*甘い、あまい・・・*
<<本編へ
:番外編 [1月2日:早朝]
「・・・ったく、どこまで振り回してくれる。その上なんだ、最後の言葉は」
完全に眠ってしまったくせに軽い身体を抱き上げて、寝室へと運ぶ。
ゲストルームの方がいいか悩んだのは一瞬で、迷い無く寝かせたのは自室のベッドの上だ。
ツナは小さいからクイーンサイズのベッドでも窮屈さは感じない。
大きすぎるバスローブからちょこんと出た指先は小さくて、女みたいに細い。
襟元も大きく開いた下からのぞく鎖骨や首筋が俺を誘うように上下して、少し覗き込めば胸元まで見えてしまうだろう。
「・・・くそ」
怯えさせたくないから、最後の壁を自分の前に積み上げて必死に我慢しているというのに、それをツナが男だから手を出さないとでも勘違いしてやがるのか。
確かに付き合ってきた女は数知れず。名前を知らないまま寝た女もいた。だがそれはそれ、本気の恋愛なんぞ、俺にはまだ経験が無かった。
寄って来る中から気に入った相手を選んでいただけだ。同学年の女は面倒だから大抵は夜の街をぶらついて気に入った女と遊んでいた。
学校では優等生の皮だけでも被ったまま、ストイックに見せていれば大抵の女は一歩引いた場所からしか声を掛けてこない。素の俺のままなら、今以上に勘違いする女子に囲まれてウザイ目に合っていただろう。
「・・・ツナ、お前。実は俺と初めて会った日のことを覚えていないだろう」
周りの全てが同じに見えて誰でも良かったあの頃、正直何もかもがつまらなかった。
俺に対して誰もが予想通りの反応を返す。例外だったのはコロネロと・・・その後ろをついて回っていたツナ。
その色素の薄い髪に気にはなってはいたんだが、声を掛けるほどでもなかった俺の興味を引いたのは、たった一言の言葉。
「・・・俺が俺であることを許してもらえた気がした。お前だけには、俺の演技は通用しない・・・」
変に飾らなくてもいい、ありのままの俺をこの透明な瞳は見透かしてくる。
だからツナにじっと見つめられるのは少々苦しい。この押し殺している汚らしい欲望までのぞかれている気がして。
それで無くとも、何もしらないくせに無駄に煽ってくれるこの子供は、本来男がどれだけ我慢するというのが苦しいのかもわかっていないんじゃないか。
「・・・あぁ、違うな。わかってるから、あんなこと言ったのか、ツナ」
他に女を作っても構わないだなんて。どれだけ信用がないっていうんだ。
「これは本気の恋なんだ。嫌われたから次なんて考えられない。格好悪くても追いすがってでも、俺はお前をもう手放せない。・・・怯えられて怖がられたり嫌われたくないから・・・こんなに我慢してるんだぞ」
くーくーと可愛らしい寝息を立てるツナをそっと抱き寄せれば、暖かさを見つけた子猫のように俺の胸元へ擦り寄ってくる。そこまでは可愛い、程度で済んだけれども、ついでに寒かったらしい脚まで絡めてこられて正直理性が吹っ飛ぶかと思った。
俺もツナも風呂上りのバスローブのままだ。もちろん脚は素足。絡まるそれもまた素肌なんだ。
「・・・これは・・・一睡も出来ねえ、・・・か」
ドキドキしていたのがツナだけだと思ったのならそれは大きな勘違いだ。
俺もまた、初めての本気の恋に落ち着きを忘れて、高鳴る胸に苦しんでいる。
「もう少し、大人になってくれよ。・・・高校に入ったら・・・きっともう手加減できねえな・・・俺」
苦しくて、何度も我慢を止めたくなる。
けれど、それを乗り越えた上で、ツナを心ごと・・・身体までも同時に手に入れられるなら、少しくらいの我慢がなんだってんだ。
そう思えばこの痛みも苦しみも、幸せの前の些細な問題にしか過ぎない。
恋とはこんなに辛いものなのか。けれど、楽しく嬉しいものなのか。
「ツナ・・・おやすみだぞ。今年も『ずっと』・・・よろしくな」
無防備で無邪気な顔で眠るツナの髪を撫で、愛しい愛しい相手をそっと、腕の中に抱きしめた。