*Trip weather*
2
「オミ、オミ?・・・わかる?」
一応ベッドに寝かせて、楽な服に着せ替えてやった。
直接触れた肌は異様に熱くて、とてもじゃないが常人の体温ではない。
部屋に着いたまではまだ意識を保てていたのだが、着替えを用意している間に一気に悪化したようだ。
急いで冷水とタオルを用意してみたが、この症状が何であるのかを理解できない以上、してやれる事は少なかった。
「あー、グレミオにばっかり任せてないでたまには手伝えば良かった」
セフィリオ自身、寝込むような事態に陥った事はない。
陥らせた事は多数あるため、その尻拭いはいつもグレミオがやるのだが、この時ばかりはそれが悔やまれた。
ベッドの前でうろうろしていたセフィリオは、不意に服を引かれて振りかえる。
「・・っオミ?」
「・・・・ィ・・・」
何かを言いたそうに口を動かすが、唇と喉が乾燥しているため、声は口の中で消えた。
薄く目を開けてセフィリオの方を見てはいるが、焦点は合っていない。
「・・・・・」
ぱくぱくと口を動かすオミに、セフィリオはサイドテーブルに手を伸ばして水差しを取った。
ベッドの端に座って躊躇わずに水を含み、オミの唇を湿らせる。
「・・・・っ・・く・・・・・ん・・・」
喉を鳴らして水を飲むオミに、こんな時でもセフィリオの悪戯心は疼いた。
が、何とか止めておくことに成功する。
「まだ?もっと、欲しい?」
弱々しげに頷くオミをみて、水を与える行為を何度か繰り返す。
少し楽になったのか、オミは声を出し始めた。
「・・・・・・ィ・・・?」
「オミ?」
「・・・ね・・、だ・・から、・・・・ジョ・・・ィ・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ?」
一瞬ピシリと空気が凍る。
「・・・・ジョウ・・イ?」
聞いた事のある名前。
王国軍の一将軍。
あのグリンヒルを無血開場したと噂の。
知り合いだと言うのだろうか?
あれだけのキスを繰り返したその後で、お互い名前を呼び合うほどに。
「・・・ねぇ、オミ。僕が誰か、わかるかい?」
そう言いながら、そっとベッドに沈むオミの上に被さる。
「・・・ジョ・・・ィ?」
きょとんと当然のように答えられて、セフィリオは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ついにキレた。
今はまだ手を出すつもりはなかった。
けれど、潤んだ瞳に見上げられて、違う誰かの名前がオミの唇から零れ落ちて・・・・。
す・・・っと一瞬冷えた瞳は次の瞬間、濃い情欲に染まっていた。
「・・・うん。ねぇ、・・・・・オミ?」
そっと夜着の袷を開いて、肌蹴た首筋に唇を落として・・・。
「・・・・・・しよっか?」
「・・?ッ・・な・・・っ・や・・・ぁ・・ッ!」
力なく首を振って、オミの額に乗せたタオルがパタリと落ちる。
「ね・・・、オミ・・・」
「オミ―――――――――――――――!!!!!!」
「うわっ?!」
バタンと勢い良く扉が開かれて、飛び込んできたのはナナミ。
馬で城を出てこの時間なら、相当飛ばしてきたのだろう。
確かにナナミは汗だくで、しかも旅装備を解かないままオミの部屋へ駆け込んで来たようだった。
「あセフィリオさんこんにちは。じゃなくて!オミが倒れたって!!またですか?!!」
聞き捨てならない発言に、一気にセフィリオの目は覚めてナナミに向き直る。
「また?こんなことが、前にも?」
少し乱れてしまった自分の服をさりげなく整えて、オミのタオルを変えてやる。
「あの、ええっと・・。ルックが言うにはオミの紋章は不完全で、それで、オミは不定期に体調を崩すって・・・」
「不完全?」
ふとセフィリオは自分の右手を見る。
体調の悪いオミの魂を食らおうとでも言うのか、薄く輝いていた。
ソウルイーターは確実にオミの紋章を求めている。
これは明らかに、自分と同等かそれ以上の力を持つものだと思っていたが。
「元々1つだった紋章で、『始まりの紋章』って言うんですけど。もう片方はジョウイが持ってるから」
ナナミのふとした言葉に、思いっきり反応してしまうセフィリオ。
「ジョウイ!?」
「知ってるんですか?あたしとオミの幼馴染みなんですけど・・・・今は」
『ジョウイ』がオミの幼馴染みだと知って、内心はひたすら荒れ狂っていたが。
そんな気配を完璧に隠し通した、少し傷ついたような表情でささやく。
「王国の一将軍。確か第4軍ソロン・ジーが破れて・・・その後釜だって聞いたけど」
「・・・そう、です。なんでか敵同士になっちゃったけど」
「・・・・・そう。残念だったね。それより、今オミはどうやったら・・・・?」
セフィリオ自身は全然残念ではないが、ナナミ相手には猫を被ることにしたので演じているだけだ。
「えっと、いつもルックが治してくれてたから・・・」
「どうやって?」
「なにか・・・『紋章はオミから生命力を奪ってるから人が外から気を補充してあげる』・・・とか、よくわかんないですけど」
「・・・『気』をね。なるほど」
ちょっと思案して、頷くセフィリオ。
少々目が光ったのは錯覚でもなんでもないだろう。
「わかるんですか?」
「んー、どっちで試そうか思案中」
「???」
幸いか、ナナミにはセフィリオの言う事が理解できずにいた。
見かねて、くすりと笑ったセフィリオが説明する。
「『気』っていうのは目に見えないよね?まぁ見える人もいるだろうけど」
というセフィリオ自身も見える人の部類だが。
「そんな物を人にあげるんだけど、普通にハイとはあげられないでしょ?」
「うーんと、はい・・・・そうですよね。って方法ってたくさんあるんですか?」
「一番は房術かな」
さらりと、とんでもない方法を口にする。
「・・・・ぼうじゅつ?」
が、ナナミには通用しない。
にっこり笑って、セフィリオはもう一度さらりと。
「それか口移し」
「・・・・っ!?え?!!」
今度はナナミも理解できる。
真っ赤になってオミとセフィリオを見比べ始めた。
この様子ではあの白昼堂々のキス事件は知らないようだ。
ナナミの反応を面白がって、セフィリオは言葉を続けた。
「身体を触れ合わせた方が『気』の伝達は早いから。無駄のない、いい方法なんだよ?」
「え、と、あの///ほ・・・他には?」
「紋章を持つ者同士で、紋章を媒介にして『気』を送る。でも、余計な『気』も使うから大変だし」
とか言いながら、ベッドに座り荒い息を繰り返すオミを抱き上げて、自分の膝に座らせる。
「ってコトで。ここは手っ取り早く房術で・・・」
「わっ?!///あの、セフィリオさん!!」
「いやソレは止めとけ。ナナミ、オミは何とかするから下で飯食って来いや」
またしても邪魔が。
しかも今度はビクトールだ。
「あ・・・うん。あたしがいても何も出来ないし・・・。わかった、お願いします」
ナナミはぺこりと頭を下げて、部屋を出ていった。