A*H

トラン共和国編

*Trip weather*


1

「では、行ってらっしゃいませ」
にこやかに笑うシュウに見送られて、嫌な顔をしたオミが振りかえる。
「必ず成功させて来て下さいよ。オミ殿にかかってるんですから」
無責任なシュウの口調はどこか、面白がっているふうでもある。
その事に気付いていたかは不明だが、オミは叫ぶように吐き捨てた。
「・・・ッ!じゃあ何で?!」
「何を言うつもりなの、オミ?」
激昂しかかっているオミの顔を覗きこんで、にこにこと笑っているセフィリオ。
顔を覗き込まれたこの状況が嫌で、オミは思いっきり顔をそむける。
「『何であなたと一緒なのか』って聞きたいんですよ!」
「ダメだなァ・・・。人と、話す、時は、ちゃんと、相手の目を見て話さないと・・・・・ね?」
顎をくいっと持ち上げられて、セフィリオの顔とオミの距離はわずか2cm弱。
そのまま強く前に引かれる。
唇が触れ合う・・・寸前。
「ち・・・・近寄るなって言っただろーッ!!!」
思いっきりストレートな右腕が飛んだが、セフィリオはこれを軽くかわす。
けらけらと笑いながら、少し拗ねたように言った。
「いきなり何するんだ」
「こっちのセリフです!このキス魔!!」
顔を真っ赤にして、オミは叫ぶ。
「・・・・・いいの?皆に聞かれてるけど?」
「・・・///ッ!もう知りません!!あぁもー頭痛くなってきた!シーナさん、よろしくお願いしますね」
セフィリオとオミの言い合いを唖然と見ていたシーナは、急に話しかけられて頷く。
「・・・・ま、まかせて」
オミがシーナに笑いかけてる事が気に入らないのか、セフィリオは拗ねている。
「シーナには笑うんだねー、へー」
「・・・・お前って・・・そんなヤツだっけか・・?」
我慢できなくなったように、シーナはセフィリオに言う。
「ううん、違うと思う。3年前とは変わったからよろしくシーナ」
それに対してセフィリオは笑顔で、さらりと。
「だよな、明らかに変わったよな。なんかあったとか?」
「・・・・・気にするなシーナ、行くぞ」
このままでは先に進まない。
ビクトールがシーナの肩に手を置いて、歩き始める。
「ボーっとしてると置いてくよ?オミ」
「わかってる!ぼーっとなんかしてない!」
伸ばされたセフィリオの手を掴まずに、オミは先を歩くビクトール達に追いつくように走り出した。
くすりと笑って、後を追うセフィリオ。
「大丈夫なんですか・・・?シュウ兄さん」
「・・・・・・・おそらく・・・大丈夫だと・・・思う・・・・・・・・・・多分」
軍師2人は少々弱気に、小さくなる軍主達を見送っていた。





-----***-----





ジェイド城から南に歩くこと半日。
旅なれたメンバーだからこそのスピードでサウスウィンドゥ市に到着した。
メンバーはオミ、セフィリオ、シーナ、ビクトール。
そしてナナミ、フリック、フリード・Y。
後の3人は出発を分けての今ごろ、馬で城を立っているだろう。
急な出発だったので、オミ達は旅支度など最低限しかしていない。
馬も足りていなかったので、このサウスウィンドゥで旅支度を整えると共に落ち合うことにしたのだ。
で、結局何をしに何処へ向かっているのかと言うと・・・。
「今更猫被ったってしょうがないだろう?」
早速酒を酌み交わし始める、オミ以外の3人。
シーナなど、セフィリオの性格を知っていればナンパに行く時に誘えたのにと言い出す始末。
「気付かなかった君が悪いんじゃない?」
「あ、ヒドイなぁソレ。でもビクトールは気付いてたんだよねぇ?」
「・・・・・・・・あぁ」
返答にためらいがあったのは、今シーナと話しているセフィリオの顔も『作ってる』ものだと分かっているからで。
ビクトールが気付いている事をわかっているのか、にこにことセフィリオはビクトールを見る。
「バラしたら『裁き』だからね?」
・・・などと目だけで威嚇しているものだから、余計に始末が悪い。
「昔の話はイイさ。今は、次にしなきゃならん事を考えようぜ」
「そうだね。でも、心配いらないと思うよ」
ビクトールの案に、あっさりと返事を返すセフィリオ。
「何でだよ?」
「だってシーナがいるし。まぁこの放蕩息子を信用できなかったとしても、ビクトールも僕もいる事だし」
「・・・・うっわ酷い言われ様!」
食べていた夕食を危うく吹きかけて、シーナは慌てる。
「事実だろ」
「・・・あのなー」
「ま、レパントに断る理由なんてないんじゃないかな?」
カランとロックのグラスを傾けて、セフィリオが言う。
そう。今一行が向かっているのは、都市同盟の南、トラン共和国だ。
そこの大統領の息子、シーナの登場によって同盟軍の人手不足に頭を悩ませていたシュウに、
トラン共和国と同盟を結んできて欲しいと頼まれたのだ。
「昔馴染みってだけじゃなくて、僕らがオミを推薦するってことが重要なの。まぁ、何にせよオミの力が必要なんだけど」
「・・確かに、断れんな」
それもそうだろう。
シーナは大統領の息子。
ビクトールは、解放軍時代に肩を並べて戦った武将だ。
そして・・・・
「まず、お前がいるんだ。レパントもそうそう首を横には振れまい」
少年英雄と称されたセフィリオだ。
彼が最後の戦いの後、姿を眩ませていなかったら、彼自身が大統領になっていたのだろうから。
「オミ、それでいいか?俺達も謁見には付いていくつもりだが・・・」
「・・・オミ?どうかした?」
見ると、オミの前の料理には殆ど手が付けられていない。
そして。
「オミ、オミ・・・。顔、上げて?」
セフィリオらしくない、本気の心配声でささやく。
促されて・・・おずおずと顔を上げるオミ。
「な・・・・でもない・・」
「なんでもないわけがねぇだろ!調子が悪いんなら先に言え!」
青い顔をして、気持ちが悪そうに胸を押さえている。
震える右手を、左手で押さえこむかのように。
「喋らないと思ったら、何我慢してんだよ!とにかく、部屋で休ん・・・で?」
オミに手を伸ばそうとしたシーナだったが、その手はオミに届くことなく停止する。
「・・・な・・セフィ・・・ッ!」
「黙って。暴れると余計目立つよ?」
軽々とオミを抱えたのは、セフィリオ。
一瞬抗ったオミは、仕方ないというのか、もう足掻く体力さえ残っていないのか。
ぐったりとセフィリオの胸に身体を沈めて、荒い息を繰り返す。
もうセフィリオも何も言わず、二階の宿屋にオミを連れていった。
「・・・・あいつも、優しくなったもんだな」
その後姿を見て、しみじみと呟くビクトール。
「・・・・あいつ、セフィリオ」
「ん?」
「もしかして、本気で?」
「何が?」
「・・・・惚れてるね、セフィリオ。オミに、マジで」
面白そうに呟くシーナ。
「まぁオミは可愛いと思うよ?そこらの女の子より抱き心地いいしv」
「確かめたのか?」
「初めて会った時に、握手のついで?そういえば・・・あの時もさりげなーくセフィリオに邪魔されたし?」
少々考え込んで、ビクトールは呟き返す。
「・・・・・・・まぁ、白昼堂々とキスしてたしな」
「うわ、マジッ?!やるねぇ!」
「あっちは俺に気付いてなかったみたいだが」
これを聞いて、シーナはわくわくとビクトールに耳を寄せる。
「で?どうだったの?セフィリオ顔いいじゃん?オミの反応は?」
「あー・・・左頬に絆創膏貼ってたな」
「じゃ、思いっきりひっぱたかれたって・・・?」
「そう。痛そうだったぞー。あの時はそれより・・・・オミの泣き顔、久しぶりに見たなと感じたか」
「・・・泣かない子なんだ?」
「・・・あぁ、強い意地っ張りの頑固者だ。・・・少々、頑張り過ぎな気もするが」
「じゃ、丁度いんでない?」
「何が?」
「あいつ、いるし?」
「・・・・逆の意味で少々不安が残るがな。ま、気晴らしにはなるだろ・・・・」
セフィリオが宿屋との階段を降りてくる気配など微塵もない。
今頃何をしているのやら・・・。
ビクトールはシーナとジョッキを交わして、今日の寝床を本気で考え始めた。

NEXT.....