A*H

R→←27←C 学パラ!(SSSを地味に上げて行きます。短いの書く練習?)

*甘い、あまい・・・*



1. 逸らせない視線

鳴り響いた授業終了のチャイムに、飛んでいた意識を呼び戻した。
当たり前だけど、授業内容なんてひとつも頭に入っていない。
手元のノートは真っ白。黒板はもう日直が消し始めていて、今から写し始めたって間に合わないだろうし。
諦めて、一度も読まれなかった教科書と一緒に閉じる。
俺の視線はいつだって、少し離れた斜め前の席に釘付けだ。
授業中なら前を向いてるフリをしていくらでも眺めることが出来るから、席替えで今の席順になった時は本気で嬉しかった。
「続けてホームルーム始めるぞー。連絡事項を委員長、よろしく」
「はい」
中学生にしては低い、落ち着いた声。
眠くなりそうな先生たちの声とは違って、聞き漏らしたくないから全力で耳を傾ける。
手元のプリントを見ないまま、淡々と説明する仕草は、本当に格好良い。
みんなと同じ制服を着てるはずなのに、一人だけブランドもののスーツみたいだ。ブランドって詳しくは知らないけど、やっぱり格好良い。
「・・・以上」
「ほいご苦労さん。じゃあ気をつけて帰れよー」
途端にガタガタと音を立ててクラスメイトたちが立ち上がる。週末。花の金曜日。予定は沢山あるんだろう。
俺はと言えば馬鹿みたいにじっと座ったまま、視線だけでその背中を追いかける。
目立つ長身は段上から降りて、待っていた友達に囲まれて楽しそうに笑っていた。
さっきみたいに落ち着いた声も良かったけど、今の友達と笑い合っている声も好き。
ぼんやりと見とれてたら、一瞬、その漆黒の瞳がこっちを向いたような気がして・・・慌てて逸らす。
「ツナ!帰るぞ」
「ッあ、わっ!」
教室から出て行くクラスメイトの間から、これまた目立つ金髪頭が顔を出した。
大声に驚いて出しっぱなしだった教科書とノートを落としてしまったけれど。
「・・・コロネロ。今日は部活は?」
「休みだ。自主的に」
「運動大好きなお前がね。珍しい。スタメン外されても知らないから」
「ま、ありえねぇなコラ。試合は弁当持って応援に来いよ」
百人が百人ともカッコいいって言うと思うこの金髪頭は、外国から来た幼馴染だ。
外国人って身構えるけど、本当にちっちゃい頃から隣に住んでたから、誰よりも気安くて側にいて落ち着く。
なんにせよ一緒に帰れるのは久しぶりだ。他に親しい友達もいない俺としては純粋に嬉しい。
帰り支度だと落ちたノートを取ろうとすれば、それは既に目の前に差し出されていた。
「・・・あ、りがとう?」
「何でそこで疑問系なんだ。コロネロ、お前は部活サボりか?」
「うるせぇなリボーン。テメェこそ基本パシリに押し付けて帰宅部だろうがこの外面王が」
顔を合わせれば憎まれ口しか叩き合わないこの二人だけど、去年は同じクラスだったらしくて、そこで意気投合した友達だって言ってた。(いや、腐れ縁って言ってたかな)
金色と真っ黒。対極なのに何処か似てる二人は、揃えば周りの視線が一気に集中する。
どうしていつもこの二人の間に自分がいるのか・・・他の視線をさりげなく避けるように俯きながら、慌てて荷物をカバンに詰め込む。
「おい、忘れ物」
「え?」
閉めようとしたカバンの上に差し出されたのはさっきのノートと教科書だ。
「宿題出てたろうが。また忘れる気か?」
「あ・・・ええと、どこだっけ」
「お前なぁ・・・」
ぱらぱらと長い指が教科書を捲っていく。口で言ったって俺が覚えられないと判ってるんだろう。
胸から出したペンで丸をつけて、ポンと頭に置く。慌てて受け取った一瞬、指が触れた気がした。
「解らなくてもとりあえずやってみろよ」
「・・・ん、ありがとう」
受け取った教科書も、丁寧にカバンの中へ。
「おまたせコロネロ。・・・じゃあね、リボーン」
「あぁ、またな」
初めて会った時、この世にはこんなにきれいな人がいるのかって感動したのを覚えてる。
それからずっと、俺の視線はリボーンに囚われたままだった。


 


2. 優しい幼馴染

「最近なんかあったのか」
「え、別に?何にもないよー」
リボーンとコロネロが仲が良かったなんて、学年が上がるまで気付きもしなかった俺だ。
コロネロとは部活がない限り一緒に帰ってるんだけど、知ってる限りで運動部四つは掛け持ちのコロネロ。
だからこそ、一緒に帰れるこんな時間も珍しい。
「コロネロこそ。サボるなんてどうしたの。体調悪い?」
「そうじゃねぇよ。ただ、お前が」
「俺?」
「・・・いや、何でもねぇぞコラ」
ぷいっとそっぽを向かれたけれど、これは照れてるだけだって知ってるから、俺は小さく笑う。
細っこい俺とは違って身体的にも恵まれ、更に顔まで最上級の幼馴染は、残念なことに目つきだけが異様に悪かった。
俺はもう慣れたし、中身が可愛いことも知ってるから怖くないけど、周りにはコロネロが怖いって言う人たちもいる。
確かに言葉は乱暴だし、すぐ手とか足とか出るし行動も大雑把。それこそ凄まれたらめちゃくちゃ怖いけど。
理由もなく人に暴力を振るう人間じゃないって知ってるから、怖くない。
「何か心配させた?・・・ありがと」
「・・・おう」
そして優しい。
いくら幼馴染だからって、勉強も運動もダメ、見た目も平凡なつまらない俺にずっと構う義理はない。
でも、コロネロはいつまでも俺の側に居てくれるから、きっと俺は安心してたんだと思う。
「・・・あのね、俺、好きな人が出来たかもしれない」
自分でも半信半疑だった気持ちを言葉にしてみたら、驚くほどしっくりときた。
あぁ、そうか。やっぱりってかんじ。
俺が欲しいものを全て持ってて、あんなにも格好良いリボーンに見とれてしまうのは、ずっと憧れだと思ってた。
でも違う。
リボーンと同じように何でも出来て優しいコロネロだって、こんな気持ちにはならない。
「・・・誰か、聞いていいか?」
「うーん・・・それは、秘密」
男同士とか、コロネロはそういうことに偏見を持たないとは解ってる。
でも、やっぱりカミングアウトするのは怖い。ずっと側に居てくれた幼馴染だからこそ、余計に嫌われたくないし。
「・・・そか。お前、だから最近・・・・そうか」
「ん、そうみたい」
その後、しばらく沈黙が続く。改めて考えたら、こういう話をコロネロとするのも初めてだ。
やっぱりちょっと照れくさくなって、隣のコロネロの脚にあわせて、俯いて歩く。
この歩調だって、俺が辛くない程度の速度で歩いてくれてるのは知ってる。
なんていったって脚の長さが違うのだ。俺とコロネロじゃ一歩の幅がぜんぜん違ってもおかしくないのに、やっぱり優しい。
「・・・コラ」
「ん?」
「告白。すんのか?」
こくはく。告白。流石に考えてなかった。
「どうだろう・・・?」
今はただ、眺めてるだけで幸せなんだ。片思いってちょっと寂しいけど、誰にも迷惑は掛からない。
「多分・・・しないよ」
「そうか」
「ん、そう。俺なんかに好かれても、迷惑だろうしね」
会話は続く。でも、やっぱりなんとなく、コロネロの顔は見上げられない。
ちょっと気恥ずかしくて俯いてばっかりいたら、突然手首を握られた。さすがに驚いて顔を上げる。
「コロネロ?」
真っ赤に染まった夕日が逆光になって表情はよくわからなかったけれど。
「腹減ったなコラ。今日の飯は何だ?」
「知らな・・・あ、朝母さんがカレーだって言ってたような・・・」
「そうか。・・・急いで帰るぞ、コラ!」
「あ、っちょっとコロネロ!」
さっきまでの会話は忘れたように、二人して笑いながら家路を急ぐ。
コロネロは十分手加減して走ってくれるけど、やっぱり俺には辛くて、汗だくになりながら賢明に走る。
苦しいのに、どうしてか笑いが止まらない。
コロネロを見上げるのが恥ずかしかったのも忘れて、照れくさい話をしてしまったことも忘れて。
俺たちは小さかった子供の頃のように、笑いながら家へと走って帰った。

 


3. 強引な決定事項

「・・・何のために持って帰ったんだ?」
「・・・うん、せっかく教えてくれたのに・・・ごめん」
昨日はあのまま二人ともテンションが上がって、小さい頃に時間が戻ったようにじゃれ合いながら遊んでしまった。
隣に住んでるコロネロの両親は仕事で海外に行ったままあんまり戻ってこない。
だから基本的に晩御飯はうちで食べるし、そのまま俺の部屋に泊まっていくことも珍しくなくて・・・。
結局、ご飯食べてお風呂に入ってゲームしておしゃべりして、気が付いたら寝てた。
朝も身支度が終わったコロネロに呆られながら起されるまでぐっすりと。
もちろん宿題なんてやってないし、そんな時こそ当てられて恥を掻いたのは六時間目の数学だ。
「・・・・・」
頭の上から、溜息が降ってくる。
あぁ、呆れられたんだなって思うのはいつものことだけど、相手がリボーンってことになるとやっぱりちょっと哀しい。
気になる人にはやっぱり出来ない所より出来る所を見て欲しいのに・・・やっぱり俺はダメダメのダメツナなんだ。
「仕方ねぇな。ほら、見てやるから解らねぇとこ開け」
「え?」
空耳だろうか。でも、実際リボーンは俺の前の席に後ろ向きに座って、俺に数学の教科書を差し出してる。
先生でさえ匙を投げ捨てる勢いで放置されてる俺なのに、リボーンには一切呆れてる様子はない。
逆に俺の方が呆然として立ったまま見返していると、強く腕を引かれてそのまま椅子に座らされた。
「ぼーとしてんなよ。大方、居眠りとかそんな感じで授業も聞いてねーんじゃねぇか?」
「・・・あ、はは」
授業中はマジメにずっとリボーンの背中見てるなんて、死んでも言えない。
誤魔化すように、今日の授業で当てられた箇所を開いてみる。
けれど、もう殆ど理解することを諦めた頭では全く何が書いてあるのかわからない。
日本語として問題は読めるけど、その問題が何を求めろって書いてあるのかさえわからないんだから重症だ。
「で、どこが解らねぇって?」
「・・・それさえも解らない・・・んだけど」
ちらりと目線を上げる。すると同じ教科書を正面からのぞき込むリボーンの顔が、ほとんど間近にあった。
当たり前だけどこんなに近くで見たことなんてなくて、嬉しさが、一気に変な緊張へと変わる。
がちがちになりながらも、リボーンに示される数式に首を振り続けていけば、ページは最初の目次まで戻ってしまった。
「・・・お前、高校受験とかどうするつもりだったんだ?」
「行けたらいいな・・・とは、思うけど」
高望みはしない主義だ。滑り止めの私立高にでも入れたら万々歳。
だって、今から勉強したってどうせ間に合わない。頑張るのも努力するのも苦手だし。
頑張って、結果惨敗するのがわかってて、それでも頑張れるヤツなんていないだろ。
「筋金入りの負け犬根性だな。・・・叩きなおすか」
「・・・・へ?」
一瞬、リボーンらしからぬドスの聞いた声が聞こえた気がした。
言葉も耳に入ったはずなのに、その言葉の意味が理解出来ない。
「まだ半年以上ある。お前の志望は並高だぞ。俺と一緒だ。嬉しいだろう?」
「な、並高って無茶言うなよ!」
そりゃあ、高校まで一緒に行けたら嬉しいけど、このリボーンと同じ志望校ということは。
『並』とか言いながら近隣で一番レベルが高い進学校ということで。
「俺が行けると言ったら行けるんだ。まずはどの程度からわからねぇのかテストしてみるか、ツナ」
「む・・・」
無理だよ。無理だと思う。
そんな言葉が口から出てこない。
改めて呼ばれたあだ名が、なんだかむちゃくちゃ嬉しくて、恥ずかしい。
そもそもリボーンは俺のことをなんて呼んでいたっけ?それさえもわからなくなるくらい、頭の中は大忙しだ。
目の前の机でさらさらとノートにつづられていくきれいな字。
一ページ丸々埋めていくその数式の意味はわからなくても、ずっと目で追っていたくなる。
「ほら、とりあえずこれやってみろ」
「・・・へ?」
くるりと回されて、目の前に示された問題の羅列。
「解らなくても考えろ。とりあえず十分な。始め」
「わ、わわわ!」
結局ほとんど埋められなくて、埋めたものも半分は間違っててもう救いようもなかった。
出来ないことをこんな形で知られたくなんかなかったのに、項垂れる俺を尻目にリボーンは何故か笑ってた。
馬鹿にした笑い方じゃなくて。なんだかわくわくしているような・・・?
そんな子供っぽい笑い方にまでドキドキしたりして、正直、顔が赤くなっていないか不安で堪らない。
けれど、そんな俺の葛藤を他所に、これから毎日放課後はリボーンとの特別授業が決定したのだった。





4. 親友<幼馴染

「ツっ君・・・どうしたの?コロちゃん知ってる?」
「・・・知らねぇぞ、コラ」
毎日毎日、学校が終われば一直線に帰ってきてテレビゲームのスイッチを入れてた俺が、自主的に机に向かってる状況に二人して首を傾げる。
わかってるよ、似合わないことしてるって。
でも、ちょっとでも出来る問題が増えたらそれだけリボーンが褒めてくれるから、やる気も出るってもの。
でも解らないところが多すぎて、随分さかのぼることになったけど・・・何とか、小学校まで戻るのは回避できた。
だからまだまだ授業はわからないけど、リボーンから出された宿題の正解率を少しでも上げることが俺にとってちょうどいい速度なんだ。
「毎日遅くまで学校に居残って勉強してるみたいなのよ、あの子。・・・やる気を出してくれたのは、母さん嬉しいけどね」
「だったら、邪魔だから下に降りててよ。まだ終わってないんだから!」
「はいはい。ごめんねコロちゃん。折角来てくれたのに」
「いや。今日は帰るぞコラ」
っと、その言葉を聞いて慌てて立ち上がる。
扉の前に走って追いかけて、相変わらずダメな俺はもちろん部屋も汚い。
置きっぱなしの漫画雑誌を踏んで滑って思いっきりこけた。
「ったぁー!」
「・・・何やってんだコラ」
思いっきり顔面から滑ったせいで、額と鼻の頭がひりひりする。
「あ、りがと・・・」
呆れながらも伸ばしてくれた手に捕まって顔を上げれば、真顔のコロネロ。
怒ってる訳でも呆れてる訳でもないけど、俺の前では最近よくこんな顔をしている気がする。
「コロネロ?」
「・・・お前、最近あいつと仲良さそうだな」
コロネロに“あいつ”と呼ばれて思い浮かぶ相手はひとりしかいない。でも。
「何で?」
知っているんだろう。
コロネロは毎日部活に引っ張りだこで、俺の放課後なんて知らないはずなのに。
「お前、噂を知らねぇのか?」
「うわさ?」
初耳だ。まぁ、当人にまで知れ渡るほど広まるうわさはそんなに無いと思う・・・けど。
「そのうわさってさ。俺とリボーンが、関係してたりするの、かな?」
「・・・そうだな」
なんだろう。コロネロはなんだか難しい顔をしてる。
リボーンと俺に関するうわさなら、内容を聞いてみたいけれども、聞いちゃいけない気もする。
だってコロネロの表情を見れば、面白くない内容なんだなってよくわかるから。
「噂は噂だ。どうでもいい、が・・・実際はどうなんだ、コラ」
「実際って・・・言っても、放課後に勉強教えて貰ってるだけだよ」
確かに、『ただのクラスメイト』だった前よりは仲良くなれたと思う。
緊張はやっぱりするけど、話していられることが嬉しい。こんなダメな俺に構ってくれることが嬉しい。
ちょっと照れくさくて、でも嬉しくて。我慢できなくて、少し顔が緩む。
「・・・ふ、ん」
コロネロは納得したようなしてないような複雑な顔をしたまま、掴んだままの俺の手を放した。
そういえば、帰るコロネロを見送ろうと思って走ったら転んだんだった。
「あ、ありがと。今日はごめんね、せっかく遊びに来てくれたのに」
「俺のことはいい。気にするな。・・・勉強頑張れよ、コラ」
そう言われても、やっぱり元気がない気がする。
ちょっと前まではそうでもなかったのに、俺とリボーンが仲良くなってから・・・あぁそっか。
「ごめんね?」
「何がだ」
「その・・・リボーン取っちゃって」
今のクラスメイトとの会話より、やっぱりコロネロとリボーンの雰囲気は『親友』って感じだ。
本人たちは腐れ縁なんて言ってるけど、やっぱり仲が良かった友達を横から取られたら嫌だよね。
「・・・ツナ・・・この、鈍感ウスラボケ!」
「えぇ何で?!」
ただでさえ飛び跳ねた髪の毛を更にぐしゃぐしゃにかき回された。
結局コロネロは帰らずにそのまま俺の臨時教師になってくれたりしたけど、教え方はやっぱりリボーンの方が上手いなぁってそっと心の中で呟いた。



5. 人気者の独占権

コロネロの言っていた『うわさ』について気になるようなならないような俺だったけれど、いざ耳に入ってしまえばどうしようもなく困ったものだった。
近頃はほぼ毎日、放課後の忙しい生徒会長を独占しているのは確かに認める。
俺だってわかってた。
忙しいはずのリボーンが俺の勉強を見てくれてるってことは、その分リボーンの仕事が溜まっていってるということ。
勉強後の俺と別れた後、かなり遅い時間まで生徒会室にこもっていることも。
だけど、その件について俺から言い出すことは出来なかった。
だってもし、それで『そうだな』って言われたりしたら、俺はもうリボーンに勉強を見て貰えない。
・・・ううん、しょせん勉強は建前で。
放課後の二人きりの時間を、自分で壊してしまう勇気はなかった。
「沢田、今日も居残りする気?」
「どうせやってもダメツナなんだから、リボーン君まで付き合せないでよね」
「こんなくだらないウワサ、あんたのせいなんだから。巻き込まれたリボーン君がかわいそう!」
ふらっと廊下を歩くたび、こんな文句が耳に入ってくる。もちろん、わざと俺に聞かせるために。
でも残念ながら、俺はあの人たちが誰だかは知らない。
あの女子たちが俺のことを知っている理由もよくわからないけど、ここ数日で俺の不名誉なあだ名は一気に広まったようだった。
「リボーン君の『本命』?!アレが!?」
「その噂、無茶だって!」
俺だって、その・・・ありえないと思ってる。
誰がそんな迷惑なうわさを流してくれたのか知らないけど、勘違いもいいところだ。
そもそものうわさの元はと言えば、美人で有名な三組の女子(名前は知らない)が最近リボーンが構ってくれないって言い出したことが発端らしい。
うわさとか情報にうとい俺でさえ聞いたことがある。その人と、リボーンが付き合ってるかもしれないって。
よく一緒にいるところを見かけたし、周りだってそう思ってた。
二人は美男美女でお似合いだって、お互いを狙う男女が涙を飲んでたのも知ってる。
でも、その彼女(かもしれない女子)をほったらかしで、リボーンが今夢中なのは目下、バカでダメでとろくてどうしようもないダメツナのかてきょーだ。・・・不思議に思われるのも判るけど、そんなうわさは無いと思う。
「・・・気にすんな。俺が好きで付き合ってんだ。ツナが落ち込む理由は一つも無い」
「・・・ん」
解答の止まった俺の髪を、小さい子を褒めるようにくしゃりと掻き混ぜながら、リボーンは笑ってくれる。
最近は教室でやるとひやかしやノゾキがうるさいから、リボーンの誘いで生徒会室に場所を移して続けていた。
そこでも俺は他の役員の邪魔になるからと断れなかった。明らかに部外者が入っていける場所じゃないのに、俺はここにいる。
「・・・でも、本当に」
いいのだろうか。このままで。
俺はいい。バカにされるのも罵られるのも慣れてるし、この時間が大切だから何を言われたって平気。
今だって他の生徒会委員の視線もいたたまれないけど、そんな俺をかばうリボーンを信じられない目つきで見る視線が一番辛い。
何より、リボーンが変なうわさでおとしめられるのは嫌だ。
だから。
「もう、いいよ」
「ツナ?」
リボーンは俺のつまる所を教えてくれながら、片手間に生徒会の書類をめくっている。
それこそ片手間にする仕事じゃないのに、俺を優先してくれる優しいリボーン。
仲良くなれたのは凄くうれしいけど、やっぱりダメダメの俺じゃあリボーンの友達にはなれないみたいだ。
いくら俺とリボーンが仲の良い友達になったんだって説明したって、誰も信じない。つりあわないんだって。
「リボーンだって、俺とこんなうわさ立てられて嫌だろ?リボーンが勉強見てくれてから俺も随分解るようになったし」
嘘だ。
口から勝手に言葉が出て行くのに、俺は内心で『嘘だ』、『嫌だ』を繰り返す。
教えてくれるのがリボーンじゃなきゃ、こんなに頑張って大嫌いな勉強なんてしない。
でも、これ以上俺のせいで迷惑をかけたりしたら・・・嫌われたりしたら、嫌だから。
「・・・最悪、解らなかったらコロネロも教えてくれるって言ってたし、俺これ以上リボーンの邪魔をするのは・・・」
「コロネロ。コロネロなぁ・・・」
「リボーン・・・?」
「・・・ハッ!あの筋肉バカに教えられるかよ」
「でも、頭良いよ?・・・リボーンほどじゃないかもしれないけど」
「たりめーだ。だがな、他人に教えるとなるとアイツじゃ足りねぇ。自身で理解するのと他人に説明するのは全く違うからな。・・・なんだツナ、俺じゃ不満か?」
「そんなことないよ!昨日もコロネロに見て貰ったけど、やっぱりリボーンの方が教え方上手いし、解りやすいし、でも!」
文句なんてある訳がないけど、なんでこんなに俺の面倒を見てくれるのか解らない。
リボーンが他の人に色々言われるのが辛いんだ。解って欲しくて、今まで気恥ずかしくて直視出来なかったリボーンの瞳を見つめ返す。
一瞬驚いたような顔をしたリボーンだったけど、また俺の頭に手を伸ばして髪の毛をくしゃりと掻き混ぜた。
でも、さっきより・・・少し手付きが優しい、気がする。
ううん、気のせいじゃない。髪を撫でた大きな手がそのまま、俺の頬に向かって滑った。
「・・・言いたい奴等には好きに言わせとけ。・・・ツナがどうしても気になるってんなら、黙らせてやってもいい」
んん、なんだか低い声が聞こえた気がしたけど、気のせいかな。
一瞬ぱちりと瞬きをすれば、リボーンはにやりとイイ笑顔で笑った。
「俺がやると言って途中で放棄すると思うか?少なくとも高校入試までは離してやらねぇから、そのつもりでいろよ。勿論、合格以外認めねぇ」
「は・・・」
ずるい。
こんなに俺が欲しがってる言葉ばっかり言うから、どんな顔をすればいいのかわからなくなりそうだ。
嬉しくて、恥ずかしくて、なんだか泣いてしまいそうで・・・ちょっと困る。
「ごめんね、俺のせいで」
「そうじゃねぇだろ。こういう時は謝罪より感謝が喜ばれるもんだぞ。少なくとも、俺は感謝が欲しい」
微笑むリボーンは本当にきれいでかっこよくて、今まで真っ直ぐ見れなかったのが凄くもったいないと思った。
「そうだね。・・・リボーン、ありがとう」
「・・・あぁ」
俺は内心ぐちゃぐちゃだったから変な顔をしてたと思うけど、初めてリボーンの視線が俺から逸らされた。
目元が少し赤いような気がしたのも見間違いかもしれないけど、それがなんとなく可愛く見えて、俺は初めてリボーンの前で声を上げて笑った。



6. 両手に華、もしくは板ばさみ

リボーンの前で爆笑してしまったあの日から、俺とリボーンはより一層仲良くなれたような気がする。
もっとも、ちょっと前まで感じてた壁は俺が緊張から張ってしまったもので、リボーンはもっと前から俺と色々話してみたかったらしい・・・って聞いたから驚いた。
「・・・コロネロ、リボーンに何言ってたの?」
「あぁ?」
今日は休日。でも学校に来てる俺。
あの日サボったコロネロは宣言通りスタメンを勝ち取って、約束だしねだられた弁当を持参して応援に来たわけだ。
今はちょうどお昼の休憩時間。
午前中も試合をこなして、あいかわらず一番動いて活躍して目立ったくせに、疲労はまったく見せていない。
高くなった太陽に透けて、汗で濡れて眩しい金髪に目を細めながら、水筒からついだお茶を差し出す。
「いつの話だ、コラ」
「んと、リボーンと俺が同じクラスになる前だから・・・去年の話?」
がつがつと大きめの弁当を抱えて食べる姿は見慣れていても凄い。
他のメンバーと食べると思って多めに用意してきたのに、半分はもう既にコロネロの胃袋の中だ。
「それにしても、もうちょっとゆっくり食べろよ。午後からも試合あるんだろ?吐くよ?」
「そんな弱ぇ身体してねぇぜ。おいツナ。そっちのも寄越せ」
「え、これも・・・?」
昼になると同時に休憩へと散っていくメンバーを待ち構えていた応援団(主に女子)たちがいっせいに群がったところで、『腹減った。飯は?』と当然のように俺の腕を引いて一人離れたコロネロだ。
手作りらしいお弁当を抱えて付いてこようとしていた子たちも沢山いたのに、飾り気のない茶色いおかずばっかりのこんな弁当で本当にいいんだろうか。
「ツナの飯はうめぇからな。正直食い足りねぇ」
ちょっと驚いた。
別に俺が作ってきたとか、そんなこと一言も言ってない。
当然母さんが用意したものだと思ってるんだと思ってたのに。
「それくらい判るぜ。奈々の飯もうめぇが、俺はツナの味付けの方が好きだからな、コラ。昨日の春巻きもお前が作ったやつだろう?」
「そうだけど・・・、へ、へぇー・・・」
何かちょっと照れてしまう。うちの食卓に並ぶ料理はもちろん大半が母さんの手作りだ。
でも親一人子一人の家族だから、やっぱり少しは手伝いもする。
今でさえ家事の手伝いはちょっと恥ずかしくなってきたけど、小さい頃はもっとやってたほうだ。
そんな頃から一緒にゴハンを食べてるコロネロは美味い美味いってそれしか言わないから、誰が作ったのとか気にしてないんだって思ってた。
「何・・・照れてんだ、コラ」
「し、知らない!でも、俺の料理が好きだってんなら、野菜ももっと食えよな!」
運動部のコロネロ用に作ってきたものとは別に、自分用に用意した別の弁当を差し出す。
嬉しそうにコロネロの手が伸びたところで、その弁当は横から伸びてきた手にあっさりと奪われた。
「ほう、ツナの手作りか」
「てめ、オイコラリボーン!返しやがれ!!」
勢いで立ち上がりかけたコロネロ。だけど、ぐっと掴んだ俺の手にしぶしぶ腰を落ち着ける。
「何だ?随分と大人しいじゃねぇか」
「食事中は暴れないってうちのルールの一つだから。リボーンも食べるならルールに従ってね」
ちなみにルールを破ったら食事抜きだ。育ち盛りの男児二人に、母親の奈々のしつけは十分に行き届いている。
言いながら重箱三段目を開いてコロネロに渡してやれば大人しく箸を付けるが、視線はやっぱりリボーンの手の中の小さな弁当。
「コロネロ、これでも足りないの?」
「いや、そうじゃなくてだな・・・俺は」
恨めしそうに見る俺の弁当の中に、そんなにいいものが入っていただろうか。
リボーンの手の中を覗き込んで、あぁと納得した。
「昨日の野菜春巻き美味しかったんだよね。残り物だと思ってこっちに入れちゃったんだけど食べたい?俺の食べかけだけど、よければハイ」
「・・・!?」
弁当から掴んでそのままコロネロに差し出せば、コロネロは途端に顔を真っ赤にして硬直した。
あ・・・流石に幼馴染でもこの歳だもんな。
恥ずかしかったかと思って手を引けば、慌てて引き戻そうとしたコロネロより先にリボーンに捕まって、その形の良い口の中へぱくりと消えてしまった。
「あ」
「何しやがる!?」
「・・・・・・美味いな」
後ろから腕をつかまれたまま上から降ってきた声に、そもそもなんでここにリボーンが居るのかと今更首をかしげた。
判りやすい疑問が顔に浮かんでいたんだろうか。リボーンはむぐむぐと弁当を食べながら、にやりと笑う。
「そんなの当たり前だぞ、生徒会の仕事は休日でも関係ねぇからな。面倒くせえが事務処理こなして昼休憩に出てみればツナがいるじゃねえか。ま、こんな美味い飯を食えただけでも今日は来て正解だったぞ」
「嘘吐いてんじゃねーぞコラ!てめぇ、今まで休日に出てきたことなんてねーだろうが!」
「あぁ、今は忙しいんだぞ。・・・というわけで、この後ツナは俺が引き取ろう」
「てめ・・・ツナは俺の応援に来てたんだぞコラ」
「午前中は独占してやがったんだからいいじゃねえか。それにな、正直ツナには時間が無ぇ。こんな所で筋肉バカの応援してる暇があったら、予習復習だ」
「・・・!!」
リボーンのお陰で随分理解してきたとは思うけど、とろい上に物覚えの悪い俺の頭じゃ、まだ精々中二レベルだ。
高校受験までそう時間は無いのは、俺にもわかってたことだけど、真正面から言われると結構ぐっさりと来る。
「・・・ちっ」
勉強のことを言われると、コロネロだって何もいえない。
俺の勉強を見てくれた時にリボーンの宣言も教えたんだけど、俺に並高は無理だってその表情でわかってしまった。
そんなコロネロも、進路先は並高だ。一緒の高校に通えたら良いねって言ってから、コロネロは勉強に関してはリボーンの介入を煩く言わなくなった。
「コロネロ・・・あの」
謝るのも変だけど、謝ろうとした俺の声が出る前に、後ろからコロネロを呼ぶメンバーの声が聞こえてきた。
時間を見ればそろそろ昼休憩も終わり。コロネロは仕方なく、という表現がぴったりに面倒くさそうに立ち上がる。
「・・・今日はツナ、お前が夕飯作れよ」
「ん、判った!何がいい?思いついたら、メールしてね。作って待ってるから」
「あぁ」
走っていったコロネロの後姿を見送ってから、ちらりと横を見てみれば、なんとなく不機嫌になったリボーンがニヤリと笑みを浮かべた。
「・・・夕飯、か。俺もそろそろ、ツナに礼をして貰うとするか」
「・・・リボーン?」
異様な雰囲気に、思わず脚が後ろに逃げる。
でも、つかまれた腕が異様に熱くて、逃がさないと込められる力が思いの他強くて。
結局そのまま夕方まで生徒会室に閉じ込められて、コロネロとの約束を守ることは出来なかった。

続>>

⊂謝⊃

目指せリリカル!キスだけでどこまで我慢できるか。(←先生が)

そんな副題の学パラです。地味に唄ネタかもしれません。(ある意味タイトルまんまだし)
可愛い話を書こう!と意気込んでみた次第ですが、その割にはちょっと薄暗い感じの文体になってしまいました。
が、取り合えず学パラ。学パラって美味しいですよね学パラ。(三回言いました。大事ですから)
ある意味、書き尽くされた感がありますが、ネタが浮かんだので形にしてみます。
地味に地味に増えていくかと。
いつになったらキスまで行くんだよ。・・・なんて聞いてはいけません。(笑)
とりあえずはくっつくまでが目標。(笑)

設定:(今のところ)三人揃って並中三年生。
    沢田綱吉(15) リボーンが好き・・・かもしれない。コロネロとは幼稚園頃からの幼馴染。
    リボーン(15)  生徒会会長・学級委員長(笑)中身が理不尽の塊であろうとも、ツナには優しい。
    コロネロ(15)  リボの親友(?)かなり前からツナが好き。でも気付いてもらえないままに失恋(笑)


斎藤千夏* 2010/05/16〜2010/05/23(1〜6)