「聞いたか?」
「あぁ。またあいつだろ」
「いい加減シメねぇと調子に乗るぞあいつ」
「・・・・やるか」
*The past story of OMI.〜03*
「君の名前は?」
「・・・お、み?」
「おれの名前は?」
「て・・・っど・・・」
「そう!よく出来たな」
あれから、臣は時間が余ればこの馬小屋の端に来ていた。
水汲みの仕事は、傷の治ったテッドが手伝ってくれるから、今までと比べ物にならないほど早く終わる。
今では臣はその空いた時間で、テッドと他愛も無い話をしたり眠ったりしている。
話せるようになったことが嬉しくて。
自分が声を出せるなんて、知らなかったから。
けど、まだテッド以外には誰にも話していない。
話したら、臣はここを追い出されるのだろう。
だから、話せなかった。
いや・・・そもそも館にいる人間相手に話そうとも思わないが。
この仕事にいまだ嫌悪感を拭いきれない臣にとっては、やめられるものなら今すぐ辞めたい仕事だ。
けれど、ここを出て行く訳には行かなかった。
生きていく為に残りたいのではない。・・・ここにいなくてはならない理由は、ただ1つ。
「臣・・・行こう?」
「・・・・いけ・・ない。まってるから」
臣はテッドに、何度かここから出て行こうと言われていた。
その度に、こうやって断っている。
毎朝倒れる寸前でここへ戻ってくる臣に、テッドはここがどんな場所か理解していた。
まだまだ幼い少年に何を強いているか、分からないほど鈍くもない。
「・・・・両親、迎えに来てくれるって?」
「・・・・わ、からない・・・。でも、そうだと・・・・いいな」
臣は、待っているのだ。
ここに居るのは、売られた子供と親を無くした子供。
臣は、前者だ。両親が金と引き換えに売った子供だった。
けれど、いつかは迎えに来てくれると、そう思い続けている。
その望みが叶わないと、心のどこかでは納得しているのに・・・・。
「・・・・おれはね、君に似ている人を知ってるよ」
「・・・?」
「名前も、顔も、もう随分と昔だから思い出せないけれど。臣と同じ瞳の強さを持っていた」
おれより少し年上で、赤い服に黒い棍。
そして、光に蒼く透ける髪の間から輝く赤い石、・・・そして蒼い鮮やかな瞳。
『最初から出来ないと諦める前に、一度やってみてから考えてみたらどうだ?』
こんな物いらないと、全てが無くなった村で自分の右手を傷つけていたテッドに。
『君がもう少し強くなった時、僕らはもう一度逢えるから・・・』
血で彼の衣服が汚れるのも気にせず、傷付いたその手を暖かく包んでくれた、彼。
「村の人が全員死んで、生きる事を諦めていたおれに。もう一度歩くチャンスを与えてくれたんだ」
臣は、テッドが考えていたよりもずっと聡い子供だった。
本格的な教養を与えてやれば、真綿が水を吸うように吸収していくだろう。
最初は拙かった言葉も、今はある程度すらすらと話せるようになった。
人の話に耳を傾け、その意味も正確に理解している。
「・・・テッド・・?」
強い光を秘めた瞳に、テッドは静かに頷いた。
「・・・臣。少し、昔話をしようか」
―――――見えないかもしれないけれど、おれはこれでも300歳を超えている。
でも、見かけがこんなだから、いつまでたっても子供気分だけどね。
おれの村は、300年前に魔女に滅ぼされた。
村に封印してしてあると言う噂を聞きつけてやってきた魔女。
狙われていたのは、この紋章ソウルイーター・・・・・・――――――。
「そうる・・・?」
「魂を喰らう・・そう言う意味だってじいさんが言ってたよ」
「・・・『タマシイ』・・・?」
「誰もが持っている生命、生きている命の塊さ。言ってみればね」
―――――だから、『生と死を司る紋章』と言われている。
真の紋章であるこの紋章の力を欲した魔女は、村を襲ってそれを奪おうとした。
封印するように守っていたのはおれのじいさんで・・・死ぬ直前に紋章をおれに移した。
そして、自身を囮にして、おれの命を助けてくれたんだ。
『・・・テッド』
でもね、生かしてもらったおれは・・・命を救われたことに泣いていた。
おれ以外の全員が死んだんだ。
何で助かったのか。
何で生きてるのか。
分からなくて、ひとりが嫌だから自分も死にたくて、必死で叫んだ。
その時偶然村に来ていた旅の一行の中に、彼がいたんだ。
『諦めて、死にたいの?』
『ひとりでなんて、生きていけるわけないじゃないか!!だからぼくもみんなと一緒に死・・・』
そう叫んだおれの頬を、彼は問答無用で殴ってきたよ。
『・・・だからって、死ぬ?それこそ馬鹿だね』
『あんたなんかに何がわかるって・・・!!』
『僕は君じゃないし、君の気持ちなんか解らないよ。でも、あの人の気持ちは・・・わかるよ、凄く』
『・・・・じいちゃん・・の?』
『・・・君に生きて欲しかったから、それを託したんだし。君を守りたかったから、囮になって死んだんだ』
『・・・・』
『ねぇ、死ぬ以外にやってみようって気は少しもないの?君はそんなに弱い人だったかな』
とても厳しい言葉を言われて、反発したら殴られて。
でも、最後は笑ってくれた。
強い瞳で、約束してくれた―――――。
『僕らはもう一度逢えるから・・・』
「・・・あえたの?」
「あれから300年くらい経つけど、まだ。でも・・・」
「・・・でも?」
「会えるよ。もうすぐ・・・そんな気がするんだ」
見つめられて、きょとんと首を傾げた臣の髪の間から、赤く輝く宝石が煌めいた。
眩しくて、テッドは少し目を細める。
「・・・どうして、こんな話を君にしたんだろう・・・ね」
あぁそうだ。
いつもなら右手に絡みついた呪いのような紋章の話など、ひとことだとして誰にもしない。
どこから、追っ手に聞かれるかわからないから。
もし、その噂を聞きつけて追いかけてきた奴等に問い詰められたら、その時点で村は終る。
いや・・・・。
「臣・・・ごめん。もしかしたら・・・・」
また、多くの命を奪ってしまうかもしれない。
自分は"災厄"と"死"を招く。
・・・死神なのだから。
「・・・テッド?」
話を繰り返す度に、鮮明になっていく臣の声。
泣き笑いのような表情になってしまったテッドに、オミはゆっくりと近付く。
「・・・会えるよ、きっと」
「臣・・・」
左腕に擦り寄ってきた、幼子の体温が酷く暖かい。
テッドは無意識のうちに、いつもなら接触を避ける筈の右手でそっと臣の髪を撫でていた。
そのままするりと指を滑らせて、触れる・・・赤い耳飾り。
「!」
触れられたことに少し驚いているようだったけれど、それでも臣は抵抗しなかった。
見返してくるその瞳の強さは、普通の子供のものじゃない。
引き込まれてしまうような強さに、目が離せなくなる。
「会えるよ」
「・・・そうだね」
きっと臣の言う通りなのだろう。
雲や月よりも遠い存在だった彼の面影が、300年も経った今、こうして思い出されて行くのだから。
臣。
君に会えたことが、その兆しのような気がする。
遠い昔に出会えたように。
『テッド・・・!』
もう一度。
Next...
⊂謝⊃
コレ、オミの過去話っつーか、テッドの過去話の様に・・・・なってきてますね(苦笑)危ない危ない!ちゃんと軌道修正しないと(笑)
何やら二人いい雰囲気ですが・・・・テッド、男を見せるのか?!(待てコラ)
続きは微妙に考えてないので、どうしようか悩み中ですv(笑)
んでも考えてる部分では結構辛いエロシーン(ん?)があるので!!
・・やっと裏っぽくなってきましたね!!(気合)
とんでもなく緩い更新スピードデスが(汗)
気を長――――ぁく持ってお待ち下さいませv
斎藤千夏 2004/08/05up!