A*H

邂逅編

*英雄*

1

見上げた空は高い。
白亜の城の前に、彼は立っていた。
「やっと、見つけた」
不適に笑うその表情に、幾許の期待と高揚とが見て取れる。
「さって・・・、オミってどんなヤツかな?」
楽しそうに笑う彼を見て、彼を少しでも知る人は納得しないだろう。
こんな風に笑うヤツじゃなかった・・・・などと口々に言うに違いない。
その彼の目の前に威厳を持って建っている城、ジェイド城。
話に聞いていた以上に城は広く、ノースウィンドの岬から湖を隠すように建てられている。
月日が醸し出す古めかしい石には似合わず、城を包む空気は穏やかで暖かい。
城の門は開け放たれていて、門の近くを幼い子供が2・3人、楽しそうに遊んでいた。
「・・・・・・・・・・ここが、本拠地?」
信じられないと言うように呟いた彼の耳に、子供の声が届く。
「えーまたぼくがルカやるの〜?」
「オミさまはぼくのやく!だれにもわたさないからね!」
「わたしテレーズさま!テレーズさまがいい!」
「やめとけよー。おまえいっつもあばれるし、ナナミねえちゃんにそっくりだ」
「えーなによそれ〜!まぁいいわ。ナナミおねえちゃんも大好きだし」
このような子供の遊びは色んな町で見てきたが、この城でもこれが行われているとは。
少し迷ったあげく、彼は少年たちに声をかけた。
「戦争ゴッコかい?」
3人の中の女の子が彼の顔を見上げるなり、真っ赤な顔になって俯く。
「ここ、都市同盟軍のジェイド城だよね?」
ほけっ・・・と彼に見入っていた子供の一人が慌てて答える。
「う、うん、そうだよ!おにいさんたびのひと?」
どちらかと言えば旅人である彼は、拍を置いて答えた。
「うん、世界中を回ってるんだ。旅の途中で王国と戦争してる同盟軍がこの地に城を建てたって聞いたから・・・・」
にこっと微笑んでみせると、子供たちは顔を見合わせて、頬を染めた。
「勝手に入ってもいいの?」
「だいじょうぶだよ、わるいひとは入っちゃいけないけど、おにいさんはだいじょうぶ!」
彼は、苦笑する。
「なんでそう思うんだい?」
「だっておにいさんきれいなんだもの!こんなにキレイな人にわるいひとはいないって!」
3人ともに顔を見合わせて、うんうん頷いている。
「ありがとう・・・。じゃ、入らせてもらおうかな?でさ、軍主さまってどこに居るか知ってる?」
「ぐんしゅ・・??」
この呼び方はまだ難しかったのか、彼は慌てて言いなおす。
「オミさまだよ」
「あぁ!えっとね・・・・もうすぐここにくると思うよ?」
「へぇ、どうして?」
「だってぼくたちのことまいにちみまもってくださってるんだよ!もうすぐおやつのじかんだし、たぶん・・・」
その子供が言い終わらないうちに、彼は後ろに誰かの気配を感じた。
「・・・・なんだ、脅かさないでよ」
微笑んで、振り向いた。
彼の肩に手を伸ばしかけた人物は、青いバンダナをした青年だった。
「・・・・驚いたのはこっちだ!なにしてる、と、いうか・・・元気だったか?」
驚きに見開かれた目は、ゆっくりと懐かしさにか細められて、笑みの形を作った。
「うん、フリック。変わってないねー」
「なにぃ?お前こそ・・・・って、そうか・・・。紋章の・・・・・」
彼とフリックが最後に会ったのは、3年前赤月帝国(現トラン共和国)との最後の戦いの最中・・・。
しかも帝国兵が浴びせる矢嵐の中である。
「おもいっきり刺さってたくせに、よく生きてたね」
「・・・・・・それはオレに死ねっつーことか・・・?」
フリックは解放軍の勝利が決まったこの瞬間に彼を亡くす訳にはいかないと、彼を庇い、そして矢に討たれたのだ。
「・・・・・・・・・うーん、でもあんまり欲しがってないみたい。良かったねフリック、命拾いしたよ」
返事に時間がかかったのは、彼がじっと自分の右手を見ていたからで。
「・・・・・は・・・・?」
フリックはたまに、この少年の言動が理解できないことがある。
が、彼がよこした笑顔に、背筋が凍りつく感覚を感じるのは何故だろう。
「なんでもない。とにかく、無事で良かったよ」
「あ・・・あぁ。まぁ、なんだ。立ち話も辛いだろう?中で話そう」
彼は一度振り返って、自分を興味深げに見上げている小さな子供達に手を振った。
3人とも嬉しそうに手を振り返して、またどこかへと走っていく。
「さーみんな驚くぞ!聞いた話じゃお前、バルバロッサを倒したあの日に、解放軍出て行ったって・・・」
「まあね。でもそれを言うならフリックとビクトールも同罪だし」
フリックが常連になってる酒場に足を運びながら、2人は互いに口を開く。
やはり話題は、3年前のあの日のことだ。
「・・・・怪我してまともに歩けねぇなんて・・・カッコ悪ぃだろ」
「でもオデッサもういないじゃん?カッコ悪くてもいつものことだし?」
「あぁ、オデッサはもう居ない・・・・だからカッコ悪くてもいいかなんて言うわけねぇだろ!」
冗談で彼の頭をわしわしと乱暴に撫でるフリック。
彼はあははと笑いながら、こう付け加えた。
「へぇ?オデッサはカッコ悪いフリックの方が好きって言ってるのに・・・」
「えぇ?!い、いつどこで?!!!」
「今ここで。」
さも当然のように、手袋をしたままの右手の甲を差し出す。
「オデッ・・・・・サ?」
恐る恐る、話しかけるフリック。が。
「いるわけないじゃん、なに真剣に見てるのさ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだか、性格変わったなお前・・・」
「そう?」
「いや、変わってないぜ。まぁ多少性悪さが増してはいるけどな」
再び後から聞こえた声に、フリックは振り返る。
「ビクトール!会議終わったのか?」
「あぁ、明日のことはまた後で話すさ。で、侵入者ってお前かセフィリオ。随分と懐かしい顔じゃねぇか!」
そう言われた彼・・・セフィリオが聞き返す。
「侵入者?」
「門の中に通ったろ?城のモン以外が通ると、ソレがどんなヤツでどこに入ったか分かるようになってんだよ」
「・・・・・・・カマンドールみたいな人まだいるのか」
「この城にもあるぜ、“えれべーたー”」
あぁだから。とセフィリオは勝手に解釈する。
こんな戦争中などと言う危険な中で、どうして城の門を全開にしていられるか。
「ここには前の本拠地と違って一般市民も多く暮らしてる。イイ場所だろ?」
「ってゆーかただ自分の故郷自慢したいだけじゃないの?」
「・・・・・・・・相変わらず毒舌だなお前・・・」
「昔から・・・?」
「今更猫被るの面倒くさいし。まぁこの僕の性格に気付いたのはビクトールとマッシュ、あと・・・ルックだけかな」
セフィリオの言い分では、彼は一応帝国の大統領にでもなれた人物だ。
家の階級は、赤月帝国時代、父が国王に仕える帝国五将軍テオ・マクドールであった。
幼い頃からの教養、立ち振る舞い、そして将軍であった父に薦められ始めた棍術。
それらを全て吸収し、今の彼はこんなにもふてぶてしい人格になってしまった。
ひとえに、幼い頃から周りには大人しか居なかったのが最大の理由だろう。
そしてやっと親友と呼べる友人ができた頃には、セフィリオはグレまくっていた。
すでに手遅れ・・・・が、この親友テッドは、この性格のセフィリオを気に入って色々と教え込んだ。
テッドが言うなれば『この世の上手な歩き方』。・・・・・・・・・・謎である。
「まぁ上手い生き方を教えてくれたんだよね。伊達に300歳超えてなかったなーもー死んだけどー」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
この発言には、ビクトールもフリックも黙り込む。
「何?どうかした?2人とも」
全開の笑顔だ。
内心を悟られないための常套手段。笑顔。
なまじ顔は激的に良いため、ノックアウトされるヤツもかなりいた。
笑顔だけでオトした昔の仲間は90人以上にも上る。
「俺は今どうしてお前に付いて行きたいって思ったんだ・・・・?」
フリック激しく後悔中。
青いバンダナを巻いた頭を抱えて悶えている。
その様子を見て、一応ビクトールが助け舟を出す。
「まぁ・・・カリスマ性だけはあったからな」
「ふーん、あれ全部演技だったんだけどそっか騙されてくれたんだ?案外単純だね皆」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
即答で助け舟転覆。再び黙り込む2名。
「・・・・・・結局何しに来たんだお前・・・?」
うんざり顔で、ビクトールの一言。
「うん?そうだね・・・・僕の後継ぎを見に、かな?」
この時笑った不適な笑い方・・・・これが本来の彼の笑い方なのかもしれない・・・・・。

NEXT.....