A*H

*With a smile*

2




「来た!同盟軍だ!助けにきてくれたんだ!」
同盟軍の城から少し離れたところにある村が、王国兵に襲われた。
ミューズやグリンヒルから逃げ出した人々が作り出した新しい村で、未だ名前もない。
たまたま近くに停留していたリアたちは、各地に置いていた斥候から連絡を受け、いそいで駆けつけたのだ。
「我は都市同盟軍の軍主、リア!王国兵よ、我が来ても罪もない村人たちを殺すと言うのなら、相手をしようぞ!!」
騎乗したまま、村の中を走り回って王国兵を倒していく。
突然の軍の投入に、王国兵は逃げる機を見出せず、あっさりと同盟軍の勝利に収まった。
シュウに後始末をつけていくから先に城に戻れと言われたが、リアはしばらく村の中をひとり、歩いていた。
「・・・・なんて、ひどい・・・・」
生き残った村人はわずか十数人。
立てられたばかりの家々にも火が放たれたのか、黒い煙と人の焼ける嫌な匂いが立ち込めている。
「無抵抗の人間を・・・殺すことが、王国兵の・・・強さなのか・・・?」
リアは流れそうになる涙をこらえて、拳を強く握った。
許さない・・・と強く思う。
一瞬、優しかった親友の顔がよぎったが、頭を振ってその幻像を振り払った。
えーん・・・えーん・・・・
「・・・え・・?」
遠くで、声が聞こえる。
同盟軍の兵士達は、生き残った人々の手当てや救出にてんやわんやで、軍主がこのようなところに居ることにも気付いていない。
声のする方に足を進めて、リアは、愕然とした。
「また・・・・ピリカみたいな・・子供が・・・」
両親の遺骸に泣きついている、小さな子供。
7歳位の、男の子だろうか。
近づいてくるリアの足音に、驚いて顔を上げる。
「・・・大丈夫・・?ごめんね、お父さんとお母さん・・・助けて上げられなくて・・・」
リア自身、親の記憶はない。
が、家族の暖かさは、痛いほど良く知っていた。
それを失う、悲しみも・・・・。
「・・・・ぁ・・・・・」
だから忘れていた。
「・・・な・・んで・・・?」
ここが戦場だと言うことを。
差し出したリアの手に、小さな刀傷が残る。
「おまえが・・・ッ!かあさん、ととおさん、ころしたんだ!しんだんだ!おまえのせいだ!!」
言われた言葉に、リアは動けなかった。
「なんで、もっとはやく!こなかったんだ!なんで!たすけて・・・くれなかったんだ・・・!!」
少年の手に光る、小さな短刀。
護身用に、父親が持っていた物を振り回して、リアの間合いに入り込んだ。
銀色の線が、煌く。
はっと気付いて身をよじったが、心臓をめがけていた短刀に心臓から肩口に掛けて大きく斬られた。
「リアさま!!」
騒ぎを聞きつけて、兵士が駆け寄ってくる。
リアは慌てて少年の手から短刀を手刀で落とし、軽い当身で眠らせた。
「大丈夫ですか・・?」
「え、はい。僕は・・・それより、この子を・・・」
リアの胸から流れる血で、少年の服は赤く染まっていた。
リアの赤い服についたリア自身の血には、誰も気付かないまま、兵士達は少年を抱きかかえて行ってしまった。
「・・・・お人好し」
「・・・・ルック・・・」
上から降ってきた声に、リアは顔を上げる。
そこにはいつでも冷めた表情の、ルックが立っていた。
「手ひどくやられたね。だから甘いっていわれるんだよ君は」
「わかってる・・・でも・・・」
立ちあがろうとして、動かない足にリアはあせる。
ここで他の皆に自分が負傷したと、知られるわけにはいかないから。
「・・・強がるのもいいかげんにしなよ」
彼は、ローブが汚れるのも気にせず、綺麗な布でリアの傷を包んだ。
ルックの真の風の紋章で、痛みは少し静まる。
真の紋章は、多用するととんでもない自体を引き起こす。
真の風の紋章でリアの怪我を治すこともできたが、リアの持つ紋章は回復系だ。
それに、完全な紋章ではないため、すぐ不安定になり所持者の生命力を奪う。
それを理解してか、ルックは軽い止血と痛みを紛らわす程度にしか力を使わなかった。
「・・・・ひどい顔。今は、休めば?」
君が行きたいところへ・・・・。
ルックはルックで、心配してくれたんだろう。
優しい風がリアを包んで、いきなり回りの世界が一変した。
「・・・・グレッグ・・・ミンスター・・・・?」
重い足取りは急に軽くなって、1軒の屋敷をめざした。
「・・・マクドール・・・さん」
まだ数回しか会ったことはないけれど。
『僕は・・元気なリアが、好きだな』
そう言ってくれた彼に。
笑顔で、会うために。
リアは、歩き出した。


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