A*H

9/18オフ会にて頂いたお持ち帰りリクエスト--->>wato*m様v
坊×2主痴漢ネタ!セフィリオ×オミでお送りいたします。(笑)

*Wish 1*










「・・・いい天気だなー・・・」
すっかり秋の心地良い風に髪を揺らしながら、セフィリオは執務室の窓辺で寛いでいた。
読みかけの本は膝の上。たまに意味の無い言葉を呟きながらも、視線はずっとオミの背中に向けられている。
「・・・ねぇオミ。一体何時間同じ体勢で頑張る気?」
「・・・・・・」
たまに話しかけてもこの調子で、一向に書類以外を相手にする気はないらしい。
こんな風に完全無視されていても、やっぱり傍に居たいのでどうにもここから動けないセフィリオは、近くに居ればついつい声を掛けてしまっては何度かオミの手を止めていた。
初めのうちは反応を返してくれていたのに、いい加減仕事が進まないと気付いたのか、全く相手にしてくれなくなった。
「・・・オミ、そんなに仕事好きなの?」
いい加減、反応も無いのが寂しいので、読みかけの本は椅子の上に置き、振り返ってもくれない恋人の机に寄りかかった。
一瞬困ったような顔をしてみせたオミだけれど、大した文句も言わずに小さく首を振る。
「・・・そういうわけじゃないですよ。ただ、これは僕のやるべき仕事だから」
全く、良い子な回答に、セフィリオは溜息を零した。
セフィリオの戦争時代、戦況は今のオミより切迫していたような気がするのに、オミのように机にへばりついてまで仕事をした記憶は無かった。
机での仕事が無かったわけではないけれど、それ以上に近くの町や村を走り回っていた記憶の方が多い。
「はいはい、オミは俺より仕事が大事なんだよね。折角傍に居るのにこっち見てくれないし返事すらしてくれないし」
「・・・セフィリオ」
「そんなに根詰めたら倒れるって言っても聞かないし、気晴らしに誘っても素っ気無いし。ねぇオミは恋人のこと、どう思ってるの?」
椅子に座ったまま困ったような顔で聞いていたオミの顔が、少しずつ強張って最後には硬直した。
そしてそのまま俯いた耳が赤く染まっていくその反応は見てて楽しかったけど、立ち上がったオミに思いっきり腕を引かれて、扉の前へ。
「なに?どこか行く気になった?」
「いいえ。ただ、邪魔をしないって約束を守って貰えなかったんで、出てって貰おうと思いまして・・・!」
きっぱりと言い切ったオミは、扉の外へセフィリオを追い出すと、壊れるような勢いで扉を閉めた。
ついでに、鍵まできっちりと回して。
「・・・そんなに怒ることじゃないだろ・・・」
幾ら、オミとセフィリオの他に、アップルやクラウスやシュウが居たとしても。たまに書類を届けに来る兵士が驚いた顔をして見せても。
「相変わらず、人目を気にするんだからなぁ・・・。もう、隠したって無駄なのに」
そう文句を言いつつも、こんな扉の前でじっと立っている訳にもいかない。
読みかけの本も生憎オミの後ろの椅子に置いたままだ。することも無いので、仕方なくセフィリオは時間を潰せる場所まで移動することにした。


***


「どうしてオミだけがあんなに仕事しなきゃいけないような状況になる訳?」
真昼間からエールとはいえ酒を煽る大人たちを見つけて、セフィリオは開口一番にそれを告げた。
騒がしいのは夜だけかと、そんな訳がない酒場はいつでも大繁盛。それはつまり、それだけ時間を持て余している人間がいるということ。
「大体、執務なんて元々軍主がする仕事じゃないと思うんだよね。幾らこの軍のリーダーだからって、オミが嫌がらないからって色々と押し付け過ぎなんだよここの大人達は。そもそも、手ならここに一杯空いてる連中が居るのに、わざわざ忙しいオミにさせてるのが気に食わないんだよね」
椅子に座れば止まらないとばかりに、まさにその通り時間潰しに酒を飲んでいた腐れ縁が驚いた顔をしてみせる。
嫌みったらしく小言を言うセフィリオはいつものことだが、ここまで文句タラタラなのは付き合いの長い二人でもあんまり拝んだ経験の無い姿だった。
「何だお前いきなり。オミに構って貰えなくて拗ねてんのか?」
「・・・っ、煩いな。ビクトールこそ、暇ならオミ手伝って来てよ」
「お前が手伝ってやりゃ良いじゃねえか」
「僕は生憎この軍とは無関係なの。でも、そんな僕から見てもオミの仕事量は明らかに多過ぎると思うから文句言ってるんだけど」
「・・・お前も構ってもらえないからって相当自己中だぞ・・・」
本心を言い当てられて多少動揺したものの、セフィリオの不満は解消しない。
鬱憤晴らしだとばかりに文句垂れる姿に、ビクトールは少し考え込んだ。
構ってもらえなくて拗ねてるセフィリオはどうでも良いが、確かに最近オミの姿を見ていない気がする。
食事や廊下で顔を合わせたりすることがないとまでは言わないが、さっきからぶー垂れっぱなしのセフィリオよりも更に年下の子供なのは変わらない事実なのだ。
「んー・・・流石に無理し過ぎかもな。・・・よし」
にやりと笑みを浮かべたビクトールは、全は急げとばかりに飲みかけのエールを一気飲みする。
相変わらず顔色一つ変えないままに、セフィリオに向かって笑いかけてきた。
「俺に一つ良い考えがある。今夜、城門前までオミ連れて来い」
「・・・は?それと仕事とどういう関係が・・・」
「あいつは俺達の為に色々犠牲にして頑張ってくれてんだ。だから『止めろ』とか『もういい』とかは言えない。・・・が、気晴らしなら手伝ってやれるからな」
そういわれてしまえば、セフィリオももう文句は告げられない。
確かに強制されてやっているわけでもないし、オミは自主的に仕事をかき集めているようにも思える。
それは、確かに先程言われた言葉で。
「・・・『これは僕のやるべき仕事』か。確かに、そうなんだけどね」
本人でさえこの調子なのだから、駄々を捏ねていたのは、後にも先にも構って貰えなくて拗ねていたセフィリオ一人なのだから。
「それで、何をするつもりなんだお前?」
突然楽しそうに立ち上がったビクトールを見上げながら、フリックは一応聞くだけ聞いておくと言うように問いかけた。
「ま、それは夜まで秘密だ。・・・いいか、絶対に連れて来いよ?」
「はいはい、引きずってでも連れて行くって」
まずは、確実に捕まえられるようにオミの部屋で待っていようと、走り去って行ったビクトールに続いて酒場を後にした。
「・・・結局はビクトールも暇だったんだな」
飲みかけをちびちびとやりながら、フリックは巻き込まれること確実の夜が不安で溜まらなかった。


***



「ねえオミ。いい頃合な時間だしそろそろ夕食でも摂りにいかない?」
部屋に戻って来てからも書類の残りだと言って机にしがみ付いてしまったオミを、頃合を見計らってセフィリオが部屋から誘い出した。
本当に、今日は一日机にしがみついたままだったオミは、その誘いには疑うこともなく頷いてついてきてくれた。
どこに連れて行かれるのかセフィリオもまだ知らなかったけれども、気晴らしだというからには城から出て行くのだろう。
「あれ?ちょっとセフィリオ、何で外に出るんですか?」
「あーうん・・・まあね」
食堂へ向かう道とは明らかに違う、外へと向かうセフィリオの足取りに首をかしげながらも、オミは大人しくついてくる。
警戒心が強いと思えば、こんな風に素直について来くるオミの純粋さには多少苦笑が漏れるが、それだけオミはセフィリオに対して心を許しているということかもしれない。
「・・・ねぇ、このまま何処かへ行こうか」
「え?い、今からですか?こんな時間どこへ・・・」
律儀にビクトールに付き合ってやる義理も無い。細い肩を抱くように歩幅を緩めたその時に、後ろからオミを呼ぶ声が響いた。
「あー!ホントだオミー!こっちよー!」
元気良く手を振っているのはナナミだ。視線をそちらに向けて見れば、その隣にはアイリとリィナの姉妹に、ルックの姿までもが見える。
「み、みんなどうしたの?それに・・・これ・・・?」
駆け寄ったオミが見上げたのは、どこから引っ張ってきたのか大きな馬車だ。御者台に座るのはビクトールと、疲れた顔のフリック。
「おう、ちょっくら拝借してきたんだが、案外乗り心地はいいぞ!」
「言っとくが、きっちり断って借りてきたものだからな。変な誤解はするなよ」
恐らく、交渉その他をやったのはフリックなのだろう。それにしても、とオミは少し困った様子で、どうしたらいいのか迷っているようだった。
「ほら、そろそろ行かねえと間に合わねぇぞ。さっさと乗った乗った!」
ビクトールの一声に、ナナミ達が慌ててオミを馬車へと追い込む。
「ちょ、ちょっと!セフィリオ、何か知ってたなら教えてくれたって!」
ガラガラと音を立てて走り出した馬車の中で、オミが文句を言うのはいつでもセフィリオだけ。
気晴らしで、女の子達に混ざってルックもいるということは、まぁ遊びに行くということで。
それにこの方角に季節・・・を合わせれば、まぁなんとなくセフィリオにもビクトールの考えが読めてきた。
「そうは言ってもな。僕だって知らなかったんだからしょうがない」
まさか馬車まで用意するとは思わなかったけれども、オミを連れ出してくれようとする気持ちはなんとなくセフィリオにも嬉しかった。
・・・文句があるとすれば、二人きりだと尚良かったのだけれども。
「今日はね、サウスウィンドゥでお祭りがあるの!ビクトールさんったら急に思い出したとかで、みんなを誘ってくれたんだ」
「お祭り?今から?でも、僕・・・これじゃ」
祭りと聞いて、一瞬嬉しそうな顔をして見せたオミだけれど、自分の格好を見て少しため息を零した。
「・・・うーんその格好じゃ、流石にちょっと目立つだろうねぇ」
「お化粧道具なら持っていますけど。・・・あんまり効果はなさそうよね」
「・・・あの、僕男なんですけど・・・リィナさん・・・」
ナナミやアイリたちは普段通りでも大して支障は無いが、オミは着の身着のままで出てきているものだから、いつも通りは余計に目立つ要素になってしまう。
特に向かう先は城から程近いサウスウィンドゥということもあって、オミの服装も顔も知れ渡り過ぎているのだ。
「おう、そこは任せとけ!着替えとまではいかないが、隠すものくらい持って来てやったぞ」
外から中の会話を聞いていたのか、ビクトールが広い布を投げて寄こしてくれた。
広げて見れば、それは旅装用のマント。そして、なぜか二枚ある。
「・・・片方はお前使えよ。分かってると思うけどな」
「・・・はいはい、しょうがないな」
忠告のように告げてくるフリックに、セフィリオは仕方なくマントを羽織った。
正体がバレたら困る以前に、人通りの多い場所を歩く時はなるべく顔を隠さないと前に進めない。
特にこんなある意味無礼講な祭りの場となると、一線を引くということを誰もが忘れてしまうからか、セフィリオはあっという間に囲まれる。
「・・・でも、それならルックも大変なんじゃない?お祭りとかで・・・あの、その、人に埋まったりとかしなかった?」
先ほどから静かなルックの隣に移動して、オミはそんな声を掛ける。けれども、怪訝な顔で一瞬睨まれたきり、答えはなかった。
まぁこれもいつものことなので、大して気にしてはいないが。
「なぁに?何か言いたそうな顔してるわ」
あんまり表情の変わらないルックに対して、リィナはころころと鈴を鳴らすように笑って見せた。
リィナには、先程のルックの表情の意味が分かったというのか、オミを見比べて小さく頷く。
「・・・そうよね、オミ様はかわいくて綺麗だから。・・・心配なのも分かるけれど、言葉にしてあげないと伝わらないわよ?」
「・・・・・・何が言いたい訳?」
一瞬ピンと張り詰めてしまった空気に、オミは慌てて場所を移動する。
馬車内の空気を変えたのは言葉を発したルックではなくて、ただ笑顔で黙って座っているセフィリオだから。
リィナもそれに気付いているのか、今度はルックの耳元で囁くように言葉を告げた。
「『相手の心配より、まず自分の心配をしたらどうだ』・・・そんな言葉を言いたそうな顔をしていたから。気になったの」
確かに、オミを軍主と知らずとも、横にあんなのがくっついていようといまいと、オミはセフィリオほどではないが目立つのは確かだ。
存在が派手なセフィリオやルックとは違い、オミの場合は、ふと一度視線を合わせてしまったら、ついつい目が追ってしまうような・・・不思議な魅力だからかもしれない。
「・・・さぁ、何のことだか」
素っ気無くそれだけを返してルックの視線は流れる外の風景に移る。冷たく返された返答だけれども、ルックの視線も微かにオミを追っていて、これがどういう意味なのか分からないほど人との係りが少ない生活をしてきた訳ではない。
「アイリ、あなた・・・ライバルが多いわよ?」
「ね、姉さん!・・・あ、あたしはそんな」
「ねー、さっきから何の話してるのー?オミがどうって、わたしにも分かるように話してよー」
蚊帳の外だったナナミは、少し膨れた顔をしてアイリとリィナに文句を言っている。そんな様子を眺めながら、オミは腰に伸びてきたセフィリオの手をどうにか剥がそうと無言の抵抗をしていた。
「・・・っちょっと!こんな所で何する気ですか・・・!?」
「あれ、オミ馬車苦手じゃなかった?せめて振動を弱めてあげようと思っただけなんだけどね・・・?」
小声で叫ぶオミにセフィリオも小声で返してくれたが、くすくすと笑うような声だけはやっぱりからかわれているようで少し気に入らない。
「・・・う゛・・・」
前ほど辛くはないので忘れていたが、確かにオミは乗り慣れてない所為か揺れる馬車の荷台があまり得意ではなかった。
振動を弱めるため・・・といいつつも、あの時はずっと膝に抱かれていた事実を思い出して、オミは慌ててセフィリオから離れる。
「だ、大丈夫だから!今は・・・ッ?!」
「ば、オミ・・・!?」
逃げるようにオミが立ち上がったその瞬間、馬車はいきなり歩みを止めた。
止まった所為で大きく揺れたお陰で、不安定だったオミの身体は思いっきり斜めに傾いてしまう。
「よーしついたぞまだ始まったばっかだな・・・・・・って、何やってんだお前ら」
扉を開いて顔を覗かせたビクトールは、何がどうなってこうなったのか、床で抱き合う二人を見つけて呆れ声が零れてしまった。
それも、オミの下にはルックが下敷き、それを支えようとナナミやアイリが手を差し伸べ、オミはといえば咄嗟に掴んだのがそれなのか、腰を支えているセフィリオにしっかりと抱き付くように、首に腕を回している。
「い、やあのこれは・・・!!」
「ま、ちょっとした事故かな。気にしない気にしない」
オミは相当気まずい様子だったけれど、馬車から降りた瞬間に、その表情は明るいものへと切り替わっていった。
「す、凄い・・・これ、なんのお祭りなんですか?」
秋に入る手前・・・これだけの人が集まりながら、それ以上に並べられている食べ物の山。
「収穫祭、だよね。この時期にやってるのは知ってたけど、来るのは初めてだな」
ずり落ちていたオミのマントを頭から被せて、セフィリオも辺りを見回しつつそう答えた。
「ま、そういうことだ。・・・もう少し夜が深まればもっと凄ぇのが見れるぞ。・・・なぁオミ」
「はい?」
楽しそうな顔の軍主に、ビクトールはにやりと笑いかけて、一言。
「子供なのは今のうちだけだぜ?城にはオトナは腐るほどいる。・・・存分に利用しろよ?」
「・・・あ」
何もかも一人で抱え込まないで。
「まぁ、役に立つかどうかは分からないがな。たまには甘えられるのも、嬉しいものなんだぞ結構」
「ん?甘えて欲しいのかフリック先生?」
「・・・あのな、どうしてお前はそうやって揚げ足ばっかり取ろうとするんだ?」
笑い合う二人は、何かのコネでも使って今夜の宿を確保してくれると言って、人だかりの中に消えていった。
「・・・ふーん、ビクトールもたまにはマシなこと言うね」
「セフィリオ・・・、まさか、今日は」
確かに、連れてきてもらったのは『みんな』だけれど。本当は。
「・・・僕のため・・・なんですか?」
「まぁ、・・・たまには息抜きしたって誰も怒らないんじゃない?」
「・・・っ!」
ナナミがルックの腕を引いて先導する後に続いて、姉妹が楽しそうに会話しつつ、オミ達を振り返る。
「ほら、オミ。いくよ!」
気がつかないだけで、差し伸べてくれる手は、こんなにも沢山あったのだ。
「・・・うん」
オミは、向けられた手を握り返すように、セフィリオと並んで後を追いかけた。



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