*涙*
1
さらりと髪を撫でる自分の手に、ちょっとした違和感を感じた。
リアの色素の薄い髪は柔らかく、つい触れてみたくなる。
「?どうかしました?」
「・・少し・・・伸びた?」
リアは自分の髪を引っ張って見て、しげしげと眺め始めた。
そんな事をしても伸びたかどうかは分からないのに。
その様がとても愛しく感じて、僕はもう一度リアの頭を撫でる。
すると、嬉しそうに、笑う、リア。
「あ、ほら!もうすぐ城ですよ!急ぎましょうマク・・じゃなかった、ユエさん!」
振り返り様に伸ばされた手を軽く握り返す。
とても小さな手だ。自分とは違う、暖かでやわらかな・・・。
そして同時に、酷く辛い。
この小さな手ひとつに、この広い大地の未来が託されてしまった現状など。
だけれど・・・・
「やっと帰って来れましたね。今日もう泊まって行くのでしょう?」
家に帰ってもどうせ誰もいない。
期待を込めたリアの瞳に、僕はつい頷いてしまう。
「良かったぁ〜!じゃあお部屋と晩御飯、用意しますね!」
適当に見物していて下さいと笑顔でそう言って、リアは走り去った。
城内に入るまでに何人もの人々に呼び止められて、それら全てに笑顔で返すリア。
戦争中と言うのに、この城の温かさは何処からくるのだろう。
少なくとも、自分の時の城はもっと冷たくピリピリしていた。
そうして、納得する。
この城は、リア自身なのだ。
彼が笑っているから、誰もが笑顔で暮らしていける。
リアが笑うから、ここはこんなにも温かいのだと。
リアの泣き言を聞いた事もあったが、彼は大丈夫だと思う。
おそらく・・・・・・・・・・・・・―――――――――僕のようにはなりはしないと。
リアはいつも僕の傍にいた。
戦争が始まってからは、姉のナナミより僕の方がリアとよく一緒にいる気がする。
ただちょっとした話を交わすだけだとか。
口を開かずとも同じ空間でのんびりしているだけだとか。
そんな他愛のない時間でも、リアはいつも微笑んでいたし、僕もリラックスしている。
リアとの時間は緩やかで、手放してしまうには惜しい暖かさだった。
そんなリアが、1つだけ、僕を立ち入らせなかったこと。
リアは絶対に僕を戦争へ連れて出る事はなかった。
手伝って欲しいと言いにくる時は、小人数で行動しなければならない時だけだ。
僕が人を避けている事に気が付いていたのか。
一緒に行動するメンバーはいつも似たり寄ったりで、解放軍の時の者達ばかりを連れてくる。
気付いていなかったとしても、リアは僕を戦場に出す事だけは躊躇いつづけた。
1度だけ。
たった1度だけ、泣き顔を見たことがある。
小さな村で、子供に傷を負わされて。
そんな時でも僕を尋ねてきた時は、リアは笑顔で玄関先に立っていた。
痛みを感じていただろうに、平然と歩いていた。
ふと流れた風に血の匂いを嗅ぎ取って、僕が無理にでも手当てをしなければずっとあのままでいたに違いない。
リアは強い。
武芸に秀でていると言うわけではなくて。
痛みを笑顔に変えられる、強い子だ。
僕には出来なかった。
出来ると言う自信もない。
ただ自分のことに精一杯で、周りを見渡す余裕など、何処にも存在しなかった。
それまでに、リアは強い。
目に見えない、儚い強さであるとしても。
優しさ故にある、強さであるとしても。
いつ崩れてもおかしくない状態。
そんな分かりきったことに気付いたのは、それから数日経った日の事だった。