がテッドの目に映った。
「・・・・!」
その光に、どうしてそれを思い出したのか、忘れる事の出来ない過去が突然フラッシュバックした。
「・・・?」
怪訝な顔で覗き込んでくる臣に、テッドは小さく苦笑して微笑むが、上手く笑えたかはわからなかった。
ふと見ただけで確かめた訳ではないが、それは紛れも無く宝石の一種だったように思える。
小さな赤い石だったけれども、少なくとも、臣が今身につけているもの全ての中で最も高価な物に見えた。
今時耳飾という物は珍しくも無いが、身体に傷を付ける以上、まだ普及しているとは言い切れない。
テッドも、『もう一度会える』と約束してくれたあの人の耳に輝く光に憧れて、両耳に一つずつ開けてはいたが、赤い石は見つからず、蒼い透き通るような石で耳を飾っている。
それも、もう顔さえ覚えていないあの人との思い出の、強烈な光の記憶。
耳に光る赤と、射貫かれるような強い輝きを秘めた鮮蒼の瞳。
そこまで考えを廻らせて、ますますこの場所についての疑問が増えたが、口に出して臣に尋ねる事はしなかった。
かわりに口から零れた言葉は、それ以外に気になっていたこと。けれど、口に出してから少し後悔した。
「・・・お粥、冷めるよ?」
何も食べていない筈なのに、臣は目の前の食事に手をつけようともしない。
それに、恐らくだが・・・・元々冷たいのだ。冷めるも何もないだろう。
臣は臣で、今は口にものを入れるのが躊躇われて、また小さく首を振った。
「いらないの?」
その言葉に、頷く。
「でも食べなきゃ。随分やせて見える・・・け、ど・・え?」
臣の腕を掴んで、テッドは驚いたように声を出した。
細すぎる。
「っ?」
「軽い・・・軽過ぎる。食べてないだけじゃない・・・、生きていく力さえもう殆ど残ってないじゃないか」
臣の両脇に手を入れて、身体を抱えて上げた。
力をいれずにも持ち上がるその細い身体。
「それに喋れない。知識さえも与えられてない。何なんだここは!」
さっき思った疑問の一つに、臣の格好がどうしてこんなにボロボロなのかと思ったのだ。
ただ、切れ目を入れた大きな布を頭から被っているだけのような格好をさせておきながら、あんなに高価な石の耳飾をつけさせるだろうか。
「・・・いや、そんな事はどうでもいいんだ。けど・・・」
先程よりもぐったりと腕に沈む臣の身体に、無理矢理咲かされた赤い花びらを見つけて、テッドは顔を顰める。
臣は、この苦しい生活の中で、たった一つの願いを胸に、その命を永らえてきた。
ここの子供は、よく死ぬ。
管理が行き届いていないだけではない。殆どの子供が『意図的』に少年から青年になる前には殺される。
それは食事が制限される故であったり、折檻で死ぬものさえも居る。
理由はただひとつ。売れなくなるからだ。
売れない人間など、タダ飯喰らいも同然だ。
だから、売れなくなったら、殺される。
それが、ここに売られて入った者の運命だから。
「・・・・・」
臣は、テッドを信じられないものでも見るように見つめた。
初めてだったのだ。
他人のために怒るなんて行動をとる人物など。
地面にそっと下ろされる。
けれど、下肢が言う事を聞いてくれずに、臣はそのまま地面にくずおれた。
「・・・こんなになっても、生きていたいんだね」
もう、意識を保つ事さえ難しい。
朦朧となりながらも、臣は頷いた。無意識にも力を抜けた腕を伸ばして、自分の耳を飾る石に触れる。
「君は、本当は喋れる。走れるし、笑えるんだ。今は、それを忘れてるだけ・・・だから」
そのまま意識を失い、ずるりと倒れた臣に、テッドは右手を翳して、囁いた。
「おれが力を貸すから、もう一度、歩いてごらん?」

暖かな光が、身体を満たした。







***








「臣、最近調子が良さそうだよな」
「売れ筋だからって良いもん食わしてもらってんだろ」
どちらも、目が見えない子供だ。
この館の中では、一番秘匿な相手を任される事が多い。
相手の顔が見えない子供なら、と言う大人も多いのがまた事実で。
けれど、そんな子供達を追い抜いて、喋れないだけという臣が現状の売れ行きなのだ。
話している彼らは、臣よりもいくつか上だった。
まだ少年の部類であるとはいえ、いつ切られてもおかしくない。
売れないのだ。
「なんで、あいつばっかり売れるんだ・・・!」
ここでは、売れなくなった者から見捨てられていくのだ。
だから、必死で客を取ろうとするが、臣はそうでもないらしい。
与えられた仕事をただこなしているだけだ。なのに客が毎晩付く。
与えられていた共同部屋のベッドも、眠れないようにズタズタにしてやった。
それでも、館の外の何処で寝ているかは知らないが、毎朝すっきりした様子で働いているから腹が立つ。
「ほらほら。くっちゃべってないでさっさと準備をし!」
「は、はい!!」
女将に怒鳴られて、少年達はクモの子を散らすように消えていった。
今日は大事なお客が来る日。
ずっと南の赤月帝国と言う国から、名前も顔も地位も隠して、ある人物が尋ねてくる事になっていた。
「・・・久し振りだね」
女の客だった。
何人かの男も連れてくるらしいが、どうしてまたこんな辺境にまでやってくるのかは分からない。
そう。別にここは男娼と言えども女の客も訪れる場所なのだ。
「さぁて。どんな変人がくるのやら・・・。誰が選ばれるかねぇ」
客が来るのは夕刻だ。
それまではこの準備で追われるのだろう。
女将は一度息を深く吐いて、そして大声で言った。
「サボってるっヤツは飯抜きだよ!キリキリ働きな!」











夕刻。
予定の時間を少し遅れて、馬車が館へと入ってきた。
騎士を引き連れて入ってきたそれは、普段は見ることの出来ないようなそれは豪華な馬車だ。
仕事をしていた者、偶然そこを通りかかった者。
皆が、唖然として見送っている。







「いらっしゃいまし。選りすぐりを集めてみたんですがね、どれにします?」
入り口を入ったところで、女将は少年たちを一列に並べて見せた。
皆少し年長気味の見目の良い少年。
今日の相手は目の前に居るきらびやかな女性なのだと、その皆が思っていた。
・・・・のだが。
「来る途中の街で噂を聞いたのですけど、肌色の珍しい子供がいるそうじゃない・・・?」
「存じますが・・・あの子は幼い上に抱く方に回ったことはまだ一度も・・・」
「構いません。連れていらっしゃい」
淑女は静かに部屋へと上がってしまっていた。
道案内をしているのは、喋れない子供だ。
そう言われた手前、連れて行かない訳には行かない。
「・・・仕方ないね。誰か、臣を連れておいで。急ぐんだよ!!」





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⊂謝⊃

 まぁ、色々と詰め込みすぎってことは判ってるんですけど・・・!!(笑)
 ややこしい話でスミマセン!でも、今回はセフィリオのことがちょろっと出てきてましたね!
 そして、お待たせピアスネタv(笑)
 セフィリオがつけてるピアスの謎が、そろそろ解けそうでスねぇ(笑)
 色々重い展開になりそうな勢いですが、(いや、重くなるんですけど/笑)
 広い広い心で読んでやって下さいませ!!
 ・・・・・・だってもうコレ坊主じゃないどころか幻水でもないよ・・・(苦笑)
 
 さてさて、どれだけの方が待って下さっているのか気になるところですが(笑)
 気を長く持ってお待ち下さいませv
 
斎藤千夏 2004/07/16up!

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